完結篇 後篇 第1章 神々の黄昏(ラグナロク)
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
バラカス諸島クーリッタン島から1000キロ程離れた島で、ナチス・ドイツ軍は、ある準備をしていた。
「急げ!奴らにたらふく食わせてやるぞ!」
ナチス・ドイツ軍将校の言葉にナチス兵たちが、歓喜の声を上げる。
彼らが準備しているのは、V-2ロケットではなく、V-3ロケットである。
V-2ロケットを改良し、弾頭の増加と射程距離を伸ばした単段式弾頭ミサイルである。
ナチス・ドイツ軍がこの世界に侵攻した際、V-2ロケットを超える戦略兵器が必要になり、開発されたのが、V-3ロケットだ。
ナチス・ドイツ兵たちはV-3ロケットの発射準備をしている。
「しかし、こいつは、まだ数が十分に揃っていない、虎の子の兵器ですよ。切り札をここで出していいのですか?」
次席指揮官が指令所で指揮官に言った。
「クーリッタン島は陥落した。群島諸国連合軍はクーリッタン島を拠点にミレニアム帝国本土に侵攻するだろう。ここで使うのは、遅すぎるぐらいだ」
指揮官は腕を組んだ。
「まあ、そうかもしれません。V-2ロケットもありますが、射程が短いため、クーリッタン島には届きません」
「ああ。数が少ないが、クーリッタン島のみなら、それなりに打撃を与えられるはずだ」
指揮官の言葉に次席指揮官がうなずく。
「しかし、原子爆弾がないのは残念でなりません。群島諸国についた日米軍は我々に対し、使ってきたというのに、我々には報復する事も出来ない。もし、あったら、V-3ロケットの弾頭に搭載して撃ち込むところだったのに」
「そう言うな。原子爆弾はヒトラー総統閣下が開発を中止したのだからな」
指揮官が次席指揮官に振り返り、言った。
「表向きは、間に合わない、という事で中止しましたが本当の理由は・・・」
次席指揮官が言おうとした事を手で止めた。
「本当は怖かったのさ。もし、原子爆弾を使えば、ドイツ本国にも原爆を落とされる事が・・・」
指揮官の言葉に次席指揮官はうなずいた。
「そうです。総統閣下は少数民族殺害には化学兵器等を使用しましたが、前線では使いませんでした。この事から総統が原爆を中止したのもわかる気がします」
「あんな悪魔の兵器等、使うようなものではない」
「しかし、日米はそれを使いました。我々が持っていないのが憎いです」
次席指揮官が拳を握りしめて、つぶやいた。
その目には、怒りがあらわになっている。
「ゲルリッツ元帥も、一時は開発を再開なさろうとお考えのようだったが、総統閣下のご遺志を継いで断念なさった。当然だ、あんなものは人間の使う物ではない」
一応、自衛隊と米軍の名誉のために言っておくが、使用された核兵器は戦略核兵器ではない。あくまでも、戦術核兵器だ。
戦術核兵器は通常兵器の延長線上の兵器でしかない。
そんな事を話していると、部下から発射準備完了の報告が上がった。
「V-3ロケット全弾、発射準備完了しました!」
「ご苦労」
指揮官が部下を労うと、指令所にいる担当員たちに指示した。
「V-3ロケット、全弾発射!」
「V-3ロケット、全弾発射!」
次席指揮官が復唱し、担当員たちが、発射ボタンを押す。
轟音と衝撃と共に、V-3ロケットは垂直に飛翔していく。
10数発のV-3ロケットは1発も欠ける事もなく、無事、全弾発射された。
指揮官はその光景を指令所から眺めていた。
彼は一瞬、ミレニアム統合軍が原爆を持っていない事が幸運だと、思った。
もし、原爆があったら、双方で撃ち合いをする事になる。それも無関係なこの世界で・・・まったく、救えない話だ。
E-2D[アドバンスド・ホークアイ]は空母[やまと]から発艦し、警戒任務についていた。
