ときは今 あめが下しる 五月かな
その日――、テレビ番組の一つ、とあるワイドショーでは興奮した様子でその本社始動の様子を伝えることになった。
――天才国家錬金術師、渋谷カオル――、その名声は留まるところを知らない。ゴーストラリア魔王国との関係もあると噂される彼女の総合レベルはなんと驚きのレベル12であります。レベル10越えのニンゲンとしては98歳で死去したベイ・ブレード氏に続くなんと43年ぶり、エセ大日本帝国としては実に64年ぶりとなる快挙となります。
――彼女は近年ではスライムプールの開発に尽力してきました。メインスキルに《錬金術》Lv.5。サブスキルに《ハメ業師》Lv.1を有し、その成果が、秘密結社セヤロカー(株)の登記――いきなり3億1円という大企業としての資格を有した企業として結実し、今日を向かえることとなりました。
その主な出資者はゴーストラリア政府であり、51%の株式を持っているとのことですが、我らサウスフィールド王家も絡んでいるとの情報も入ってきております。
それでは――時間が近づいて来ましたので現場と繋ぎましょう! 現場キャスターのキャス子さーん!
――はーぃ! 貴方のおねぇさん魔法使い! キャス子でーす! ここエセ霞が関という大胆な場所にある悪の秘密結社セヤロカー(株)本社前に開設された簡易報道センターでは、報道関係者でものすごい人だかりができております。
それはエセ大日本帝国だけではなく、灰殿魔王国、カクガンジー王国、ゴーストラリア魔王国のいわゆるクワッド4と呼ばれる国からの報道陣も詰めかけています。あそこにいるのはコミーデミュタント連邦の記者でしょうか?
あ、いま渋谷カオル氏がSPの方とともにでてきました。
どうやら、これから記者会見の方が始まるようです。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。私は弊社である秘密結社セヤロカー(株)の技術最高責任者取締役を務めさせていただいております渋谷カオルです。代表取締役であるスノー・サウスフィールド氏に代わり弊社の登記が終了し、ここに弊社が設立されたことを報告したいと思います。弊社は経験点の配賦によって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としております。経験点を製造するにあたっての技術につきましては配賦しましたプレス向け資料を参照していただければ幸いです。要するにスライムというモンスターをジュエル等によって安価に養殖し、低レベルであるが確実なリターンを得る、というビジネスプランであります。もちろん弊社の既存事業であるアイドルの配信業は今後とも進めておりますのでお忘れなく。さて、報道向けですからここで長々と技術論を説明するのも何でしょう。質疑応答の時間の方を長く取りたいと思いますがよろしいでしょうか? もちろん、技術系につきまして知りたいのであれば小職職務的にもお話はできますが――、弊社は企業秘密の技術が多くお話できない点もある、ということもあらかじめご了解願いたく――」
そういうと、記者たちからは次々と手が挙がった。
――経験点の生産能力はどのくらいでしょうか? また今後の増産予定は?
「直近の一カ月は調整期間です。生産自体は可能な状況で、試験的に本社でも少数の経験点は既に得られていますが、設備にOEMポンプを入れるなどの環境整備がまだ必要な状況です。その前にスライムの育成が急務ですが。年内の日産は経験点1000が当面の目標となるでしょう。ゆくゆくはさらに増産量を増やしたいところですが、こればかりは技術者を育成しないことにはなんとも……」
――技術者とは?
「代表的には高位の《錬金術》《神聖魔法》スキル保有者ですね。他に維持に必要なスキルが幾つかあります」
――スライム育成にはジュエルが必要とのことでしたが、具体的にはどの程度なのでしょうか?
「メインの要素としてはスライムプールと呼ばれるトラップのランニングコストですね。イニシャルとしてはプール等の設備や、ポンプなどの排水系設備となります。ジュエルの必要コストは保有スキルの如何によりますね。小職はメインが《錬金術》のため虹スキルとしてランニングコストの少ないスキルを取得することができず、やむを得ず白スキル《ハメ業師》によってランニングの問題を強引に解決しておりますが、本職の生産系スキル――たとえば《造園》スキル保有者であればもっとコストを抑えられるはずです。もしも《造園》をお持ちであれば募集しますよ? その他の要素としてはジュエル以外に、人件費の要素が大きいです。この辺りは運送業の車輛費、燃料費、人件費と同じような費用構造でしょう。対応するものはプール等設備費、設備調整費、人件費となります。違う所といえば車輛費であればファイナンスリースで変動費化できるところが、設備費は一気にジュエルを消費して構築する必要があるため固定費にしかならない、という点でしょうか。さすがにレンタルできませんからね。どちらにせよ、支配項目はスキル保有者の人件費です」
高位の《錬金術》《神聖魔法》スキル保有者ともなれば人件費が大きくなることは簡単に予想ができる。そして生産系スキルの保有者など現状、多くはいないだろう。その他の要素と渋谷カオル氏はいっているが、むしろそちらの方がボトルネックになっていることは記者として容易に理解できた。
次に別の記者を渋谷カオルは指名した。
――御社は現状ではジュエルを対象としたオークションでの販売をしておりますが、今後の配賦計画を教えていただけないでしょうか。
「今後ともジュエル確保のためオークションは多少残しますが、今後は価格推移を見ながら直接現金方式へと切り替えていく方針です」
――渋谷カオル氏。あなたは元警察所鑑定の研究員とのことですが、国民のため安価に経験点を配給しようという気はないのですか?
