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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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世界の真実 第10章 歴史は繰り返す

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

(ゲルリッツ元帥のミレニアム政策は、結局何の成果もないものだった)

 個人用テントで、分厚い手帳にそう書き込んでいく若いドイツ第3帝国陸軍将官がいた。

(過去の轍を踏まないはずが、SSの行いは元の世界同様に非道なものであった)

 黒髪碧眼の彼はドイツ第3帝国国防陸軍ミレニアム統合軍第2独立戦車旅団長ウーリ・デラー少将(ゲネラール・マヨーア)

(非戦闘員の大量虐殺、戦時捕虜への拷問による殺害。毒ガス兵器の使用による敵兵及び味方の奴隷部隊の虐殺行為。人間以外のすべての奴隷化政策。SS、連邦軍、彼らに尻尾を振る貴族を除く国防軍将校、貴族、庶民の中には疑問や不信感を持つ者も多い。結局、すべて元の世界と同じ道を辿っていると言わざる得ない)

 そこまで書くとウーリはため息をついた。

(だが、そこまで反感を持ちながら決起を考える将校はいない。全員、元の世界で総統暗殺計画がすべて失敗した事を知っているからだ。だから将校たちは目の前の出来事に目をつむっている)

「旅団長閣下。統合軍副参謀長閣下が来られました」

 旅団長付き曹長が報告する。

 曹長フェルトヴェーベルはウーリの考えを理解している1人であるから、彼の手記は気にしない。

「わかった。すぐ行く」

 ウーリは手記を閉じ、それを机の引き出しに仕舞うと、立ち上がった。

 テントを出る前に掲げられているナチス旗に振り返り、心中でつぶやいた。

(人間としてすべき事は元帥の命に唯々諾々と従う事ではなく、この世界に住むすべての種族との共生と平和を築く事だ)

 テントの外を出た。



応接用のテントに入ると、統合軍副参謀長が副官と一緒に腰掛けていた。

「デラー旅団長。レバウル大陸侵攻は進んでいますかね?」

 副参謀長は嫌みに近い口調でウーリに尋ねた。

「侵攻の報告については先日報告した通りです」

 ウーリは表情を変えずに言った。

「ええ、まだ半分程度しか制圧できていないと・・・でしたね」

「まだ、ですと!!」

 副参謀長の言葉にウーリの頭の中のネジが飛んだ。

「我々陸軍将兵は全力で帝国軍と共同して戦っているのです!ここまで長引いているのもSSのせいではないか!」

「はて?何のことですか?」

 ウーリの主張に副参謀長は、とぼけたように言った。

「とぼけるな!SSは捕虜の大量虐殺だけではなく、労働にまったく使えない者たちを収容所に送り込み、各種生化学兵器を使って殺害したではないか。さらに前線でも生化学兵器を使い敵味方にも多大な犠牲を出したではないか!」

