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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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逆襲 第10章 変わりゆく世界

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 自衛隊中央病院。

「うっ・・・あぁぁ」

 意識が徐々に回復していき、誰かに手を握られている感触を感じて、陸上自衛隊陸上総隊(旧中央即応集団)中央即応連隊所属の相沢庄也(あいさわしょうや)2等陸尉は、自分が生きている事を感じた。

「-さん!」

 誰かを呼ぶ声が響く。

「庄也さん!」

 自分を呼ぶ声に相沢はいっきに意識を覚醒させた。

「う、う、あぁぁ」

 相沢はゆっくりと目を開けると、自分を覗く恋人の顔が映った。

 きりりとした顔立ちに短髪の若い女性。彼女は本間(ほんま)美和子(みわこ)だ。いかにも芯が強そうな娘だ。

「み、美和子・・・」

 相沢が彼女の名を呼ぶと、本間が嬉し涙を流しながら、首元に抱きついた。

「よかった、よかった。本当に」

 本間は相沢の首元で何どもそう言った。

 その時、病室のドアが開き、白衣を着た医官たちが入ってきた。

 本間は離れ、相沢が起き上がるのを手助けした。

「相沢2尉。いくつか質問していいかな?」

 医官が相沢のもとへ来ると、そう尋ねた。

「はい」

 相沢がうなずくと、医官は本間に顔を向けた。

「お嬢さん。まことに申し訳ないのですが、今からする会話は極秘事項なので、席を外してもらえないですか」

「あ、はい。わかりました」

 本間はそう言って、相沢の肩に手を置いて、ニッコリした。

「庄也さん。あたし、外で待ってるから」

 本間はそう言うと、バックを取り、病室を出ていった。

「ずいぶんと聞きわけのいい娘だな。雰囲気から察して、彼女は刑事か?」

 医官の問いに相沢はうなずく。

「ええ、そうです」

 医官は2度うなずくと、相沢に視線を向け、本題に入った。

「2尉。バルカン半島での事を覚えているか?」

「忘れるわけがありません。はっきりと覚えています」

「そうか」

 医官は病室に置かれている椅子に腰掛けるのであった。

「では、聞こう。あの日、何が起きた?」

 医官がそう言うと、背広の男が手帳を取り出した。

 見たところ、医官でも看護師でもなさそうだ。雰囲気からして、防衛省情報本部の者だろう。



 10数日前。

 バルカン半島某国、日本国陸上自衛隊先遣隊宿営地。

 第2統合任務隊消滅から半月。

 相沢は幹部用の食堂で朝食をとっていた。

「相沢。ここいいか?」

 同期の2尉がトレイを持って、相沢に尋ねた。

「ああ、いいぜ」

 相沢がそう言うと、2尉は向かいの席に座り、食事を始めた。

「聞いたか、相沢?俺たちの政府はバルカン半島から陸自部隊を撤退させるそうだ」

「なんだと、まだ、在留日本人の救出が完了していないのにか」

 同期の言葉に相沢は目を丸くした。

「撤退は間違いないらしい。第1統合任務艦隊と第2統合任務隊の謎の消滅に加えて、先遣隊の殉職者が増加したのが理由らしいが・・・」

「まだ、あるのか?」

 同期の言葉に相沢が食事の手を止める。

「ああ、お前も聞いているだろう。アフリカで大量発生した巨大生物、危険種が中国にも出現していることを?日本本土の防衛のために、俺たちを戻すそうだ」

「そうだったな」

 巨大生物、危険種はアフリカ、中国だけではなく、ヨーロッパにも出現している。

 それは、何もないところから突然出現する。そのため多くの民間人に犠牲が出ているが各国の政府は、全くそれに対応が出来なかった。

 国連はこの異常事態に対して、緊急の安全保障理事会を開き、対策会議を行っているが、解決策は出ていない。

「空自による物資の空輸はどうなるんだ?」

「ああ、それは今まで通りに行うようだが、海自は全艦に帰投命令を出したそうだ」

「そうか」

 相沢はうなずくと、心中で、これも決定事項か、とつぶやく。

 2人は再びを食事を再開するのであった。



 バルカン半島の土地を即製爆弾(IED)対策仕様に改良されたOD色の96式装輪装甲車3輛が土煙を上げながら走行していた。

「小隊長。本部から連絡です」

 無線員からの報告に相沢は装輪装甲車の車長席から無線機を受け取った。

「第2小隊です」

「米陸軍から増援要請を受けた。君の隊がもっとも近い、急行せよ」

「了解。目標の座標を教えてくれ」

 相沢は本部から目標の座標を聞くと、各車にその事を説明し、現場に急行した。

 現場は市街地であった。

 米陸軍の中隊指揮所になっている区で装輪装甲車を停車させると、相沢は下車し、中隊長から状況を聞いた。

「いいか、B区とC区で危険種が出現した。NATO軍の1個中隊とパキスタン軍の1個中隊が交戦中だ。E区では巨大生物が数体現れ、私の隊が交戦中だ。ここの応援に行ってほしいのだが」

