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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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逆襲 第9章 復讐者

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 海上移動要塞 [アヴァロン]

 ミレニアム帝国が保有する移動要塞島である。

 3000メートル級滑走路を備え、Su-27[フランカー]やMiG-29等と言った戦闘機とヘリコプターを配備し、ドイツ連邦ネオナチス派の陸海空軍の将兵たちがいる。

 ミレニアム帝国が別の大陸に侵略したさい、制空制海権の確保のために先陣を切り、[アヴァロン]に駐屯する陸軍部隊がヘリ等に搭乗し、港町の制圧や上陸地点を確保する。

 キスカ島で空自機に打撃を与えられたのも、この[アヴァロン]があったからだ。

 ミレニアム帝国軍の象徴的存在であり、ミレニアム帝国内では、彼らの事を神軍と呼称しているほどだ。

[アヴァロン]で、美しい海を眺めながら、煙草に火をつける、口髭と顎鬚を生やした壮年の男がいた。

 この男は[アヴァロン]の航空部隊を指揮するディルク・ゴルテン大佐だ。

 彼はドイツ連邦空軍の戦闘機パイロットの中ではナンバー1の操縦技術と戦闘技術を持つパイロットだ。

 キスカ島での空戦では自衛隊のF/A-18Jを2機撃墜した。

 実戦経験も豊富である。

 ボスニア紛争の際、ドイツ連邦は極秘裏に彼を派遣していた。

 ディルクはNATO軍機、アメリカ軍機を撃墜した。

 もっとも、元の世界では、彼は戦死したことになっているだろう。

 ディルクは煙を吸い、それを吐き出した。

「・・・・・・」

 あのキスカ上空戦、予定では自衛隊機を始末した後、ほとんど丸腰だった航空母艦に航空攻撃をかけるはずだった。

 しかし、新手のF/A-18Jに阻まれた。

「アメリカの犬が・・・」

 吐き捨てるようにつぶやいた。

「大佐。こちらにおられましたか」

 黒髪碧眼の若い男が声をかけた。

 彼はディルクのウィングマン兼サポート役のイヴァン・バラック少佐である。

「また、海を見ながら考え事ですか?」

「ああ、そうだ」

 ディルクは腹心の部下の顔を見た。

「1本、どうだ」

 彼は煙草を1本差し出す。

「いただきます」

 イヴァンは煙草を1本取り、口に咥える。ポケットからライターを取り出し、火をつけた。

「ミレニアム産も悪くありませんね」

 煙を吐き出しながらイヴァンは感想をつぶやく。

「葉巻もなかなかいいぞ」

 ディルクは煙草を吸いながら、言った。

「俺は遠慮しますが・・・葉巻だけは」

 イヴァンが笑みを浮かべながら、つぶやいた。

ディルクは煙草を消して、設置されている灰皿に捨てた。

「イヴァン。そう言えばキスカ島で空戦した自衛隊のパイロットを知っていると言ったな?」

 ディルクは海を眺めながら、尋ねた。

 イヴァンは煙草を始末する。

「ええ、元の世界にいた時、レッドフラッグ演習で顔を合わせました。F-15の新米パイロットでありながら、アグレッサー隊のSu-27を単機で3機を撃墜判定にしました」

