11:反省会と遠征会!
「はい、ではイスズ先輩が海外出張のため不在ですので、マシロちゃんの担当管理官である西が司会を務めさせて頂きます。議題としては先日の『悪魔帝国』なる秘密結社との戦闘、その反省会と聞いているんですが……。」
「「……。」」
「ふ、二人とも落ち込み過ぎじゃない? ほ、ほらもっと笑顔にさ!」
マジカルぱんち事件から数日後。それまで溜まっていた通常授業などを消化しきった二人の魔法少女は、学園から割り振られたとある教室に集まっていた。
マシロの担当管理官である西が黒板に反省会と記し、頬に指をあてて無理やりにでも笑みを作るよう言ってみるが……、二人の浮かない顔は変わらない。言ってしまえば初の敗戦であり、先輩に後始末を任せてしまい、トップとの差を見せつけられてしまった事件ではあったが……。
(この感じ、上との差に絶望した感じじゃなくて、自分たちの不甲斐なさに悔いてる感じかな? ……そう言えばアタシも昔こんなのだったっけ? まぁいいや、今はとにかく空気切り替えないと。)
少し過去のこと、西の場合は上との差と、同期であったかのメスガキとの差を思い知ってしまい、グレかけていた時期のことを一瞬だけ思い出すが、それと二人の心境は少し違うと判断し、思考を取りまとめ体内で魔力を練っていく。現役を退き進退した元魔法少女なれど、西もこの白羽ヶ丘高等学園の卒業生であり、エリートの一人。簡単な魔法であれば起動することぐらい何でもなかった。
両手の人差し指に空気を集め、強化された指で軽く弾く。直撃するのは、二人のおでこ。
「っ!?」
「あだ!?」
「ほらほら! ずっと俯いてても良いことなんかないよ? 元気出して何が駄目だったかを考えて、修正していく。そのためには嫌でもちゃんと思い出していかなきゃ。私も手伝ってあげるから、ね?」
「「……はい。」」
圧倒的な暴力と、何処か一歩引いた態度、そしてどんな時でも名を呼べば自分たちの前に飛び出してくれる最強の先輩を思い出しながら、言葉を紡ぐ西。力を徐々に失い前線に立てなくなってもまだ魔法少女の近くで仕事を続けているのは、あの時引き上げてくれた先輩がいてからこそ。今度は自分がその役目を果たさなければと心に誓いながら、彼女は二人に前を向かせる。
まだ落ち切った心は戻ってきていないようだが、西の声が二人にも届いたのだろう。ゆっくりとだがあの時の戦い、イスズがひそかに撮影し戦闘記録として提出していた映像に、視線が写っていく。
「じゃあミズキちゃん。たぶんだけど、貴女が作戦立案してたんでしょ? この敵幹部……。名前長いからマでいいけど、これをどうやって倒そうとしてたのか、教えてくれる?」
「……はい。」
西に促され、ゆっくりとだが口を開くミズキ。
作戦としては、当時イスズが言っていた『アンブッシュ上等』、つまり暗殺に近いものを採用していた。その場に敵大幹部がいることは理解できていたのだが、室内に他の敵がいるかどうか、また敵の力のレベルがどれほどか解らなかったミズキは、一気に勝負を決めることで相手を殺し切ることに注力していた。
つまり相手がどれだけ強くても『何か行動を起こす前』に殺せば勝てるよね、という戦法だ。
「でも、首を落しただけで安堵しちゃって、止まってしまったのが私の反省点だと思います。光に熱を持たして焼き切っていたので……。」
ミズキはミズキなりに、最適解を探し行動に起こしていた。
確かに一度止まらずそのまま連撃を叩き込んでいれば、という思うもあったが、彼女は最高速で部屋の中に突っ込み、幻影を使い背後に回り込んでからの攻撃を行っていた。肉体強度的に出せる最大速度で、無理な方向転換を入れたのだ。あそこで一旦距離を取り息を取ろうとしたのは間違いではなかったのだが……、無理をして更に突っ込んでいれば初撃で殺し切れたのでは、と彼女は思ってしまう。
「う~ん、まぁその辺りは結果論ね。私としてはミズキちゃんはしっかり自分のやるべきことを出来てると思うわ。……言うとすれば、マシロちゃんかしら?」
