七十話 『合格 後編』
「その腐竜とは一体何なのですカ!?」
たった今放たれたドラゴンブレスでトンデモない化け物だということは分かりましたガ……。一体何なんですカ、あいつハ! 出鱈目すぎるでしょウ! 先ほどのブレスは地を沸騰さセ、蒸発させるほどの威力。間違いなく私が食らったら回復も間に合わずに死にますヨ!
『それよりもまずは前の魔物に集中しろ! 今話すほど余裕じゃないぞ!』
「確かにそうですけド!」
視界を埋め尽くす魔獣……。Hardすぎる特訓じゃないですカ……。
But、とにかく逃げねバ。あの怪物から距離を取らないト……realに死にまス。
目の前に迫る爪を紙一重で避ケ、強引に吹き飛ばス。他の魔獣たちに当たって道を開けてくれまス
。とにかく早く逃げないト。キングなら何か知ってますよネ。
『阿呆なことを考えるな! 後ろ! 矢だ!』
「ッ! OK!」
頭を振って回避! 正確に私の後頭部を狙った矢は外れていク。隙あリ、でス!
『馬鹿! 止まれ!』
ウィザースケルトンに近づこうとしたとき怒号が飛ブ。強制的にキングの意思が体を動かし後ろに下がル。
次の瞬間、ウィザースケルトンを飛び越えるようにして迫ってきたのは大鬼でス。大振りの太刀を構えながら私に向かってくル。
『予見の魔法を使え!』
「無理でス! キャパオーバーでス!」
『なら我が受け持つ! やれ!』
了解! 『予見』!
『右来るぞ!』
私はその時、反射的に右腕の爪を差し出していタ。最悪の一手。大鬼の持つ太刀に易々と私の腕は飛ばされル。
動揺している隙に後方から半端じゃない魔力のうねりガ。キングが何か叫んでいましたが脳に入ってこなイ。
ア、死にましタ。
私の左横に凄まじい熱波。だけド、生きていル。気が付くと周りの魔獣も全て消えていましタ。
「どうだったかぁーな。私の死の寸前まで追い込む訓練はぁーあ?」
「やり過ぎだ! こんなんで怪我させたら――」
気持ち悪くない方のお兄さんガ、私の腕を見て絶句すル。
……どうしてくれるんですカ、この腕。
「大丈夫だぁーよ。この人の血を飲めばすぐに治ぉーる」
「あ、そうだな。その手があったか」
お兄さんは鬼化しテ、自分の体を切り血を流ス。ダラダラと垂れる血を強引に私に飲まセ、取れた腕を押し付けるト、腕が繋がっタ。
そこで私の意識は闇に落ちタ。
気が付くト、簡単な小屋の中で寝ていタ。
『漸く気が付いたか』
「遅くて悪かったですネ」
『いや、実際数時間だ、それほどではない。状況の説明は入るか?』
いらないでス。どうせ負けて気絶したんでしょウ。実ニ……情けない話でス。
『そうでもなかろう。あの場にはS級もいたし、A級も多かった。まだ一日目だ。それに……貴様は新たな魔法も取得したであろう』
よく分かりましたネ。色々な魔獣の魔法を得ましたヨ。まあ流石にあの人たちの前で出す気にはなれませんけどネ。
『同感だ。直感には従うべきだ……、誰か来るな』
「あの人たちでしょウ」
私が寝ていた部屋に入ってくル。魔の支配者さんは満面の笑みデ、道化の人形さんは呆れたような表情デ。
「取り敢えず一日目はお疲れさぁーま」
「思ったよりも戦えてて驚いたぞ」
「ありがとうございまス」
「まあ、こんな感じの戦闘訓練でいいかぁーな?」
「はい、お願いしまス」
その後の魔の支配者さんの話でハ、大体二週間ぐらいを目安にして戦闘に慣れるまデ、この特訓を続けるそうでス。毎日これは中々ハードですネ。
結局私ハ、キングとの連携強化と対魔獣の戦闘経験を積んだのに加えテ、道化の人形さんの『鬼化』、魔の支配者さんの『魔獣操作』、ウィザースケルトンの『超コントロール』、大鬼の『狂化』なド、色々な魔法を会得しタ。
もちろんこれ以外にもたくさんの魔法を収集しましたガ。
一番大きかったのハ…………腐竜の『ドラゴンブレス』、ですネ。
これで私の特訓は終わりでス!
