15:特訓できた?
はい、イスズちゃんです。
ちょっと前、お上に就職して色々やってる舎弟パイセンからご報告いただきまして、ここ数週間かずっと警戒してたんですが……。
(特に何も起きてないんだよなぁ。)
いつも通り宇宙になんか来てた侵略宇宙人を消し飛ばしたり、異次元からやって来た怪獣を太陽に不法投棄してたんだけど、日本でそれらしい動きは一切なし。不審に思って田中に頼んで色々調べさせたが、どうやら彼の管轄外の所でコトが動いてるみたいで良い反応は帰って来てない。
もしかしたら海の向こうとあちらさんで何かしてるのかと思い、ちょっと耳を傾けてたんだけど……、相変わらずよく解んない感じ。なんか私の名前呼びながら『救命阿!』とか言ってた子を助けて、現地の魔法少女の子とかとコミュしたり、サイン求められたから答えたくらいだね。
(ところでなんであの子地割れに巻き込まれてたんだろ?)
……まぁいいや。
最悪ことが起きてからでもイスズちゃんなら対処できるし、問題が増えないように例の日本ネキには既に話を通してある。相変わらず狂ってたけど、そこに眼を瞑れば優秀で話の分かるやつだ。事実を列挙して適切に仕事の話を終わらせた後は、『最近夫さんとどうよ?』みたいな感じで彼女の脳内だけで繰り広げられてる謎の惚気話に付き合えば何とかなる。
ま、パイセンの就職先を考えれば酷く政治が関わる案件だ。どこまでいってもイスズちゃんって現場の人間でしかないし、魔法少女である以上はそこを違えるつもりはない。あまりにも上がお馬鹿だったら首を変えに行くが、自分から“掃除”に動いている以上そこまでする必要はないだろう。
何をするにせよ、今は元気に後進の育成。あの二人を鍛えて怪獣を軽く倒せるくらいにしなくちゃね。
「というわけでがんばれがんばれ♡ ミズキちゃんにマシロちゃーん♡ メスガキなんてぶっ殺せー♡」
「そうそう♡ こんな引退したワタシ一人倒せないで、現役として恥ずかしくないの~♡」
「「いや全然。」」
二人合わせて真顔での発言。
ま、まぁメスガキ結構強いもんね。
二人の育成だが、既にメスガキに任せる形に移行している。例の案件のことだが、メスガキことアヤと少し話した結果。何か起きるなら出来るだけ私はフリーにしておいた方がいいということになったのだ。結構戦えるが時間制限のあるメスガキと、やろうと思えばフルタイムで幾らでも働ける最強イスズちゃん。可能なら後者を温存するのは普通の話だよねってこと。
ということで宇宙人や怪獣対応以外はずっと、この学園に待機し二人の様子を眺めていた。
でも流石に何もしないってのは駄目だろうと言うことで、基礎体力向上のためランニングしてる二人を後ろからプレッシャー掛けながら追いかけたり、魔法の解釈とか習熟に付き合ったり、的代わりに突っ立ったり色々していた。途中W人間バットの子たちが学園に帰って来てるって聞いて会いに行こうとする私と、それを止めようとする田中率いるメスガキ&西のスペシャルマッチなどあったけど……。まぁ今は関係ないか。
「んんっ! とまぁミズキちゃんはある程度“解釈”の方に慣れて来たし、マシロちゃんは超促成だけど基礎の詰込みは完了。ただちょっと二人とも固すぎてメスガキとしてはやりにくそうだったけど……。」
「煽っても返してくれないとつらい♡」
「い、いやでも……。」
「強さも実績も雲の上の人に煽られても事実でしかないですし、私達の為に時間使ってくださってるわけですから、頑張るのは自然かと。」
やだミズキちゃん、大人!
20超えてもメスガキごっこしてギャハギャハしてる私達が悲しくなってくるじゃん。もっと年相応にはしゃいだりバカやってもいいのよ? というかしなさい。ほらイスズちゃんの飲み物王水に取り換えるとかさ、色々あるでしょ?
「あ~、そう言えば暗殺かなんかで飲まされてましたね。お代わりしてましたけど。ばけもの♡」
「「えぇ……。」」
え、いや。美味しくてお代わりしたわけじゃないよ? さすがに。ただちょっとお代わり要求したらどんな顔するかなって思ってさ。……あ、そうだ。また今度でいいから自分の担当官に毒の見分け方とか、緊急時の対応の仕方とか教えてもらっておきなさいね。たまにあるから。
っと、脱線しちゃったし話もどすよ?
