遠吠え
私の知らないうちにシュー様とナッシュさんの間では話がついていたみたいで2人は非番や休みの時などとにかく暇さえあれば獣化して私のそばに居た。
「…やっぱりリード様と私は一緒にいない方が良いんですか?」
「そうだな、あのクソ猫は本当に面倒臭い嫌なやつだし兄貴のそばに居るだけでキレて階段から突き落とすヤツだってこと忘れたのか?」
「それに今リードさんの周りは厳戒態勢だからね。とにかく一番出現する可能性が近いから。リィナは近寄らない方が良いと思うよ」
シュー様は苦笑した。ちなみに今はナッシュさんは獣化しているけどシュー様は仕事前なので人化している。銀色の大きな狼は私の足元で寝転んでいた。
「行ってくるよ。くれぐれもよろしく頼む。ナッシュ」
「お前に言われなくても」
「いってらっしゃい」
お互いに手を振って別れる。今日は晴れていて雲一つない晴天だ。
「…リィナ、あのクソ猫の匂いが微かにする。俺から絶対に離れるなよ」
表のベンチに座って本を読んでいた私に向かってナッシュさんは言った。
「まさか、本当に来たんですね」
そっと本を置いて立ち上がった。ナッシュさんも姿勢を低く構えて臨戦態勢だ。
「リードをどうやって言いくるめたの」
白い猫は薄汚れ、綺麗な薄紫の瞳だけが爛々としていた。イライザさんだ。私はごくりと息を飲む。
「よう、クソ猫。相変わらずとち狂った事言ってるな」
「ナッシュ…お前嫌いよ」
猫は薄紫の瞳を細めてナッシュさんを睨んだ。右前足を上げると風の刃が生まれた。
「今のは…」
「あんなんでも王族だからな、少しは魔法が使えるらしい」
ナッシュさんは大きく姿勢を低くすると立ち上がると共に大きな遠吠えをした。
アオーンとどこかから声が返ってくる、
「兄貴だ。お前の捕獲隊を引き連れて来るぞ、クソ猫」
「ナッシュ…!」
怒りに満ちた目でこちらを見つめて大きく前足を動かした。ナッシュさんは私の後ろ首を咥えてサッと避ける。
「さっさと逃げろよ。クソ猫。お前の我儘ももう終わりだな?本当に最後にバカなことしたよな」
フン、とナッシュさんがバカにしたように笑う。
イライザさんはくるりと身を翻した。
「追わなくて良いんですか?」
小さくて白い背中は路地裏に消えた。
「ああ、兄貴にも連絡しているし捕獲隊は公爵に金に糸目をつけずに雇われている優秀な連中だ。匂いを辿れば辿り着く」
あの、怒りが宿った薄紫の目が、なんだか忘れられなかった。




