予想外
誕生日の夜も更けて良い感じにお酒もまわり、私は帰り道腕を組んで甘えてしまっていた。
「今日は甘えてくるね。いつもそうだと良いのに」
「いつもは恥ずかしいので無理です」
ふふっと笑い合う。
「? あれはなんですか?」
私は自宅兼店舗の前に停まっている馬車を見つけた。暗くてよく見えないけど見間違いでなければ何かの紋章が描かれているように見える。
「…エリゼさんの馬車みたいだね」
獣人は夜目がきくのかシュー様は言った。
「エリゼさん?なんで家に?」
私達は不思議そうな顔を見合わせた。
「絶対に嫌だ」
ロニーは言い切った。
「なんでですの?」
エリゼさんは涙目だ。
「僕は平民だから。貴族に婿入りなんか自殺行為だし、一応商人の跡取り息子なんで結婚は無理です。お断りします」
「身分は何処かに養子入りすれば良いですし必要なら我が家でこちらの事業を買い上げさせて頂きます」
エリゼさんの隣に座っている、いかにも爺やといった風情のおじいさんが言う。身なりも立派で背筋もピンと伸びている。
「だからなんで僕なんだよ」
ロニーはかなり苛立っているようだ。
「私、ロニー様に怒られた時思いましたの。この人について行けば心配ないって」
ある意味真理な気がする。我が弟ながら抜け目ないもの。世渡り上手だし。
「それは僕にはなんの関係もないよね」
「ではどうして私ではいけないんですの」
「一から説明したら夜が明けるんだけど、逆に聞くけどなんでわからないの?」
涙目のエリゼさんと冷たい目のロニー。
なんだか既視感が…。
私は額を押さえた。ほろ酔いの良い気分が一気に抜けた。
「まぁまぁ、ロニー、せっかくサリューからいらっしゃったんだしそんなキツい言葉使わなくても」
お母さんがおっとりと言った。
「母さん、バカはこっちが逐一言わなきゃわからないんだよ」
「ロニー」
「…父さん」
「女の子になんて言い草だ。謝りなさい」
「…すみませんでした」
ロニーは不承不承謝った。
「とにかく、お断りされるならそれ相応の理由をお願いします」
良いですね?と爺やが言って帰った。エリゼさんずっと涙目。なんなの一体。
家族4人でため息がかぶる。シュー様は苦笑してる。帰るタイミングがなかったよね。ごめんなさい。
「…多分だけど、あのエリゼさん、もう婿をもらう先なくてすごい焦ってるんじゃない」
ロニーがぽつり、と言った。
「ナッシュさんとの縁談がなくなった矢先に山賊に拐われて家から婿を連れて帰れって厳命されているんじゃないかな。僕のこと好きな風でもなかったし、ずっと涙目だったし」
ロニーは言葉を切り、迷うように口にした。
「確かに僕にも責任があるよ。腹が立っていたとはいえ、山賊に襲われるきっかけを作ったのは僕だしさ」
「ロニー…」
項垂れたロニーに言葉はかけられなかった。