「ほぅ、それは凄腕だな」

 ディルクは感心したようにつぶやいた。

「その時、撮った写真があります」

 イヴァンは胸ポケットから写真を取り出した。

 ディルクは写真を受け取り、その写真を見た。

「こいつか?」

 ディルクはフライトスーツを着た日本人の青年を見て言った。

「ええ、そうです」

「こいつの名は?」

「ナオユキ・カサヤ」

 イヴァンは写真に写っている青年の名を言った。

「ナオユキ・カサヤ、か。いずれ、また、戦場で会えるな」

 ディルクはどこか楽しそうな笑みを浮かべて、つぶやいた。

「そういえば、何か俺に用があって、ここに来たのではないか?」

 写真を返しながら、ディルクはイヴァンに聞いた。

「そうでした。司令から司令室に来るようにとの事です」

「そうか」

 彼はそう言って、司令部へと向かった。



「失礼します」

 副官が司令室のドアをノックし、司令室に入室した。

 ディルクが司令室に入室すると、室内には司令(少将)以外に、女性と少女がいた。

「失礼します」

「すまんな、大佐。貴官に紹介せねばならん者がいてな」

 司令の言葉にディルクは首を振った。

「いえ、これも仕事です」

「ふむ、そうか」

 司令はそう言って、本題に入った。

「まず、陛下より、群島諸国に侵攻せよ、と命令を受けた」

 司令の言葉にディルクは瞬きをした。

「閣下。群島諸国に侵攻するという事は、再びラペルリ連合王国に侵攻するのですか?」

「そうだ」

「ラペルリ連合王国にはマレーニア女王国軍が駐留し、さらにラペルリの蛮族どもも前回の攻勢を経験しております。前回の侵攻よりも帝国は苦戦する事が考えられます」

 ディルクの意見に、司令はうなずいた。

「そうだ。だからこそ、今度の侵攻は我々も参加する。さらにナチス・ドイツ空軍から1個降下猟兵旅団やSS、陸軍も投入される。我々がいるから、たとえ、ジエイタイが来ても対処できる」

「と、なりますと、侵攻はすぐではないですね・・・」

「そうだ。帝国軍の準備もあるから、侵攻はすぐではない。そのため、1度本国に戻る事になる」

 そう聞くと、ディルクは甲冑姿の女性と少女に視線を向けた。

「で、彼女たちは?」

 ディルクの問いに女性と少女は拳を胸にあてた。

「彼女たちもラペルリ連合王国再侵攻に参加する竜騎士団だ。この島を拠点にし、侵攻する事になった」

 司令がディルクに説明した。

「マルカリア竜騎士団団長サブリナと申します!」

「同じく!サブリナ様の従卒パトリシアです!」

 女性と少女が名乗った。

「貴官の指揮下に入れる。うまく使ってやれ」

「はっ!」

 ディルクは敬礼した。

「話は以上だ。さがれ」

 ディルクは退室すると、2人の女性竜騎士は慌てて彼の後を追った。3人が退室したのを確認すると、副官は「失礼しました」と言ってドアを閉めた。



「大佐。司令はなんと?」

 待っていたイヴァンはディルクが出た事を確認すると、尋ねた。

「少佐。喜べ、自衛隊と戦う機会がめぐってきた」

「本当ですか。腕がなります」

「少佐。部下たちを招集しろ、1時間後にブリーフィングを行う」

「はっ!」

 イヴァンは敬礼して、廊下を駆け出した。

(さあ、平和に慣れた負け犬どもよ、お前たちはどうする?)

 ディルクは心中で日本人たちに問うた。

 同じ敗北した同士、だが、同じ終戦を経験しながら、まったく違う戦後を経験した。

 そんな日本人に対して、ディルクは恨みを持っていた。ドイツは東西に分断されたのに、日本は何もされなかった。

 2つに割れ、それぞれ違う価値観を押し付けられた国と、ぬるま湯の平和に浸り切った国。

(アメリカに飼い馴らされた犬どもよ、覚悟しろよ。お前たちを皆殺しにしてやるからな)

 ディルクは心中で吐き捨てるのであった。



 サブリナと別れ、1人廊下を歩いていたパトリシア・フォン・コッセルは、前から歩いてくる人物に気がついた

「おや、貴女は・・・?」

「あっ!!」

 パトリシアは慌てて片膝をついた。

「このような場所で、その様な礼節は不要です。お立ちください」

「・・・ですが・・・」

「いえいえ、我々は同志なのですよ。貴女と私は対等と言っていい・・・しかし、息災で何よりでした」

 以前と違い、彼は濃い青色の軍服を着用していた。もっともパトリシアには、違いがわからなかったが・・・

「ところで、貴女がここにいるという事は、ラペルリ再侵攻作戦に参加なさるおつもりですか?」

「はいっ!!」

 パトリシアの瞳に宿る(くら)い炎に、彼は気が付いた。

 あの日から、決して消えることのない炎。

(・・・使える・・・)