護衛として2機のF/A-18Jが同行している。
「レーダーに反応はないか?」
機長の言葉に副操縦士はディスプレイを見た。
「何の反応もありません」
副操縦士の言葉に機長はどこまでも青い空を眺めた。
「しかし、元の世界に帰れないのか・・・結婚のために貯めた資金が無駄になっちゃったな・・・はぁ~」
副操縦士の言葉に機長は心中で、また、始まった、とつぶやいた。
彼は元の世界に戻れないと、知らされた時から、口を開ければ、その話である。
「こんなんだったら、海外派兵の任務なんか志願するじゃなかった・・・」
機長はうんざりしながら、信頼する副操縦士につぶやく。
「仮に海外派兵の任務に志願しなくても、元の世界はえらいことになっている。結婚なんてする暇はないさ」
「それは、そうですが、元の世界にいれば、恋人といつか結婚できるチャンスが巡ってくるものでしょう」
副操縦士が何度目かわからない言葉をつぶやく。
機長は内心ため息をつく。
「どうしようか、恋人の事は忘れて、この世界で恋人を1人か2人ぐらい作ろうか・・・ハーレム幕僚もいるし・・・」
「それもいいと思うぞ。ハーレム幕僚がいるんだから、正妻と妾を作っても両方を平等に大事にすれば、誰も文句は言わない。それに、1人の女性が複数の夫を持ってもいいって国もあるらしいぞ」
「そ、そうですね」
副操縦士が暗い気持ちから明るい気持ちになり始めた。
「機長。どうするのです?この世界でご結婚はしないんですか?」
「俺か・・・」
機長が答えようとした時、レーダー員が叫んだ。
「レーダーに多数の反応!高速飛行中です!」
「何ぃ!」
機長が操作し、ディスプレイを睨んだ。
レーダー上に10数個以上の光点が現れた。
「至急![やまと]に通信!」
機長が叫ぶ。
レーダーが捉えた光点はV-3ロケット群だった。
E-2Dから通報はすぐに[やまと]にも届いた。
第1統合任務艦隊司令官である板垣玄武海将はE-2Dのレーダーを映し出しているスクリーンを見ていた。
「ナチス・ドイツ軍は弾頭ミサイルまで持っていたのか?」
艦隊幕僚長の島村三郎1等海佐は航空団幕僚長の岩澤茂1等空佐と顔を見合わせた。
懸念は持っていても、現実を突き付けられると驚きを隠せない。
「ありえない話ではありません。この世界でヒトラーの野望を実現させるのですから、弾頭ミサイルを持っていたとしても何ら不思議ではありません」
首席幕僚の佐藤修一2等海佐が冷静な表情で言った。
「問題なのは、今、飛んできている弾頭ミサイルの弾頭が何かです。核兵器の可能性もありますし、生化学兵器が搭載されている可能性も捨てきれません」
第2部長の笠谷尚幸2等空佐がスクリーンを見ながら、告げた。
「どこに向かっている?」
板垣はレーダー員に問うた。
レーダー員が操作し、[やまと]のコンピューターが弾頭ミサイルの速度、方角からどこに向かって飛翔しているかを計算する。
「出ました!クーリッタン島です」
「やはり・・・」
板垣は目を伏せた。
クーリッタン島は群島諸国連合軍がミレニアム帝国に侵攻するための重要な拠点だ。その事は彼らも知っている。
狙うのは当然だ。
板垣は目を開け、通信士に言った。
「米海軍第7遠征打撃群司令ジャン・フリードマン少将に繋いでくれ」
「はっ!」
[やまと]CICのスクリーンの1つに米海軍強襲揚陸艦[ボノム・リシャール]のCICの映像が映し出された。
米海軍のデジタル迷彩服を着たジャン・フリードマン少将がスクリーンに現れた。
「アドミラル・フリードマン。貴官に要請したい事がある」
板垣はすぐに本題に入った。
「クーリッタン島に接近中の弾道ミサイルの事ですか?数から計算して、3隻のイージス艦で迎撃ができるか、どうかは怪しいものです」