★ ★ ★
ガンナーが完成したから俺の特訓が終わり……ということにはならなかった。なんでかって? あのリザさんがえらく興味を示して、別バージョンも作ろうって話になったからだ。
俺? もちろん超乗り気だ。
「これを普通のガンナーとするじゃない? ならやっぱり他の種類も作った方がいいわね」
「そうでしたら……これは割と奇襲用に寄せてるところがあるので、正面から戦える奴でも作りませんか?」
「いいわね!」
ということで構想に上がったのが、このガンナーよりも多く弾を発射するガンナー・改だ。
一発の威力を上げようって話にもなったけど、元々のガンナーの威力が高すぎて威力は十分なんだよね。ということで弾数アップだ。
ただこのガンナーには一つ、難点があった。
「どうやって連射性を高めよう」
「…………分かんないです」
連射性、速射性。弾をガンナーに装填するのは出来るけど、それを発射すると遅い。普通のガンナーが最高速で、それでも一秒程度次の弾が撃たれるまで時間がかかる。
魔法陣に魔力が籠り、それが放出されまた込めるには少しのタイムラグがある。それが約一秒だ。
正直、話にならない。
「そもそもこの固定された魔法陣から弾を発射する点が違いませんか?」
「そうよね……少なくともこの形式じゃ不可能ね」
となるとガンナーの仕組みから作り変えなきゃいけない。想像以上に、超高難易度だ。
ここ数日寝ても覚めてもひたすらに速射性のアイディアを考えてる。このままじゃ何もできないまま特訓期間終わるぞ。
しかし、リザさんには天啓が下りた。長年魔導具を作り続けたその経験と、元々の天才性が捻りだした発想だ。
「ガンナーに魔法陣を縫い付けるんじゃなくて、弾に魔法陣を書けばいいんじゃないかしら」
「というと?」
「弾の後ろの部分を魔鉱石にしてそこに予め爆発の魔法陣を書いておく。そうすれば魔力を込め続けるだけで弾が勝手に飛んでいくわ」
「なるほど。逆転の発想ですね。……それなら、いけるかもしれません!」
小さな弾一つ一つに魔法陣を書くのは不可能じゃないかと思われたが、それはすぐに解決した。
言うなれば型のようなものを作っておけば、弾を押し付けたら魔法陣が印字される。
威力の低さも問題だった。
魔法陣を一枚しか重ねられないため、元々のガンナーより遥かに威力が落ちたが、これもすぐに解決した。
俺の爆弾に応用されてるように火薬を詰めればいい。この二つの問題点なんぞ速射性に比べれば余裕だ。
「……出来たんじゃないかしら」
「出来ましたよ」
ついさっきやった性能試験では破格のデータを叩きつけてきた。これもしかしたら俺たちのパーティーの攻撃力を圧倒的に凌駕するんじゃないだろうか。
一瞬のうちに無数の弾丸が荒れ狂い、狙った木の板は数秒もかからず塵と化した。
流石に言い過ぎた。だが、それほどの威力だった。これは絶対に人には向けられない。
「さあリザさん、名前はどうしましょう」
「そうね……このガンナーには結構機械の仕組みも使ってるし……。機械ガンナー、マシンガンナー……略して『マシンガン』とかどうかしら」
「しっくりきますね!」
「でしょう!」
ここに、破壊の権化、『マシンガン』が誕生した。
俺はガンナー二つ、そしてマシンガン一つ、あとリザさんから手首への衝撃を軽減する黒い手袋を貰い、長い短い研究……いや、特訓期間を終えて地下から出た。連絡ではそろそろ皆帰ってくるらしい。成長具合が楽しみだ。