「他に何かあるんですか?」

「ああ。君の小隊から何人か引き抜いて、この区に行ってほしい。5分前にPMCの1個分隊が危険種と遭遇した、と連絡があったのだが、それ以降連絡がない。救援に向かってくれ」

「了解」

 そう言うと、相沢は装輪装甲車に戻り、3人の班長と小隊付陸曹を集めて指示を出した。

 小隊長付陸曹に小隊の指揮を任せて、自らは4人の部下を連れて、PMCの救援に向かう事にした。

「小隊長。お気をつけて」

「ああ、1曹も気をつけろよ」

 そう言って、2脚を取り外した(代わりに前方握(ファアグリッ)()を装備している)89式5.56ミリ小銃を持って、PMCの救援に向かった。

「危険種って、今度はどんなのが、でるんですかね・・・」

 小柄な陸士が進みながら、つぶやく。

「さあな。これからお目にかかれるだろう」

 体格のいい陸士が答える。

 危険種とは、人の背丈ぐらいの類人猿型生物の呼称であり、人に危害を及ぼすからそう名付けられた。

 相沢率いる救援班がPMCがいたところにつくと彼らは息を呑んだ。

 そこには大量の薬莢と血、肉片が散らばっていた。

「いったい、何が」

 陸士の1人がつぶやくが、それに答える者は1人もいない。

「おい、次は俺たちのようだぞ」

 相沢は前方を睨みながら言った。

「え?」

 小柄な陸士が相沢の視線の先に見る。

 前方から体長2メートル半の2足歩行のコモドオオトカゲのような生物が3匹現れた。

「リ、リザートマン!」

 小柄な陸士がその生物を見て、聞き慣れない言葉を発する。

 その生物が吼えると、いっきに相沢たちに襲い掛かる。

「撃て!撃て!」

 相沢の指示で89式5.56ミリ小銃が火を噴く。

 発射された5.56ミリNATO共通弾はその生物の硬い鱗を貫き、絶命していく。

 3匹の生物は一瞬のうちに制圧された。

「PMCの連中はこいつらに殺られたのですかね」

 陸士が絶命した生物に銃口を向けながらつぶやいた。

「たぶんな」

 相沢はそう言いながら、米陸軍の中隊指揮所に連絡した。

「こちら陸上自衛隊中央即応連隊第1中隊所属の相沢2尉。米陸軍、聞こえるか?」

「・・・・・・」

 雑音が聞こえるだけで、何の応答もない。

「米陸軍、どうぞ」

「・・・・・・」

「米陸軍、応答せよ」

「・・・・・・」

 何度も無線連絡するが、聞こえるのは雑音だけだった。

 どうなっている、相沢はいやな予感に襲われるのであった。

 相沢は自分の小隊に連絡した。こちらはすぐに繋がった。

 しかし、激しい銃声と爆音が聞こえていた。

「小隊長。爬虫類型巨大生物の数が増えています。とても対処できません!」

 1曹の悲鳴が響く。

「応援は?」

「すでにしました。すぐに来ると言っていますが、今だに・・・」

「そうか」

 1曹の報告に相沢は小声でつぶやく。



 米軍、NATO軍、パキスタン軍、自衛隊が市街地戦を行っている頃、その市街地にA-10[サンダーボルト]8機が接近していた。

「フォックス23より、ゴースト編隊全機へ、聞こえるか?」

「感度良好」

 ゴースト・リーダーが答える。

「大統領命令を伝える。今から指示する座標を爆撃せよ」

 ゴースト・リーダーはディスプレイを操作し、空爆座標を確認した。

「この座標は」

 指示された座標を見て、ゴースト・リーダーは少し驚いた。

「巨大生物、危険種が多数出現している。それらを一掃するため、市街を爆撃せよ。いいか、これは大統領命令だ」

「・・・ゴースト・リーダーより、フォックス23、了解した。これより、目標へ向かう」

 ゴースト・リーダーがそこまで言うと、各機に通信した。

「ゴースト・リーダーより、各機、命令は聞いたな。我々はここでは存在しないはずの部隊だ。レーダーに注意しろ。万が一、目撃者がいたら、消せ」

「ゴースト2、ラジャ」

「ゴースト3、ラジャ」

 各機から、了解の返答がした。

 ゴースト・リーダーはA-10の速度を増速させた。

「爆撃目標に近づいた。全機、JDAMを使用する」

 ゴースト・リーダーがそう言うと、ディスプレイを操作して、兵装からJDAMを選択した。

「目標接近。投下」

 投下ボタンを押して、A-10に搭載されているJDAMを装備したMK84爆弾が投下されていく。

 JDAMは、無誘導の自由落下爆弾を全天候型のスマート爆弾に変身させる事ができる。

 GPS誘導により、投下されたJDAMは正確に着弾地点に落下し、命中した。

 着弾地点は、次々と爆発していき、爆発範囲内の連合軍兵士、巨大生物、危険種を一掃した。

「ゴースト・リーダーからフォックス23、目標座標を空爆した。爆撃は成功」

「フォックス23より、ゴースト編隊へイギリス軍のヘリ隊が接近中だ。ただちに離脱せよ」

