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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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新しい仲間

 地下大空洞の地底湖前。


 もう塔も相当数が建ち並び、地底湖ではサンダーイール達が水遊びに興じている。


 我がダンジョンもかなり充実してきた気がするので、俺は次の段階に進もうと決めた。


 俺は即席のテーブルと椅子を用意し、幹部であるエリエゼル、フルベルド、レミーア、ウスルと会議をしているところだ。


 幅二メートルはありそうな黒い木目調のテーブルに肘をつき、背凭れの大きな椅子に座る皆を眺める。


「どうしようか?」


 俺がそう尋ねると、レミーアが眉根を寄せて首を傾げた。


「ど、どうと言われましても……」


 レミーアが困ったようにそう呟くと、フルベルドが小さく唸りながら自らの顎を撫でた。


「とりあえず、普段寝起きする部屋などはダンジョンの奥へ動かしてはいかがですかな? もう少女達も我が主の事は承知なのですから、食堂から切り離した方が良いかと……」


 フルベルドにそう提案され、俺は鼻から大きく息を吐いた。


「食堂まで行くのが面倒になるんだよなー……まあ、仕方ないか。それじゃあ、今一番奥にあたる塔の最下層から地下四階に降りる階段を作って、地下四階を一時的に俺達の居住スペースにするか」


 俺がそう言うと、フルベルドは深く頷いた。


「良いかと思われます。ただ、裏口から入ってきた侵入者はこの地底湖に落ちてきます。出来たら、地下四階にまた防衛のためのフロアを作り、段々と深くしていきたいですな」


 フルベルドはそう言って、ウスルに目を向けた。


「ウスルは何か意見など無いのかね?」


 フルベルドがそう尋ねると、腕を組んで背凭れに寄り掛かっていたウスルが目を細める。


「……俺は、あの待機所で待機で、問題無い」


「それはただの現状維持ではないかな?」


 ウスルのコメントにフルベルドは苦笑しながらそう返したが、ウスルは鼻を鳴らしてフルベルドを見た。


「……強者が来るなら、俺に譲ってくれればそれで良い」


 ウスルがそう答えると、フルベルドは呆れ半分に目を丸くする。


「いや、それは構わんが……防衛の話から少しズレていると思うのだがね」


 フルベルドの指摘にウスルは首を傾げ、俺は笑いながら手を挙げた。


「まぁまぁ。ウスルは全員倒すつもりだから問題無いと言ってるんだよ、多分」


 俺はそう言ってウスルをフォローすると、エリエゼルに目を向けた。


「それで、エリエゼルは何かある?」


 俺がそう尋ねると、エリエゼルは鋭い眼を俺に向け、口を開く。


「ご主人様……このダンジョンには大事なモノが欠けております」


「大事なモノ?」


 俺が聞き返すと、エリエゼルは大きく首肯した。


「はい。このダンジョンに足りないのは、モンスターです!」


 エリエゼルは急に大声でそう叫び、地下大空洞にエリエゼルの声が反響する。


 遊んでいたサンダーイール達が驚いてこちらを見ている光景を眺めながら、俺は首を傾げた。


「スライムやらワームやらサンダーイールやらいるけど……」


 俺がそう呟くと、エリエゼルは首を左右に振って溜め息を吐いた。


「バリエーションです。空を飛ぶモンスターもいなければ、魔術が得意なモンスターもいません。アンデッドは……置いておきましょう。後は、鉱物系の打撃や斬撃に強いモンスターもいません」


 エリエゼルはフルベルドとレミーアを横目に見つつそう説明した。


 アンデッド扱いにフルベルドが苦笑し、レミーアはよく分かっていない様子で小首を傾げている。


 俺はエリエゼルの説明に頷き、腕を組んだ。


「ふむ……そう言われるとそうだな。俺的にはフランケンシュタインを召喚したかったのだが……」


 俺がそう呟くと、エリエゼルは咳払いを一つして背筋を正し、口を開く。


「ご主人様……フランケンシュタインは正式にはモンスターではありません。人造人間です。それに、フランケンシュタインという名前は人造人間を造った博士の名前であり、人造人間自体に名前はありませんよ。まあ、名前が付けられたこともありましたが、正確には無いというのが正しいでしょう」


