救出 第10章 アマテラス・イージスシステム
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさです。
[あさひ]のCICは慌ただしく手を動かしていた。
「[うらづき]、[しれとこ]、[しゃこたん]、[くにさき]に接続完了。全システムに異常なし」
「[うらづき]、[しれとこ]、[しゃこたん]、[くにさき]の個艦装備すべてが本艦の制御下に入りました」
「全システム、すべてオールグリーン」
各担当員から次々と報告が入る。
この時[あさひ]の火器管制がすべての艦と同調する、僚艦の全兵装、レーダーシステム等が組み込まれた。
新・防空システムとは、空母を護衛するイージス艦の弱点を補うために、米国の許可のもとに従来のイージスシステムに手を加えた、日本独自の開発システムだ。イージスシステムは単に個艦防空能力が高いだけではない。しかし、弱点はある。このシステムの導入により、迎撃の限界をなくす事ができる。[あさひ]が新・防空システムの中心になって、僚艦の戦闘指揮を一括制御下に置き、ミサイルの迎撃と広域・近距離防空戦を行う。それが新・防空システムなのだ。
つまり、艦隊そのものをイージスシステムとするのだ。
まさしく、理論上は究極防御の盾、である。
ただ、この新・防空システムには不安要素がある。
過去[やまと]を中心とした実験演習で、5回の演習のうち4回は迎撃に失敗し、飛行甲板に直撃をくらったり、撃沈判定が出された。
あくまでも、実験段階のシステムであり、実用化にはまだこぎつけていないのだ。
それどころか防衛省と海幕(海上幕僚監部)からは欠陥システムとして、開発研究の中止が検討されている程だ。
そのため、まだ正式名称も決まっていないのだ、が・・・
「アマテラス・イージスシステムの力を見せてやれ」
来島の言葉に一瞬CICの乗員たちの頭の上に?マークが出た。
「アマテラス・イージスシステムって、なんですか?」
砲術長が何となく察しがつくと言った感じで尋ねた。
「新・防空システムの事だ。私が今つけた」
「勝手に名前をつけないでください!」
砲術長が上官を窘める。
「それに、イージスはギリシャ神話の女神の盾の事ですよ、女神の罰が当たりますよ」
「問題ないだろう、国は違えど同じ女神だ。神様なんだから、心も広い・・・多分」
「全然広くないですよ、美人コンテストで自分を選ばなかったって理由だけで国1つ滅ぼしてますから」
「正確に言えば、国1つ滅ぼすのに手を貸した・・・だが?」
「どうでもいいでしょう、そんな事」
砲雷長と砲術長の言い合いを尻目に他の者たちは「またやってる」と言った感じで、作業をいつもと同じ様子で続けていた。
「CICの指示の目標、迎撃始めぇー!」
艦橋にいる稲垣の声がヘッドセットから響く。
救出隊が敵艦隊と竜騎士団の襲撃を受けている事は[やまと]とミサイル護衛艦[はつかぜ]にも報告された。
[はつかぜ]のCICのスクリーンの1つには[あさひ]のレーダーが映し出されている。
「なんて数だよ」
「ラペルリ連合王国での戦闘よりも、倍以上か」
CICにいた海曹たちが口々につぶやく。
「救出隊を援護する。対空戦闘用意」
[はつかぜ]艦長の大津健史2等海佐の命令により、[はつかぜ]艦内に対空戦闘を知らせるブザー音と艦内放送が響く。
「CIC指示の目標、撃ち方始め!」
副長兼船務長の竹道3等海佐が攻撃指示を出し、使用兵器を指示した。
この距離で届く艦対空ミサイルはスタンダード・ミサイル(SM-2)しかない。
担当員たちが目標のデータを入力した。
「SM-2、第1射、データ入力完了」
「発射指令!!」
担当士官が間をあけて叫んだ。
「撃ぇー!」
前部垂直式ミサイル発射装置(VLS)のハッチが開き、SM-2が立て続けに飛び出した。
轟音がCICにまで伝わってくる。
眩い炎が艦上にあふれ、白煙を曳いたSM-2が天空高く昇ってゆく。
[あさひ]のCICでは乗員たちがそれぞれの持ち場で任務をこなしていた。
CICの中は、戦場と化していた。
けたたましい敵の接近警報、それを迎撃するミサイルの発射音、そして、乗員たちの報告の叫び声。
「最優先迎撃目標群5機、発展型シースパロー(ESSM)、迎撃成功!」