ではメスガキトレーナー、続きお願いします。
「は~い、話替わりま~す♡ ある程度見れるレベルには到達したしぃ、二人には今から定期試験を受けてもらおうと思ってるの♡」
「ていきしけん……、ですか?」
「今の実力を再確認しろ、ってことですよね。」
「そうそう、話早くてえら~い♡ とりあえずだけど、手加減&未変身の私に1発入れられたら勝ちってことでいいよ、ザコども♡ はずかしぃ~い思いしないように、作戦立てて襲い掛かって来てね♡」
◇◆◇◆◇
「ど、どうしますミズキちゃん。」
「変身はしてこないらしいけど……、かなり難しいわね。」
作戦会議の時間だけじゃなく初手も譲ってくれると言うことなので、ミズキちゃんと一緒に顔を見合わせながら思考を巡らせます。
あ、ちなみにですが妖精のプルモはイスズさんに連れていかれて、『解説席』って所に座らされてました。戦えない彼を安全な所に連れて行ってくれるのはありがたいんですけど、なんでイスズさんってプルモへの扱いあんなひどいんでしょう。ずっと畜生って呼んでるし……。
とと、今は対アヤさんのことを考えなきゃ!
「まずですけど、アヤさんの得意魔法は『省略』。それでご本人は近接が好きみたいですけど、全距離戦えちゃう上に苦手なものがないオールラウンダー。」
「えぇ、イスズさんがいなければ最強名乗れてたってのは伊達じゃないわ。ある程度手加減してくれるとはいえ……。」
ここ数週間ずっと特訓を見てもらっていたので、その戦い方も、得意魔法の効能も教えてもらっています。
自分たちが得意とする魔法の解釈の一助になればいい、って感じでメスガキ語? で教えてもらったのですが、『省略』という魔法は本当に無法です。アヤさんによると最初は消費魔力を削減する程度の魔法だったみたいなんですが、構築式を組み出した瞬間、全てが変わります。
まだ私には難し過ぎて全然わからないのですが、構築式と言うものには魔力を代入して式を構築し、結果として魔法を生み出すという過程を取るみたいです。でもここに『省略』を入れた瞬間、式の構築にかかる時間どころか、放り込む魔力すら『省略』できてしまうそうなのです。
例え話をしながら『100円のペンを仕入れて、お客を探しセールストークを通じて10,000円で売るのが普通の魔法。でも省略をすれば100円と10,000円を交換できるって寸法♡』って教えてくれたんですけど……。む、無法過ぎます!!!
「えぇ、その通り。しかも何を省略して何をそのままにするかも自由自在だから、やろうと思えば攻撃動作も反動も全部省略して延々と拳を叩き込み続けるっていう最悪の構図が出来上がってしまう。かといって距離をとって戦おうにも……。」
「距離の省略をされる、わけですか。」
「えぇ。手加減してくれるとは言え、そこまではやって来るでしょうね。インファイトでの打ち合いじゃ絶対に負ける、なら出来るだけ動き回って相手に時間を与えないヒット&アウェイが良さそうだけど……。出来る?」
「ちょ、ちょっと……。」
確かにアヤさんに叩き込まれたり、途轍もないプレッシャーを受けながら死に物狂いでランニングしたおかげか、この数週間で信じられないぐらい体力は上がりました。魔力操作の基準もまぁ見れるレベルになったみたいですし、ミズキちゃんの足元にも及びませんが、近接戦闘もちょっとだけ覚えました。
ですので決して動けないわけではないですが……、そこに攻撃をしながらの行動となると、どこか早い段階で絶対足が絡まって死にます。アヤさんみたいなとっても強い人相手にぶっつけ本番が出来ると聞かれれば、絶対にNOです。
「突っ立ったまま魔法を使わないのと、接近された時に逃げる。あと逃げられない時にちょっとだけ反抗する。出来るのはそれくらい……。」
「ふん! 最初に比べれば十分じゃない! 貴女は今自分で言ったことをし続ければ問題ないわ。……あの時のマとかいう大幹部のリベンジ戦みたいなものよ。地下じゃなくて屋外での戦闘になるけど、いけるわよね?」
「っ、はい!」
何も足りない自身ですが、自分で言ったことぐらいはして見せると大きく声を返せば、とても勝気な笑みを返してくれるミズキちゃん。
……ほんとは、この人の隣に立てるくらい強く成りたかったのですが、全然まだまだです。
イスズさんという途轍もなく大きな人が、私達にチームを組めと言ってくれた。だったら私は3年先に長く魔法少女をしていたミズキちゃんに全力で追いつくため努力しなきゃいけません。でもその間彼女が止まってるわけがなくて……。でも、今できることを全力で足掻くしかないんです。
結局実力だけじゃなく、私が真に何が得意なのかすら解ってませんが、あの時何もできなかったことはずっと頭に残っています。その対策として西さんにお願いして色々種を用意してもらいましたし……。
「泣き言言ったりなよなよしてる時の貴女は嫌いだけど、そういう覚悟決めてる時の眼はまだ見てられるわね。……良い? あの時と同じ、でもその発展でいくわよ。合わせなさい!」
「はい、行きましょうっ!」
◇◆◇◆◇
全国の魔法少女ファンの皆様、お待たせしました!
