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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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救出 第8章 阻止戦

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさです。

「降伏の期限まで、後少しだな?」

 歴戦の猛者を思わせる、眉からこめかみにかけての傷跡を遺す中年の男がいらいらしているように副官に聞いた。

 ミレニアム帝国キスカ島南進軍指揮官トルゲである。

「はい、後少しです」

 副官は砂時計を見ながら言った。

 トルゲは頬杖をついた。

「どうせ家畜にする蛮族どもに降伏の機会を与える等、時間の無駄としか言えん」

「その通りです。所詮、逃げ回るしか能のない蛮族など役に立たんでしょう」

 部下の1人がぼやく。

 トルゲは、まるで事務処理のような口調で平然と決めた。

「待つのも飽きた。包囲部隊に伝令を出せ、1個騎兵隊を蛮族どもの住み処に突入させろ、蛮族どもに与える時間などない事を教えてやれ、ハッハッハッ」

 上官の決定に誰1人として異議を唱える者はない。言えないのではなく、上官の決定に賛同しているのだ。



 指示を受けて、少年兵が馬に乗り、前線部隊に向かったまさにその時だった。

 櫓の見張りについている兵が奇妙な飛行物体を見つけた。

「なんだあれ?」

 兵士は望遠鏡を覗き、それを見た。

 奇妙な飛行物体は一糸乱れぬ飛行でこちらに向かってくる。

 兵士は恐怖に襲われ、慌てて櫓の鐘を叩く。

 だが、その飛行物体は意思があるかのように突入してきた。

 そして、そこにいた将兵たちはまばゆい炎に包まれた。



「ターゲット(軍司令部)1。命中」

「ターゲット(兵站司令部)2。命中」

[フロリダ]の巡航ミサイル担当士官たちが報告する。

 ケイリ―は平静を保ちながら消えた画像を見ていた。

 先ほどまでタクティカル・トマホークから送信されていた前方監視カメラの画像を映し出していた。

 その映像はもちろん[やまと]も受信している。

「ニンテンドー戦争を絵に描いて再現したようなものですね・・・」

 誰かが言った。

 ニンテンドー戦争とは、湾岸戦争の別名である。湾岸戦争でアメリカ軍が発射したミサイルの映像を見た一般人が無責任に「まるでテレビゲームのようだ」と合唱したからそのように呼称された。

「その発言は不謹慎だわ、この攻撃で数1000人という人間の命が消えたのよ。たとえ信じる神は違っても同じ人間なのよ」

「汝の隣人を愛せ、艦長(キャプテン)の神はそう教えていますね。しかし、この光景を見ると、その教えにも疑問を覚えます」

 ケイリ―の言葉を聞き、イスラム教の若い士官がぽつりとつぶやく。

 だが、その疑問に答える者はいない。

[フロリダ]から発射されたタクティカル・トマホークは2種類。ターゲット2に撃ち込んだのは通常弾頭、ターゲット1には特殊弾頭である。

 ちなみに特殊弾頭は核弾頭ではないナパームと同程度の弾頭だ。

 つまり、ターゲット1に指定された目標の将兵たちは焼き殺されたのである。たとえ、火に強い建物に身を隠していたとしても炎によって酸素がなくなり、酸欠状態で死亡することになる。



 キスカ島に住む各種族は追い詰められていた。

「もはや、逃げ場もない・・・それならば・・・」

「戦うというのか、なぶり殺しにされるだけだ」

 人間の姿に、ネコ科の耳と尾を付けた獣人と呼ばれる種族の若い男が捨て鉢な態度で吐き捨てるのを、年老いた獣人が止める。

 彼らは逃げるしかできなかった。せいぜい種族単位の自警団程度の戦力で、まともに帝国と戦える訳がない。

 ここに来るまでに、どれ程の仲間が命を落としただろう、身を寄せ合って蹲っている人々の顔には絶望と諦めの色が浮かんでいた。

「この様子だと、各国に派遣した使者たちは間に合わないか」

 誰かの言葉に場の空気は重くなった。

 彼らの祖先は、大陸から命からがら逃げてきた。戦乱から逃れるため、迫害から逃れるため、理由は様々であったが。

 この島の生活は苛酷であったが、無慈悲に命を奪われる事はない、それにこの島で採れる資源のおかげで細々としてだが、他国と交易もできた。

 しかし、それも過去の事だ。

 帝国に海を奪われる前に、何とか交易に来ていた船に使者を乗せて救出を要請したが今だに誰も戻らない、帝国の哨戒網に引っかかたのか、見捨てられたのか誰にもわからない。



「ゼン兄ぃ!」

 今ここにいないはずの妹の声に、若い獣人族の男ゼンは目を丸くした。妹はノインバス王国に生き残った島民たちを救ってもらえるよう頼みに行ったはずだ。そんな妹がここにいるという事は・・・

