物理攻撃禁止魔法――
ついにコミー軍は、自身の航空威信艦を引っ張り出してきた。コミーデミュタント連邦が誇る空戦魔戦艦「デミトリ・ドントコイ」がついに登場したのだ。その艦は悠々とエセ大日本帝国の領空を侵犯し、レーダーを照射しながら帝国軍の地上戦力の排除を行なっている。
その侵攻速度は、遅い。
しかし近くにいるもの全てを巻き込んで殲滅するその姿は、まるで赤いサイクロンのようである。
連邦の大統領であるその男が乗り込んでいる戦艦に対して、帝国はむろん何もしなかったわけではない。
だが、手をこまねいていることは確かであった。
AK48式近距地対空誘導弾、近SAMスティンガーは高まるコミー軍の脅威に備えてエセ北海道に配備された地対空ミサイルの一種である。帝国は敵航空威信艦に対してそれを向かわせた。
そして帝国軍は警告に対して一切の反応を返さない空中艦船へ、その誘導弾を発射し、確かに全段命中した。
いくら大国の航空威信艦とはいえ、所詮は船である。沈没させてしまえば後は山の藻屑となるのみだ。身動きのとれなくなった丘の黒船では蟻の餌食になるだけなのだ。
しかし、空戦魔戦艦「デミトリ・ドントコイ」はまったくの無傷であった。
なぜなら、その空戦魔戦艦「デミトリ・ドントコイ」には物理攻撃無効の魔法が掛けられていたのである。
コミー軍の大統領は星燐の亡霊であり、強大な魔力によってそれを実現しているのだ。
しかし帝国軍はそれに気づかず攻撃を継続してしまう。
『ただ真っすぐに飛べばよい』をコンセプトとした狂気のヒドラジン燃料エンジンを搭載し、錬金術で作られたダイヤモンドのくちばし状衝角をレドームに装着させた、無人機である突撃型航空機、バードストライク4機は、最大加速を保ったまま空戦魔戦艦「デミトリ・ドントコイ」に回天がごとく突撃戦闘を図った。
だが敵の物理攻撃無効は有効であるため、派手に大きな爆砕がおきるだけで損傷を与えるにはいたらない。きらきらとダイヤモンドの輝きと一緒にバードストライクは亡き者として散ってバラバラに逝った。それは宝石の輝きが散るがごとくである。その映像を見た帝国国民は一時期パニックに陥るほどであった。
「空戦魔戦艦「デミトリ・ドントコイ」から高熱源反応!」
帝国兵の一人が叫ぶ。
情報担当だろう。手には大きなタブレットを抱えていた。
「な、なんなんだあれは――」
それを聞いて将校の一人が目を見張った。
そして、彼は世界の終わりを見た。
地平線に届とばかり、地平一面にウィンドウシステムによる桃色の▼マークが広がっていく。
それはイベントによる魔法の行使に他ならない。
システム「闇炎系最終奥義、熱核爆裂弾が詠唱されています」
システム「この魔術は空対地地域破壊系強制イベント扱いです」
システム「すみやかに対抗手段を講じてください」
ウィンドウシステムにそんなメッセージが流れていく。そのメッセージを帝国軍はなすすべもなく見守るしかない。攻撃が全て効かないのだ。
「ばかなっ! この地域にはコミー軍もいるのだぞ! 自国の兵すらまとめて薙ぎ払うつもりなのか――」
システム「繰り返します。闇炎系最終奥義、熱核爆裂弾が承認されています。」
システム「速やかに退避してください」
システム「この地域の生きとし生けるものすべてが死滅します。」
そしてそのまま止められることなく詠唱は進んでいった。
『絶対魔法防御』の神聖魔法でもあれば身を守ることができるだろうが、そのようなものは《神聖魔法》Lv.5が必要であるし、そもそも個人用だ。
物理攻撃が有効出ない以上どうすれば良いというのだろうか。
魔法による攻撃がダメージリソースの多くを割いていた古代時代でどうとでもなる防御方法だが、いまは現代とほぼ遜色のない物理が支配する世界だ。攻撃魔法を使えるものなど、いないのだ――
システム「5秒前:イベントアニメーションが発動します。」
システム「4秒前:イベントアニメーションが発動します。」
システム「3秒前:イベントアニメーションが発動します。」
「た、退避―」
将校の一人が叫んだが全てが遅い――
システム「2秒前:イベントアニメーションが発動します。」
システム「1秒前:イベントアニメーションが発動します。」
システム『イベントが発動します。DESTROY!』
強烈な光が、エセ北海道の一部を支配する。
その音を聞ける耳はもう周囲には存在しない――
………………………
………………
……
エセ北海道の帝国軍が半壊したことの報は、映像としてエセ大日本帝国各地に一気に広がった。
こちらから攻撃できないように物理攻撃無効化を実施したうえでの核系術式の使用である。驚愕せざるを得ない。
物理攻撃無効化は、物理攻撃が一切無効になるがその代わり魔法攻撃によるダメージがx4倍にもなるという、かつては極めて使えない類の魔法であった。そう、100年ほど前のかつてであれば。
