19:変身
「よい、しょ!」
「ッ!」
クローンちゃん、いやボクっ子だからくんかな? 彼女の攻撃に合わせて、拳を叩き込む。
激突した瞬間から一気に衝撃波が広がり、空間に亀裂が入り崩壊が始まるが……。すぐにこちらの魔法で押し止め元に戻しておく。あちらとしてはこの国がどうなろうが気にならないようで、結構ガチで打ち込んできているようだ。まぁ私と撃ち合えてる時点で結構ヤバいんだけど……。
(まぁクローンには変わりないみたいね、うん。)
やっぱりというか、促成教育なだけあって技術がない。肉体年齢は18前後ぐらいだとは思うけど、私の遺伝子データを取ったのが約10年前。そこから試行に試行を重ねた結果の彼女だろうから、この世に生れ落ちてから3年以上経過していればいい方だろう。ま、そんな子に戦闘技術なんて最低限しか備わっていないわけで。
衝突した瞬間。衝撃を分散しきることが出来ずに、彼女の腕から破裂音と粉砕音が響いている。骨も肉も完全に砕けきった音だ。けれどまぁさすが成功例というべきなのか、まだ原型は保っているし、すぐに『再生』が起動され、元通りになる腕。
え、私? 無傷。ちょっと腕痺れたくらい?
「ッぅ!? 流石ボク、って言うべきかな。……ならッ!」
「おろろ。」
一気に彼女の魔力が隆起し、先ほどよりも素早く連撃を打ち込んでくる彼女。
まるで教科書通りというか、教科書のさわりだけ読んでそれを無理矢理再現しているかのような動き。速度とパワーはあるけど、起こりが解りやすすぎて見ずとも回避できる攻撃だ。ところどころお隣の国、共和国の技術が見え隠れするから、そっから拾ってきたんだろうけど……。
にしてもコイツ、徐々に最適化してるな。あと思ってたより身体強化の倍率高いし。
「もしかして君、もう変身状態だったりする? その病人服がコス?」
「長官はっ! あんな子供っぽいの嫌いなんだってさッ!」
「わお、心にもダメージ。最近のクローンは優秀だねぇ。」
やっぱりか。道理で素にしては強化率高いと思った。
にしても……、その服装も長官さんの趣味とは。どうやら途轍もない変態さんのようだね。長コートに病人服がフェチとか、もしかしたらその業の深さで出世したタイプかもしれない。とと、ふざけるのもコレぐらいにして……。少し彼女の構築式を覗かしてもらう。
(ふむふむ分類としては『疑似変身』だけど……、あぁこれ埋め込んでるな。調整も完全に科学ベースだし、こっちから解除するには物理しか無理そう。)
あまり得意ではないが、ボク君の攻撃を軽く避けながら『解析』の魔法を使用する。
ちょっと見た結果、所謂妖精を必要としない『疑似変身』ベースの魔法少女であり、その機構は全て体内に格納済みであり、魔法的な洗脳などは使用せず、完全に科学ベースでクローンの作成・調整を行っていることが見て取れた。なんか他の魔法も使ってるっぽいけど……、ブラックボックス化しててちょっと解らん。
魔法由来のものであればイスズちゃんでも破壊、もしくは解除出来たんだけどねぇ。科学ベースで、変身機構が“埋め込まれてる”ってなると、もう壊して取り外す以外の選択肢が無くなっちゃう。
(『疑似変身』、元は妖精が死んだりいなくなった子のための魔法だったのに悪用するとか。さっすが人のクローン作ってるだけあって、倫理観ないよねぇ。しかも心臓を変身アイテム化してるせいで安易に取り外し出来ないし。……常時変身状態か、コレ? 寿命縮むぞ?)
妖精が肩代わりしてるところを自分で補うわけだから、そりゃ負担は増える。まぁ構造式の組み方や機能の整理とか組み換え次第で、妖精型より強くなることもあるけど無理してるのには変わりない。救うならちょっと早めに叩きのめして無力化。医療系魔法少女の所に運んで人工心臓との取り換え、ってところか?
というかこんな寿命無視したクローン作ってるってことは、長官とやらはこの子に価値を其処まで見出してないのか? 上手く出来たのなら強く長く使いたいだろうし……。もしかしてイスズちゃんの知らないところで、完成型クローンの量産始まったりしてる? 沢山用意できるようになったから、この子もういらないって感じ?
んー。それだったらちょっと不味いかも。イスズちゃんだけなら何体集まろうが消し飛ばしてあげるけど、地球が滅茶苦茶になっちゃう。……いやもう魔物とか組織とか怪獣のせいで滅茶苦茶みたいなものだけど、これ以上壊れるのは勘弁!
