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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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世界の真実 第8章 友

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 視線を下に向ければ、広大なアラスカの大地が広がっている。

 航空自衛隊北部航空方面隊第2航空団第2飛行群第201飛行隊所属の笠谷尚幸3尉は自身が操縦するF-15Jのコックピットから見た。

「レイブンより、パトリオット・リーダーへ」

 レイブンのコール・サインを持つAWACS(E-767早期警戒管制機)からの通信が聞こえた。

「索敵レーダーより、貴隊に接近中の飛行隊あり、アグレッサー隊を確認。迎撃せよ」

「パトリオット1。ラジャ。全機、聞こえたな、行くぞ」

 パトリオット・リーダー(1等空尉)が部下たちに言った。

「2、ラジャ」

「3、ラジャ」

「4、ラジャ」

 笠谷のコール・サインはパトリオット4である。

 僚機が右に旋回するのを確認すると、笠谷は操縦桿を右に倒し、右旋回させる。

「パトリオット1から、パトリオット4」

「こちらパトリオット4」

 笠谷が反応すると、1尉は突然笑い出した。

「はっはっはっ。笠谷、そんなに力を入れる必要はない。あくまでもこれは航空戦術を学ぶためだ。勝つためじゃない」

「そうだぞ、4。お前は初めてのレッドフラッグ・アラスカだ。気楽にやれ、気楽にな」

 パトリオット3(1等空尉)からも穏やかな口調で言われた。

「4、ラジャ」

 笠谷がそう言ったのと同時にF-15Jが装備するレーダーがアグレッサー隊を捕捉した。

「パトリオット1から各機、アグレッサー隊を迎撃せよ」

 2から4という順で了解の返答をした。

 笠谷は操作し、AIM-7Mを選んだ。

「安全装置解除、ターゲット・ロックオン」

 コックピット内にロックオンが完了した、ピー、という電子音が鳴り響いた。

「FOX1!」

 笠谷は発射ボタンを押してAIM-7Mが発射された。

 むろん、実際は発射されていない、あくまでもコンピューター上である。

 アグレッサー隊は、さすが、という腕で発射されたAIM-7Mをかわした。

 すぐさまアグレッサー隊は反撃してきた。

 ロックオンされたという警告音が鳴ったかと思った、直後、コックピット内にミサイル接近を知らせる警報アラームが鳴り響く。

「早い」

 笠谷はアグレッサー機のパイロットたちに驚愕した。

「ブレイク!」

 リーダーの叫び声が無線機に響く。

 笠谷は操縦桿を倒し、スロットルを全開にした。

 彼のF-15Jは急旋回しながら、接近中のミサイルに備える。

「来るか、来るか・・・今だ!!」

 笠谷はぎりぎりまで引きつけた上で、チャフをばらまいた。

 HUDに表示されていたミサイル接近の文字は消え、アラームも止まった。

「よし」

 笠谷はうなずくと周囲に視線を走らせ、視界内にいるアグレッサー機を探す。

「いた!」

 アグレッサーであるSu―27[フランカー]を見つけた。

 操縦桿を引き、右に倒す。

 Su―27の後ろにつく。

「終わりだ!」

 笠谷は叫びながら、発射ボタンを押し、90式空対空誘導弾(AAM-3)を2発、時間を空けて発射する。

 ロックオンしたSu―27はフレアを発射するが、ごまかせたのは1発だけで、もう1発のAAM-3は命中し、撃墜判定を出した。

 そのまま、その機を追い抜き、レーダー上に映るアグレッサー機をロックオンし、AIM-7Mを発射する。

 2機目の撃墜判定を出す。

 2機目の撃墜に気をとられている間、別のアグレッサー機に後ろをとられ、銃撃を受けていた。

 模擬弾が被弾する。

「パトリオット4、右エンジンと右翼に被弾、エンジン出力と飛行能力低下と判定」

「ちっ!」

 被害判定官からの判定に笠谷は舌打ちをした。

 アグレッサー機は機銃による射撃を止める。

