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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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血と鉄の蛇の結束

 ウスルの一言に、皆が無意識にフルーレティーへと視線を向けた。


 それを確認し、ウスルの視線もフルーレティーへと向かう。


「…お前か」


 ウスルに目を見てそう言われ、フルーレティーは顔を赤くして眉間に皺を寄せた。


「お、お前じゃないわよ! あなたこそ何処の誰!?」


 フルーレティーが怒鳴ると、ウスルは軽く頷く。


「…そうか。俺はウスルだ」


 ウスルはフルーレティーにそう答えると、顔を巡らせた。


 そして、ソファーに座る赤い髪の少女の姿を見つけた。


 ウスルにジッと見つめられ、少女は思わず首を竦めて固まる。


「…は、早いですよ、ウス…」


 その時、ウスルの背後から新たに地上へ出てくる人影があった。


 ぶつぶつと何か呟きながら地上へ這い出た人影は、ウスルの背中越しに血と鉄の蛇の面々を見て、時間が止まったように動きを止める。


 地上へ現れた人物、レミーアは目だけで周囲の確認をし、遠くの方にあるソファーを見て目を見開いた。


「…アルー? まさか、誘拐されたのはアルーだったの?」


 レミーアが口の中でだけ呟かれたその言葉に、すぐ傍に立つウスルが反応を示した。


「…知り合いか」


「あ、えっと…親戚といいますか…はっ!?」


 ウスルの質問に普通に答えてしまい、レミーアは慌ててウスルの背中に隠れた。


「…だ、誰? まだ誰かいるの?」


 フルーレティーが戸惑いつつそう口にすると、レミーアは素早く辺りを窺い、何かを見つけて倉庫の端、誰も居ない一角へと走った。


 ヴァンパイアとなっているレミーアのその異常な走る速度に、殆どの者は目で追うことも出来なかった。


「…お、おいおい、嘘だろ。あんな姉ちゃんが…なんだ、あの速度は」


 レミーアの走る姿を捉えることが出来たスレーニスは、その動きに目を見張ってそんな声を漏らした。


「ヤクシャ…今の…」


 フルーレティーがそう口にすると、ヤクシャと呼ばれた壮年の男は眉間に皺を寄せて首を左右に振る。


「…信じられない動きです。動きだけでは判断は難しいですが、スレーニスよりも強いかもしれません」


「…なんなのよ、いったい」


 二人のそんな会話を他所に、倉庫の端にしゃがみ込んだレミーアは皆に背中を向けたまま、ゴソゴソと何かをやっていた。


「…こ、これよ!」


 十秒ほどして、何か言いながらレミーアが倉庫の端でモサモサ動き、またウスルのほうへ帰ってきた。


 帰ってきたレミーアの顔には黒い布が巻かれている。


「…用事は済んだか?」


 ウスルは不思議そうに布でグルグル巻きになったレミーアの顔を見下ろしてそう尋ね、目の部分だけを露出させたレミーアは黙ったまま何度か頷いた。


「…私達は何を見せられてるの?」


「お嬢…もう終わったようですから」


 ウスルとレミーアの謎の会話に文句を言いたげなフルーレティーを見て、ヤクシャがなだめるようにそう言った。


 ウスルはレミーアから視線を外すと、フルーレティーの方に顔を向ける。


「…待たせたな」


「そうね」


 ウスルのセリフにフルーレティーが返事をすると、ウスルは深い息を吐いて、倉庫内の全ての者を順番に眺めた。


「…俺の下につく者は座れ。抵抗する者は前に出ろ」


 ウスルがそう呟くと、フルーレティーは鋭く目を細めてウスルを睨む。


「…馬鹿にし過ぎじゃないかしら。スレーニスに勝つ実力は評価してあげるけど、人の上に立つ器じゃないわね」


 フルーレティーがそう言って鼻で笑うと、ウスルは表情を変えずに頷いた。


「…そうだろうな」


 ウスルが素直にそう口にし、フルーレティー達は呆気にとられて何も言えずにいると、ウスルはマイペースに話を続ける。


「…それで、今立っている者は皆抵抗するということで良いのか?」


 ウスルがそう呟くと、フルーレティーが眉間に皺を寄せて口を開いた。


「元々従う気なんてあるわけないけど、抵抗という言葉を使う段階で従う気が失せるわ。なんで上からなのよ、貴方」


 フルーレティーがそう言って、自らの背に手を回し、細い刺突剣を取り出して構えた。


 すると、壁際で地べたに座っていたスレーニスも立ち上がり、床に寝かせて置いていた大剣を片手に構える。


「仕方がねぇな。ボスがやるってんなら俺もやろうか」


 スレーニスがそう言ってフルーレティーを見ると、フルーレティーは一瞬驚きに目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべて視線をスレーニスから外した。