 ゼンは立ち上がった瞬間、1人の少女が姿を現した。茶髪茶眼に頭の上に猫耳がある、一見すると人と変わらないが、れっきとした獣人だ。

「ルル!?ルルではないか!?」

 ゼンは思わず妹の名を叫ぶ。

「よくぞ戻ったぞ、ルル」

「無事でよかった」

 島民たちが声をあげる。

「ノインバス王国は何と言っていたんだ?島に住む者たち全員を救ってもらえるのか?」

 ゼンの言葉にルルは、奇妙な服を着た20代後半の細身の女性を連れて戻ってきた。

「レギオン・クーパーの人たちを連れて来ました」

 ルルの言葉に、奇妙な服を着た若い女性は名乗った。

「日本国陸上自衛隊、南場紫苑(なんばしおん)1等陸尉です。皆さまを救出に参りました」



 ミレニアム帝国軍騎士団長のグルズは南進軍指揮官からの伝令文と信じがたい報告を受けていた。

「おい!偵察隊を編成して、南進軍本陣を偵察させろ!」

「御意」

 グルズは一見すると高位の貴族出身に思われるが、これでも数々の戦場を生き残った猛者である。

「一気に勝負をつけるぞ!帝国騎士団総員突撃準備!」

 グルズの指示に騎士たちが次々に馬に騎乗する。

 馬の腹を蹴り、1000騎の騎士団は前進を開始した。

 前衛は騎士団の斥候隊が務める。

「帝国騎士団、突撃!!」

 グルズの号令で騎士たちは馬の速度を速めた。

 号令と同時に、風切音が響いた。

「ん?なんだ?」

 グルズが空を見上げたその時、目の前の地面が吹き飛んだ。斥候隊を巻き込んで、だ。

 猛烈な爆音と爆風により、騎乗したグルズを落馬させた。

「な、何が起こった!?」

 落馬したグルズが叫ぶ。

 運よく落馬を免れた騎士たちは馬を落ち着かせるのが、精一杯だった。

 爆発した周囲にいた斥候隊は無残な姿であった。

「馬鹿な・・・」

 グルズはその光景を見てそうつぶやいた。

「お、おのれ!!よくも我が息子を!!」

 1人の中年騎士が叫び、馬を走らせた。

「ま、待て!」

 グルズが止めるが、頭に血が上った中年騎士には届かない。

 中年騎士の行動に他の騎士たちも片手剣を掲げ続いた。



「目標群の1部部隊が猛スピードで接近中」

 観測班からの報告に南場は重迫撃砲分隊の分隊長に振り返った。

「次弾発射用意!」

「了解」

 南場の指示に分隊長は背後の重迫撃砲に振り返って、指示した。

 普通科部隊最大の支援火力である120ミリ迫撃砲RTに装填手が120ミリ砲弾を半分だけ砲身内に入れる。

 観測班からの情報を運用員が調整する。

「調整完了」

 分隊長がうなずき、右手を高く上げる。

「南場副隊長。発射準備よし」

 分隊長の報告に南場は両耳を塞いだ。

()ぇー!」

「発射っ!」

 装填手が砲弾を放し、伏せる。

 次の瞬間、すさまじい発射音が響き、120ミリ砲弾が撃ち出される。

 数キロ先の目標であるから命中するまで時間はかからない。

 発射してから数瞬後、爆音が届いた。

「目標命中!」

 観測班からの報告に南場は、射撃中止を命じた、のであった。

「島民たちの反応は?」

 南場の問いに観測員は報告した。

「鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしています」

 南場は、そうだろう、と言いたげに苦笑した。

 だが、それも一瞬の事、すぐに彼女は、どうしたものだろう、と頭を悩めた。

 観測班と偵察機からの報告では、敵の兵力は想定以上に多い。もともと情報が不足していたからしかたのない事だ。

 こちらの戦力は普通科連隊の1個普通科中隊、重迫撃砲分隊、狙撃小隊の1個班である。これが今の戦力だ。

 他はすべてノインバス王国に置いてきてしまった。

 なぜ、そんな事になっているかと言うと、今回の作戦は救出が主目的だからだ。



 近くの海岸線では、キスカ島を脱出する難民たちが集まっていた。

「なんだあれは!?」

「船なのかあれは・・・?」

 難民たちは、巨大な平たい筏のような舟を見て驚いた。

「皆さん。不安になる事はありませんよ。彼らはレギオン・クーパーです」

 明るい声でクリスカと名乗ったエルフの少女が難民たちに語り掛けた。

