銀色の狼
「くしゅん」
私はくしゃみした。川沿いの道で足を踏み外した私を追いかけてナッシュさんまで沢に落ちてしまっていた。
川に落ちた訳ではないけど、水際なせいかとにかく寒い。土地勘のないナッシュさんと足を痛めた私では動くと危険だろう、ということで2人の迎えを待っていた。
「…リィナ、あっち向いてろ」
「ナッシュさん?」
「良いから」
私は言われた通りに向こうを向いた。パサり、と服を脱ぐ音がして、メキっとよく分からない音もした。
「こっち向いて良いぞ」
「…ナッシュさん?」
そこに居たのは大きな銀色の狼だった。ナッシュさんは凍える私のために獣化してくれたみたいだ。私の体を包むようにとぐろを巻いた。
「少しはマシか」
「ありがとうございます。すごく温かいです」
私はそっと銀色の毛並みに触れた。柔らかいような固いような不思議な感触だった。
そうだ、お弁当の存在忘れてた。そっと立ち上がって近くに転がってしまっていたバスケットを取りに行く。
中身を確認すると思ったより被害は少ないみたいでホッと息を吐いた。
「食べます?」
「食べる」
私はサンドイッチを取り出してはた、と気がついた。
「…これって給餌になります?」
「ならない」
「なんで尻尾が揺れてるんですか?」
「手を使えないんだからしょうがないだろう」
「特別です。緊急事態ですからね」
私は隣に寄り添ってくれる大きな銀色の狼にサンドイッチを渡した。
「…美味い」
「ありがとうございます」
「シューマスはいつもこれが食べられるんだな」
「え?」
「なんでもない。その玉子焼き食べたい」
「はい、わかりました」
ひとしきり、食べ終えるとナッシュさんは目を閉じて顔を伏せた。
「…遅いですね」
「聞こえた音からすると大型のモンスターだった。…シューマスと兄貴なら大丈夫だとは思うが…」
「シュー様ってお強いんですか?」
「…強いな。素早さが尋常じゃない」
へえーっと私はなんだか嬉しくなって聞いた。
「シュー様とナッシュさんどちらが強いですか?」
「…直接本気で戦ったことがないからわからないが、もしやるとなると長い戦いになるかもしれないな」
「…そういえばこの前窓から銀色の狼を見ました」
ナッシュさんは顔を上げて綺麗な青い目で私を見た。
「…すまない」
「なんで謝るんですか?」
「すこしでもお前のそばに居たかった。家を知ったら歯止めが効かなくなった」
「やっぱりナッシュさんだったんですね」
「…気持ち悪いか?」
「気持ち悪くないですけど…別に普通に家に来れば良いじゃないですか。寒くありませんでした?」
「…今度からそうする」