さっさと無力化して、その長官とやらを消してクローンの研究施設や資料全部爆破しなきゃっ!
「というわけで決めに行くよッ!」
「ぁがッ!?」
殴りかかって来た拳を左手で受け流し、その腹を軽く蹴り上げることで宙高くに彼女を打ち上げる。
多少痛覚を潰し痛みに対する耐性を持っているようだが、腹を蹴られ内臓を潰し空気を無理矢理吐き出された時点で、人ならば一瞬の動きが止まる。
「痛いだろうけど、我慢……、してねッ!」
そう言いながら拳に魔力を込め、即座に放射。単純な魔力放射だが、手加減一切無しの速度及び威力重視な攻撃。先ほどのダメージもあり、何もできずに全身で受け止めてしまった彼女のコスを、全て焼き尽くしていく。そしてその魔力の波に自分から飛び込み……、彼女の眼前へ。
狙うのは、その心臓。
鼓動が波打つ瞬間にその胸部へと手を当て……、叩く。
「心停止及び、変身アイテムの効果消滅確認。無力化かんりょ……、ッ!?」
感じる、違和感。
即座にその勘に体を委ね、再度胸を叩くことで無理矢理止めた心臓を再起動させる。そしてその頭部を全力で蹴り抜くことで、クローンを地面へと叩きつける。威力を込めすぎてしまったせいか、空間が崩れてしまったが……。ちょっと今は直してる余裕ないかも。
(……今、私の心臓も止まりかけた?)
「ぁは! あは! さっすが長官っ!」
ちょっと全力で蹴り過ぎたようで、頭部どころか上半身も消し飛びかけていた彼女が、『再生』によってその肉体を直しながら、不気味に笑う。
「わかった? わかったよね!? ボクはもうわかった! あは! 死んでも長官の役に立てるなんて! もっと頑張らなきゃ!」
「……呪いでも仕込んでんの?」
「そうっ!」
クローン、遺伝子的に同一な存在。失敗作の存在はいくらでも知っているから、肉体は同じでも“魂”が違うと言うことは、私でも理解できている。しかし……、肉体が同じであることは、変わらない。
魔法って存在は何でもありだ。イメージと魔力さえあれば何でもできてしまう。そう、やろうと思えば『この世界』自体を騙すことだって。詳しいことは解らないが、ボク君は死ぬ際だけだが、完全に『蒼崎イスズ』に成り代わることが出来るのだろう。世界に私が死んだと言うことを誤認させ、この世界に私を殺そうとさせる。なーるほど、確かによくできたクローンだこと。
身体能力は少し劣るが私並みで、量産計画が整ってる恐れあり、んで死んだら最悪私も道連れ。
(う~ん、面倒!)
でもま、もっと厄介なのとイスズちゃん戦ってきましたし? 最初からボク君を保護する方向で動いてましたし? 言わば“殺さなければ”いいだけですし? それに『魔法』であればその構造式解れば確実に解除できますし? どーにでもなるってもんよ。
「じゃ、ちょーっと考える時間もらおうかな? それまで好きに攻撃してていいよ。受けてあげる。」
「……あはっ!」
より強く接触して、さっき見えなかったブラックボックスの部分を解析して解除する。最悪そこだけイスズちゃんパワーで焼き切ってあげてもいいし、無理そうなら狂ってるけど頭だけは良い日本結婚ネキにでも情報流せば秒で解答送ってくるだろう。
そんなことを考えながら軽く手招きしてやると、馬鹿正直に突っ込んでくれる彼女。
「じゃあお言葉に甘えて。」
感じる、“彼女以外”の魔力。
おそらく、転移。
あらら……。
ちょっとミスったかも?
「「「「「ボク達、みんなで。」」」」」
視界全てを埋め尽くす、おそらく完成系クローンたちが、私に拳を振り上げていた。
ん~、ライフで受ける♡
◇◆◇◆◇
「……ん? あぁ気絶してたのね、え~と。あぁ0.02秒。ちょっと長いな。」
目を覚ました瞬間、ほぼ反射的に『時間停止』の魔法を起動し、自身の身体を確認する。
思ったよりダメージが大きかったようで、制服がちょっと破けちゃってる。あとは内出血くらい? あはー! 怪我したの何年分だろ! ひっさしぶり~! あははー!