 笠谷のコックピット内にロックオンされている、という警報音が鳴り響く。

「くそ、一か八か!」

 そう叫びながら、笠谷はスロットルを下げ、速度を一気に下げた。さらに機体を大きく回転させた。

 笠谷の思惑通り、アグレッサー機は笠谷機の前に出た。

 形勢逆転。

 笠谷はアグレッサー機のパイロットが立て直す前に、20ミリバルカン砲弾を浴びせた。

 3機目の撃墜判定を出した。

 しかし、

「パトリオット4、先ほどの起動は被弾箇所に深刻なダメージを与えたと判定し、空中分解したと判定する」



「3機目も墜とすとはな」

 イ―ルソン空軍基地に着陸したF-15Jから笠谷が降りている時に、同隊の広田ひろた功司こうじ3等空尉が声をかける。

「お疲れさまでした。笠谷3尉」

 整備員の空士長が広田の後に続いた。

「ああ、整備を頼むぞ」

「はっ、任せてください」

 F-15Jは明日の演習に備え、整備点検が行われる。

「今日は運がよかったが、明日はどうかな・・・」

 広田は皮肉を言った。

「言ってろ」

 笠谷は気にせずに流す。

 彼は上官である飛行隊長のもとへ出頭し、上官たちから3機撃墜の戦果を激励された。

 その後、自由時間をもらい、笠谷は宿舎で休もうとした。

「[フランカー]を3機撃墜したのは君かい?」

 突然背後からかけられた英語に、笠谷は振り返った。

「そうですが、それが何か?」

「やっぱり、時間はあるか?」

 黒髪碧眼のパイロットは笠谷の質問に答えず、聞いてきた。

「え、ええ。時間ならありますけど・・・」

「なら、食堂に行こう」

 笠谷に有無を言わせず、青年パイロットは彼を食堂に連れていく。

 食堂の手前で、青年パイロットは笠谷と向き合い、手を差し出す。

「遅くなったが、俺はドイツ連邦空軍イヴァン・バラック少尉だ」

「日本国航空自衛隊笠谷尚幸3尉です」

 笠谷はイヴァンの手を握り、握手した。

「カサヤ3尉の空戦は実に見事だったよ、そこで一緒にビールでも飲まないか?」

「それはいいですけど、ノンアルコールのビールでお願いします」

「そうか。じゃあ、入ろう」

 2人のパイロットは食堂に入った。

 笠谷とイヴァンはノンアルコールのビール缶を数缶持って、テーブルの1つを押さえた。

 コップに注ぎ2人は乾杯した。

「かつての軍事同盟国ドイツと二ホンに乾杯」

「乾杯」

 2人はノンアルコールのビールを一気に飲み干す。

「俺はMiG-29のパイロットでね、同じ性能であるアグレッサーのF-16と空戦してな、全滅したんだ」

 イヴァンがノンアルコールのビールを注ぎながら言った。

「カサヤ3尉はどうやって、F-15と同性能のSu-27を3機墜としたんだい?今後の参考としてぜひ聞きたいんだが」

「敵が油断していたのと、幸運に恵まれていただけです」

 笠谷は誇りもせず、言った。

「それは違うと思うぞ、2機目まではそうだったかもしれんが、3機目のパイロットは油断してなかったと思う」

 イヴァンが否定する。

「3機目に後ろをとられ、被弾しながらも、速度をおとし、アグレッサーの後ろをとり、撃墜判定を出した。腕がなければできないものだ」

 イヴァンの評価に笠谷は手を振った。

「私はF-15を手足のように扱えるように心掛けているからです。だからこそ、なんとか勝てた、と思います」

「ほう、手足のようにか・・・」

「そうです。日本の戦闘機パイロットにとって、機体を手足のように使いこなせるようになるのは、操縦技術と戦闘技術以上に重要なものです」

 笠谷の言葉を聞き、イヴァンは納得したようにうなずいた。

「なるほど、それが勝利の秘訣か」

「私はそう思います」

 笠谷はそう言って、ノンアルコールビールを飲んだ。

「カサヤ3尉。もう一度乾杯しよう」

 そう言ってイヴァンは彼のコップにノンアルコールビールを注いだ。

「国は違うが、同じ戦闘機乗り、空の友情に乾杯」

「乾杯」

 2つのグラスがぶつかり合う。



「ZZZZZ・・・」

 笠谷はフリーダム諸島夏島の砂浜で昼寝をしていた。

 今日は非番であり、夏島で息抜きしようと椰子の木の下で横になり、波の音と心地いい潮風の中、リフレッシュしていた。

(ん?・・・何か甘い香りが・・・)