「[はつかぜ]のSM-2、第3迎撃目標群を撃破!」
「新たな優先攻撃目標、[しゃこたん]、左舷後方5マイル、接近中!」
レーダー員の報告に、来島が迎撃するように指示して、射撃管制員たちがデータを入力する。
「ESSM、撃ち方始め!」
来島の号令で、士官が発射ボタンを叩く。ビー、と発射の耳障りな発射警告音とともに[あさひ]の後部VLSからESSMが射出した。
ESSMは指定された目標へ、迷わず向かい命中する。
「見張り員より、CIC、5ターゲットがミサイルをすり抜けました!」
「何!」
「ちっ!」
この時、稲垣の絶叫と来島の舌打ちが同時だった。
報告の通り、対空レーダーにはESSMとSM-2をくぐり抜けた幸運とも言うべき竜騎士を捉えていた。
「CIWS迎撃始め!」
「全後部CIWS、AAWオート(全自動対空迎撃)、撃ちぃ方始め!」
CIWSは一見すると白い風船の下に6砲身のガトリング砲が突き出ているようなデザインで、かっこいいものではない。レーダーから射撃統制装置まですべてが砲台の中に1式内蔵されており、艦自体のレーダーや火器管制に頼らない。これは万一、艦搭載のレーダーが使用不能になってもCIWSさえ健在であれば、近接防御は可能なのである。
そのため、CIWSは、艦を護る最後の砦と言われ、各国海軍艦艇に搭載されている。[あさひ]以下、派遣艦隊のCIWSは最新モデルを改良したものだ。
[あさひ]、[うらづき]、[ふそう]、[しれとこ]、[しゃこたん]、[くにさき]の後部CIWSが一斉に、その砲口を近距離まで接近した竜に向き、唸り声のごとく発砲音を響かせた。
高速回転する6砲身から撃ち出される20ミリ機関砲弾は毎分4500発である。あまりにも速いために唸るような発砲音がするのだ。
曳光弾が鋭い軌跡を描き、月明かりの空を切り裂く。
それを受けた竜は、数1000発の20ミリ砲弾の貫通により、騎乗の竜騎士ごと分解されるような形で絶命していく。
対空戦は、CIWSによる竜騎士撃墜で終わった。
「目標群アルファ、14機撃墜確認、目標群ブラボー、10機撃墜確認、目標群チャーリー、6機撃墜、目標群エコー、15機撃墜」
対空レーダー員が報告する。
「敵残存機は、艦隊から距離をとり始めました」
45騎の竜を撃墜してもCICにいる乗員たちは緊張を解かなかった。そう、まだ敵はいる。
「信じられん、こんな戦いがあるか」
ミレニアム帝国海軍第3艦隊指揮官バルトロ提督は竜騎士団と異形の巨大船との戦いを見て、そうつぶやいた。
前にも言ったが、竜騎士は戦場において最強の存在だ。その竜がたった6隻の船に手も足も出ず、あっさりと墜とされる光景はそれなりのものだ。
バルトロは望遠鏡を覗き、動く鉄の島と言っていい程の船を見た。
「全艦戦闘用意!敵艦隊が砲撃距離に入ったら各個に砲撃せよ!」
バルトロの指示を副官が復唱すると、各艦に通達した。
その時、鉄の島から、
ボォオオオオ!というとてつもない音が響いた。
「な、なんだ!?」
「今の音は!?」
「怯むな!!」
水兵たちの怒号や悲鳴が甲板を支配した。
艦船航行及び、軍用艦艇の常識に則り、[あさひ]は警告のために大音量の警笛を鳴らしていた。
「警笛効果なし!」
「前方の艦隊、海上封鎖を継続中!」
ウィングの隊員たちは、海上封鎖する艦隊を見て、恐怖を感じた。
「砲雷長!警告射撃1回!」
稲垣はそう命じて、右舷ウィングに出た。
「撃て!」
稲垣はそう命じながら、双眼鏡を覗き、前方の艦隊を睨んだ。
5インチ砲が吼え、艦隊の真ん中の海上に命中し、水柱が上がる。
しかし、海上封鎖している艦隊は動揺の1つも見せない。
「・・・駄目、か」
稲垣は小声でつぶやいた。
「こちらは国連軍所属海上自衛隊、海上封鎖中の艦隊に告ぐ、貴艦隊は本艦隊の航行を妨害している。これ以上の行為は敵対行為と見なす!」
拡声器による警告が実施される。
CICのレーダーには、扇形に陣形を敷いている、敵艦の光点が、映っている。
「対空迎撃に、時間を取られ過ぎた。陣形構築に時間を与えたか」
舌打ちとともに吐き捨てるようにつぶやいた。
扇形陣形は、古典的な陣形の1つだが、古くからあるというのは、効果的である証明でもある。
