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だがこの時、運営Aは致命的なことに気づいていなかった



 そのドラッグストアで、運営Aは途方にくれていた。


 浴室でいつも使うシャンプーとリンスがどこにも売っていないのである。

 ちょうど切らしてしまったのだ。ないものは買う必要があった。


 確かにドラッグストアの棚の上には「ヘアケア」という看板が下がっており、髪の毛関係はその辺りに売っているはずなのだ。だが見つからない。


 そう、「ヘアケア」で髪の毛関係ということは分かるのだが、この世界の一体誰が、「ヘアケア」という単語でシャンプーを売っている棚だと想像できるのだろか? だが、実際にはそこでシャンプーを売っていたのである。


 運営A的に「ヘアケア」などというと、『ケア』という単語から、仕事柄「ケアマネージャ」や「終末ケア」あたりのイメージを想像してしまい(終末ケアとは:ガンなどの末期症状患者さんのご臨終に向けて少しでも痛痒を取り除くための治療のことである)、「あぁ、これって東国〇先生とかが頭皮にフリカケる高価な発毛剤のことだよね」などと考えてしまったのが、その敗因であった。ヘアケアコーナーには育毛剤があり、てっきりシャンプーはその近くにあるものとばかり思っていたのだ。だからヘアケアと書かれた周辺を探し回ったのだが、ヘアケアのフロア自体にシャンプーを売っている場所だとは露ほども思っていない運営Aはとても無駄な時間を過ごすことになる。

 だいたい毒物であればその容器に赤地に白く「医薬用外」「毒物」の文字を書くのが当たり前であろう。法律で決まっているのだ(毒物劇物取締法第十二条)。シャンプーのような普段使いする薬剤となればその容器には、赤地に白く「シャンプー」の文字を書くのがあたりまえなのだ。これも法律で記載するように定義してしかるべきである。二酸化炭素のボンベの色は緑でないといけない、郵便ポストの色は赤色でないといけない、地球は青く美しくなければならない。世の中ってそんなものだろ?

 そもそもシャンプーならシャンプーと書けばよいのに、意識高い系なのか何なのか知らないが、英語でシャンプーと書いてあったり、小さな文字でせせこましく書いてあるのが悪いのだ。近くでみても文字がなければ視認などできないではないか。

 しかし現実には下手をするとプラスチックのリサイクルマークの方がシャンプーの識別よりも幅をきかせているしまつ。利用者の利便性をまるで考慮していない! これがおしゃれな意識高い系のやり口ということか!


 だいたいにして、その何かおしゃれなデザインとかも運営Aには気に入らない。男のシャンプーなんて、リンス入りタイプで、加齢臭とフケがごりごり取れさえすればそれで良いのである。別に女なんかいないのだから、女受けとかどうでもいいだろう? シャンプーの文字くらい、でかでかと128ptくらいの大きさでシャンプーと書けば良いのである。それが漢というものであろう。黙ってそれを選ぶ。そもそも論として、文字が小さい場合、どうやって浴室でシャンプーとリンスを区別するというのだろうか。お風呂に入っている間はコンタクトもメガネも装備できないというのに。うっかりコンタクトのまま風呂に入って、それが落ちたら悲惨だぞ?

 そもそもにおいて、リンスも気に入らない。あれ何種類あるというのだ。運営Aが知っているだけでも"リンス"、"コンディショナー"、"トリートメント"、"ヘアマスク"などなど、もう訳がわからん。統一しろ! 度量衡といっしょだ! 英国はいつまでヤードポンド法に拘っているのだ。そんなのだいたい一本で全てを解決できないものだろうか? 容器もシンプルにして――



「そう、そんなのは売れなさそうだよなぁ」

 そんなお徳用みたいなシャンプーが高い値段で売れるかどうかは知らんけど。



 とりあえず別売りでシャンプーとでっかく書かれたラベルとか売ってないのだろうか。調べた限りは意識高い系のおしゃれなヤツしかなかったぜ、ちくしょう。そういうのを求めるのはバリアフリー系のひとだからクソでか文字とか、点字とかつければいいのにこいつらときたら……。

 シャンプー購入後、キンコー〇で絶対クソでか文字のシャンプーのラベルを作成してやるとココロに誓う運営Aである。キンコー〇はいいぞキンコー〇。コピー・プリントから製本・パネル・ポスター印刷等を「1枚から」24時間サポート。お急ぎの名刺・宛名入り年賀状印刷はWEBからもご注文が可能です。主に名刺の作成と客先プレゼン資料印字に大活躍しております。


 結局どうにもシャンプーの場所が分からない運営Aは30分以上、ドラッグストアのヘアケアフロアの周りをうろうろし続け、ようやく店員に聞くという暴挙に出てしまった。


 え? なぜそんなもっと早くに聞かないかって? チャットと違い対面販売だぞ? コミュ障というのを舐めないでいただきたい。


 そしてその店員がメーカー系のおばちゃんだったのが頂けない。


 あれやこれやを洗いざらい話すことになってしまい、知らない間にわけの分からないものを運営Aが購入していたのはコミュ障なせいなのだろうか。それともこのおばちゃんが強者なためだろうか。なにこのゴキブリ取り機? 謎な形のマスク? いつのまに、こんなものを買ったのだろうか。



「そもそもドラッグストアでシャンプーを買おうというのが間違いなんだよな……」



 運営Aは商標権にやさしいネットショップ、KONOZAMAで購入すれば良かったなぁ、とつくづく後悔するのであった。

 そんな徳用の安いシャンプー1本をKONOZAMAで買ったりすると、運輸のおっさんもこんな少額のけちなもの運ばせやがってとお怒りになるかもしれないが、ネットでしか売っていないような、もう少しお高めのものを買えば面目も立つに違いない。


 運営Aは些細なことも気にする小心者であった。


 そして、運営Aにはチャットという素晴らしい文明の(りき)がある。なにしろスノーとキャロルというJKが2人もいるのだ。直接遭って話をするなど犯罪者として捕まってしまうが、チャットならなんとかなる。これがアリスとかであれば無理だろうが、美容系にいかにもつよつよそうな彼女たちに聞けばいい感じのものを教えてくれるに違いない。


 だがこの時、運営Aは致命的なことに気づいていなかった。















 今回おばちゃんの計略によって購入したシャンプーもろもろを使い切ったころには、そのようなことはすっかり頭から抜け落ちて忘れている、ということに――




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