「や、やっぱりそうですよね。」
「貴女の為に言うけど、足引っ張っちゃったわよね。新人の貴女に言っても仕方ないことだとは思うけど、もっと手段を増やすべきだった。……まぁあの人のことだから、それを実感させるためだったのかもだけど。」
小声でそう付け足しながら、自身の担当に声をかける西。
首を落されても生きていたマの生命力を考えれば、ミズキだけで敵大幹部を落すことは難しかったのではと、彼女は考えている。地下基地と言う落盤の可能性が常に付きまとう場所では、敵も味方もそう大規模な攻撃を行うことは出来ない。だがマシロの持つ『植物操作』の力があれば、それをひっくり返すことが出来たはずだった。
「ミズキちゃんが二回目の突撃をした時、マシロちゃんは単にマとか言う敵を樹木で囲む動きをしてたけど……。それじゃ足りないのよ。まだマシロちゃんがどんな魔法少女になるか解らないけど、サポートって想像以上に大変でね?」
そう言いながら、簡単な図を描いて行く西。どうやら当時戦場となった部屋を描いているようだったが……。
「ミズキちゃんの足場になる木を生み出す。ミズキちゃんが身を隠す木を生み出す。その辺りのセンスはすごくあると思うわ。映像見せてもらった感じね? でもサポートってそれだけじゃダメなのよ。今回の場合、マシロちゃんは場の強化と、もっと多くの布石を打っておく必要があった。」
樹木と言う一程度の強度を期待できる魔法があの時求められていたのは、『ミズキことルミナフィルがより全力を出せる場を整えること』だったと指摘する西。
部屋の四隅に大きな樹木を生成し、その壁や天井を蔦などで覆いこむことで部屋全体の補強を行いながら、その部屋を完全に自分のフィールドにしてしまう。確かに樹木と炎の相性は悪かったが、あらかじめ木々の量を増やし保っておけば、木々の質量によって延焼を抑え込むことが出来たはず。それに四方八方からの攻撃も可能だった、と。
「ま、早い話もっと自分の魔法に対して理解を高めて、伸ばしていくしかないってことね。あ、あと近接戦闘の覚えて行かなくちゃ。先輩は実戦至上主義なとこあるから、その辺りの訓練はこっちでサポートしていくけど……。」
「は、はい。」
「ま、焦らずに頑張りましょうね。伸びしろしかないんだから。ミズキちゃんも同じだよ? 私は担当じゃないから解らないことも多いけど、剣の使い方とか、そもそもの魔法の練度とかもまだ荒があった。こっちで細かく纏めといたから、見てくれると助かるかな。」
「……ありがとうございます、参考にします。」
おそらく徹夜で纏めたのであろう文庫本レベルの太さがある資料を、二人に渡す西。
軽くめくってみれば、彼女が思いつく限りの魔法の改善点や応用について書かれており、参考になりそうな動画のQRコードまで張られている。現役時にトップ層として走り抜けた先輩の言葉でもあるのだ。参考にならないわけがなかった。
「ま、後悔は程々、反省は適度に。後は全力で前に走るってのが大事だからね。……あ、それと。イスズ先輩じゃちょっと実戦に偏り過ぎちゃうから何人かトレーナーさんをお願いすることになりました。一人は私の同期だし、すごく参考になるとは思う。たぶん。ま、まぁ色々大変だろうけど、一緒に頑張って行こうね、二人とも!」
「「……はい!」」
◇◆◇◆◇
「……シナモンちゃんさ。」
「ハイ! 何でしょうパイセン!」
「わざわざインドまで呼ばれて何事、って思ったけど……。これヤバくね?」
「マジヤバ!」
たどたどしい日本語でそう返してくれる彼女に軽い笑みを送りながら、眼前の状況に視線を送るイスズちゃん。
そ、今日はインドからヘルプコールを受けて遊びに来たのよ。ちょっと空港までひとっとびして、パスポート片手に検問を突破。そこで待っててくれた現インド最強の魔法少女、『ラクシュミシナモン』ちゃんと合流し、最近発見された地下空洞に遊びに来たんですが……。
