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分からないことは聞くのが大人としてのあり方である



 渋谷カオルは、異世界人と土着民とのハーフであり28歳のキャリアウーマンだ。いまだ独身である。

 エセ科学警察研究所の附属鑑定所の研究員の一人であり、高校、大学、大学院と理系一筋のいわゆる理系女であった。

 基本、研究以外のことにはズボラであり、服を選ぶのがめんどくさいという理由だけで、常に複数の同じモデルの白衣を着まわすという、絵師にはとてもありがたい性格をしていた。


 その専攻は量子工学である。量子工学部門の技術士であった。


 この異世界における大きな特異であるウィンドウシステムは、誰もが『ステータス』と叫ぶだけで表示され、いろいろなことをすることができる優れモノである。そのシステムを解析するのが量子工学といわれる分野だ。異世界から持ち込まれた技術士という制度の専門分野は21部門あるが、それに追加された唯一の異世界独自の専門分野なのであった。要するに《錬金》《神聖魔法》《炎闇魔法(ミドルセカンド)》など、ファンタジーっぽいものが全てここに含まれるのである。

 しかし、その量子工学分野は、ウィンドウシステムに代表されるように科学的にはほとんど解明できておらず、多くが謎に包まれていた。そのため応用分野はそれなりに活発であるが、基礎部分の学会はかなり寂れていた。IEICEなどとは遠く及ばないのである。しかしウィンドウシステムに《アプリ》という機能が追加されてから、にわかに注目を集め始めた分野でもある。


 正確にいうのであれば《プレイ》と書かれたアイコンの中に複数の《アプリ》が存在し、インストールすることで様々な機能を追加することができるのである。

 始めはなんと画期的なものだと思っていたカオルだが、異世界人の父にいわせると当たり前にあるはずのものらしい。父が何のためらいもなく使いこなしているのが不思議であった。

 その《アプリ》は始めは掲示板のような単純な仕掛けのものであったが、それがチャットに進化し、SNSができ、動画サイトや、オークションサイトなどが次々と出来上がっている。それは切なくも懐かしい異世界人の故郷のネット世界の踏襲であるそうだ。

 実際、彼らが使うエセインターネットの上でも同じようなソフトが動いているのだから、そういうものなのだろう。



 問題なのは、その《アプリ》上で経験点まで配賦されるようになったことだ。



 その販売元の名称は秘密結社セヤロカーといい、オークションサイトで経験点をジュエルと交換するというサービスを始めたのである。住所は不定だ。公開されていないのである。お金で売買しているわけではないので資金決済に関する法律には当たらないという主張なのだろう。ウィンドウシステム上のジュエルが電子マネーだ、という解釈をすれば抵触する可能性もあるだろうが、解釈としては難しいものがある。


 渋谷カオルが推測するに、EXPアッパーについてはおそらくは海外の一企業か一個人がたゆまぬ企業努力で開発し、ブレークスルーを経て経験点を供給するシステムを完成させ、ようやく販売するに至ったように見える。それはコロナに関連してmRNAワクチンを開発した某企業のようにだ。


 その海外とは――、ずばりゴーストラリア魔王国だろう。


 彼の国が、なぜにこのエセ大日本帝国をターゲットにした販売をしているのか、ジュエルを対価にするのかその理由は分からない。しかし経験点をバラまくこと自体は――良いことのはずだ。本来は。

 多くの問題を発生させかねないそれは、遺憾なことに警察にとってハタ迷惑この上ないことではあるが、下手に規制など言い出して提供先が他国に代わってしまえば国益的に大問題となる。そうなった場合だれが責任を持つのか? だからこそ政府や警察関係者ではだれにも止められない。


 ――と、ここまで考えて、渋谷カオルはひらめいた。


(もしかして、このアリスという人物はエセ大日本帝国に好意的?)


 少なくとも知り合いがいるとか、特に嫌うような要素はないのだろう。

 聖サウスフィールド女学院にEXPアッパーを秘密裏に試供していることからもそれは伺える。


 アリスはゴーストラリア魔王国の魔人の一人であり錬金術師。企業や国家は関係なく、快楽と衝動で、たまたまチャットで行きずり的に知り合ったニンゲンにEXPアッパーを配っている――

 そんな人物像(ペルソナ)が渋谷カオルの頭には浮かんでいた。まるで某警察鑑定所の所長のようなマッド・サイエンティストぶりだ。錬金術師が極まるとみんなああなるとは考えたくなかったが。



 ならば、こちらも理系特有のノリで直接聞くとかはどうだろうか?



 相手が企業でもない限り、技術屋であれば聞けばヒントくらい匂わせてくれるかもしれない。

 そしてあの動画のぐだぐださを見れば相手が国や企業であることは限りなく低そうだ。もしも国や企業であればこのような画期的な事業、自身の国名や企業名で推すだろう。


『わたくし、エセ大日本帝国、国家錬金術師のカオルといいます。


 実は、アリスさまの配賦されているEXPアッパーを見て感銘を受けまして、わたくしどもでもEXPアッパーの製造に成功はしたのですが、どうにも経験点効率が悪くて販売できるような効率を出すことができません。


 その手法をご教示していただくことはできませんでしょうか?』


 こんな身も蓋もないDMを渋谷カオルは送ってみることにした。

 完全なる直球である。豪速球だ。


 もちろん期待はできない。


 何しろ経験点を配賦できるのはこの秘密結社だけなのだ。

 なぜにわざわざ金のなる木を手放したりするだろうか。


 しかし、匂わす程度であれば話す可能性はある。と渋谷カオルは見ていた。

 なぜなら、一人のリーディングだけでその製品を製造できる状態であると、あまりにもヘイトを買いすぎるからである。需要に対して供給が少なすぎるのだ。下手をすると『殺してでも奪い取る』状況になりかねない。ここでの「殺してでも」にはM&Aなどの買収、独占禁止法のような行政圧力、マスコミ経由のネガティブキャンペーンなどなど、その一切合切を含んでいる。

 しかし、効率が悪くても経験点を配賦するチャレンジャーやフォロワーがいるのであればそのヘイトは薄まるし、優位性も減ることは低い。そして喜ばしいことに供給が増えれば市場規模が膨らむのである。


『次週そのネタで配信するか見ているのじゃ!』


 そんなDMの返信が数分後に返ってきたとき、渋谷カオルは思わずガッツボーズをした。











 来週は――、とんでもないことになりそうだ――




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