 そう思った。

「・・・1つ相談があるのですが・・・聞いて頂けますか?」

「・・・・・・」

「あの、ワルキューレを沈める策があるのです・・・それには、貴女・・・いえ貴女がたの協力が必要です。いかがです?」

「私でお役に立てるなら喜んで」

 決意のこもった声でパトリシアは応じた。

 友や上官の仇討ちができるなら、この命など惜しくない。

「ありがとうございます、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私はミレニアム帝国海軍参謀クラウス・フォン・シュテールング中佐と申します。以後お見知りおきを」

 あの日からずっと考えていたのだ。あの巡洋艦をその姿にふさわしく、いかに美しく葬り去るかという事を・・・

 あの巡洋艦の驚異の防空能力、あれを完膚無きまでに叩き潰すことこそが自分に与えられた使命だ。と、クラウスは信じていた。



 第2統合任務隊と他の艦船がフリーダム諸島の錨地で投錨した。

 錨地には、第1統合任務艦隊と商船等が停泊しているため、かなりの数になった。

[ながと]から降ろされた作業艇は[やまと]に向かっていた。

[ながと]の作業艇には水島と三枝、海保、米海軍、米海兵隊、防衛省職員、陸自の代表者たちと数人の同行者が乗り込んでいた。

 水島たちは[やまと]を見上げる。

 彼女は[やまと]に挙手の敬礼をする。



 ラッタルを上がる音が響くと、常服の夏服を着込んだ板垣たちは姿勢を正した。

 通用甲板に上がった水島たちに挙手の敬礼をして、迎え入れた。

 水島も答礼し、しげしげと板垣を上から下まで眺める。

「幽霊じゃないぞ」

 板垣は苦笑しながら、若い海将補に軽口を叩く。

「そのようですね」

 水島は板垣の足を見て冗談にのる。

「板垣司令官に合わせたい人物が1人いるのですが」

 水島がそう言うと、1人の女性自衛官が板垣の前に出た。

「お久しぶりです。板垣海将」

 白い制服を着た女性自衛官は挙手の敬礼をした。

「お前まで、ここに来たのか・・・」

 板垣は複雑な表情をした。

 彼の前にいる女性自衛官は板垣(いたがき)都子(みやこ)2等海尉。板垣玄武の娘だ。

 感動の再会を喜んでいる場合ではない。

 板垣は簡単に、挨拶をすませた後、水島たちを幕僚室に案内した。

 幕僚室には神谷とケイリ―が待っていた。

 陸自は陸自、米軍には米軍の者が話した方がいいだろうとの判断である。

 板垣は水島と個別に話そうと考え、彼女を司令官室に招いた。



 水島を応接用のソファーに座らせると、板垣は幕僚室係に連絡を入れた。

 待つこと数分、「失礼します」の声と共に海士が2つのコーヒーカップを載せたトレイを持って入室してきた。

「ウン、いい香りだ・・・」

 嬉しそうな、板垣とは対照的に水島の顔色はやや青ざめていた。

(・・・これは、嫌がらせか?・・・それとも脅迫か?拷問か?・・・私にドロ水を飲めというのか・・・)

 ただ単に、板垣は水島がコーヒーをドロ水と称するほど嫌いだという事を知らないだけであった。

「佐藤から聞いたが、第2統合任務隊は3名の戦死者を出したんだな」

「殉職です」

 水島は微妙に引きつった顔で、目の前のコーヒーカップを眺めながら、訂正した。

「殉職?そうか」

 板垣は何かを納得したかのように、つぶやいた。

「貴艦隊は23名の殉職者と4機のF/A-18Jを損失したそうですが」

「ああ。私のミスで23名の若者が命を落とした」

 板垣は自分を責めるように言った。

「陸自の暴走を止められなかった。陸自内で不満が高まっている事を知りながら俺は何もしなかった。その結果があれだ。取り返しのつかない事をした」

 板垣は下唇を噛んだ。

「・・・・・・」

 水島は黙った。

 彼女は口数が多い方ではないが、この場合、たとえ口数が多くても何も言わないのが普通だろう。

 こんな事態、いったい誰が予想できるだろう。法どころか憲法を超えた事態である。誰も彼を責める資格はない。ましてや犠牲者を23人におさえられた事を幸運に思うべきだろう。