元祖メスガキ系魔法少女『イビルエンジェル』 対 新進気鋭のニュー魔法少女『ローゼブロッサム&ルミナフィル』の模擬戦が今、始まろうとしています!
ここ白羽ヶ丘高等学園スタジアムでは途轍もない熱気に包まれており、キックオフを今か今かと待ち望んでおります。実況は私イスズ・カビラ、解説は畜生澤さんでお送りいたします。
畜生澤さん、今日もよろしくお願いします。
「あ、あの。ここマシロたち以外誰もいないっプ。あと畜生じゃないっプ……!」
雑魚が何か言ってますね、では新人魔法少女側のスターティングメンバーを見ていきましょう。
まずはアタッカーのルミナフィル。魔法の解釈により光速とまではいきませんが、かなりの速度上昇に成功した今年4年目の選手です。肉体への反動を抑える魔法を使用するため『攻撃に速度を乗せて破壊力を上げる』ことは出来ませんが、光での錯乱などが可能なテクニカル&スピードタイプの選手と言えるでしょう。
「プ?」
「時速100kmで飛んでくる車と、10,000kmで飛んでくる車だと、後者の方が破壊力大きいでしょ? でもそんな速度車は耐えられなくて壊れちゃう。だから魔法を使って空気抵抗とかを無くしたんだけど、それすると10,000kmで出せてた破壊力をそのまま伝えることが出来なくなるのね。」
「ほへ~。」
まぁ魔法も完全に万能じゃないってことです。無論頑張ればメリットの良い所だけ持ってくることも可能なんだけどね? まだルミナフィルことミズキちゃんはその領域の技術を手に入れてないってだけなのです。
では次の選手、ローゼブロッサムをみていきましょう。ポジションはサポーター。植物を成長させ操作するという魔法からサポーターのみならず、アタッカーブロッカーの適性もありそうですが、今回はルミナフィルの補助に回る様子です。今年一年目のニュービーと言うことで経験不足が指摘されますが……。彼女にはガッツがあります。
「プ! マシロはとっても頑張り屋さんで、凄いプ! 応援するプー!」
畜生が何か言っていますが……。まぁ無視しましょう。
では次に対戦チーム、イビルエンジェルを見て来ましょう。
本名樋口アヤ、イビルエンジェルのポジションはオールラウンダー。基本的に出来ないものがないという超万能型の選手です。万能型の宿命ともいえる『器用貧乏』の宿命を乗り越えた彼女の佇まいはどこからどう見てもメスガキ。元祖メスガキの名は伊達ではありません。
得意魔法である省略と、引退後も鍛え続けたそのテクニックはとてもじゃないですが新人二人が適う相手ではありません。しかし未変身で手加減、そして勝利条件が1発当てるというものであれば、まだ希望はあります。ぜひ日本代表……、じゃなかった。新人ちゃん達には頑張って頂きたいところです。
さぁ、先手は二人に。
今、キックオフです!
〇イスズVSメスガキ&西
暇だったので、例の子たち。未だイスズを見ると土下座しながら許しを請い始めてしまうW人間バットちゃんたちに会いに行こうとした彼女だったが、そっちに割り振ってる仕事が回らなくなるので田中が阻止に動く。と言うことで緊急招集されたメスガキや西が突撃する羽目になり、急遽始まった戦闘。
当初はそれを見ているマシロやミズキに『こういう戦いもあるよ~』という感じで、メスガキがミズキ役を、西がマシロ役として立ち回りながらイスズを攻撃していたが、途中からイスズが物足りなくなってちょっと本気を出し始めたため、二人とも昔のスタイルで戦闘が継続。
妖精がいないため疑似的な変身を行った二人は、メスガキが『省略』で過程や消費魔力をすっ飛ばした『全てノータイムで攻撃が繰り出される』近接戦を仕掛け、西がそれに合わせる形で『起動した瞬間に相手の感覚器を物理的に崩壊させる』魔法を叩き込むというかなりエグイ戦い方をしたのだが、結局未変身のままイスズちゃんが制圧して終わった。
なおマシロによると『西さんて素の喋り方あんなギャルギャルしてたんですね……』とのこと。