 エリエゼルにそう言われ、俺は驚きの声をあげてしまった。


「フランケンシュタインって名前じゃなかったのか? まあ、見たのは二十年以上前だからうろ覚えだが……」


 俺がそう言うと、エリエゼルは素早く魔法陣を展開し、黒いモンスター図鑑をテーブルの上に出した。


「もしもフランケンシュタインの怪物のようなモンスターを御所望でしたら、人間の死体が元になっているモンスター……グールやワイトの類ですね。それらならば良いのではないですか?」


 エリエゼルはそう言って、グールやワイトのページを開いて見せてくる。


 いつも通り読めない言語と共に、グールやワイトの絵がページに載っていた。


 腐った肉が剥げ落ち、目玉が片方飛び出たグールを見て、俺は首を左右に振る。


「ご遠慮致します」


 俺がそう返答すると、エリエゼルは何故か残念そうに息を吐き、ページを捲った。


「他には……魔術も出来てアンデッドでもあるリッチ系のモンスターも……」


「ご遠慮いたします」


 俺がにべもなく断ると、エリエゼルは不服そうに口を尖らし、またページを捲る。


「では、空を飛ぶモンスターから……有名どころですと、グリフォンやキマイラでしょうか。後は飛龍の代名詞ともいえるワイバーンも良いですね」


 次々に紹介されるモンスターを眺めていき、俺は唸りながらエリエゼルを見た。


「どれも大きそうだな。まあ、地下大空洞でなら生活出来るかもしれないが、少々手狭かもしれないな」


 俺がそう言うと、エリエゼルは地下大空洞を見回し、目を丸くした。


「グリフォンやキマイラならばゆったりと生活出来るほどの広さですが……」


 エリエゼルはそう呟きながらも図鑑を捲っていき、一人何かを呟く。


「大きさでダメなのはガルーダやロックもダメ……ペリュトンはあまり戦闘能力は高くないですし……ああ、飛行時間は短いですが、ガーゴイルやスフィンクスなどもいました」


 エリエゼルがそんなことをブツブツと呟いているので、俺はそっと一言口を挟んだ。


「知能が高くて、出来たら人型のモンスターが良いんだけど」


 俺がそう言うと、エリエゼルはなるほどと頷き、すぐにページを探し出す。


「ハーピー。神話では神の姉妹だったり従兄弟だったりしますが、この魔導書においては人型のモンスターです。人間の男を捕らえて子供を授かることで数を増やすタイプのモンスターで、戦闘能力はあまり高くはありません。知能もそれなりでしょう」


