湊の自室で――♡ ★
タイトル行の横に★がときどきあるのは、初見の方に「あれ? この小説ってばもしかしてエッチなシーンがある?」と思わせるためのギミックです。
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湊の自室はキッチン一つ、居間が一つ、トイレとバスルーム兼洗濯機が置ける部屋が一つという、男の一人暮らし用の家としては比較的大きなものであった。さすがに異世界転生ものである。先人の異世界転生者はうまくやったようで、学生に対する保障給付はそれなりのものであったのだ。
そして都合の良いことに異世界転生ものであるからして、両親は異世界にはいない。
この手の恋愛小説であれば、親は海外に行っていないとか、既に他界しているとかが定番であるが、異世界転生ものであれば両親問題は転生前の日本に置き去りになるので全て解決する。なお、この小説のカテゴリーは王道ハイファンタジーものです。
むろん、異世界転生者ではない地元の女性であるスノー・サウスフィールドやキャロル・ルイーズには両親がいる。家庭の事情によりスノーの方は母子家庭であったが。
そんな男の所帯である湊の家なのだが、なぜか今日は三人もの女性がそこにいた。
主要なメンバーは――
・黒のワンピースのスノー・サウスフィールド、および、ピンクのフリフリドレスを着こんだアリス・ガーゼットの『気合の入った恰好組』
・怪しげでださ目なハンチング帽に金髪縦ロールドリルのキャロル・ルイーズ、および、家の主である佐藤湊の『ラフな恰好組』
――に別れ、片方はなぜか正座させられていた。
むろん正座させられていたのは、キャロルと湊である。
その前で腕を組み、仁王立ちしているのはアリスだ。
「さぁ、むらび――おっと、アカウントをバラすのはまずかったのじゃ! えーっとそこの青年! 名前はなんじゃったかのぉ」先陣を切ったのはアリスだ。
「アリスさん。湊さんです」スノーが小声で補足する。
「そうじゃ。そうじゃ。湊じゃ。湊よ! お主、申し開きはないかね? 判決――ギルディ! スライムの刑じゃ!」
「ひっ。アリスさま! 一体、何の罪状でぇぇ」湊も結構ノリノリだった。
「お主! スノーというものがありながら、別の女に手を出すとか、間男か? 間男じゃろう? 間男でしかありえないのじゃ!」
「違う! この女が勝手についてきたのだ!」
「間男がいうセリフとしては最悪なのじゃ!」
「アリスさん! そもそも、わたくしと湊さんはそんな関係じゃありませんわ!」
「ぐは……。僕はそんな関係になりたかった――」
「わ、わたくしも、こんな虫野郎と関係なんてあるはずありませんわ!」それにキャロルが参戦してくる。
「キミとは別に良いけども」
「むきー! スノーおねぇさまとわたくしのその差はなんなんですの?」
「スノーさんは特別な女性だが、お前はただの女だ!」
「潔い! だが間男がいうセリフとしては最悪じゃ!」
「だから! 間男じゃないって! 一度はヤってみたいけど!」
ノリで湊は喋っているが、間男でNTRプレイをやりたいならスノーがだれかと先に付き合う必要があるのに気づいているのだろうか?