……うん、とりあえず今この瞬間動いてるのは私だけだな。クローンちゃんたちに時間耐性はなし、っと。
「はぁ。雑魚を相手にし過ぎたせいで鈍ったかも。」
魔力を全身に回しながらついでに制服も修復し、そんなことを口にする。
そうなんだよねぇ。最近あんま強い相手と戦えてなくてさ、大体イスズちゃん本気で殴ったら消し飛ぶし、ビーム撃ったら死ぬのよ。そのせいでちょっと相手をなめる癖と言うか、戦闘に対する心が入らない状態だったみたい。ちょっと前ならあんなの全部受け止めた後無力化出来てただろうに。
「魔力増えて出力上がっても、戦闘スキルが鈍れば意味ないのに。はぁ、鍛え直さなきゃ。……うん、回復完了。んで? どこまで……、おわ。ここ土星か。どおりで息しにくいわけね♡」
大地に打ち込められた地点から軽く浮上し周囲を見渡してみれば、一切建物がない殺風景な場所。
空を見上げてみれば人が住めないレベルの乱気流が渦巻いているのが解るし、輪っかみたいなのも見えている。うんうん、どこからどう見ても土星ですね、はい。……ここまで飛ばされたの? あはー、クローンちゃんたち力持ちぃ! ざっと思い出して数えてみてたら、大体300くらいいたよね? それでイスズちゃんを地球外まで吹き飛ばせたと考えれば、だーいぶ強い子たちだろう。
少なくとも、メスガキと1対1で戦っても、3分も持たないだろうね。メスガキの方が。
そんな子たちがもう量産化されてて、それだけの数がある。
うんうん、確かに世界征服簡単に出来るだろうし、宇宙への適性を手に入れれば侵略宇宙人にも勝てるだろう。
でもね?
「それだけでイスズちゃん殺せると思うなんて。ふざけてるよね、ほんと?」
あはー! ……本気だぞ。
スカートのポケットに手を突っ込み、取り出すのは私の変身アイテム。折り畳み式のガラケーだ。私の髪色に合わせた濃い蒼のカラーで、女児向けの装飾が大量にされてあるそのボタンを押し込めば、ワンタッチで開かれる画面。どこからともなく、あの憎たらしい私の妖精の声が、聞こえてくる。……録音だろうけど何度聞いても腹立つなコレ。
『Yes! Yes! まじかる~?』
「チェンジ」
そう呟きながら中央のテンキーを押すと、即座に制服が謎の光に包まれ、変化していく。
よくある女児向け番組に出てきそうな青と白に包まれた女児向けドレスで、フリルも装飾も盛りだくさん。まだ13だった頃は抜群に似合っていたはずのソレが、24の私の前ではなんかもうアレ。毛量が何故か増加し、髪色も鮮やかなものに。胸元を飾る大きなリボンは、私の心を虐めてくる。
最後にガラケーを入れるためのクッション内蔵ケースにアイテムを叩き込めば、変身終了。
「マジカルマジカル。魔法少女マジカル☆イスズちゃん、ファーストフォームのご登場~。」
少し確かめようと軽く拳を握り締めた瞬間、土星が吹き飛ぶ。
……うんうん、問題ないね。久しぶりの変身だったからちょっと不安だったけど、やっぱ気持ちが切り替わるのか『あの時のまま』だ。今ならあのクローンちゃん相手でも何とかなりそ。
これからやらなきゃなのは、ボクっ子を含めた300人を無力化して保護。んで長官吹き飛ばしてそれ野放しにしてる共和国に焼き入れて、研究施設も資料も全部消し飛ばす。ま、そんなもんか。今なら全部秒もかからないだろうけど……。
「あの生意気、一回ぶっ飛ばして“修正”してあげなきゃだね。あはー!」
〇魔法少女マジカル☆イスズちゃん、ファーストフォーム
最初にして最強のフォーム。無論幾つか強化フォームチェンジを所有しているため、ここの『最強』は全人類に対する『最も強い』の意味。既にすべてのスペックが人類では計測できない値になっており、地球上で力を振るえば簡単に崩壊するため滅多に変身することは無くなっていた。
ただ例の日本結婚ネキが『空間を切り離してその空間の維持を彼女自身でやれば、夫が傷付くこともないのでは?』と考え専用の魔法を構築しを手渡しているため、やろうと思えば地球でも戦えるし、相手はより酷い方法で死ぬ。
ガラケータイプの変身アイテムを用い、その音声は彼女のパートナーであった夜逃げ犯が録音したもの。変身後は毛量の増加や明度の上昇、可愛らしい女児向け服装に変化する。とても可愛らしい見た目なため、今でも幼児にはとても人気。
本人によると、強化率は生身の約2,000倍~とのこと。