「ああ。そうだ。だから、イージス艦[あさひ]が搭載している新BMDモードを使う」
板垣の言葉にジャンは少し記憶を探った。
「日本がアメリカの許可を得て、独自に開発したシステムの事ですか?」
「そうだ」
「それで、我々にどうしろと言うのです?」
ジャンの質問に板垣は前置きせず、爆弾を炸裂させた。
「イージス艦[ステザム]の戦闘指揮権を[あさひ]に譲ってくれ!」
「なっ!」
ジャンは面食らった。
「アドミラル・フリードマン。冷静に考えて頂きたい。弾頭ミサイルの数から計算して個艦迎撃では全弾を撃墜する事は不可能だ。しかし、新BMDモードなら迎撃は可能だ」
「しかし・・・」
ジャンは躊躇った。
この間も弾道ミサイル群はクーリッタン島に向かっている。早くしなければ迎撃は不可能になる。
「米軍が自衛隊の指揮下に入るのは前代未聞の事だ。しかし、ここで、そんな事を議論する余裕はない。頼む、[ステザム]の戦闘指揮権を[あさひ]に譲ってくれ」
板垣は力強く頼み込んだ。
「そのシステムは、問題ないのですか?米軍の情報では[あさひ]に搭載されている新BMDモードは試作型だと聞いています」
「ああ。それなら、大丈夫だ。[あさひ]の艦長と砲雷長は優秀な者だ。必ず、そのシステムを使いこなしてくれる」
「・・・・・・」
ジャンは目を伏せ、少し考え込んだ。
「わかりました。[ステザム]の艦長には私から説明します。[ステザム]の戦闘指揮権を[あさひ]に譲りましょう」
「ありがとう」
板垣は礼を言った。
クーリッタン島で、待機中の第2統合任務隊にも板垣からの命令が届いた。
「・・・と、いうわけだ。艦長、[はつせ]の戦闘指揮権を[あさひ]に譲ってくれ」
水島要海将補からの指令に、大津祐基1等海佐は即答しなかった。
「・・・司令もご存知でしょう。新BMDモードは、試験演習で一度も成功していない事を・・・」
大津の危惧も当然と言える。万が一、[あさひ]のシステムがフリーズすれば、他のすべてのシステムが停止するのだ。
大津にすれば、リスクの高い賭けに出るより、確実な個艦迎撃に徹する方が得策に思える。
「大津。君の言いたい事はわかる。だが、他に方法がない。10数発の弾頭ミサイルを3隻のイージス艦で迎撃するにはこれしか無い。大丈夫だ、[あさひ]艦長と砲雷長なら、必ずやってくれるさ」
「・・・・・・」
「稲垣と、私の妹に不可能は無い!」
水島は自信に満ちた口調で言い切った。
「わかりました。本艦の戦闘指揮権を[あさひ]に譲ります」
イージス艦[あさひ]のCICでは、イージス艦[はつせ]、イージス艦[ステザム]のデータが接続された。
「[はつせ]の全システム接続完了。システムに異常なし」
「[ステザム]の全システム接続完了。こちらもシステムに異常なし」
担当員から報告が上がる。
[あさひ]艦長の稲垣海男1等海佐はレーダースクリーンを眺めながら、砲雷長の来島周3等海佐に聞いた。
「砲雷長。システムはすべて正常か?」
「はい。システムに異常はありません。これなら、行けます」
来島の言葉に稲垣はうなずいた。
「試験演習の時みたいに全システムが停止することはないんだな?」
「あの時のような失敗はしません」
来島は自信に満ちた口調で答えた。
「いいか、弾頭ミサイルの迎撃はすべて本艦指揮のもと行われる。絶対に1発たりとも撃ち漏らすな。すべて迎撃するんだ!」
稲垣は決意のこもった口調で言った。
「「「はい!」」」
CICに詰めている乗員たちが声を上げる。
「神々の黄昏システム起動!」
来島の言葉にCICにいた乗員たちは、また、勝手に名前をつけた、と思った。
稲垣が、かすかに笑った。
「ナチスに引導を渡すつもりか?」
「いえ、単なる思いつきです」
(((思いつきかい!!?)))