だが科学技術が浸透蔓延し、今では魔法系の研究は全て量子工学として技術士内の1部門に統合されてしまうほどの勢力しかない。発展具合も酔狂な異世界転生者が数人、間違って取るくらの程度である。そんな帝国軍にとって物理攻撃無効化の脅威はあまりにも絶大であった。
エセ北海道にはむろん、進駐したコミー軍もいた。
しかしコミー軍もまとめて帝国軍は焼き払われたのであった。
そんな人をヒトとも思わぬ所業も帝国軍に衝撃を与えた。それはまるで、数日のうちに首都エドを攻略できなかったそこにいるコミーデミュタント連邦軍は反逆者であるとして、義務である幸福を実現できなかった彼らを天に滅することにより不幸な状態を強制的に亡くそうとするがごとくの所業であった。
「ワシのせいじゃ……。元はと言えばワシがEXPアッパーなど配らなければこんなことにはならんかったのじゃ……」
アリスはタブレットの映像を見ながら膝から崩れるように倒れこんでしまう。
渋谷カオルと運営A、魔王ラララを含めスノー邸には役員会議として全員が集結していた。今後の方針を決めるためだ。
コミーデミュタント連邦が誇る空戦魔戦艦「デミトリ・ドントコイ」はゆっくりとした速度でエセ北海道の上空を飛んでいる。戦艦はときおり、熱核爆裂弾と呼ばれる魔術を発砲し、大地を焦土と化しながら進んでいるからだ。次の戦略拠点であるブルーフォレストでも後1日は掛かるだろう。
すぐさま首都であるエドを強襲しないのは威嚇のためだろうか? それとも死体から魔力の源泉であるMPを確保でもしようとしているのか?
「今後の方針とはいえ……」
口火を切ったのは魔王ラララであった。
その中身は非情なものである。
「撤退する一択なのでは? アリスのところのダンジョンのワープポイントを我が国に設定切り替えすれば少なくともキミらの安全は確保しよう。要は――亡命だな」
「そんな……」
スノーが絶句する中、渋谷カオルは不服そうな声色で反論する。
「ではゴーストラリア魔王国は、エセ大日本帝国を助けないと?」
「武器の供出くらいはできるだろう。――が、必要かね? 文明国家のエセ大日本帝国にこちらの剣とか槍とかの伝統的な武器が。全面支援となるとあのコミーなやつら、こちらの国まで戦争を仕掛けてくるだろう? そうなれば核の打ち合いだ。全面戦争だ。うちの国まで核の焦土にされては敵わん」
「甘んじてコミーデミュタント連邦の支配を受けろと? それが終われば次は貴国では?」
「もちろんこちらに来たら反撃する。だが、そうならないかもしれない。どちらにせよそのとき帝国は余波で焦土になっているのは変わらん」
「全面戦争はちょっとなぁ……」村人Bは不安げだ。
「あやつらは今代の魔王を大統領に要しておる。我が国は魔王――つまり私が首相の国だ。もしかしたら何もしてこないかもしれないぞ。来たら全面戦争にしかならんが、それでも全面戦争が始まるまでの期間、かの国を疲弊させる程度はできるだろう。エセ大日本帝国がな」
「はて、今代の魔王じゃと? どういうことじゃ?」
アリスは話についていけてなかった。
「この前、この国で《勇者》スキルを取ったヤツが死んだだろう? あのマスコミ放送は私も見た。魔王を確実に倒せる稀有な存在である《勇者》の暗殺だ。あれのマスコミの扱いは非常に小さかったが、魔人関係者にとってはアレ、めちゃくちゃに重要だからな。なぜなら魔王が新たに存在し、そして勇者がいなくなったことで魔王は無敵の人となったのだから。もしも帝国から我が国に対して支援を求められてもこう言うだろうね。『魔王を倒せる勇者をむざむざ殺されておいて、お前らは何を言っているのだね』と――」
「では、コミーデミュタント連邦にその魔王がいると?」
「あぁ。連邦の領事館に問い合わせたところ誇らしげに答えてくれたよ。我が大統領こそが今代の、6番目に生まれた魔王であるとな――」
「そんな――。それじゃ、みんな死ぬしかないじゃない!」
スノーは状況がかなり悪いことに青ざめた。
もしもコミーデミュタント連邦が保有する空戦魔戦艦「デミトリ・ドントコイ」を守る物理攻撃無効化を突破できたとしても、その先にいる魔王を倒すことができないのであれば、彼らを止めることはできない。そしてその止めることができる勇者はもう――
「ならば――。ワシに良い考えがある。ラララにも手伝ってもらうぞ。この国の政府と掛け合うのだ!」
「分かった。アリスの言うことなど、どうせ碌でもないことだろうが付き合おう。この終わった物語の行く末に私も興味がある。旧代の魔王としてな――」
「そして村人B、お前じゃ! お前にもやってもらいたいことがある」
「へ?」
その日、ヒトビトの注目を集める中、帝国軍が誇る航空威信艦、空中軽装駆逐艦「矛盾」は、コミー軍の暴挙を止めるため発進するのであった。空へと――