「ゴースト・リーダー、ラジャ。ゴースト各機、聞こえたな。離脱するぞ」

 ゴースト・リーダーは操縦桿を倒し、A-10を旋回させた。



 意識が朦朧としながら、相沢は意識を回復させた。

 よろめきながら立ち上がると、相沢は周囲を見回した。

 いくつかの建物が倒壊したり、半壊していた。

 市街は火災が発生しており、火の粉が飛び交う。

 相沢はふらつきながら歩き出した。

 少し進むと、先ほどまで生きていた体格のいい陸士が倒れていた。目を開いた状態で、その瞳は生きてるようには見えない。

 少し離れたところで小柄な陸士の死体があった。彼の下半身は横転した乗用車に押し潰されていた。

 相沢は朦朧とする意識とふらつく身体でゆっくりと歩く。

 10歩から20歩進んだ後、上空からヘリの音が聞こえてきた。

 空を見上げると、数機の英国軍マークのヘリが捜索飛行していた。

 それから、数分後、L85A2を装備した英国兵たちが相沢のもとへ、駆け寄った。

「おい!しっかりしろ!生きているか!?」

 英国兵の1人が相沢に声をかける。英国人にしてはめずらしく、訛の強い日本語であった。

「おい!声は聞こえるか?すぐに衛生兵を呼んでやるからな!」

 そう言って英国兵は振り返り、叫んだ。

「メディック!メディック!」

 1人の衛生兵が駆け付け、モルヒネを取り出した。

 そこまで見て相沢は意識をなくした。



 自衛隊中央病院で目覚めてから翌日、相沢は今日も見舞いに来てくれた恋人本間の姿を見て、微笑んだ。

「庄也さん。身体の具合はどう?」

「ああ、悪くない」

 そう言うと、本間はほっとしたような顔をした。

「そう。よかった」

 本間美和子は警視庁捜査1課所属の刑事で、彼女とは防衛省と警察庁主催の合同パーティーで知り合った。

 付き合いは順調に進み、一緒に小旅行するぐらいになった。

 それが派遣前の事であった。アフリカにいた時も、時間をつくり衛星電話で会話していた。

 相沢は本間に心配をかけないようにするため、任務の事はあまり話さなかった。

 つけていたテレビ番組がニュースになり、女性キャスターが口を開いた。

「政府は先ほど、バルカン半島に派遣した陸上自衛隊の先遣隊を撤退させる事を決定しました」

 映像が変わり、バルカン半島某国にある宿営地の映像が流れた。

「バルカン半島からの撤退は来週から行われるようです・・・NATO、国連、米国は自衛隊の撤退を再検討するように主張しています」

 キャスターが言い終えると、中国の地図が現れた。

「中国で出現した巨大生物及び危険種に対して、中国軍は絶対防衛線を構築、侵攻を阻止する構えです」

 再びキャスターの顔が映し出された。

「政府は中国に在留する日本人を含めた外国人の救出のため、自衛隊の派遣を検討しているもようです。すでに韓国にいる外国人たちは自主的に避難しています」

 相沢はニュースを見ながらつぶやいた。

「とんでもない事になってるな・・・」

「ええ」

 第1統合任務艦隊が謎の消滅して以降、不可思議な事が続いた。

(いったい何が起こっているのだろうか)

 相沢は心中でつぶやく。

 1部の宗教団体は、「世界の終わりだ!」、「予言者の言う通り終わりが来たのだ!」等と、騒いでいるが、ほとんどの宗教団体は否定している。

「はい、新しいニュースが入りました」

 キャスターが驚いた表情で原稿を読んだ。

「米大統領は、ヨーロッパで出現する巨大生物及び危険種に対し、ロシア軍、NATO軍と共同して、これを撃退する事を発表しました」

 そこまで聞くと、相沢はリモコンを持ってテレビを切った。

 コンコンと、病室のドアからノック音が響く。

「どうぞ」

 相沢が言うと、3つ下の妹が入ってきた。

「お兄ちゃん。具合はどう?あっ」

 本間と妹の視線が合う。

「お義姉ちゃんも来てたんだ」

 気が早過ぎる!

 相沢と本間が頬を赤くする。

「でも、ちょうどよかった。お兄ちゃんに紹介したい人がいるの」

 妹がそう言うと、廊下に出て、誰かを呼んだ。

 1人の青年が病室に入ってきた。かなり緊張している。どうやら、自衛官である自分に怯えているようだ。

「この人は、私の恋人なの。お兄ちゃんに紹介したくて、連れてきちゃった」

「庄也さん。お身体の具合はい、いかがですか?」

 青年は緊張した声で相沢に尋ねた。

「気分はいいですよ。早く退院して部隊に戻りたいです」

 相沢は穏やかに言って、青年の緊張をほぐし、雑談を楽しんだ。

 平和の時間が流れていた。


 逆襲第10章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は10月1日までを予定しています。

 

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