vs.魔将王"グリムゼード
―――88階層 vs.魔将王"グリムゼード"
キュオオオオオオオンッ!!!!
グリムゼードは巨大な咆哮をあげると、槍のような漆黒の羽を無数に展開させ、
「《暴虐の黒羽》……」
自分を中心に全方向へと放った。
パッ!!
アードはカレンの前に《地面縮小》で現れると、
グザンッ、グザンッ
羽を"抉り斬り"ながら、
「《空間縮小》《防壁》」
タイミングを見計らい、目の前に3m52cmの壁を広げる。
「アード様! 僕が"リジル"で盾役になるよ! アード様の『黒刀』で斬ってくれないと、グリムゼードには、」
「俺は"サポーター"だ。ちゃんとサポートしてやるから、お前が斬るんだ!」
「……でも、僕の攻撃じゃ、アイツには、」
「俺が合図したら、"いっぱい剣が出てくるヤツ"を発動させろ!」
ズズズッ……
"漆黒の防壁"がゆっくりと無くなっていく。
グザンッグザンッ!
アードは自分達に被弾する羽を的確に斬り落とし、もう一度《防壁》を展開。
「聖剣"フレイ"の《千剣聖乱》の事かな? でも威力が……、"アレ"じゃ、グリムゼードに剣は刺さらな……」
「……」
アードの呆れた表情に、カレンはその意図を理解した。これまでのダンジョン攻略、幾度となく魔物達を弱体化させてきたアードの姿を思い出したのだ。
「わかった! アード様の合図を待つよ」
「俺を信じて、その時、"使い果たせ"。それまでは防御に徹してればいい」
「了解! アード様!」
いつもの変態顔ではない"勇者の表情"に、アードは小さく笑い、
「お前が『勇者』だろ? 頼りにしてるぞ?」
一言残し、グリムゼードへと《地面縮小》した。
※※※※※
確かに、なかなか……。
あの邪竜と似た雰囲気すら感じるな。
まずグリムゼードに触れなければならない。
膨大な魔力の縮小で、厄介な"復元能力"を絶つ。
「小ざかしい!! ひれ伏せぇえ!!」
治ってはいないが、おそらく魔力を具現化させる事で新たな鉤爪を代用しているグリムゼード。
"爪痕"は飛ぶ斬撃。
漆黒の翼を羽ばたかせると"暴風"が吹く。
おまけに、なかなか頭も良いと来た。
3m前後の位置に先んじて攻撃を放っては、俺の動きを制限しているようだ。
と言っても、3m 52cmが最大値なだけで、その範囲内ならどうとでもできる。この短時間でそれを見極めたのは素直に賞賛すべき事だろうけど、まだ浅い……。
まぁ、"俺にだけ"に意識を集中させている事が出来てるから良しとするか。
カレンは紅い髪と瞳をキラキラと輝かせながら、精神を集中しているようだし、ランドルフは寝転がったまま、ギンギンの瞳でこちらを観察、いや、全体の戦場を考察している。
アリスはいつもの無表情で仄かに顔を染めたまま"俺だけ"を見つめているし、リッカはどこか眠そうな表情だ。
……急所は……喉元か。
それ以外の場所を多少抉っても死にはしないだろう。
意識せずとも、わかってしまう"絶命"させる場所。
おそらくはダンジョンを彷徨い続け、極限状態の環境が俺に与えた、"我流の能力"。
「ちょこまかと逃げ回るだけの『異形』がッ! 楽には屠らぬぞ!! 絶望に絶望を重ね、この世に生を受けた事を後悔させてやるぅう!!」
「うるせぇ! 雰囲気を出したいのか知らないけど、声が低すぎて聞こえ辛いんだよ!」
「必ず絶望させてやる! 貴様の全てを奪い、」
「モゴモゴと……、はっきり、しっかり喋れ! 鳥頭!!」
「……くっ、我を愚弄した事を後悔させてやる!!」
俺は《空中縮小》と《空間縮小》を繰り返しながら、宙に浮いたまま、攻撃をさばく。
不規則で自由に舞う黒羽。
抉っていてもキリがない。
近づこうにも暴風が面倒くさい。無理矢理行けない事もないだろうが、怪我はしたくない。
痛いのは大嫌いだしな。
このまま挑発を続けて、襲いかからせる?
《空間縮小》《円球》で? でも、こっちの視界を塞がるし、追尾するような物でもないしな……。
まぁ、コイツを屠れば終わりだし……地道に行こうか。
キラッ……
無数の氷が照明代わりになっている。
ダンジョンとは思えない煌々とした光。
黒羽の先についている細い細い"魔力の糸"がはっきり見えてる。まずは、制御不能にして……、
「……うん。大した事ないな」
あの邪竜に比べれば……。
3つの首の完璧の連携。
思考する余裕すら与えない連続する"死地"。
アイツ……マジで伝説の邪竜だったんだな。
「クハハハッ!! "羽虫"が踊っておるわ!!」
「……えっ? 自分の攻撃だろ? 確かに"羽虫"みたいなモンだけど……。恥ずかしくないのか?」
グザンッ! パッ! グザ、グザンッ!!