「それがどうしたと言うのですかな、味方と言っても奴隷ではないか。奴隷なら、いくらでも補充がきく」

「それが問題なのだ!」

 ウーリは怒鳴った。

「捕虜等の虐殺行為により、各国、各種族に反感の火をつけているのだ。さらに、味方もろとも敵軍を殲滅する行為が帝国軍将兵の不信感をうんでいるのだ!」

「それなら、私も聞いております。SSの士官から謀反を計画した騎士団を押さえたと、報告がありました。もちろん、全員公開処刑にしましたが」

 平然と言ってのける副参謀長にウーリは目眩がした。

「それでは、謀反する者を増やすだけだ!」

 すると、副参謀長の副官が上官に何か耳打ちした。

「デラー旅団長。私たちは貴官とそのような話をしに来た訳ではありません。元帥閣下からの新たな指令書を渡しに来たのです」

「聞きましょう」

 落ち着きを取り戻したウーリは、腰掛けた。

 副参謀長は副官に指示し、指令書を手渡した。

「第2独立戦車旅団はレバウル大陸から引き揚げ、第2次ラペルリ連合王国侵攻軍に組み入れる。第2独立戦車旅団は速やかに引き揚げる事」

 副参謀長はそう言うと、有無を言わさず、立ち上がり、出ていった。

 ウーリは指令書に目を通した。

曹長フェルトヴェーベル!」

 ウーリは旅団長付け曹長を呼んだ。

「はっ!」

曹長フェルトヴェーベル。幕僚と各指揮官をすぐに招集してくれ」

「はっ!」



 海上移動要塞[アヴァロン]はミレニアム帝国港町ネオハンブルクの近くに停泊していた。

[アヴァロン]には大量の食糧が運び込まれ、ナチス・ドイツ軍、ネオナチス・ドイツ連邦軍将兵が乗り込んでいた。

 そんな様子をどこか不機嫌そうにサブリナが眺めていた。

「どうした?私の顔に何かついているのか」

 自分を見つめるパトリシアに皮肉な微笑を浮かべてサブリナが振り返る。

「も、申し訳ありません!」

 パトリシアは頭を下げる。

「私は、皇帝軍が信用できないのさ」

「そ、そうでしょうか?」

 パトリシアは首を傾げる。

「君は知らないだろうが、皇帝軍は町の1つや2つ、簡単に滅ぼせる魔道兵器を数多く持っている。建国戦争ではわずか半刻で滅びた町の話は聞いてるだろう?」

 パトリシアも、戦場伝説として聞いて、その手の話は聞いた事がある。

 しかし、どれもありえないものばかりだ・・・例えば、吸っただけで命を落とす兵器。

「ありえない、って顔だな・・・」

 サブリナは苦笑した。

「レギオン・クーパーと戦ったなら、我々の常識等まったく通用しない事はわかっただろう?」

「あ」

 サブリナの言葉にパトリシアは彼女が不機嫌な理由がわかった。

 皇帝軍もレギオン・クーパー、である。つまり、自分たちはレギオン・クーパー同士の激突に巻き込まれているのだ。そして、彼女が知る戦場伝説がすべて事実であるなら、彼らは奴らを倒すためなら自分たちごと滅ぼしかねない。