来島に全員が心の中で突っ込んだ。
新BMDモードを改め、ラグナロク・システムを起動した[あさひ]は最新のコンピューター計算により、接近中の弾道ミサイル群の優先迎撃目標を査定していた。
接近中の弾道ミサイルは全部で15基。
3隻のイージス艦が搭載するSM-3なら、1発につき2発ずつ迎撃しても大丈夫なぐらい装備されている。しかし、これが第1波の可能性も捨てきれないため、1発ずつによる迎撃が好ましい。
システムと迎撃の中心になった[あさひ]は莫大な量のデータ処理に追われていた。
「データが多いコンピューターがフリーズしないように注意しろ。もし、フリーズしたら、それで終わりだ」
稲垣が武整長に告げた。
「はい。私がいる限り、コンピューターをフリーズにはさせません。お任せください」
「頼む」
信頼する部下の意気込みに稲垣は力強くうなずいた。
「弾道ミサイル迎撃の配分は完了したか?」
「完了しています」
稲垣の問いに来島が報告する。
「本艦指揮のもと、迎撃始め!」
稲垣の指示に、担当員たちがデータを入力し、SM-3の発射準備を完了させる。
「撃ぇぇぇ!」
担当員が発射ボタンを叩く。
轟音と衝撃がCICにも届く。
[あさひ]の前部VLSからSM-3が5発、順番に発射される。
「本艦のSM-3、発射成功!」
「[はつせ]のSM-3も発射成功!」
「[ステザム]のSM-3も発射成功しました!」
次々に発射の報告が入る。
「SM-3、15基は順調に目標に接近中!目標到達まで150秒!」
担当員から報告に稲垣は腕時計を見る。
150秒後にすべてが決まる。
できれば全弾命中を願いたいが、そううまくはいかないかもしれない。
CICは緊張した空気に包まれていた。ただ1人、冷笑を浮かべた魔女を除いて。
担当士官は、それを見て確信した。必ず成功すると・・・
そう確信したのは1人ではなかった。
一瞬で、CICを包んでいた空気が変わった。稲垣はそれを敏感に察した。
思えば、こんな事態に遭遇するとは考えもしなかったが、防衛省の人事に手を回して、来島を引き抜いたのは、正解だった。
能力的に見れば、来島は優秀だが、飛びぬけているわけではない。
ただ、他人と少し違うのが、出来るかもしれないという消極的な自信を、出来るという積極的な自信に周囲を変える事が出来るのだ。
今の[あさひ]の乗組員たちにとって、この魔女の冷笑は、自分たちの勝利への絶対的な自信になっている。
もちろん、根拠はない。しかし、稲垣はそれを信じている。
稲垣はスクリーン1つに視線を向けた。
そのスクリーンには、発射されたSM-3の映像が受信されている。
レーダースクリーンではSM-3群と弾道ミサイル群が距離を縮めていく。
「命中まで、10秒!9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタンバイ!」
レーダー上ではSM-3群と弾頭ミサイル群が重なる。
SM-3からの映像も途切れる。
「目標群アルファ、14基撃墜確認!」
弾道ミサイル15基中14基を撃墜した。
「目標1、外れました!針路速度変わらずクーリッタン島に向かっています!」
「ちっ!」
担当員の報告に来島は舌打ちした。
「PAC-3の発射準備は完了しているか?」
稲垣が尋ねる。
「はい、完了しています」
来島の報告に稲垣は担当員たちに叫んだ。
「撃ち漏らした弾道ミサイルを迎撃せよ!」
稲垣の命令で担当士官がクーリッタン島に配備されたPAC-3発射モードに切り替えて、発射ボタンを叩く。
映像がPAC-3の発射台に切り替わり、轟音と共に、PAC-3が飛翔する。
ラグナロク・システムはイージス艦だけではなく、地上発射のペトリオット・ミサイルも指揮下に置くことができる。
レーダー画面上では生き残った弾道ミサイルとPAC-3が距離を縮める。
その時間は、まるで永遠のように長かった。
10秒前になり、担当員がカウントダウンに入る。
PAC-3と弾頭ミサイルが重なる。
「目標に命中!迎撃成功です!」
担当員の報告に一瞬だけ、場が静まったが、すぐに乗員たちは歓声の声を上げた。
「よし!すぐに[やまと]に迎撃成功を通信」
稲垣は上機嫌な表情で通信士に言った。
「よくやったな、来島」
自分の片腕といっていい来島の肩を叩く。
「いえ、ここにいる皆のおかげです」
来島も、笑みを浮かべて答える。
CIC内では、隊員たちが歓声を上げていた。
ヘリ搭載護衛艦[ふそう]のCICでも、この映像は受信されていた。
「さすがだな」
第9護衛隊司令の秋笠秀行1等海佐は、眼鏡を上げながらつぶやいた。
「3隻のイージス艦で15基中14基を撃墜とは、前例がないのでは・・・」
[ふそう]艦長の高上直良1等海佐もうなずいた。
「・・・まあ、来島の事だ、どさくさまぎれでまた変な命名をしたんじゃないか?」
秋笠の冗談交じりの言葉に、高上は苦笑した。
(ラグナロクだったりして・・・)
それを聞いていた、水雷士の樹村慶彦3等海尉は心の中でつぶやいた。
完結篇後篇第1章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
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