今の自分たちのように缶詰状況下では、厄介この上ない。
これを、打破するには方法は1つしかないが、最悪半方囲で、艦列を逆U字に伸ばされ3方向から至近距離での砲撃を受ける事になる。
しかし・・・、来島は1つ息をついた。
「艦長」
来島の声がヘッドセットから聞こえる。
「なんだ?」
彼女が何を言おうとしているか、だいたい見当はつくが、あえて聞く。
「これ以上の警告は無意味です。ここは中央突破しかないと思います」
「・・・・・・」
来島が言っているのはもっともな事だ。しかし、稲垣は悩んだ。
その時だった。
「艦長。[ふそう]より、通信です」
「繋げ」
通信士が通信回線を繋げる。
通信機から秋笠の声がした。
「艦長。私は君を信頼している。責任はすべて私がとる。だから迷う事はない」
秋笠は作戦前に板垣が言った事と同じ事を言った。稲垣は苦笑した。そしてそれは彼の背中を押した。
「砲雷長。君の具申を受け入れよう」
そう言って、稲垣は艦橋に戻り、部下たちに命じた。
「これより、我々は中央突破を行う。機関速力を輸送艦の最大速力に合わせろ!CIC、主砲で正面をこじ開けろ!」
[ノースダコタ]の発令所ではC4-システム(広範囲な情報ネットワーク)からの情報で救出隊の情報がすぐに入った。
「これはかなりの数ですね・・・」
水雷の先任士官がつぶやく。
ユウリもそのスクリーンを見ながらうなずいた。
「集団的自衛権の交戦規程内だな」
ユウリがサムに顔を向けるとうなずいた。
「規定内ですが、この距離から届く兵器はUGM-84(ハープーンミサイル)しかありません。しかし・・・」
「わかっている。ハープーンは8本しか積んでいない事だろう」
ユウリの言葉にサムはうなずいた。
「1本だけだ。この1本で艦隊に大打撃を与えられる艦を狙う」
「旗艦ですか?」
ユウリはうなずくと部下に尋ねた。
「敵艦隊旗艦は確認しているな?」
「アイ、もちろんです」
部下の解答に、ユウリはハープーン・ミサイルの使用を決断した。
「敵旗艦をハープーンで攻撃する」
「アイアイ、艦長」
ミサイル担当員がC4-システムからの情報をもとにデータを攻撃システムのコンピューターに入れた。
「データ、インプット終了。ターゲット、ロックしました」
「潜望鏡上げ、発射スタンバイ」
ユウリはデジタル迷彩服と同じ柄のハットを後ろに回し、とりついた。
ハープーンは深さ50メートルぐらいまでなら水中発射できるが、それ以上の深さだと水圧の影響を受けシステムが不調をきたす事もある。
「2番発射管開け」
「2番発射管開きます」
「ファイア!」
ミサイル士官がコントロール・パネルの発射ボタンを押す。
「ノースダコタ」がわずかにその巨体を震わせたのを感じた。
「魔女、俺の親友の借り、返させてもらうぞ」
誰にも聞こえない小さな声で、ユウリはつぶやいた。
数秒後、潜望鏡の視界に白熱した火の玉が現れた。それは海面から飛び上がると水平飛行に移り敵艦に向かった。
[しれとこ]の艦内は騒然としていた。
戦闘艦ではない輸送艦でもCICはある。[しれとこ]の担当員たちが必死の戦いを試みていた。
新防空システム[アマテラス・イージスシステム]を解除し、自艦の火器管制を取り戻し、各個戦闘を可能にした。
同時に、全自動対空迎撃モードだったCIWSの設定を変更する。
「CIWS、マニュアル射撃モードに切り替えました!赤外線暗視カメラ、セットアップ完了!」
近年、小型船舶による自爆テロが多発するため、その対処のため、CIWSを対空迎撃だけではなく、高速接近する水上目標に対し、迎撃できるようにした。赤外線暗視カメラを砲身の側面に取り付け、夜間でも昼間同然に射撃が可能だ。
「敵艦、喫水線を狙え!射撃開始!!」
赤外線暗視カメラの映像には、側面の砲門をこちらに向けている軍艦の姿が今なお映し出されていた。
撃たなければこちらがやられる。
輸送艦がここまでの戦闘を強いられる事など想定外だったが、照準線を合わせ、隊員が発射ボタンを力いっぱい押し込む。
高性能火器管制コンピューター(FIS)によって射角を補正されたCIWSはただの1発さえも狂わず、その20ミリ砲弾を軍艦に叩き込んだ。