「私が声を掛けただけはあるわね」


 フルーレティーが何処か嬉しそうにそう言うと、ヤクシャが舌打ちをして口を開く。


「次は勝って実力を示してみせろ」


「うるせぇよ、ジジイ」


 ヤクシャの一言を鼻で笑い、スレーニスは大剣を肩に乗せるように構えた。


 臨戦態勢に入った血と鉄の蛇の面々を眺め、ウスルは静かに顎を引いた。


「…力の差を数と士気で埋めるか。どこまで埋まったのか、楽しみだ」


 ウスルがそう呟くと、フルーレティーは歯軋りするように奥歯を嚙み鳴らした。


「言ってなさい… 皆、囲んで!」


 フルーレティーが怒鳴るようにそう指示を出すと、慣れた動きで男達は左右に広がった。


 ウスルとレミーアを円状に囲んだ男達を見て、レミーアが慌てた様子で周囲を見回す。


 正面には等間隔に距離を取ってヤクシャ達四人の男とスレーニスが並び、その五人のすぐ奥にはフルーレティーが立っていた。


「投げナイフ!」


 フルーレティーが一言叫ぶと、流れるように男達が手のひらサイズのナイフを片手に構え、ウスル達に向かって投擲する。


 ウスルとレミーアの下半身を狙うように下方に向けて投擲されたナイフを見て、レミーアは慌てて空中へ跳び上がった。


「上!」


 反射的か、予測していたのか。レミーアが空中に跳び上がってすぐにフルーレティーが声を上げた。


 すると、今度は十人ほどの男達が素早く空中にいるレミーアへとナイフを投げた。


「ひゃ!?」


 自らに向かって精確に飛来する投げナイフに、レミーアが悲鳴をあげる。


 それを見上げてウスルは無言で地を蹴った。


 レミーアの側まで飛び上がり、右腕を振る。


 殆どの者にはウスルの手が肩から消失したように映るほどの速度でナイフを弾き落とし、ウスルとレミーアは地面へと着地した。


「…飛び道具には、出来るだけ立ったまま対応しろ」


「…一個ならそうしますよ」


 ウスルが一言注意すると、レミーアは冷や汗を流しながらそう呟いた。


 二人の周囲の地面には、まるで二人を取り囲むような形でナイフが散乱していた。


「…な、何が起きた?」


 ウスルとレミーアを取り囲む誰かがそう口にすると、スレーニスが鼻を鳴らして口の端をあげる。


「全部のナイフを弾き落としやがったんだよ。しかも、手のひらじゃなく、腕と足を使って捌いたやつもあったはずだが…切れたのは服だけだ」


 スレーニスはそう言って、ウスルの方を顎でしゃくった。


「小手先のやり方じゃ、あいつは殺れないぞ」


 スレーニスがそう言うと、ヤクシャが一歩前に出る。


「ならば、肉を裂き、骨を断つのみ」


 ヤクシャがそう言うと、他の三人の男達もヤクシャと横並びに立った。


 それを見て、ウスルはレミーアに目を向ける。


「…下がって見ていろ」


 ウスルにそう言われ、レミーアは小刻みに頷きながらウスルから離れた。


 周囲を壁のように男達が囲む中、ウスルに向かって四人の男達が歩き出した。


 四人の男達はそれぞれ、手に短剣や曲剣などの剣を手にしている。


「素手でいいのか」


 後数歩で手が届く距離になり、ヤクシャがそう口にした。


「…構わん」


 ウスルがそう答えると、ヤクシャは眉を下げて地を蹴った。


「後悔するなよ!」


 叫ぶと同時に、ヤクシャが短剣をウスルの右肘目掛けて振る。


 時間差で、他の三人もウスルの手足を狙って剣を構えた。


 鋭く息を吐くと同時に閃く白い剣の軌跡。


 それを無表情に眺め、ウスルはヤクシャの振った剣の刃を片手で掴み折った。


 まるで小枝を折るように無造作に剣の刃をへし折ったウスルに、攻撃を仕掛けたヤクシャの方が絶句して固まる。


 その脇を抜けるように、他の三人の剣が同時にウスルを襲う。


 腕と脚を狙う白刃に対し、ウスルは一歩後ろに下がって回避した。


 一瞬で回避したウスルに男達は動揺した様子を見せたが、すぐに態勢を立て直して再度攻撃を仕掛けようと動いた。


 しかし、男達が攻撃に移る前に、ウスルが一番近くにいる男の腹を横から蹴り、二人の男を一撃で吹き飛ばす。


 残った一番奥の男がその光景に目を見開く中、ウスルはその男を殴り飛ばそうと手を振り上げた。


 すると、ウスルの目の前に大剣の刃が出現する。


 スレーニスが大剣を横向きに両手で持ち、ウスルの拳の向かう先を遮るように立ちはだかったのだ。


「リベンジマッチだ…っ」


 そして、ウスルに大剣の刃の腹の部分を殴られ、大剣を抱えた格好のまま吹き飛ばされていった。


 僅か十数秒の間に起きた出来事である。


「…な、な、な」


 フルーレティーはその光景に声にならない声を上げて愕然とし、仁王立ちするウスルを見た。


 武器を破壊されたヤクシャともう一人の男がフルーレティーの前に立ち塞がるが、無言で見つめてくるウスルを見て思わず後ずさる。


「…お嬢、逃げてください」


「ば、馬鹿なことを言わないで! 私が逃げて貴方達が死んだら、蛇はそれで終わりよ!」


「お嬢が逃げられるならば、この組織に意味があります! しかし、お嬢が逃げられないならば、この組織はどちらにせよもう終わりなのです!」


 ヤクシャがそう叫び、フルーレティーを説得した。


 だが、フルーレティーは刺突剣を構え、ウスルに刃先を向けて腰を落とした。


「私がボスよ。私がどうするか決めるわ! ヤクシャ達が逃げなさい!」


「なっ!? お嬢、それじゃあ意味が…」


 フルーレティーとヤクシャがそんなやり取りをする中、ウスルは壁際に座った男達を発見し、無防備にそちらへ向かった。


「…モーブはあるか?」


「へ?」


 突然そんなことを言われた頬に傷のある男は、ウスルを見上げて変な声で返事をしたのだった。



麻薬に対してのご指摘を多くいただきましたので、ここからモーブは、グレーゾーンのゴリゴリのタバコ、という設定に変更致します!

本当に申し訳ありませんでした!


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