「皆さんを安全な場所に運ぶ舟です」

 クリスカが語り掛けている頃、その船から黒い鎧のようなものを着た青や紺色等が混じりあった服装の外国人たちが上陸してきた。

 その外国人と緑や茶色の混じりあった奇妙な服を着た外国人と何か話している。

 話が終わったのか、緑や茶色の混じりあった服を着た外国人がクリスカに耳打ちした。

「皆さん、この舟で沖合にいる船に移動します!」

 クリスカが大声で難民たちに告げた。

 それを見ていた、眼鏡をかけた海自士官は、ボソリとつぶやいた。

「交通整理の婦警さんポイな・・・」



 防衛線の指揮をとっている中隊長にLCAC(エルキャック)誘導班からありがたい報せが届いた。

 展開中の陸自部隊だけでは対処できないと判断した秋笠の独断で[ふそう]、[しれとこ]、[しゃこたん]、[くにさき]の4隻は急遽陸戦隊を編成して、寄越してくれたのだ。

「中隊長!」

 灰色の鉄帽を被り、デジタル迷彩服に黒の防弾チョッキを着た眼鏡の青年が声をかけた。

「[ふそう]第1分隊の樹村慶彦(きむらよしひこ)3等海尉です。自分以下149名は陸上自衛隊の指揮下に入り、難民の救出完了まで、防衛線を死守します」

「貴方がたの命、お預かりします」

 中隊長は挙手の敬礼をした。

 樹村も挙手の敬礼をし、海自の陸戦隊に指示を出し、配置につかせた。

 彼らの手には89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)や海自が独自で開発した64式対人狙撃銃が握られている。

 樹村の手には64式対人狙撃銃が握られていた。

 64式対人狙撃銃は64式7.62ミリ小銃を改造して、完全な狙撃銃仕様にしたものだ。樹村自身、今回の陸自の独断に思うところがある、口に出して言いたい事もある、しかし、そんなのは今はどうでもいい。

(俺たちは、仲間なんだ。仲間を助けるのに理由なんていらね~)



「各隊に告ぐ、敵が動き出した。射撃準備!」

 中隊長の声が無線から聞こえると陸自、海自の隊員たちは気を引き締めた。

「射撃準備!」

 久松の号令で小隊に所属する隊員たちは小銃、軽機関銃等の安全装置を解除した。

 暗視装置からこちらに向かってくる兵士たちがはっきりと見える。数は1000人を超しているだろう。

「各隊へ、500メートルになったら射撃を開始せよ!」

 中隊長の指示で、久松は89式5.56ミリ小銃に装着した暗視装置を覗いた。

 550、525・・・500。

「撃てぇー!」

 久松の号令で小隊員の小銃から軽機関銃が火を噴く。



[やまと]から発艦した12機のF/A-18Jは順調に目的地に向かっていた。

「ハリケーン1よりトルネード1、準備はいいか?」

 加藤(かとう)(さだ)(ゆき)2等空佐は副隊長の篠原弘樹(しのはらひろき)3等空佐に聞いた。

 トルネード1は篠原のコール・サインだ。

「こちらトルネード1、いつでもいけますよ!」

 篠原は緊張感のない声で答えた。

「間もなく爆撃ポイントだ」

「ラジャ」

 篠原が返事をした、次の瞬間・・・

 唐突にレーダー画面を映し出している液晶モニターが反応した。

 加藤はレーダーを見る。すると6つの光点が出現した。

 6つの光点はこちらに向かっている。だが、驚くべきは、その速度だ。

 なんとマッハ1.5と表示されている。

「ハリケーン1。これはどういうことでしょうか?」

 ハリケーン2から信じられないという口調で尋ねられた。

「もしかしたら俺たちと同じかもしれんな・・・」

 加藤はそう答えてから[やまと]に通信した。

「ハリケーン1から[やまと]へ、こちらに接近中のアンノウン(国籍不明機)を確認。何かつかめているか?」

「[やまと]からハリケーン及びトルネード編隊(エレメント)へ、こちらもレーダーで確認した。現在SIFを確認中・・・こ、これは!?」

 加藤の通信機から驚いた声が響いた。

 SIFとは、航空機に搭載されている識別装置の事である。軍用機だろうと民間機だろうと装備されている。これは機体のパーソナルデータを周囲に知らせる機能だ。この世界ではまったく存在しない機能だが、時速1500キロというのはあきらかにジェット機だ。

