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末路オブ転売ヤー



 ステファニー・コレックは、産業大臣を父に持つ聖サウスフィールド女学院の2年生であった。産業大臣であるところからわかる通り父は政治家だ。そして、聖サウスフィールド女学院に娘を通わせているとことからわかる通り父は貴族である。要するに貴族院の議員であった。

 その父の権力を背景にステファニーは子供の頃から好き放題な毎日を億っており、その取り巻きもかなりの人数に登る。


 しかし、そのステファニーはいま、まさにその多い取り巻きの少女たちからの突き上げを食らっていた。

 上級生の先輩から「皆さんへ」と一括で渡されたアイテム――EXPアッパー、それが原因だ。


 先輩からは「秘密裏に」、という話であったが、その胡散臭い名称から、まず詐欺を疑い、父に相談し、そのアイテムを警察へとほぼ捨て値同然で売り渡してしまった。


 それが本当に詐欺案件であれば、それは笑い話で終わりなのだが。

 そうではないのでこの突き上げである。


 誰だって経験点は欲しい。

 レベル3になって《神聖魔法》スキルが使いたい――当たり前である。普通の令嬢であればスキルを1つ取得してエリートコースに進むのは憧れそのものなのだ。

 だからこそ、それに付けこんだ詐欺だと思ったのだ。なんの思想の強制も、金銭の授受も発生しなかったが。言われたのは秘密厳守だけ。


 そんな経験点を得る機会をフイにされたら怒るに決まっている。

 反逆にも等しい彼女たちの言い分も分かる。


 だが、渡した先輩も悪いのだ。


 あんな――平民出身の、異世界転生者の配偶者になって成りあがっただけの生徒が、まさか本物を掴んでいるなんて思わないだろう。


 ああいった生徒は常に偽物を掴むのが正しい姿なのではないだろうか。そして笑ってやるのだ。

 その後、渡した警察からは買い取った押収物を返すことはないと言われてしまい、今はステファニーの父が警察の上層部とやりあっている最中である。時間が掛かりそうだ。


(もしかしたら――警察が実験と称して既に使ってしまったのかもしれない)


 そうでなければここまで揉める理由などないだろう。それならば父がいくら圧力を掛けても返ってこない理由に説明が付いてしまう。ステファニーは警察の失態に歯がみする。


(ならば――、もっとそのアイテムを出させれば良いのよね。あの平民に――)


 そうしてステファニーは平民の先輩にさらなるアイテムの供出を要求した。


 しかし、その答えはNoであった。


 既にアイテムは持っておらず全て消費してしまったそうだ。

 周囲に配り回っているのだからなくなるのも早いのだろう。



(それなら、その平民に渡した人から、アイテムを出させれば良いよね)



 その先輩は「秘密だから」と胴元を頑として喋ることはなかった。

 権力を背景に脅迫したのにも関わらず、彼女は泣きじゃくりながらも答えることはない。


 だが、供給元はすぐに割れた。どうやら、その先輩はその胴元に泣きついたらしい。

 それが――、キャロル・ルイーズ先輩であった。立派なツインテールで有名な名物先輩であった。


 EXPアッパーの提供経路は秘密保持のためか3段階、4段階と階層構造になっていたのだが、キャロル本人がステファニーの所業を聞きつけてのこのことやって来たのである。


 キャロルも平民だが、しかしキャロルはこの学校で唯一、王家に籍を有するスノー・サウスフィールドと友人関係にある。


(もしやスノーさまがこの件の黒幕なのか――、いや、まさか王族がこんな事件に――)


 さすがに王族に対して無理難題を言えば権威が崩壊することは目に見えている。無理やり意識をキャロルに合わせ、キャロルさえ攻略すればなんとかなるだろうとステファニーは高を括ることにした。

 そのキャロルは、なぜか最初から喧嘩腰であった。


「貴女ね! せっかくアリスさんがご厚意でこっそり試供してくれたアイテムを、あまつさえ転売するだなんて! それにさらに試供しろって? そんなのできるわけないでしょう?」


 その場所は女学院のクラスの一室であり、放課後で多くの生徒がまだ残っているにも関わらず、である。


 その言葉にムッとする。

 平民ごときがなんというクチの聞き方なのだろうか。


「ちょっと。なんて態度なの?」


「名目的にはこの高校では身分とか関係ないはずよ。いまどき身分なんて……」


「なっ」


 確かに名目上はそうであるが、実際には違うことは良くあることだ。

 そうではないということは、その人に相当なチカラがあるということだ。身分を覆すことは容易ではない。例えばそう――EXPアッパーを配った親元の張本人で、相当に周囲から敬われているとかなければの話だ。


「もっとEXPアッパーが欲しいんですってね。なら供給元のアリスさんのところのアドレスを教えてあげるわ。でも良く聞いて。アリスさんはもうカンカンよ! せっかく秘密にしてきたことが台無しになって転売ヤー、〇すべしとか叫んでいたんだから。取り付く島もない」


「転売って、そんなつもりじゃ……」


「それでどこに売ったの? 経験点と引き換えに、そんなにも遊ぶ金が欲しかったの?」


「だって始めは詐欺だと思って警察に――」


「サツですって! 最悪じゃない! だからアリスさんは公開に踏み切ったのね――」


「公開? あれを公開したというの?」


「えぇ。だからEXPアッパーは秘密での試供をヤメて、オークションに掛けるようになったの。あぁ、今は一体、経験点1点はお幾らになるのかしら――」


 ステファニーは血の気が引いた。顔が青ざめる。

 そのアイテムは、スキルを持たない全国民に需要があるだろう。


 そしてみんなそれを求めれば。

 その価値はわざわざミクロ経済学を引っ張り出して考えるまでもない。

 まさにうなぎ登りであろう。


「ちなみに、このまま『ゆっくり試供』が続けば、今度は教師に――、親御さんに――と、どんどん広げていく計画だったのよ。本来だったら。貴女のような秘密を守らない転売ヤーさえいなければね!」


「そんな……」


 実際アリスとしては学生だけで配賦をやめる予定で、そんな風に広げる計画は最初からない。

 しかし計画を知るものは誰もいないのであるから、キャロルの言ったもの勝ちとなる。

 そして、教室にまだ残っている生徒は多く、彼女たちはその対象にキャロルが言ったことを話すだろう。秘密として。

 それを聞いたその対象――教師や親はステファニーのことをどう思うだろうか? そして、どういう行動に出るだろうか?









 その行動をステファニーが知るのは、まもなくのことである。



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