「うむ。湊や! そしてだれか知らんそこな間女! 二人とも反省が足りないようじゃな! この岩でも抱いておるが良いのじゃ」
アリスは自身のアイテムボックスから「いわ」と書かれたバールのようなものを取り出すと、正座している湊とキャロルの足の上に置いた。
「ぐぉぉ、無駄に重い……」湊は悶絶する。
それは錬金術で作られた謹製の金属で異様な重さがあった。
だが、その行為はキャロルから見て別の意味に見えたようだ。
「まさか!? まさかそれはアイテムボックスでは! レベル1から使用可能な、4つ以上の次元を操作してなんでもしまっちゃうことができるアイテムボックス! ――もしかして貴方は! 高レベル者なのではぁぁ」
「うむ。よくぞ聞いてくれた! ワシは世界最強錬金術師! 青い稲妻の魔人! アリス・ガーゼットなのじゃ! 畏れ敬うが良い!」
「いや知らないのですが……」
「では、秘密結社セヤロカーの総帥ではどうじゃ?」
「それも、正直……」
「くっくっく。では秘密を知られてしまったからには仕方がない。キミには逃げられぬよう、被検体#1096となってもらおうではないか、なのじゃ!」
「ま、まさかアリスさんのマッド・サイエンティスト行動が来たー」
すかさず、アリスは手をひらひらと動かした。
おそらくウィンドウシステム上の何かを起動しているのであろう。
しばらくすると、スノーとキャロルのウィンドウシステムから、ピーン。
というアラートメッセージが聞こえた。
彼女たちがそれぞれ自身のウィンドウシステムを立ち上げると、「プレゼント」マークのアイコンの右上に赤い丸の地色に白い文字で10と数字が記述されているのを確認できた。
「これは一体……」
「ふふふ。この前話していたであろう。『EXPアッパー』じゃ。クリックしてみぃ」
「え!? アリスさん! それではもしかして、既に完成していたのね!」
スノーは、すぐさまプレゼントのアイコンをダブルクリックすると、10の文字が消え、10個の同じアイテムを取得できたことを確認する。
スノーがそのアイテムもクリックすると、そこにはこのような警告ダイアログが表示されていた――
「アイテム:『EXPアッパー』(譲渡化)
フレーバーテキスト:『
世界よ!
最悪の結末、バットエンドに塗りつぶせ!
強くなり過ぎた故のレベル減衰の残滓を
哀れな子羊たちへ伝えよう。
薔薇色の未来を、白濁へと染め上げるのだ!
Yes! High! Dark!!
』
必要スキル:《錬金術》Lv.5。
魔法名:『初心者特典ポーション作成』
効能:使用者経験点を1上昇させる。
※使用は1日1回までです。
※レベル3を超えて使用すると減衰します。」
使用しますか?(Y/N)Y
システム:『EXPアッパー』を使用した。
システム:経験点1点を手に入れた。
システム:あなたはレベル1になりました。
「ねぇ。アリスさん。これって……」
「な? すごいじゃろ? これでちゃんと経験点があがるなら、オークションで売っても問題ないじゃろ? ほれ、ヘルカリじゃったか、konozamaじゃったか?」
「これなら、わたくしは10日後にはレベル3、そして《神聖魔法》スキルが……」
1レベル上昇するのに必要な経験点はレベルが高くなるほど加速度的に上昇する。
1レベル:合計経験点1点
2レベル:合計経験点5点
3レベル:合計経験点10点
…
………
…………………………
1レベル毎において1スキルポイントが得られ、3ポイントで一つのスキル Lev.1 を獲得できるとなると、1日1ポイントで3レベルに到達するにはおよそ10日かかる計算だ。
だが、一つのスキルでも虹スキルであれば、安藤ロイドの《スタジオ》スキルを例にするまでもなく、その効果はすさまじいものがあった。
「確かにレベル1ですわ。だってほら、わたくし、アイテムボックスが使えるようになっているのですもの!」
スノーは近くにあった赤いスポーツバックを指定すると、それを一瞬で消して見せた。そしてその後、バックを虚空から取り出して見せる。確かにそれはアイテムボックスでしか起きえない事象だった。
そのなんてないことのない行為が、しかし見るものが見れば刮目に値する事象に、スノーは燥ぎ、キャロルは目を見開いて見つめていた。
レベル0の無能力者とレベル1との格差も相当なものがある。
レベル3で選択的なスキルが取れるが、その前にレベル1となるとステータスがいろいろ解放されるのだ。能力値にポイントが触れるなど細かい点もあるが、大きな違いは何と言ってもアイテムボックスが使えるようになることだろう。
