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奈津子は居間の真ん中に座り込みぼんやりと宙を眺めていた。
復讐の一つが終わったというのに、心はまるで晴れなかった。
むしろ、そのことで自分自身が追いつめられている気がしていた。
気晴らしのためにテレビのスイッチをいれてみた。
テレビでは、若い女子アナウンサーが泉区のアパートに住む若者が刺殺されたという事件を伝えている。
わりと身近なところで起きた殺人事件。
しかし、何の興味もわかなかった。
目の前で報道されていることよりも、自分が犯した罪のことだけが思い出され虚しくなった。あの犯罪がどう報道されているのかはまるで知らない。そして、知りたいとも思わなかった。
その時、携帯電話の着信音が鳴り、奈津子はテレビを消して自分の部屋へと急いだ。
それは母からの電話だった。
少し迷ってから通話ボタンを押した。
実はこれまでも何度か母から携帯に電話があったのだが、奈津子はずっと無視し続けてきていた。母と話をすることで、決意が崩れそうで怖かったからだ。
母が自分のことを心配してくれていることはよくわかっている。
「急にどうしたの?」
心の動揺を無理に押し殺して奈津子は訊いた。
――別に……ただ、どうしてるかと思ってね。元気なの?
優しい母の百合子の声が胸に染みてくる。康平の葬儀以来会っていない。
「元気だよ」
――いったいいつ帰ってくるつもりなの?
「もうすぐだよ」
――あんた、やりのこしたことがあるって言ってたけど……どうなったの?
心配そうな声で百合子は訊いた。
「うん……心配しなくて大丈夫だよ」
――馬鹿な事だけは考えちゃだめだよ。
母は自分が何を考えているのか気づいているのかもしれない。
(でも、もう遅いよ)
すでに忠志を殺してしまった今、引き返すわけにはいかない。このままもう一人の女を見つけ出すまで帰れない。
「大丈夫……大丈夫だから」
胸に込み上げてくるものをぐっと抑えながら奈津子は答えると電話を切った。
(ごめんなさい……ごめんなさい)
ぎゅっと携帯電話を握り締め、奈津子は心のなかで詫びた。