「そういう事だ」

 サブリナは腕を組んで言った。

「パトリシア。お前はどうする?」

「戦います」

「いいのか?レギオン・クーパーを殲滅するための生贄にされるかもしれないのだぞ」

 上官の言葉にパトリシアは決意のこもった表情で答えた。

「私は、あの灰色の艦隊を滅ぼすと決めました。たとえ、捨て石にされようとも、かまいません」

「そうか・・・お前の兄上には、お前の事をくれぐれもよろしく頼むと言われているのだがな」

 サブリナはそうつぶやいた。

 パトリシアが自分の目を盗んで、あの銀白色の髪と目の皇帝軍の将校と頻繁に会っているのは知っている。

 別にとやかく言う気はないが、サブリナはどうもあの男が信用できないでいた。

 彼女は皇帝軍の将兵たちが好んで吸っている煙管のような物を出した。

「たばこ、というらしい」

 サブリナは煙管のような物の名前を言うと、たばこ、を口に咥えて、火をつける。

「どうですか?」

 パトリシアが尋ねる。

「うん。なかなかうまい」

 サブリナは皇帝軍将兵たちが、たばこ、を吸う姿を真似る。

「どう?」

「?」

 サブリナの質問の意味がわからず、首を傾げた。

「いや、彼らの吸いかたを真似たのだが、似てなかったか?」

「そんな事ないです。似ています、似ていました」

 パトリシアは慌てる。

「そうか、そうか。似ているか」

 イザベルは先ほどまでの不機嫌はどこへやら、ずいぶんと機嫌がいい。

「ふーん。確かにこの、たばこは気分がよくなる。レギオン・クーパーもいいところがあるな」

 サブリナは、たばこの煙を吐きながら感想をつぶやく。

「サブリナ団長。皇帝軍が会議を行うそうです。至急会議室に起こしください」

 マルカリア竜騎士団に所属する竜騎士が報告に来た。

「わかった。すぐに行く」

 サブリナは再び不機嫌そうな顔をし、たばこをパトリシアに押し付けた。

 パトリシアは慌てて、たばこを始末した。

 サブリナは会議室のある建物へと足を進めた。



 ネオベルリンは静まり返っていた。

 日の出まで数時間という時間帯に、人通りの少ない路地に2人の男がいた。

「言われた金だ」

 黒髪に右が青、左が茶色の奇妙(オッド)(アイ)の30代前半の男が、薄い茶髪の男に銀貨の入った袋を渡した。

「確かに」

 薄い茶髪の男は銀貨が入った袋の中身を確認してつぶやいた。

「ミレニアム帝国軍の情報を頼む」

 オッドアイが言う。

「ミレニアム帝国軍は皇帝軍を組み込んで、ラペルリ連合王国に再侵攻する。その兵力は帝国軍だけでも6万。輸送は3度に分けて行うそうだ。第1陣は精鋭兵団、第2陣は少年兵、少女兵部隊と奴隷以下の身分たちで混成した兵団、第3陣は補給物資を満載してラペルリ連合王国に送る」