「貴様の事だぁあ!!」
「『ギザマノゴドダァア!』じゃ、わかんないって言ってるだろ?」
パッ! グザッ! クルッ、グザンッ!!
だいぶ"制御してる羽"は減らしたし、そろそろ行けそうだな……。かなり頭にも血が昇ってるだろ?
「貴様ァア!! そのニヤけた顔を今すぐに絶望に染めてやる!!」
「えっ? 笑ってない、」
「《獅王威圧》!!」
ズンッ!!!!
周囲の空気が重くなると、グリムゼードは槍のような漆黒の羽を操り、俺の場所から3mほどの逃げ道を塞ぐように放つと、
「《魂喰》!!」
俺の真正面に「何やらよくわからない物」を放った。
うっすらと鉤爪の形をして飛んでくる「何か」に少し眉をひそめ即座に判断を下す。
ドガドガッグザッグザッ!!
飛んで来た"漆黒の槍羽"は、その場に留まる事を選んだ俺を素通りし、ダンジョンに天井に突き刺さる。
グォブッ……
俺の腹を突き抜けたのは『鉤爪の形をした"何か"』。
「旦那様!」
「アード様ぁ!!」
「アードォオオオオ!!」
叫び声を上げた3人と、ついには眠ってしまっているリッカ。
「クハハハッ!! 虫ケラがッ!! "おかしな術"を封じれば、貴様など取るに足らぬザコなのだ!!」
歓喜の叫びを上げるグリムゼードと……、
「……バカめ。戦闘中に気を抜くな、魔将王"グリムゼード"……!」
ほくそ笑む俺。
「何か」したのは間違いないが、一切、"気配"がなかった。あんなもの"ただの幻"。俺にダメージを与える物ではないと判断し、ありがたく利用させて貰った。
「《空中縮小》」
パッパッパッパッ!!
最短距離を駆け抜け、
「《空間縮小》《乱撃》」
グチュンッ、グシュンッ!!
グリムゼードの後ろ2本の鉤爪を"抉り斬る"。
「ぐぁあああああ!! ガァアアアア!!」
ドスンッ!!
尻もちをついたグリムゼード。
シュルルルルッ!!
襲いかかってきたのは尻尾の"白蛇"。
「《一閃》!」
グシュンッ!!
3m52cmの巨大な"次元刀"で蛇を斬り離し、
「《空間縮小》《魔喰》」
空いている左手を振るい、白蛇の頭を"抉り取る"。
グギャアアアアアア!!!!
グリムゼードの悲痛の叫びと共に、カレンに向かった"暴力の気配"。
パッ!!
グリムゼードの巨大な大鷲の眼前に立ち、その大きく、じんわりと赤黒く変化していく金色の両瞳を……、
グシュンッ!!
躊躇なく、よこなぎに"抉り斬る"。
「ギャイアアアアアアッ!!」
もがくグリムゼードの背に乗ると、あとは仕上げだ。
「《魔力》、《強度》、《筋力》、《治癒力》……《混合縮小》……」
ズゥンッ……!!
グリムゼードの弱体化を済ませてから、空中、地面を5回使用し、その場を避難してカレンに向かってパッと手を上げるが……、
「アード様!!」
「旦那様! ご無事ですか?」
合図を送ったのに、こちらに向かって駆けてくる"バカ勇者"と、明らかに焦っているような行動をしているくせに"無表情の聖女"。
はぁ〜……「合図出したらやれ!」って言っただろ。まぁ、もうコイツは何も出来ないとは思うが、何してるんだポンコツ勇者が!
アリスも「待ってろ」って言ったのに、そんなに走るなんてらしくな……、ア、アリ……スッ!!
駆け寄ってくるアリスに言葉を失う。
……タ、タユンッ、タユンのバユンッバユンだ!!
くっ……。な、なんか新鮮だ! いや、アリスが走っているところを初めて見た気がするぞ!! 駆け寄ってくる妻!! 無表情だけど、お胸はとっても表情が豊かだ!!
な、な、なんかいい!!
俺は自分の妻の揺れる胸に大きく目を見開きながら、
ちょ、え、っと……、ま、まず、キスだろ……? それで、深いキス……、そ、それで次は胸を優しく? いや、首? 耳? か、考えずとも、流れでわかる物なのか!?
し、失敗は許されんぞ!!
『初めて』は最高の物にしてみせる!!
とりあえず、エ、エールだ!!
ランドルフとガーフィールにそ、相談する!!
飲み過ぎは絶対にダメだぞ! 俺ッ!!
俺はグリムゼードの事など本当にどうでもよくなり、『帰ってから』どうすればいいのかを思案し始めた。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
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次話、アードに眠る物にも触れます!
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