そして勇者は颯爽と消えていった――
佐藤湊が出ていった異世界転生学園の男子寮は炎上していた。
それはもう派手に、真っ赤に炎上している。
寮の一室の玄関扉に仕掛けられていたおよそ800kgのプラスチック爆弾は、トラップの扉を開けたニンゲンごと全てを巻き込み周囲を粉砕した。
炸裂した爆発の威力はすさまじい。地面にはクレータのようなものが出来上がっている。周囲の街路樹は吹き飛ばされて粉々になっていた。
そんな場所にベテラン刑事はいた。
秘密結社セヤロカーの関係事件ならこのヒトと半ば強制されたのだ。
しかしベテラン刑事はその惨状を見ながらその悲惨な現場に立ち尽くすしかない。
「普通800g程度でも対人であれば十分殺傷可能だというのに、その約1000倍である800kgの威力ですか。恐るべき破壊力ですね」
新人がベテラン刑事に声を掛ける。
ベテラン刑事はアイテムボックスが普及すればこの手のテロの威力の増大化も簡単になるわけだと理解せずにはいられなかった。
800kgなど通常絶対に持ち運びができない容量だが、アイテムボックスはそれを可能にする。
「被疑者は?」
「この部屋の住民だそうです」
異世界転生学園の男子寮に住んでいた住民であれば男子学生だろう。
スノー・サウスフィールド女史が連れ込んだ少年と同じ寮だが、間違えてその少年を狙ったのだろうか? その少年を監視していたSPは少年がスノーの自宅に引っ越したタイミングで引いており、犯人はほぼフリーで行動できたようだ。
あとは監視カメラ等で犯人の映像を捕らえられたかどうかだが、少なくともアイテムボックスを有するような犯人がそのような愚を冒しそうにはなく、期待は薄い。800kgの爆弾とはいえ、アイテムボックスに入れられているのであれば、たとえ犯人がカメラに映っていたとしても映像の見た目からでは分からないのである。
「どうもあの少年が目的とは違うようですね。マスコミ各社は、この被疑者のことを《勇者》スキルを100年ぶりに取得した少年、として報道しているようです」
新人はスマホを片手にマスコミの報道を眺めている。
これだけの大爆発である。報道規制をするには規模が大きすぎた。
映像では被疑者が撮影したらしいウィンドウシステムの画面の動画があり、そのスキル欄には確かに《勇者》の虹スキルを見ることができる。
「しかし、どうやってその学生がジュエルを集めることが出来たのでしょうか? 私にはそれが不思議で……」
現状、レベルを手っ取り早くあげる手段はEXPアッパーしかない。
「情弱であればいくらでもジュエルなど売るだろう? EXPアッパーのことがあまり公になっていなかった時は特にだ。競争相手も少なかろう」
「確かに都心の浮浪者相手にそんな貧困ビジネスで巻き上げる連中がいると聞きましたが、それを先取りしたわけですか――」
その結果がこれだ。
「でだ! 経験点をレベル3分まで貯めて、取れる選択肢に《勇者》なんて項目があったら、そりゃとるだろう。この学生寮に住んでいたとすると、異世界転生者で自己顕示欲の強い若者なんだろう? そんなニンゲンが次にやりたい事と言えば?」
「市民の注目を得る。マスコミに情報公開して――ですか。それでマスコミはそんな映像を持っていたのですね。我々警察に話せば良いのに」
「警察は国家権力だからなぁ。《勇者》などと知られると何されるか分かったものではない、などと思ったのではないか? 例えばキミなら《勇者》がいると知ってどうする」
「保護します」
「私もだよ。すると彼は思うわけだ。国家に知られれば生活がどうなるか分からんと。そこでマスコミに連絡して容易に『保護』されないようにしたのかもしれない。あくまで推測だが――」
「でもマスコミは"いろんな"組織や市民団体と繋がっていて――。これ、犯人を調査するの、ものすごく面倒くさくないですか?」
「同感だ。あの本社爆破と違い、さすがにノーマークだったら、どうにもならんだろう。それをなんとかするのが一応我々の仕事なんだが……」
「しかし、どうして《勇者》なんて見るからに地雷なスキルを取ったのですかね?」
「知らんよ。だが推測はできるだろう――あの少年のようにスノー女史のようなかわいらしい女性と付き合いたかったのだ。俺がこの被疑者だったら、きっと嫉妬していただろうからな」
改めて二人の刑事は爆心地となったその場所を見る。
ブルーシートで隠されたその場所、そこでは――
《勇者》スキルを取得した少年が黒焦げに粉砕されていた。明らかな即死である。
そして、現時点で蘇生回復のできるスキルの使い手が帝国にいるはずもない――