「わたくしどもも私企業ですので――、しかし量産化が進めばいずれは安価に提供できるかと思います。主要技術は公開しておりますし、特許は取得しておりませんので、いずれは他社での開発も可能になるでしょう。もちろん、技術開発競争となれば我々は受けて立ちます。ただ今は安価に提供しても転売されるだけだとも考えております。転売価格等の状況も見据え、価格の調整をしていく恰好になるかと考えております」
特許とは、特許法第2条で「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定義されているが、その中の「自然法則」とは自然界において経験的に見出される科学的な法則とされている。
だが、経験点とはおよそまともな科学的なものではないので、特許取得は実質的には不可能なのであった。しかし、そこまで長々と説明するのは無意味だ。記者に対しては特許を取得せず技術を解放しているパブリック企業だということを印象づけるため、渋谷カオルは「特許が取得できない」ではなく「特許を取得しない」と語るのであった。
そして技術を公開した、といっても最も重要な技術はスキルであり、絶対に簡単には真似出来ない、という自負も渋谷カオルにはあった。
次の質問者は海外の記者であった。
――現金販売に切り替えた場合、販売先はエセ大日本帝国に限定になりますでしょうか?
「我が国であるエセ大日本帝国の方が優先とはなりますが、出資者であるゴーストラリア魔王国の意向により、クアッド4の各国の方にも第二優先としてある程度は融通する方針です。割合としてはだいたい我が国が4、他が1くらいでしょうか。最も、ゴーストラリア魔王国は自国でどうにかするでしょうから必要とはしないでしょうが――」
さらに別の質問者が強引に割り込んでくる。
それは、コミーデミュタント連邦の記者であった。
――それは我らコミーデミュタント連邦には販売しないということか?
「オークション経由であれば今も販売しておりますよ。先ほども話をしましたが、今後もジュエル確保のためオークションは止めない方針です」
コミーデミュタント連邦は現在東欧の国と係争中であり、クアッド4からは経済制裁が敷かれている。基本的には売らないとするのも当然の処置であるといえよう。
次の質問者はバラエティ系の記者であった。
――ゴーストラリア魔王国と御社の関係はどのようなもので? また代表取締役はサウスフィールド王家というのはやはり関係性があるので?
「はい。ゴーストラリア魔王国はなんといっても出資率51%の大株主ですし、技術的にもいろいろな支援を受けています。詳細は秘密保持契約によって省略させていただきますが。運よく現王家の支援を受けられたのは――たまたまですね。代表取締役であるスノー・サウスフィールド氏から先に声を掛けたと聞いています」
――こちらの情報では、村人Bが関わっていると聞き及んでいますが?
ざわざわと記者会見場で声が広がる。
各記者たちの知らない独自情報だったらしい。
「それは――。耳が早いですね。そうです。広域指名手配"者"の村人Bは弊社の役員の一人です。既に政府から、上座空想坊主白虎絵巻を提供していただき、弊社の社長室に飾っておりますよ。例のキーワードで動き出す可能性がありますので公開はいたしませんが。また本人の希望により村人Bの顔出しもNGとさせていただきます。なお、ゴーストラリア魔王国の確認でも彼が村人Bであることは認知済みです」
村人Bが秘密結社セヤロカーにいたことを、渋谷カオルは「正当な理由」から警察に報告せざるを得なかったのだ。アレのために警察で月に200万円も飛んでいることを渋谷カオルは知っており、黙っているには余りにも心苦しかったのである。
村人Bからはそんなものはアイテムボックスに入れておけば0円で済むのにと笑われたが、アイテムボックスを当時有するのは警察でもエセ警察研究所にいる国家錬金術師が大半であり、彼らが保持するともなれば研究のためと白虎が解き放たれることは、渋谷カオルには相当な自信があった。エセ警察研究所所長の笑い顔が目に浮かんでくるようである。
その後は、秘密結社セヤロカーのその他の活動――例えばアリス・ガーゼットの配信だとか、案件の受付の話(某市の要請で交通安全PRをする動画を配信する等)だとか、新たなアイドル(2期生)の募集だとかいった話におよび、小一時間過ぎたころに記者会見は終わりになろうとしていた。その時だった――
ジリジシリジリ――
ドーン! ドーン! ドーン!
いきなり警報の音が鳴り響き、破裂音が3発、轟音とともに本社内を襲った。
騒然とする記者たち。
渋谷カオルも何事かとバックヤードに声を掛ける。
「すみません。記者会見は中止します! そしてさらに申し訳ありませんが、容疑が晴れるまで貴方たち全員を拘束します! どうやら弊社に対して破壊工作――テロが行われたようです!」




