乙女の夢
「絶対、ロニーに何か聞いたでしょう?」
宿屋の部屋に戻りにこにこと笑うシュー様に私はむくれた。ロニーはもうベッドで寝ていて、リード様はシュー様と使われている別室に居る。
「おでこをくっつけたこと?可愛い夢だね。すぐに叶えたくなったよ」
ロニー…。許さん。
私は窓際に置かれているベンチ型の椅子にため息をつきながら腰掛けた。ふさふさ揺れる尻尾も追いかけて隣に来る。
「シュー様はナッシュさんとお知り合いなんですか?」
ふさふさ揺れる黒い尻尾を見ながら私は言った。可愛い。でも触っちゃダメなんだよね。うずうずとする思いを押し込めるかのように両手をぎゅっと握りしめた。
「知り合いといえば知り合いかな、騎士学校での同級生なんだ、兄が友人同士なこともあって面識はあるけどそう仲が良い訳でもないかな」
シュー様は苦笑した。
「人の話を聞かないのって昔からなんですか?」
ふふと含み笑いをすると私の顔の横の髪を触った。
「確かに直情的なところはある人だけどあそこまで熱いところを見たのは初めてだよ。リィナのことがそれ程気に入ったんだろうね」
「正直、迷惑です」
私は素直な気持ちを言った。彼氏のご実家に挨拶に来て、別の男性に一目惚れされるなんて悪夢でしかない。
「そう言わないで。…獣人は番を持たない雌は交際を申し込まれても仕方ないんだ、まだ決まった相手を持ってないってことだからね」
「…シュー様は嫌じゃないですか?」
うん?と首を傾げる。サラサラとした黒い髪が形の良い額を滑った。
「嫌、と言えば嫌かな。恋人に他の雄が近寄るのは気分はあまり良くないね。…自分の選んだ雌に近寄る雄を蹴散らすのは雄の役割だからね。自分の役割に徹することとするよ」
私はちょっと意地悪な気持ちになって言った。
「負けたらどうするんですか?」
「絶対負けない」
「どうして言い切れるんですか?」
「誰にも負けたことがない」
さらり、と言った言葉を聞いて、一瞬理解が出来なかった。
「…シュー様ってとってもお強かったりします?」
「純粋に戦うだけなら。…でも他でも負けないよ」
「どうしてですか?」
「負けたくないから。君のことを一番に幸せに出来るのは自分だと思っているから」
どんどん顔を近づけてこつんとおでこを合わせてくれた。
「…ありがとうございます。嬉しいです」
「これの何がそんなに良いの?」
本当に不思議そうに聞いてくる。
「これもですけど、私、今すごくしあわせです」
そのあと、キスするのかな、ってタイミングでロニーがトイレに起きて、シュー様は笑いながら部屋に戻って行った。
もう。