ほんの数秒にも満たない掃射で、数100発以上の20ミリ砲弾を被弾した軍艦は、大破し、まるで悲鳴を上げるような軋み音を上げながら転覆した。
木造船の装甲等、タングステン製の徹甲弾の前にはまったく無意味だ。
「敵艦1、沈黙!」
「敵艦2に目標変更!」
「叩き込めぇぇぇ!」
砲撃のために無防備に船の側面を見せているため、次々と沈んでいく、軍艦。ダメージコントロール等の概念が存在せず、隔壁によって浸水を止める機構を持たないこの世界の船は、1度大穴が開いて浸水すると、沈没まで時間はかからない。
海上には、船から脱出した水兵たちが浮遊物にしがみつき、漂流していた。
彼らは冷たい海の中で、味方の船が沈むのを震えながら見ていた。
だが、とてつもない威力を持つCIWSにも弱点は存在する。
「艦首、艦尾のCIWS、残弾ありません!」
悲鳴にも似た報告が届く。
CIWSは高速接近するミサイル等を迎撃するため、その弾薬の消費量は桁外れに早い。
そもそも現代戦において、CIWSを連続して使用する状況というのは想定していない。
「再装填急げ!」
「了解!」
輸送艦の武装はCIWSだけではない。甲板上には12.7ミリ重機関銃銃座と20ミリ機銃銃座がいくつもある。
CIWSの穴を埋めるかのように各銃座から火が噴き出した。
だが、CIWSの砲撃が途切れたスキを付いて、1隻の軍艦が高速で[しれとこ]に接近してきた。
「まさか・・・特攻!!?」
しんがりに付いていた[うらづき]の大早艦長の脳裏に、忌わしい2文字が浮かんだ。
「主砲、[しれとこ]に接近中の艦艇を撃て!!」
[うらづき]の主砲の着弾と敵艦の砲撃は、ほぼ同時だった。
鈍い衝撃がCICにも届く。
「ダメコン!」
「右舷後部第3銃座に被弾!」
応急指揮所から次々と報告が入る。
「右舷後部第3銃座の負傷者の搬送、治療を急げ!」
被弾した銃座の射撃員たちは絶望的だが、奇跡を信じて、命令する。
「[しれとこ]右舷後部に被弾!!」
[あさひ]のCICに届いた艦橋見張り員の報告に、来島の顔色が変わった。
「主砲、前方に砲火を集中!1隻たりとも撃ち漏らすな!!」
指揮を執りながら来島は心の中で叫んだ。
(死ぬなよ、多聞!!)
バルトロ提督が乗艦する旗艦で、彼は望遠鏡で、僚艦があの巨大な艦の1隻に砲弾を撃ち込んだところ見ていた。しかし・・・
「まったく効いていないのか・・・」
バルトロは信じられないという口調でそう言った。
だが、その時・・・
「提督!後方の空を!」
「何ぃ!」
部下の悲鳴に近い叫びにバルトロは振り返り、空を見上げる。
そこには巨大な矢が白い尾を引きながらまるで意思があるかのようにこちらに向かって突入してくる。
その矢が甲板を貫くと、大爆発した。バルトロの想像を超える炎と爆発が旗艦を木っ端みじんにした。彼が見た光景はそこまでだった。
「・・・轟沈、というより木っ端みじんですね」
佐藤が艦外カメラでハープーンが命中した軍艦を見て、顔色が青くした。
「あれでは生存者はいまい・・・」
同じく顔色を青くした高上が言った。
「敵残存艦隊、本艦隊から距離をとりはじめました」
レーダー員からの報告に秋笠、高上、佐藤は胸を撫で下ろした。
「警戒を怠るな。これより当海域より離脱する」
秋笠が艦隊通信でそう命じた。
6隻の救出隊は速力22ノットで海峡を抜けた。
[やまと]に着艦した笠谷機は誘導員がかけた梯子を降りると1人の女性自衛官が彼の胸に飛び込んできた。
「尚幸さん」
松野だった。
彼女は笠谷に抱きつくと、身体を震わせながら泣いた。
笠谷は呆然と立ちつくしていた。
「松野・・・」
彼が口にできたのはその1言だけだ。
整備員たちは見ていないふりをしながら作業にとりかかった。
北井は、しかたない、と言いたげだが、目は不機嫌そうだった。
今回のケ“号作戦は陸海空自衛隊にとって、決して被害は軽くなかった。
陸上自衛隊 戦死者6名 負傷者19名
海上自衛隊 戦死者9名 負傷者12名
航空自衛隊 戦死者8名 損失機F/A-18J[スーパーホーネット]4機
救出第10章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回は10.5章です。よろしくお願いします。




