それなら(ロニー)
昼下がりの喫茶店。僕は例の爺やレオナルドさんに今回は遠慮してもらい、エリゼさんと向かい合って座っていた。
お茶を飲んだりすこし動くたびにビクビクとしているのがわかる。なんだよ。
「あのさ」
一口お茶を飲むと僕は話を切り出した。
「もう一回聞くけどなんで僕なの。正直に言って欲しい」
「…私なんかもうダメなんですぅ」
ぽろり、と涙をこぼす。イライラとする気持ちをグッと抑えた。うちの姉ちゃんがよっぽどのことじゃないと泣かないせいか、些細なことで泣かれても庇護欲はわかない。というか放って置いて帰りたい。見た目が可愛いとかはあまり関係ない。
「…なんでダメなのか先に聞こうか」
はぁと息を吐きながら話を促す。えぐえぐとしゃくりをあげながらエリゼさんは話し出した。
「ナッシュ様から婚約を解消されて、家族に何も言わずに追いかけて山賊に拐われました」
「そこは知ってる」
「お父様は私を怒りました。浅慮が過ぎてもう呆れかえった。このままお前に婿が取れないのなら、家督を妹に譲ると言い出したのです」
気持ちはわかる、という言葉を飲み込んだ。一応僕だって言って良いこと悪いことの区別はついている。まぁ我慢の限界を過ぎなければ、という話だけど。
「妹には幼い頃から気持ちの通った嫡男の婚約者が居るので、私に絶対に婿を取れと泣いてきました。私には伝手もありませんし、もう悪い噂は広がっています。…未婚で信頼出来そうで私の知っている男性はロニー様しか思いつきませんでした」
「それで、家族に僕の名前を出したんだね」
こくん、とエリゼさんは泣きながら頷いた。貴族の深窓の令嬢だ。未婚の男性とは接触を制限されているだろうし、彼女なりに出来る限り知恵を絞ったんだろうな。
「悪いけど僕は好きな人じゃないと結婚したくないんだ。別に権力やお金が欲しい訳じゃないし」
僕は正直な気持ちを言った。向こうが真剣な以上嘘をつきたくなかった。
両親は恋愛結婚だし、ただの平民であるからこその特権を手放したくはない。
「…私は好きになれませんかっ」
うーん、と僕は唸った。
「見た目は正直好みだけど泣き虫なのは無理かな」
「ではもう泣きません!」
ハンカチを取り出して涙を拭いた。
「すっこしでも可能性があるならっ考えて欲しいのですっ」
しゃくりをあげながら涙いっぱいの緑の目が僕を見つめた。
また言ったそばから泣いてるし。
「はああ」
僕はなんとなく自分が絆される未来が見えてしまった。不本意だが。
「…ロニー様?」
いきなり息を吐いた僕を不思議そうに見る。
「レオナルドさんだっけ」
「…レオナルドですか?」
「ちょっと彼と話をしたい」
そうと決まれば僕は自分に有利な条件をつけるための話し合いをはじめることとした。
もらえるものはもらわないとね?