 笠谷が目を開けると・・・

 宝石のような金色の瞳が彼を見下ろしていた。

「起きた?ナオユキ」

「わぁっ!?」

 イングリットの顔が至近距離にあり、笠谷は驚きの声を上げた。

「!・・・そんな大声を出したら私もびっくりするじゃない」

 イングリットが抗議する。

「イングリットさん。どうしてここに?」

 笠谷は彼女に尋ねる。

「私はナオユキに忠誠を誓った身、貴方がどこに行こうと私は常に一緒なの」

 答えた後、イングリットは不満顔になった。

「ナオユキ。さんづけはやめてって言ったでしょう。イングリット、て呼んで」

「あ、ああ。そうだったな。ごめん、イングリット・・・」

 笠谷が彼女の名を呼ぶと、イングリットは表情を笑みに変えた。

「いい夢だった?」

「え?」

「すごく心地よさそうな顔をしていたから」

 笠谷は頭を掻きながら、座る。

「元の世界の外国の友人の夢だった。レッドフラッグ・アラスカで初めて会ったドイツ空軍将校」

「れっどふらっぐ・・・なに?」

 イングリットが言葉の意味がわからず、聞いてきた。

「レッドフラッグ・アラスカ。米国という超大国で行われる軍事演習で、米国の友好国の空軍が集まり、実戦を想定したあらゆる航空作戦を行う。アラスカというのは米国の州名」

 笠谷の説明をイングリットは感心したように聞いていた。

 その後、彼女は立ち上がり、甘えた声で言った。

「おなかすいたわ。屋台区に行って何か食べましょう」

「はいはい」

 笠谷は立ち上がり、砂浜をゆっくり歩き、屋台が立ち並ぶ区域に向かった。



 屋台区に入ると、いろんな食べ物の匂いが混ざり合っていた。

 ちょうど昼食時なのか、どの屋台も結構繁盛していたが、気になる屋台があった。

「レギオン・クーパー直伝、ほっとどっく、はいかがですか?」

 獣人族の女性が大声で宣伝している。

「あめりか軍で大人気!他にも、ふらいどぽてと、はんばーがー、もありますよ」

 それに対抗するように、エルフのイケメン青年が声を上げる。

「レギオン・クーパー・ジエイタイ直伝やきそば、からあげ、はいかがですか?」

「なあ、兄ちゃん。からあげ、か。くれよ」

「銅貨3枚になります」

 こちらも、けっこう繁盛しているようだ。

「いつの間に教えたんだ・・・」

 自分たちが苦労していた時、そんなに暇だったのか?と疑問に思ってしまう。

「ねえ、ナオユキ。どっちの屋台がおいしいの?」

 イングリットが2つの屋台を交互に見ながら、尋ねた。

「どちらもおいしいよ・・・多分」

 笠谷がそう言うと、イングリットはどちらかの屋台がいいか決めかね、両方行くと、言い出した。

「はいはい」

 笠谷はイングリットの言葉にうなずき、列に並んだ

 心中では、彼は、出た、とつぶやいた。

 2つの屋台で、ハンバーガー、フライドポテト、焼きそば、唐揚げを買った。

 立ち食いをする訳にはいかず、笠谷は腰掛けることができる広場に向かった。

 広場に着くと、笠谷とイングリットは腰掛けて先ほど買ったファーストフード等を食べることにした。

 周囲にも、カップルたちが食事を楽しんだり、雑談したりしている。

「これ、すごくおいしいわ」

 イングリットがハンバーガーを食べながら、感想を漏らした。

「米国人好みの味だな」

 日本のハンバーガーとは違い、味より量の米国直伝バーガーを食べながら、つぶやいた。

 バーガーを一度も・・・それに似たようなものは口にした事はあるだろうが、口にした事がないイングリットが、おいしいというのは仕方がない事だ。

 平和な時間が流れている。



「キムラ!」

 久しぶりの休日に、夏島に上陸した樹村は意外な人物から声をかけられた。

「ロイトナント・ファルツェル?」

 軍服でなく、ラフなシャツにGパンという自分たちと変わらない服装のため、一瞬わからなかった。

「オーバーロイトナント・クマツから借りた。たまには気晴らしをして来いってさ。それと、ラルフでいい」

「OK、ラルフ。俺も慶彦でいいよ」

 特に、目的があるわけでもなかったので2人は連れ立って繁華街へ向かった。

「・・・結局、俺たちも帰れなさそうなんだけど・・・あんたたちの望みを叶えられなくて・・・その、悪い」

「ああ、気にするな。少なくともSSやナチスの将校の胸糞の悪い面を見ないですむだけいいってもんだ」

 板垣司令官から、全自衛官、全米軍、全保安官に通達された真実に衝撃を受けなかった者はいないだろう。しかし、意外な事に表面上は皆平静であった。

 樹村にも理由はわからないが、薄々その可能性を誰もが考えていたのかもしれない。

 後は、板垣がどういった決断を下すのかだけである。

「まあ、気落ちしてないっていえばウソになるが・・・」

 そう言ってラルフは自嘲気味に笑った。

「うまい魚料理の店がある。そこで、昼飯はどうだい?」

「ヨシヒコのお薦めか。いいな、ビールも飲みたいもんだ」

「いや、アルコールは抜きで・・・」



 目的の店は、それなりに繁盛していた。樹村たちは少し待たされて席についた。

 店内の客は自衛官がほとんどだった。

 メニューを注文して待っているうちに、自分たちに非好意的な視線を向ける数人に気が付いた。

(あれは、第2統合任務隊の・・・)

