プレゼント
私は新作のクッキーが入ったバスケットを持って大通りで試食販売のアルバイトをしていた。2度目のアルバイトともなると手慣れたものでバスケット一杯にあったクッキーがどんどん無くなっていく。
「リィナ」
「シュー様」
2人1組の見回りの仕事中なのだろう、今日は茶色の髪の騎士様もご一緒だ。私は会釈して微笑んだ。向こうもにこっとするとシュー様に耳打ちしてから先に行った。気を利かせてくれたみたいだ。
「アルバイトは開店時だけじゃなかったの?」
「ええ、ちょっと欲しいものがあって少しだけアルバイト復活です」
お互い仕事中だけど、最近会えてなかったので少しだけでも会えるの嬉しい。私は近寄って微笑んだ。
「それは僕が買おう。だからアルバイトは辞めてくれないか」
え?
「…それは出来かねます」
シュー様にシュー様のプレゼント買ってもらってどうするのよ。
「どうして」
怪訝な顔だ。そういえば獣人はプレゼントして愛情表現するって聞いたような。
「…それは」
どう言おうか悩む。どうしよう。リード様が協力してくれるせっかくのサプライズなのに。ご自分のお誕生日が間近なのでどうか察してくださいとしか言えない。
こういう時にサッと感じの良い嘘が出ない口が恨めしい。誰も傷つかない嘘に罪はない。
「…僕からはもらえないってこと?」
あ、変な方向になっちゃった。まずい軌道修正しないと。焦った私は慌てて言った。
「その…今回欲しい物はどうしても自分で働いたお金で買いたいだけなんです。シュー様からもらえないなんて言ってないです」
「だからなんで」
あ、これ絶対引き下がらないやつだ。
耳がピンと立っているし微妙に尻尾も逆立っている。まずい。怒りそう。
「はい、どうぞ」
私はバスケットからクッキーを出してシュー様の口元へ持っていった。パクン、とクッキーを食べる。
耳がへなへなと倒れて尻尾がパタパタ振れる。良かった。ご機嫌直ったみたい。
この国に獣人はほとんどいないし誰も注目してないし人前ではハレンチな行為らしいけどまぁ良いだろう。
「僕は誤魔化されないからね、リィナ」
顔だけ凄んでもパタパタ尻尾揺らしながら言ってたらぜんぜん怖くないです。シュー様。




