怪しいレベル20の少年――
高校三年生となったスノー・サウスフィールドは王族の末席に籍を有する少女である。
黒髪ロングで大和なでしこのような清楚な佇まい。モデルのような高身長で大きな胸は読者モデルであれば、さぞ見映えすることだろう。そのおっとりとした雰囲気でしかしアクティブな行動力は、派手目だが引きこもりのアリス・ガーゼットとは対照的だ。
黒髪黒目は異世界土着の民としては珍しいが、王家には良く発現する特徴だ。それは祖先に勇者の血が婿養子として入っているからだともされている。その名の通り新雪のように白い肌は母系からの血だろうか?
サウスフィールド王国は、エセ大日本帝国の前進となった国である。帝国に保有する土地と自治権を提供したことにより貴族/王族の地位を存続できたものの、その実態は骨抜きとされて権力はほとんどない。僅かに貴族院が存在していることくらいではないだろうか。地元の王家人気が高いのは確かではあるが。
スノー・サウスフィールドはそんな王族の末席ではあり、公式の場では貴族として扱われるが、王位継承権からはほど遠いこともあり生活は市民のそれとほぼ同様である。
ただ母親が《神聖魔法》を使えることで国家に召し抱えられており、裕福な上流家庭であることは確かであった。
そう、母親は《神聖魔法》スキルを持ったレベル5の高位魔法使いなのである。
そのため何不自由なく育った彼女ではあるが、この学校を卒業したときの進路という名の選択を迫られていた。
すなわち、レベルを上げて《神聖魔法》のスキルを得るか、《錬金術》のスキルを得るか、または、貴族を捨てて進学し保留するかのどれかである。
スノーの母親はどうやらスノーには進学し、貴族を捨てて一般社会生活を送って欲しいらしい。『貴族の特権』によってレベル上げを国に要請することはできる。だがその内容は非人道的であり、あまり褒められたものではないらしいのだ。
その『非人道的』の中身は母に聞いてもお茶を濁されてしまい、よくは分からない。
貴族の道を選択してそれを初めて知ることができるらしい。
そして、知ってしまえば拒否できないとも。
それは当然だろう。貴族の秘密であるのなら軽々しく公言すべきものではない。
そんな秘密を公開すれば貴族社会からは目の敵にされ、社会的な地位を失うことになるだろう。
スノーは生粋の土着民であり異世界転生者ではないが、学校に通いそれなりの教育を受けた今となっては『非人道的』という言葉が酷く恐ろしくあり、マズイものであるように聞こえた。
何か『貴族の特権』以外の方法で経験点を得る方法はないものだろうか?
そう考えつつ生きていたのだが、しかし、17歳となっても具体的な方法など見つかりはしなかった。
進路選択の足音が聞こえ始めたそのとき、とあるニュースをスノーは知ることとなる。
「なにやら、坊主が屏風に上手な猫舞の絵を描いたらしい」
「ゴーストラリア魔王国の首相は、村人Bという人物に対しその屏風を贈りたいと帝国政府に依頼したが、政府はその住所すら分からずに困り果てているそうだ」
「一体政府は何をしているのだ! 反対! 反対! 反対! ア〇シネ!」
「ついに警察は懸賞金を掛けたそうだ」
「村人Bとは何者なのか――」
さまざまな報道が流れる中、ゴーストラリア魔王国という文字に目を向ける。
(そうだ! ゴーストラリア魔王国に行けば良いのだわ)
ゴーストラリア魔王国は天然自然に満ち溢れ、帝国に対して鉄鉱石、石炭、牛肉などを主に輸出し、帝国からは乗用車や通信機器などを輸入している国である。
(ならばゴーストラリア魔王国の関係者と接触して――)
――と、ここまで考えて、しかしそんな当たり前のことはだれでも考えるだろうという結論に至る。
輸出品目の中にモンスターがない以上、行けば経験点を稼がせてくれる、などということはありえない。
歴史を考えてみても世界各地にダンジョンを生成して経験点を分配させたことはあっても、自国でモンスターを倒させたという話は聞いたことはなかった。すくなくとも近代異世界史の中では習わなかったはずだ。
(しかし、もし自分が村人Bなる人物を見つけることができれば……)
そんな時だ。
いかにも怪しい彼がいたのは。
その場所は、女性の買い物客が多いストリートである。たまたま、スノーも買い物に来ていたのである。
日本でいうところの代官山・銀座のストリートをイメージすれば良いだろう。ウィンドウショッピングを楽しむため、車ではなく徒歩であった。
それは、やけに艶艶とした肌の少年だった。
その少年はウィンドウシステムを広げてきょろきょろと周辺を見まわしていた。
こんな女性客が多いストリートをこんな少年が歩くのはいかにも変であった。デートとかであれば例外であろうが、彼はどうみても一人である。
スノーはいつしかその少年に目が釘付けになっていた。
正確には、彼が広げているウィンドウシステムから仄かに漏れる薄暗く青白い魔力に、だ。
多くの人はほぼ気づかないだろう。レベル0のニンゲンがほとんどなのだから。
しかし、エセ大日本帝国に僅か7人しかいないというレベル5以上の母親を持つスノーには感知できてしまったのだ。
(レベルが高い――、一体どれだけあるの?)
もしかするとレベル10は越えているのかもしれない。
そんなバカな、とも思わずにはいられない。だが、だからこそ感知ができたのである。
いつしかスノーは少年を凝視していた。
そのためか、場所を確かめるためにウィンドウシステムから目を上げた少年とふと、目があってしまう。
(でかい――、一体どれだけあるのだ――)
少年――はそう思ったのかどうなのかは分からないが、「すみません――」と顔を赤らめながら視線をそらし探していたと思われる店舗へと入ろうとする。
店の周りには多くの女性もののウィッグ――カツラ――が、ウィンドウショッピング用なのだろう、ガラス張りの窓にたくさん展示されていた。
その店の名は――女装サロン・おきがえ。
(まさか、この少年は――)
「その――、すみません――」
気づけば、スノーはその少年に声を掛けていた。
「あのー。もしかして女装に興味がおわりなのでしょうか? 何でしたら――、手伝いましょうか?」
とにかく話すきっかけだ。きっかけが欲しい。
多少声が上ずっていたが彼とは初対面なのだ。気づかないだろう。
もしかしてレベル10以上の保有者であれば、村人Bとは関係なくとも経験点について何らかの情報を知っているに違いない――
「えぇ、もちろん――」
少年は顔を真っ赤にし、もじもじしながらも答える。
(やった! うまく接触できた! あとは情報をたくさん集めて――、彼が何者なのか、興信所を使おう)
ようやくメインヒロイン出せたよ……




