仕事終わり
「え?そうなんだ。良いよ」
仕事終わりの定食屋、私たちはカウンターに座ってご飯を食べていた。シュー様は嫌な顔ひとつせず、ロニーの同行を了承してくれた。
ですよねー。頼まれたシュー様が断らないですよねー。
私は複雑な思いを味わいながらグッとお水を飲んだ。
「ロ…弟さんはサリューに興味あるの?」
「? そんな風には…きっと私の邪魔をしたいだけなんですよ。そういう子なんです」
そうなの?と肩をすくめる。
「そうは、思えないけど。きっとお姉さんが大好きなんだけど年頃で表に出しにくいだけなんじゃないかな」
優しく笑う。私はそれを見ながらふうとため息をつく。
「そうだと良いんですけど、とにかく生意気なんですよ。シュー様も会ったらきっとわかると思います」
この前騒動の謝罪を兼ねて我が家に念願の挨拶に来てくれたシュー様だけど、ロニーは生憎学校の時間で不在だった。
「犬の姿では何度か会ってるよ」
むくれながら話す私に優しく取り皿に少なくなっていたサラダを足してくれる。
「あ、そうですよね。でもロニーと話した訳じゃないでしょう?」
ほんと生意気なんですよ。と続ける私をにこにこ笑いながら見つめる。
「シュー様には下のご兄弟はいらっしゃらないんですか?」
「僕が末子だからね。兄が2人しかいないよ」
「それなら私の気持ちは絶対わかってもらえないと思います」
つん、と向こうを向く。
「そうかなぁ、僕はもうロニーは僕の弟だと思っているんだけど?」
私はパッと顔を赤くして横を向いた。
「この国での成人まではもちろん待つけど、成人したらすぐに結婚して欲しいんだ」
真剣な目をしたシュー様は真摯だ。黒い目はとても澄んでいる。
「シュー様…」
「もちろん、適齢期のリィナをいつまでも独身のままでおいておきたくないっていうのもあるんだけど、こちらの事情もあってね」
「事情?ですか?」
うん、とシュー様は頷いた。
「運命の番の件がまだ解決した訳じゃないんだ」
「カリンさんのことですか」
「そう、彼女はこの前帰って行ったけど、本来だったらあんなにすんなり帰るはずないんだ。執着が強いっていう話はしているよね」
はい、と私は頷いた。
「彼女は貴族だし婿取りをした未亡人だ。次の夫の座を狙っている男性はかなりの数居ると思って良いと思う。でも彼女はこの国に来て僕を求めた。そして運命の番としての本能をそうそう自ら抑えられるタイプでもないと思う」
「確かに自分の欲求には正直な人みたいでしたね」
私は苦笑した。早朝から会ったこともない他人の家の扉を叩ける人はなかなかいない。
「とにかく心配なんだ、リィナ。また君や君の家族に嫌な思いをさせたら、と気が気じゃなくてね」
あの、とシュー様の制服の端を掴んだ。
「シュー様は今は大丈夫なんですか?」
「え?」
「その、本能というか、カリンさんを求める衝動というか…」
ああ、とにこりと微笑んだ。
「僕は距離が離れていたら関係ないよ。それに、彼女が既婚者だった時にも抑えられていたから問題ない」
「そうですか」
と、ホッとする。どうしても決まった番のいない独身の間は惹きつけられるのはしょうがないが、直接姿を見たり匂いを嗅いだりしない限りは大丈夫みたいだ。
「それにリィナが一緒だったらきっと大丈夫だよ」
私はパチパチと目を瞬いた。
「きみのためなら本能も抑えられる。そう今は思えるんだ」