皇帝軍(ナチス)は?」

「第1陣の船団がラペルリ連合王国に着く前に同島に侵攻する」

「そうか、他にどんな作戦が行われる」

 オッドアイの質問に薄い茶髪の男は身体を壁に預けて、答えた。

「帝国軍の麾下に入った海賊たちを使って、群島諸国の海域で私略を行わせるそうだ。さらに皇帝軍直属の鉄の海狼(フェンリル)部隊等を使って群島諸国連合艦隊を殲滅する」

「フェンリルね・・・言いえて妙だが、やはりUボートも保有していたのか・・・アドミラル・ミズシマたちの懸念が当たったな・・・」

 そこまで聞くと、オッドアイはうなずいた。

「わかった。帝国内にいる反帝国勢力の動きは?」

「いる事はいるが、決起する事はないだろう。次の侵攻が失敗でもしないかぎり、彼らは立ち上がらない」

 彼は、天を仰ぎながら言った。

「ありがとう。それだけわかれば十分だ。いずれはバレる。早いうちに帝都を離れたほうがいい」

 オッドアイはそう告げた。

「ああ。そうさせてもらう」

 薄い茶髪の男はそう言い残すと、周囲を警戒しながら去った。

 彼を見送った後、オッドアイは煙草の箱を取り出し、1本取って、火をつける。

 煙草の煙を吸い、吐き出す。

 彼、アメリカ中央情報局(CIA)所属の工作官ハリーは、現地で調達した煙草を楽しむのであった。

「ハリー。お前は馬鹿だよ・・・」

 彼は小声でぼやく。

 アメリカ陸軍GreenBerets(グリーンベレー)を除隊して諜報の世界に入った途端に、異世界で諜報活動である。ついてないのにも、ほどがある。

「しかし、ここの煙草は高いよな・・・」

 ミレニアム帝国で販売されている煙草は1箱、ミレニアム通貨で大銀貨1枚である。

 大銀貨1枚はドルで計算すると、1000ドルに相当する。

 確かに高い。

 ハリーは煙草を吸い終えると、煙草を捨て、踏み付けた。



 活動の拠点である安宿に戻ったハリーは宿主に簡単な挨拶をすませると、部屋に戻った。

「遅かったわね」

 部屋に戻ると、ノインバス王国の間諜である女性が言った。

 短髪のこげ茶色の髪に、透き通る青い目、白い肌の美しい女だ。彼女は、流れの吟遊詩人として諜報活動をしていた。

 彼女の名はディラ。

「ああ、途中で一服していたからな」

「そう」

 ハリーはテーブルの上に護身用に携帯しているP229を置いた。

「蜘蛛の巣に、この情報を早急に報せねばならない」

 ハリーはそう言って、CIAとDIA(国防省情報本部)が共同で開発した極秘暗号通信機を取り出し、連絡した。

 特殊な通信電波であるため、傍受、探知はできない。国防省等はステルス通信電波と呼称している。

 蜘蛛の巣とは、偵察、収集した情報をまとめる拠点である。

 ここには、SEALsやCIAの分析官がおり、集められた情報を総合し、フリーダム諸島に送られる。

「いつも思うけど、それすごいね」

 ディラが興味津々といった顔で、極秘暗号通信機を覗き込んだ。

 この世界で情報を伝える手段は訓練された鳥類を主に使う。

 鳩などが多いが、海に囲まれた群島諸国では、ロンディル燕と呼ばれる鳩を少し大きくしたような鳥が使われている。

 飛行距離も普通の鳩より長いのだが、大陸には生息していないため、一発でばれる危険が大きいという欠点がある。

 ハリーたちが持ち込んだ連絡手段はディラたちの常識を覆すものだ。

 ハリーの掴んだ情報はすぐにフリーダム諸島に届いた。



 グラング・バー島。

 戦車揚陸艦からグラング・バー島の地面に足をつけた武装親衛隊(SS)に所属する戦車中隊隊長ベイアー大尉(ハブトストルムフェラ―)は領主から歓迎の挨拶を受けていた。

「帝国本土から遠路はるばるご苦労様でした。お口に合うかどうかわかりませんが、館の方でお食事の用意ができております」

 生地のいい貴族衣装をまとい、十分に手入れされた口髭の太った領主が自分をよく見てもらうというそぶりで言った。

「食事は後だ。まず、島を見たい。案内人を寄越してくれ」

 ベイアーは島の地図を見ながら、まるで、相手をしていないような口調で言った。

「そ、そうですか。では、すぐにご用意いたします。おい!」

 領主は傍らにいる護衛兵に叫び、案内人を用意させた。

中尉(オーベルストルムフェーラー)!」

 ベイアーは副官を呼んだ。

 副官に揚陸作業の指揮をするように指示した。

「はっ!お任せください」

 副官がナチス式の敬礼をすると、揚陸作業にかかった。

「では、行こう」

 ベイアーは歩き出した。

「領主。知っての通り、第2次ラペルリ連合王国侵攻で、この島を兵站司令部にする事になった」

「存じております。糧食にかんしては本土から次々と届いております」

 歩きながら、ベイアーと領主は話し合った。

「兵站の確保は軽視されがちだが、兵站は戦略上重要なものだ。いかに最強の軍隊と言っても、兵站を叩かれれば敗北する」

「肝に銘じます」

 領主が頭を下げた。

「ベイアー卿」

 領主の私兵がベイアーの前で立ち止まった。

「馬を用意いたしました」

「ご苦労」

 ベイアーは彼の肩を、ポンポン、と叩いた。

 彼は立ち止り、戦車揚陸艦に振り返った。

 Ⅳ号戦車H型、Ⅴ号戦車[パンター]等が次々と陸揚げされていた。

 戦車群を一瞥した後、馬の方へ向き、歩いた。

「ベイアー卿。貴方様に会わせたい者がおりまして、少しよろしいですかな?」

 領主の言葉にベイアーはうなずいた。

 私兵の1人が貴族らしい飾りの多い馬車に向かい、馬車のドアを開けた。

「ハイル・ヒトラー」

 少女はナチス式の敬礼をした。

「お初にお目にかかります。(わたくし)、ビラーベック伯の娘、ルイーゼと申します。ベイアー様」

「よろしく、フロイライン・ビラーベック」

 ルイーゼはにっこり笑った。

「どうぞ、ルイーゼとお呼びください」

 ルイーゼのその表情にベイアーはドキッとした。

「お気にめしましたか?ベイアー卿の直属の上官より、女性を1人用意せよと、命じられまして・・・」

 領主の言葉に、ベイアーは、ああ、なるほど、と心中で納得した。

 ベイアーはルイーゼにあらためて向き、告げた。

「では、ルイーゼ。小官はまだ、仕事がある、終わってから一緒に食事でもどうかな?」

 ルイーゼは微笑み、彼の誘いを受け取った。

「はい、館でお待ちしております」


 世界の真実第10章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は16日までを予定しています。

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