表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/77

彼女のためなら、池袋のいけふくろうを新宿の犬と交換できる




 異世界転生学園――



 そのべたな名前の高校は、異世界転生者を収容する学校の名前である。シンプルイズベストである。


 それは不幸にも異世界転生を果たすことになってしまった異世界転生者の高校生たちを仮に入学させ、実力を確認し、精神が安定したところで他の普通校に転入させるための受け皿のような高校であった。異世界転生者は精神状態がおかしくなりがちである。そのためにこのような学校は必要とされたのだ。


 そういう名目であるがため、日々の転校生は多い。


 極端に偏差値が高い、または、低いということがなく、かつ、さらなる転校を望まないのであれば、学校としては他の普通校に転入させることは行わない。極力、生徒の生活支援を目的とした学校なのである。特段に志のなかった佐藤(みなと)は、惰性でその学校に通い続けている。


 ――という学校の性格上、異世界転生者でない地元のニンゲンがこの異世界転生高校に入学することや、まして転入することはないのだが、何事にも権力によるごり押しというモノの前には例外を作らざるを得ないという大人の事情が存在していた。


 いきなり末席とはいえ王族が現れ、転入したいといわれてしまえば「はい。そうですか」以外の回答ができるガッツのある校長が一体どれだけいるだろうか。

 サウスフィールド王家はいまだに土着住民からの信奉があついことで知られている。

 もしもここで校長が「いいえ」といえば即座に炎上し、何人かの首が確実に飛ぶ、というのが分かっているのであれば、後は何も起きないように祈る以外の選択肢はないのであった。もちろん、王族が来た以上何も起きない、ということはないだろうが。


 転入時のホームルームで先生から紹介されたスノーは、異世界転生した学生たちの前で威風堂々としていた。


「わたくし。聖サウスフィールド女学園から転入してまいりました、スノー・サウスフィールドと申します。この度はよろしくお願いいたしますわ――」



 ぺこりとお辞儀をするかわいらしい美少女の前に学生たち――、特に男子学生の面々は興奮せざるを得ない。完堕ちだった。


(OIOI、まさかの王族だとか?)


(それ、オイオイと読むのではなくて、違う読み方するらしいぞ)


(でかい……。何がとはいわんが――)


(かわいすぎじゃね? 高校で一番といっても過言ではないだろう。全一も狙える)


(あぁ、高嶺の花じゃー)


(くんかくんか)


(OIやめろ)


(彼女のためなら、池袋のいけふくろうを新宿の犬像と交換できる)


(いやいや、俺なら池袋の東部と西部の鉄道を入れ替えられるね)


 騒然とする男子学生に対し、スノーはウィンクで答えた。

 それに一瞬でココロをやられ、胸をときめかせる男子学生たち。


 だが、そのウィンクの先にいるのが、一人の少年であることに気づいたのは何人いたのだろうか?


 その少年――村人B――佐藤湊(みなと)――は目の前にある現実を信じることができなかった。











(あの痴女がなんでこんなところに――)









  ◆  ◆  ◆  ◆




 一方の聖サウスフィールド女学園でも、いきなりのスノー・サウスフィールドの転校という失態に緘口令が敷かれることになった。彼女は末席とはいえ、現時点の聖サウスフィールド女学園の中では唯一の、数少ない王族に連なるものである。そんな彼女が転校ということであるのなら、当然のことながら調査が入る。


 そこでほどなくして分かった情報としては直前にスノーが興信所を雇っていたということだ。


 興信所――つまり探偵のことではあるが、彼らは金次第で動く者でもある。だがクライアントとの関係を大事にする私企業でもある。学園側が確認はするもののその調査内容をバラすようなことは当然なかった。あたりまえだが直接的な信用問題に関わるからだ。

 しかもクライアントはあのサウスフィールド王家なのであるからして、機密漏洩がバレれば大変なことになることは分かり切っている。情報の扱いには慎重にならざるを得ない。


 他に分かったことといえば、スノーの転校先だ。


 異世界転生学園――、これはいかにも怪しい。異世界転生者がらみの案件と思って間違いないだろう。


「スノーさまはきっと、何かの理由でクズの異世界転生者に脅されでもしているのですわ!」


 特に憤慨するのは彼女の取り巻きの一人であったキャロル・ルイーズだ。それはそれは絶滅危惧種にも認定されそうな、見事な螺旋状の金髪ツインテール&縦ロールの少女である。絵師であればその描きにくさに思わず回避しそうな複雑さである。


 そう、ドリルだ。ツインドリルなのであった!


 ド・ド・ドリル! ドリル! ドリル!


 華やかで派手目な感じがする金髪碧眼の容姿は、おっとりとした地味目のスノー・サウスフィールドとは胸の大きさも含め実に対称的である。

 その交友力は高く、友達は多い。「将を射んとする者はまず馬を射よ」の諺を踏襲するのであれば、スノーを攻略したければまずは彼女に仲介してもらうのが普通の攻略法となるだろう。そう普通は。


(こうなれば――、私も異世界転生学園に乗り込んで――)


 ――いったら自分もその毒牙に掛かるのが落ちだということにキャロルは気づく。


(スノーおねぇさまはだれにも迷惑を掛けないように、一人で学園に乗り込んでいったのですわ)


 その志を踏みにじり、さらにキャロルがいって迷惑を掛けてどうするというのだろう。


(せめてもっと情報があれば――)


 しかし、スノーのように探偵を雇うようなお金はない。父は資産家で金を持っているが資産家らしく出した金の使い道は必ずチェックするタイプの男であった。探偵など雇えば何をいわれるか……

 したがってキャロルが情報を稼ぐには地道に足で稼ぐ必要があった。



(でも足で稼ぐにしてもどうすれば……)



 スノーの家は分かる。

 スノーの家から同じく探偵のように尾行することは可能だろう。

 しかしスノーは生粋のお嬢様である。

 移動は基本ドア・ツー・ドア。車での移動がほとんどだ。

 家から学校までの移動もそうだ。黒塗りの大きな車体は人を寄せ付けない。


(そう、よほど個人的な買い物とか……、ででで、デートとかでない限りスノーおねぇさまが出歩くなんて……)


 キャロルはスノーが殿方とデートに行くシーンを想像し、身震いした。

 その、名前通り白く透き通った肌のおねぇさまが楽しそうに殿方とデートだなんて――











(スノーおねぇさまのお隣にはわたくしこそが相応しいというのに……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