はい。視界一杯に怪獣ちゃんたちがいますね。軽く500は下らないんじゃないの? しかもなんか繁殖してるっぽいし、強さ的にも各国のトップ層が出てこないと普通に殲滅されちゃうレベルだ。今のマシロちゃんやミズキちゃんじゃ秒も持たないね。うん。
「一体二体くらいナラ、ダイジョブです! チャクラム、ほわちゃー! 両断勝利! でもこの数、無理。死! しにものぐるい? で、頑張ってひゃくいけます! でも、死にます! ワータイヘン!」
「あぁうん、だろうね。……なんかこっちの方煩い気がしてたけど、こういう事だったか。」
「パイセン、殲滅オネガイです! できたら、ウメテ欲しいネ!」
「え、いいの?」
なぜかヤー! と肯定の意味を示してくれる彼女。
なんか私に憧れてこっちの世界に入って来た子らしくて、日本語も独学で覚えちゃった凄い子なんだけど……。なんかサブカルに浸食され過ぎてるせいか、ちょっとたまに何言ってるか解んないんだよね。結構強くて技術ある子だから、普通に翻訳の魔法使えるのに……。ま、可愛いからいいんだけど。
にしても、埋めていいもんなんか、これ? イヤ出来ないとは言わないけど、軽く数百kmはある地下空洞だよ、ここ。色々埋めたら面倒になりそうなんだけど、ほんとに大丈夫?
「ハイ! ここ崩れたら、上のはじっこにある市街地、壊れます! それに、気が付いたラいる! 倒しても、またフエマス! なら綺麗に埋めた方がオトク!」
「あーなるなる。」
確かに一回入り込まれた場所を放置してたら、またここで増える可能性もあるからねぇ。この怪獣がどこ出身の奴ら解らないけど、繁殖してるってことは怪獣にとって居心地がいい場所ってことだ。そんな場所で増え続けて外に攻め込まれたら大変だし、大暴れしてこの空洞が崩れたらもっと大問題。
原因究明が今後出来なくなるけど、目先に起こりうる被害が大きすぎるから埋めるしかない、って考えだろうね。私がフルタイムでいる日本と比べて、こっちはシナモンちゃんでこの子も確か来年には卒業。今後皇族がより強くなる可能性もあるが、弱体化する可能性もある。博打を打つぐらいなら、って感じなんだろう。
「あ。ちなみに埋める時のオーダーとかある? 再調査しやすいよう程度柔らかいのにするか、付近の岩石と似たような感じで埋めるか、どっちも出来るけど。」
「ん~、ちょいまち!」
軽く通信の魔法を使い、おそらくこっちのお上に確認を取り始めるシナモンちゃん。基本的にずっと翻訳の魔法を起動してるから何言ってるか大体わかるんだけど……、めーっちゃこの子頭良いのよね。なんかすっごい専門的な言葉がポンポン出てきて驚くのよ。
お上だけじゃなく、こっちの学者さんと一緒に地質学的なこと喋っちゃってる。ん~、将来は学者さんかな? お母さん娘が立派になって嬉しいです。産んでないし育ててもないけど。
……そう言えばこの前彼女のお家にお呼ばれした時、途轍もない豪邸だったんだよね。確かパパ上さんがどっか大企業の社長さんとかで、こっちでよく聞く階級的にもかなりいい血筋だったはず。しかもかなりリベラルな方で、男女気にせず高度な教育を施すし、趣味も全力で応援する様なパパ上さんだったはずだ。
そんな蝶よ花よと育てられた子が魔法少女として前線張ってて、日本語使いこなしてるのはちょっと面白いことあるけど……。
「あ、パイセン! ダイジョブみたいです! コウシャで!」
「まじかるまじかる、あいあい。周囲の環境に合わせて埋める奴ね。」
「MagicalMagical~♪」
「んじゃ、やっていきましょうか。」
いつも通り素手でちぎっては投げちぎっては投げをしてもいいが、ここは地下空洞で普段みたいに太陽にポイしに行くことが出来ない。やろうと思えばできるが、わざわざ500匹を宇宙まで運ぶのは面倒なので……。ちょっとおしゃれな魔法を使うことにしよう。
ちょうどお隣に、私の魔法をお手本にしてくれそうな子もいることだしね。