「水島海将補。頼みがある」

「なんでしょう?聞かなくてもわかりますが・・・」

「ならば話は早い。我々は国連軍として、武力を行使した。今後も要請があれば受けるつもりだ。平和維持と元の世界に戻るまでの間、我々と行動を共にしてくれるか」

「・・・・・・」

「すぐにとは言わん。だが、考えて欲しい。この世界で我々が生き残るにはそれしかない」

 板垣の言葉がなくとも、水島自身はすでに結論を出していた。今まで公言しなかったのは、多くの部下の命を預かる立場だったからだ。

 第2統合任務隊は板垣と共に行動する事にした。

 ほぼ同時刻に米海軍、米海兵隊、陸自、海保からも作戦行動を共にすることが板垣に伝えられた。



 [やまと]の通路を三枝と諫早と歩きながら、水島はポケットから、クシャクシャに丸めた紙を取り出し、三枝に投げた。

「司令、ゴミは、ご自分でゴミ箱に捨ててください」

「アホか、違うわ」

 板垣に提出した第2統合任務隊の編成、その他の資料の中から唯一事前に抜き取っていたものだ。

「板垣海将が、信じられませんか?」

「いいや、逆だ、だからこそ直接会った」

「ご自身の目と耳で、直接本人から確認しなければ信じないと?」

「そういう事だ、ウチの整備員にソレを私がゴーサインを出すまでに使えるようにしておけ、と指示を出しておけ、我々には単なる粗大ゴミだが、第1統合任務艦隊の連中なら上手く使ってくれるさ。それと板垣海将に2週間の猶予をいただいた、1週間、全乗員に休暇を与える。私に付いてくるか、逃げるか自分で考えさせろ。後の1週間で第1統合任務艦隊の足を引っ張らない程度に錬度を上げる、演習計画を立てておけ」

「ハイハイ・・・相変わらず人使いが荒いですね・・・」

「ハアァ~、この事が防衛省に知れたら・・・」

 諫早がため息まじりにつぶやいた。

「なんだ、不満か?」

「いえいえ、こういう事にはぜひとも混ぜていただかないと・・・」

「フン、タヌキめ。諫早、お前は板垣海将の3本目の腕として、米軍、海保との情報の調整に当たれ、何しろ大所帯だからな、海将にはお前のような立ち位置の人間が必要だろう」

「お任せください・・・ちょっと楽しくなってきました」

 それは少々不謹慎では、と三枝は思ったが口にはしなかった。

「・・・いや、腕は言い過ぎか・・・まあ小指1本位には使えるか・・・」

「何ですかそれはっ!!!」

「クッククク・・・」

 その時、浮かべた水島の冷笑は、妹のそれよりさらに凶悪だった。



(あ~あ、俺らまで別世界に飛ばされるなんて、誰が親の老後の面倒を見るんだよ・・・)

 2等空尉の階級章をつけた飛行服の男は、[ながと]の飛行甲板に寝転んで、空を見上げていた。

 水島司令から1週間の休暇が通達されて、甲板上でグダっていても、咎める甲板作業員の姿は無い。

 何しろ、同時に通達された第1統合任務艦隊と共にこの世界の戦争に武力介入するという事に動揺が広がっているから、それどころでないだろう。

(・・・相変わらず、言う事もやる事も過激だからな、あの人は・・・だから防衛省に睨まれるんだよ)

 心中でボヤキながら起き上がる。

 彼の視界にはるか彼方で投錨している[あさひ]と[しれとこ]が見えた。

完治(かんじ)!!」

 声のする方に、首だけ向けると、彼の上官の3佐が立っていた。

「なんスか?」

 面倒そうな言葉を3佐は特に気にしてないようだ。

「首席幕僚からいつでも、出動出来るようにしておくように、との指示が出た。トレーニング室に行くぞ!!」

 やけに気合いが入っている上官にヤレヤレと肩をすくめる。

(ま~たあの人、何かやらかす気だよ・・・あの姉の弟に生まれた俺って、チョー不幸・・・)

 ひたすら心中でボヤキながら、来島(くるしま)完治(かんじ)はトレーニング室へ向かうべく上官の後をおった。



 逆襲第9章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は今月29日までを予定しています。

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