「機体データをそちらに転送する」

[やまと]からそう言われると、加藤は液晶モニターの1つを操作して、映し出した。

「こいつは・・・」

 アンノウンがなんなのかわかった時、加藤はそうつぶやいた。

接近中のアンノウンはSu-27[フランカー]だ。

「隊長。どうしますか?」

 篠原の問いに加藤は答えようとした時、HUDヘッド・アップ・ディスプレイに赤く警告文字が表示された。さらにコックピット内にレーダー波を捉えた事を知らせる警報アラームが鳴り響いた。

「ブレイク(回避)!」

 加藤が指示をする。

 12機のF/A-18Jは一斉に弾かれるように散開した。

 加藤のコックピット内はうるさく警告音が鳴り響いていたが、一瞬だけ音が止んだ。しかし、それは一瞬のこと、すぐに新たな警報アラームが鳴り響く。

 加藤はHUDに表示されている文字を見る。

 そこには、ミサイル接近、と出ていた。

「くっ!?」

 加藤は操縦桿を倒し、チャフ(レーダー波を攪乱する金属片)ばら撒き、機体を急旋回させた。

 加藤機を狙ったAAM(空対空ミサイル)はチャフに引っ掛かり、自爆した。

 しかし・・・

「AAMの第2波接近中!回避(ブレイク)できない!・・・うあああ!」

 1機のF/A-18Jが右翼(主翼)にAAMが被弾し、主翼下に装備されている各種AAM等に誘爆し、F/A-18Jは爆散した。

 パイロットにとっても一瞬の事であったろう。

 だが、加藤たちには仲間の死を嘆く暇はない。第2波をかわさなくてはならない。

 加藤は間一髪で第2波のAAMをかわしたが、AAMに気をとられている間に敵機に至近距離まで近づかれたのだ。

「!?」

 加藤は正面にSu-27を捉えたが、彼ができたのはそこまでだった。すでに敵機は新たなAAMを発射していた。

「くそぉぉぉ!」

 加藤は操縦桿を倒し、急旋回して回避しようとしたが・・・次の瞬間、彼の身体はまばゆい炎に包まれ、彼の身体は蒸発した。



「素晴らしい、実に素晴らしい。共産主義者どもが開発した機体というのは気に入りませんが、まあいいでしょう・・・さてさて、余興はまだまだ続きますよ」

 その光景を見ていた男の微笑は酷薄から悪魔そのものに変わっていた。



「[やまと]より、ハリケーン1、応答せよ!状況を報告されたし!?」

[やまと]のCICは騒然となっていた。

「通信回線をこっちによこせ!」

 笠谷が怒鳴り声を上げて命じた。

 その怒号に航空管制員たちはあたふたしながら通信回線を繋ぐ。

「つ、繋ぎました!」

 航空管制員の報告に、笠谷はヘッドセットに叫ぶ。

「01(マルヒト)隊。状況を報告せよ!ハリケーン隊、トルネード隊。どうした!?」

「・・・・・・」

 応答はない。

「第2部長。恐らくジャミング(通信妨害)されているものと思われます」

 航空管制官が言った。

「ちっ!」

 笠谷は舌打ちした。

「回復にどのくらいかかる?」

 板垣の問いに航空管制官たちは通信機器を調整しながら答えた。

「30分はかかります!」

「司令官」

 笠谷は上官に振り返り、具申した。

「援軍の投入を具申します」

「ちょっと待て、笠谷。状況もわからずに残りのF/A-18Jを出すのか?」

 声を上げたのは岩澤だった。

「はい。そうです。状況はわかりませんが、攻撃隊は謎のSu-27隊に襲われ、交戦中と思われます。攻撃隊の中で制空戦闘ができるのは加藤を合わせても6機のみ。F/A-18ではSu-27には勝てません。ただちに増援を出すべきです」

「笠谷。お前の言いたい事はわかる。しかし、そんな危険な任務の指揮を誰にさせるのだ?」

「それは自分がやります」

 笠谷の言葉にCICに詰めていた者たちの視線が彼に集中する。

「第2部長。それは職務放棄と職権乱用ですぞ!」

 幕僚の1人が言った。

「そんな事はわかっている。しかし、状況が状況だ。ここは俺が行くしかない」

 笠谷は上官である板垣に向き、言った。

「今、待機しているパイロットの中で、このような状況下に正確な判断ができる者はおりません。どうか自分に行かせてください」

 板垣は腕を組んだ。

「・・・やむを得んか・・・笠谷、君の具申を受け入れる。無茶をするなよ」

 板垣は少し悩んだ後、決断した。

「はっ!ありがとうございます」

 笠谷は挙手の敬礼をした。


 救出第8章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったかと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は今月の18日までを予定しています。

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