「ではシナモンちゃん、ちょっと自分の周りに結界張って、自動的に酸素生成する魔法使ってくれる? 外気が入ってこないようにして、二酸化炭素濃度を一程度に保つような奴。」
「おう! 宇宙服みたいのですね! あいさー! 今作ってみマス!」
そう返事した後。空中にぱーっと魔法の構造式を書き始め、私のオーダー以上のものを作り上げていく彼女。使ってる式とかがちょっと複雑すぎて私じゃ何やってるか解らないが、無駄に高性能で低燃費なものが組まれているのは理解できる。
そ、この子ヤバい所って戦闘できる上にそのさなかで新しい魔法作ってくるところなんだよね。
一応得意魔法はあるんだけど、その頭脳だけで魔法の構築式を作り替えて、ほぼ全部の魔法を得意魔法にしちゃい才能。すべての状況に対応できる上に、強敵相手にずっと最適化して来るお化け。イスズちゃんが最強なら、最優の魔法少女って呼んでも差し支えない子なんだよね~。まぁ最優候補は他に何人かいるけど。
「できた!」
「2秒くらい? 相変わらず早いねぇ。んじゃイスズちゃんも頑張りますか。……確かシナモンちゃんの得意ってチャクラム型の炎輪を生み出すやつだよね?」
「はい! ソレデス!」
「まじかるまじかる、んじゃイスズちゃん風アレンジ、いってみようか。」
ぱーっと炎輪を一つ生み出し、ちょっとした機能を付け足していく。イスズちゃんこの子みたいにめっちゃ便利な構築式組むのは無理だけど、なんか色々効果付け足したりするのは得意なのよね。テクニックタイプではないんだけど、魔法使う時の許容量というか? 一度に仕える魔力量が結構多いし、総量も多いからちょっと無茶できるのよね~。
「ということで完成、連鎖チャクラムってところかな? ではぽいー!」
かるーく投げ込んでみれば、まばゆい光と共に怪獣たちに突き進んでいく巨大なチャクラム。
その光量のせいか、即座に怪獣たちに気が付かれ、何かしらの光線技のような者がチャクラムや私に飛んでくるが……。チャクラムはそのエネルギーを吸収し、私に飛んできたものは軽く手で払って消し飛ばす。
そしてようやく着弾し、分裂するソレ。
「『……エネルギー吸収に、敵関節部へのホーミング。指数関数的に増殖・分裂する機構が組み込まれている上に、対象の自動識別と、その対象が全焼するまで燃焼し続ける? しかも40万度を保っているうえ、対象以外には熱を遮断してる? あ、相変わらず規格外なお人。』」
「シナモンちゃんー。」
「あ、はい!? ナンですカパイセン!」
「ナン! 帰りに本場のカレー食べて帰ろうかな。……じゃなくて、ちょっと外でチャイ買ってきたんだけど飲む? それとも日本から持ってきた緑茶? 適当に和菓子も持って来てるからさ、全部終わるまでティータイムにしよ。もうやることないし。」
「あ、ハイ! ヨロコンデ! あと、カリィは私が作りますよ! 手作り! 食べて!」
「マ? んじゃお願いしようかなー。」
〇インド最強魔法少女『ラクシュミシナモン』ちゃん
得意魔法はチャクラム系列、炎を灯したものが一番得意らしいが、本人が器用なのでほぼすべての属性を付与して飛ばしてくる子。現役時メスガキより弱く、侵略宇宙人相手に一矢報いることが出来る程度の強さ。1話あとがきの基準で言うと、36,000くらい。出番は今回限りかもしれない。
人前ではキャッキャしてるし、イスズの前では甘える可愛い後輩で通しているが、普通に演技でめっちゃクレバーな子。戦闘中に敵の弱点を看過し、それに合わせた新しい魔法作っちゃうヤバい子でもある。モビルスーツ乗りながらOS書き換えて敵機撃破しちゃうようなタイプ。
なお途轍もないメシマズ特製を保有しており、急に謎の最適解(冒険)を思いつき実行してしまうので、イスズに今年一番のダメージを与えたMVPである。イスズのコメントとしては『なんか邪気放つ黒い物体を出されたけど、おもてなしされてるわけだから全部完食したよ、うん。ポンポンペインになったけど。……胃薬どこ?』