アイテムボックスとは、国民的人気アニメで登場する猫型生体演算装置が所有している、自由に亜空間上に配置したアイテムをしまったり出したりすることができるシステムであり、それを国民全員が持っていれば物流に革命――という名の崩壊――が起きるといわれているシロモノである。
国民的人気アニメでは4つの次元を操作して実現しているポケットであるが、この異世界では5つの次元を操作してそれを実現していた。
このアイテムボックス上では時間が止まり、あつあつの焼きそばUF〇が作り置きしておけばいつでも食べられる、または、冷え冷えのがつんとミカ●がいつでも食べられる、といえばその効果の素晴らしさも分かるというものだろう。
「つまり――。そうやってアリスおねぇさまを篭絡したのねっ!」
レベルが上がって感動している中、キャロルがアリスをにらみつける。
正座されられたうえに「いわ」と書かれたバールのようなものを乗せられた状態ではいまいちキャロルに対して凄みは感じられないが。
「そんな名も知らぬ貴女には、なんと! EXPアッパーをさらに100個追加でプレゼントするのじゃ!」
「そんなことして懐柔しようだなんて無意味よ! このことは世間にバラしてやるんだから」
「おおいいぞ。いいのじゃ。そうしたらワシらは二度とお主にアクセスしないだけなのじゃ」
「それが――、どうかしたのよ?」
「あー、想像力が足りておらぬな。するとその後のお主はどうなるじゃろうかなー。ワシには簡単に想像がつくのじゃが」
「どうなるというの?」
「お主は、本当はスノーを心配してこんなところまで来たのじゃろう? つまり心優しき者じゃ。そんな娘に経験点が10、つまりレベルが3まで上がるアイテムを所持したらどうなるのじゃ? 当然知り合いに配るじゃろう? 心優しいのじゃから。そして100個といえば一見多いが、つまるところ10人分しかないのじゃ。その10人から外れた、渡されなかった者はどう思うじゃろ――『なんで私にはくれないの?』とな。そして突き上げられたお主は必ず、ワシに定期的にEXPアッパーを求めるようになるのじゃ。だが――、お主が世間にバラすことでワシが怒り、いなくなっていたとしたら?」
「――はっ。さすがはアリスさん。酷いことを考えるぜ」
「ふむ。説得の邪魔をするでないのじゃ。どうやら湊は反省が足りぬようじゃな」
アリスは黒くてごつごつした『いわ』と書かれたバールのようなものを湊へさらに追加した。
「ぐぉぉ。そりゃないぜアリスさん……」
湊は実に楽しそう?に悶絶する。Mの毛があるのだろうか?
「本当に、こんな貴重なものをあげても良いのですの? 下手をすれば天文学的な値段に――」
「よいのじゃ。後で回収するからな」
「分かりました――。とりあえず世間にバラすのはやめておくわ」
キャロルは世間にバラスことよりも、友達との友好――つまり経験点を配賦することを選んだようだ。
(そうよね。もしもスノーおねぇさまとわたくしだけが経験点を得たら、学園内の嫉妬が凄くなりそうだもの。なら、他の人もある程度は経験点を得るようにさせて嫉妬を分散させないと――)
そこにはキャロルの打算もあるようである。
「ところでスノーの学校の全校生徒は何人おるのじゃ?」
ふいにアリスが確認してくる。
学生数に何か意味あるのだろうか?
「うちは……、1クラス30人で3クラスが3学年だから120人ですわね」
聖サウスフィールド女学院は歴史的に地元の貴族向けの学校であり、生徒の数はごく少数であった。キャロルは平民ではあるが、親が資産家であったため滑り込めた恰好だ。
「――であれば、EXPアッパーはとりあえず――。1200もあれば十分じゃな。経験点掘りは湊にスライムプールでやらせるだけで足りるじゃろうて」
(ちょっと! なんて規模で配るつもりなのよ!)
その数は想像を絶していた。せいぜいが10人程度だと思っていたのだ。
そんな、キャロルが絶句しているその横で湊も絶叫していた。
「いやぁぁぁ。僕またスライム狩り!? スライム狩りなのぉぉ!?」
「――どうやら湊は反省が足りぬようじゃな」
湊の『いわ』は合計3個になった。
「ぐぉぉ。もうきつい! きつすぎるんですが!」
だんだん見ていて辛くなってくる。足が痺れているようだ。
「学校全体分も用意するの? こちらとしては――助かるけど」
「これだけやれば上流社会では確実に噂になるのじゃ。そして噂になったところでドカーンとオークションをすればどうなるか……
あぁ。楽しみじゃ……」
アリスは真っ赤な舌で自身の左手人差し指を舐めた。