 エリエゼルの解説に俺が頷いていると、エリエゼルは新しいページを開いた。


「サキュバス。夢魔とも呼ばれる通り、眠っている、もしくは眠らせた人間を襲います。眠っている男の精を搾り取り、殺すと同時に子供を授かる……」


「子供を授かってばかりだな、空のモンスター」


 エリエゼルの解説に俺が水を差すと、エリエゼルは乾いた笑い声をあげてページを捲る。


「たまたま私が選んだモンスターがそれなだけで、全てがそうというわけではないのですが……ああ、妖精族は人型が多いですよ。あまり強くはありませんが」


 ふむ。この際妖精がモンスターであるという衝撃的な事実は置いておくとして、一番気になったのを召喚してみるか。


「じゃ、ハーピーを召喚してみよう」


 俺がそう答えると、エリエゼルは大きな反応はせずに頭を下げた。


「分かりました。ハーピーは太古から名が知られるモンスターです。神話ですと二人から三人の姉妹であるとされることもあります。今回は複数人召喚されては如何でしょう」


 エリエゼルはそう言って、人差し指でテーブルの上に魔法陣を描いていく。


 青い炎の魔法陣を皆が注目する中、俺はテーブルに手をついて目を閉じた。


 姉妹。女の子。


 どうせなら凄い美人な方が良いだろう。


 そんな邪な心。略して邪心を込めに込めた俺は、いつも以上の魔素を集めていたことに気が付いた。


 三人分に分割されるとはいえ、サンダーイール達を召喚した時よりも大分多い魔素の量である。


 その魔素を用いて、三人の形を練りあげる。


「……よし、出来た」


 ようやくイメージが固まった俺がそう呟いて目を開けると、青い炎が上空に向けて燃え上がるところだった。


 炎は風に巻かれたように火柱となり、徐々にテーブルの上に凝縮されていく。


 段々と形になっていく炎を眺めていると、数秒後、大きなテーブルの上には狭そうに身体を寄せ合って寝転がる、裸の女達の姿があった。


 三人の女達に腕は無く、代わりに白い翼が生えており、足も太腿の途中辺りから羽毛に覆われ、足先は鷹の脚のように鋭い爪を持つ形状をしている。


 それを見て、召喚の現場が初めてのウスルだけでなく、エリエゼルやレミーアも驚いたような表情を浮かべていた。


 全く表情が変わらなかったのはフルベルドだけである。


 二十歳前後に見えるハーピー達はゆっくりと眼を開け、テーブルに寝転がったままゆったりと辺りを見回した。


 そして、俺に目を向けて口を開く。


「……貴方が、私達のご主人様ですね?」


 長い金髪のハーピーが小さな声でそう口にした。俺は頷き、三人の服を出す。


「とりあえず、服を着なさい」


 俺はそう言って、スポーツタイプの下着類に、上半身と腰や太腿の部分を隠せる簡易的な黒い鎧を出した。


「おや、鎧とは珍しいですな」


 フルベルドにそう言われ、俺は浅く顎を引く。


「普通の服装やメイド服はどうかと思ってな。飛ぶのに問題がありそうなら変えれば良いさ」


 俺がそう言うと、先程のハーピーが俺に微笑みかけて頭を下げた。


 胸が、揺れた。


「ありがとうございます。服を着させていただきます」


「おっぱ……いや、うん。どうぞどうぞ」


 俺はハーピー達に向けて、極めて冷静な顔を浮かべて頷き、返事をする。


 三人がウスルの後ろで着替える様子を見守っていると、エリエゼルが咳払いを一つして俺を見た。


「……どうやら、かなり高度な知能を有するハーピーを召喚出来たようですね。流石はご主人様です」


 エリエゼルがそんな感想を言っている間に、ハーピー達は素早く服を着込んでしまった。


 まぁ、鎧を含めてもそれなりに露出はあるが。


 皆の視線を受けて、ハーピー達は俺に向き直る。


「改めまして、自己紹介をさせて頂きます。私は長女のアエローと申します」


 金髪のハーピーがそう言って会釈した。


 すると、今度は肩ほどの長さの黒髪のハーピーが口を開く。


「私は次女のケライノーと申します。宜しくお願いします」


 ケライノーが頭を下げると、最後の一人も頭を下げる。


「オーキュペテーです! 三女です! 宜しくお願いします!」


 白い短めの髪のハーピーが元気良くそう名乗って笑みを浮かべた。


 三人全員が挨拶を終えたのを確認して、俺は口を開く。


「俺がアクメオウマ。そっちからエリエゼル、フルベルド、レミーア、ウスルだ。宜しくな」


 俺がそう言って全員の紹介をするとアエローが皆に向けて頭を下げた。


「皆様、これより私達も精一杯、ご主人様にお仕え致します。改めまして、宜しくお願い致します」


 アエローがそう言うと、他の二人も一斉に頭を下げる。


 その様子に、フルベルドが片方の眉を上げて唸った。


「……どうやら、人並み以上の知能をお持ちのようですが」


 フルベルドがそう言ってエリエゼルを見ると、エリエゼルは怪訝な顔付きでアエロー達を眺め、尋ねる。


「貴方達は、普通のハーピーとは違うのですか?」


 エリエゼルがそう尋ねると、ケライノーとオーキュペテーが顔を見合わせ、アエローがエリエゼルを見た。


「私達はタウマースとエレクトーラの娘であり、ハーピー族の始祖でもあります」


 アエローがそう答えると、エリエゼルは目を丸くしてアエロー達を見た。


「……名前が同じなだけかと思っていたら、まさか、本当に神話に名が残る本物の……?」


 ハーピー達の出自を聞き、エリエゼルは大変驚いていたようだが、俺には何がなんだかサッパリであった。


 まあ、新たな仲間が三人も加わったのだ。良いことである。



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