 まずいな・・・と思った。第2統合任務隊は召喚されてすぐに、SH-60Kを撃墜され3名の戦死者を出した。彼らのナチスに対する感情は極めて悪い。

 ナチス派でないとはいえ、亡命ドイツ人であるラルフに対しても同様の感情を持っているだろう。

 敵意めいた視線を向けながら、1人2人と立ち上がりこちらに向かって来る。

(ヤバいな・・・)

 そう思った。まさか、いきなり殴りかかるなんて事はないだろうが、それに近い剣呑とした雰囲気だ。その空気を察したのかラルフも眉をひそめる。

「あれ~、君たち食事の途中で中座するなんて、お店の人に失礼なんじゃない?」

 軽い口調で、1人の私服の自衛官がさりげなく彼らの進路を妨害する。

来島(くるしま)2尉?」

 誰かが、驚いたようにつぶやいた。

「食事は、終始にこやかに楽しむもんだ。はいはい席に戻る戻る・・・でないと、おねーちゃんに言い付けちゃうぞ~」

 何ともふざけた言葉使いだったが、効果はあったようだ。

 毒気を抜かれたような顔で彼らは渋々席に戻って行った。

(おねーちゃんて、誰?)

「さて、と・・・悪いけど相席させてくれない?」

 何事もなかったかのように、彼はそう言って勝手に椅子に座った。

「え~と・・・」

 この人誰?と、思った樹村に彼は軽い口調で自己紹介をする。

「第2統合任務隊旗艦[ながと]所属、来島(くるしま)完治(かんじ)2等空尉。ま、ヨロシクしてね」

 実にフレンドリーに2人に握手を求めたあと、来島は真面目な顔で囁く。

「悪かったな、あいつらも頭の中じゃわかってるんだが・・・気持ちの整理がまだついてないんだろう。気分を害したなら謝る」

 そう言って頭を下げる。2人は顔を見合わせた。

「来島って・・・もしかして[あさひ]の・・・」

「完治?」

「うげっ!!?」

 横合いからかけられた声に来島が変な声を出した。

「来島3佐?」

 樹村が声を上げて、思わず立ち上がった。チラリとそれを横目で見て姉は弟を軽く睨む。

「・・・お前、また何かやったのか?」

「何、俺って歩くトラブル製造機?かわいい弟に対してそれってひどくない?」

「多聞はかわいいが、お前はかわいくない」

「しくしく・・・グレてやる~」

「好きにしろ」

 冷たく一刀両断される弟。なんか面白い姉弟だと樹村は思ったが、少し来島弟がかわいそうに思った。

「3佐も非番ですか?よろしければ一緒に食事でも・・・」

「イヤ、せっかく誘ってもらって恐縮だが用がある」

 来島姉の視線の先にいる人物を見て、樹村は一瞬で心を奪われた。

「あ・・・あの、この人は・・・?」

「ああ、マレーニア女王国から冬島の兵器廠に派遣されてきたルクティア・マリーナさんだ。道に迷ったそうなので、冬島行きの渡し船の桟橋まで案内している」

 冬島に行くはずが、なぜ夏島に・・・しかも港と反対の繁華街にいるのか・・・

「私・・・方向音痴で・・・」

 申し訳なさそうに話すダークエルフの特徴が色濃い美女に、樹村は目が離せなくなった。

「もしかして・・・一目惚れってやつ?」

「可能性大だな・・・」

 ラルフと来島弟が囁きあう。

「?」

 ルクティアは意味がわかってないようだった。

 もっと、意味がわかってないのは来島姉だった。

「行こうか、冬島行きの定期便は便数が少ない。乗り遅れると明日まで待たなくてはならなくなる」

 腕時計を見ながらルクティアに声をかける。

(空気を読め!!ねーちゃん!!・・・だから、男ができないんだ!!)

 完治が心の中で叫んだのは、ここだけの話だ。


 世界の真実第8章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は11月8日までを予定しています。

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