閑話 その1
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
フリーダム諸島の夏島の即席の港湾施設に、1隻の渡し舟が着いた。
乗船していた、私服姿の自衛官たちが次々と上陸していく。
浦安賢1等陸尉は、キョロキョロと周りを見回した。
「ウラヤス!!」
自分を呼ぶ声の方向を向き、声の主の姿を認めると笑顔になった。
「ハンナ!!」
明るいオレンジ色がかかった茶髪の女性が、駆け寄ってくる。
「ごめん、待ったかい?」
「ううん、私も今来たところよ」
嘘かもしれないが、彼女の気遣いがうれしい。
ノインバス王国とマレーニア女王国から派遣されてきた、フリーダム駐屯騎士団に所属するハンナは、いつもの軽鎧姿と異なり、女性らしい涼し気な色のワンピース姿だった。
「よく似合ってるよ」
少し、顔を赤らめて、浦安は照れ臭そうに言った。
「ウフフ・・・もしかして、照れてる?」
そう言って、ハンナは浦安と腕を組んだ。
2人は、きれいに整備された道路をゆっくりと歩く。
「大分、賑やかになってきたな・・・」
ノインバス王国とマレーニア女王国、クルバル商会の協力で急速に整っていく港湾施設、おそらく、1年もすればパスメニア港なみの港町になりそうだ。
(1年か・・・)
1年後、自分たちはどうなってるだろう・・・元の世界に帰っているのか、このままここにいるのだろうか。
もし、帰れるとしてその時自分はどうするだろう。
隣のハンナを、そっと見る。
彼女といっしょに日本に帰るか、それともここで彼女と共に生きるか・・・
「あれは?」
砂浜まで歩いた時に、1人の海自の士官が20人くらいのいろいろな種族の子供たちを前に、備品らしいホワイトボードに文字を書いて何か説明している。
「最近、非番のジエイカンの人でキョーインメンキョとかを持ってるって人たちが交代でキスカの子供たちに、勉強を教えてるって聞いたわ」
「へー、いわゆる青空教室ってやつか・・・」
何か冗談を言ったのか、子供たちの笑い声が聞こえた。
この世界の人々と関わることで、自分たちの何かが変わろうとしているのかも知れない。
それは、多分幸せなことだろう。
先の見えない未来より、今、ハンナと共にいられる事が何より浦安には大切に思えた。
[やまと]の自室でぐっすりと眠っていた佐藤は、顔に触れるひんやりとした空気に意識が一気に覚醒した。
「・・・・・・ん」
「起きて、サトー」
「・・・・・・!!!」
ここにいるはずのない存在がいた。
「やっと、起きた」
「カ・・・カガリちゃん!!?」
薄暗い部屋の中、ほの白い輝きを放ち[鬼]の少女が立っていた。
どうやって、と言いかけて思い出した。
そう、この少女、錬金術師としてはまだ半人前だが、魔術師としては師のエルンストさえ、はるかに凌駕する能力の持ち主なのだ。
そして、かわいい外見と裏腹にとんでもないお騒わせっ子だった。
佐藤たちの世界で言う超能力の1つ、テレポート能力者、である。
これは、魔術とは違うらしいのだが、カガリはこれを使って自由にそこら中に出没するため、いたる所で騒ぎになった。
なにしろ、こういった能力は小説や漫画の話としてしか、認識がないのだ。それを目の当たりにすれば誰でも驚く。
極め付けは、師のエルンストが惚れている来島3佐が好きだという[ノースダコタ]のユウリ艦長を見に行くという理由だけて、哨戒任務で潜航中だった[ノースダコタ]に密航し、大騒ぎになった。
この時は、カンカンに怒ったユウリに、そもそもの原因を作った佐藤と本来は無関係の来島が平謝りして事なきを得たが・・・佐藤がついた嘘がばれて、佐藤は2人から苦情を散々言われるはめになった。
それはさておき・・・
「朝に、夏島の浜辺に来てほしい。と師匠が言ってる」
言うことだけ言うと、カガリは部屋のドアから出て行こうとした。
「ちょっと待ったー!!」
こんな夜中に、女の子が首席幕僚の部屋から出て来たなんて、誰かに見られたらどんな噂になる事か・・・
「カガリちゃん、テレポートで帰ろうね」
「他にも行く所がある」
それだけ言って、カガリは堂々とドアから出て行った。
翌朝、夏島の浜辺には板垣を始め、第1統合任務艦隊の幕僚たち、秋笠司令と各艦長、そして、陸自の神谷陸将と、その幕僚たち、さらにケイリー、ユウリ両艦長までいた。
(もしかして・・・全員の寝込みを襲ったと・・・)
自分に突き刺さる何とも言えない視線に耐えながら、佐藤は心の中でため息をついた。
「皆様、朝早くからご足労頂き恐縮です」
いつも通り生真面目な様子で、エルンストは挨拶をする。
「ぜひ、皆様にご覧いただきたい物がございます」
そう言って、エルンストは側に控えていたカガリに合図を送る。
カガリは、板垣の前に1つの箱を差し出した。
「これは・・・」
それを見て、板垣は驚いた。
「・・・M1917リボルバー・・・?」
アメリカ製の拳銃、日本の警察にも一時期採用されていたため、日本人にも馴染みがある。
それがなぜ・・・
「ジエイタイとあめりか軍の銃器に詳しい方々に協力いただき、完成致しました。試作型魔道式拳銃です」
「「「・・・・・・」」」
「本来、魔道砲の威力は砲手の魔力に左右されます。それゆえ砲手は、優秀な兵士であると同時に優秀な魔術士である事が求められます。しかし、貴方がたの兵器の理論と我らの魔道兵器の理論と錬金術の技術を組み合わせれば・・・」
「師匠・・・誰も聞いていない」
「・・・・・・」
全員、リボルバーに群がってそれどころではない。
おほん、と咳払いして、エルンストは話を戻す。
「したがって、本日皆様をお呼びしたのは、これの試射実験を行うためです。ところで、どなたか、撃ってみたいという方はいらっしゃいますか?」
(誰がやるんだよ!)
佐藤は心で突っ込んだ。
「私がしよう」
声を上げたのは、意外な事に松来清治1等陸佐だった。
いつもの武骨な表情が少年のような好奇心いっぱいの表情に変わっている。
「もし、暴発でもしたら・・・」
陸自の幕僚が心配そうに言った。
「何、燃料精製の最大の功労者の自信作だ。心配ないだろう」
そう言って、松来は回転式弾倉の中に実弾が装填されているのを確認してから、エルンストが用意させた的に狙いをつける。
他の者は、少し離れた所に移動した。
パンッ!!!
「ウオッ!?」
松来の身体が大きく後ろにのけぞった。
日本人が、マグナムを撃った時のように、松来の腕が上に跳ね上がる。
「「「!!!」」」
銃弾は的に命中していたが、的は全てが吹っ飛んでいた。
「う~ん、少々弾に込める魔力が多すぎたようですね・・・もう少し改良せねば・・・」
あまりの威力に騒然となった周りをよそにエルンストは冷静に分析を行っている。
この人、絶対マッドサイエンティストだ・・・佐藤は本気でそう思った。
閑話その1をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回から世界の真実篇に入ります。投稿は10月5日までを予定しています。




