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五十六話 『音を置いて』

 ……もう流石に攻撃はくらえませんネ。冗談抜きで死にまス。究極の回復でも若干ダメージは残りまス。



 あの子はもう私を見ていなイ。殺ったと確信していル。



「キング、『黒縛憑依』」

『了解だ』



 部分的ニ、手と足だけが黒狼と化ス。……さア、反撃でス。



「いきますヨ」

『ああ』

「『身体強化』」



 瞬間、走り出す。あえて殺気を出しながら駆ける。疾駆する。



「何っ……!」



 小さく呟きが聞こえタ。そのとキ、不覚にモ、私は満面の笑みでしタ。目を輝かセ、駆けル。



 水竜がこちらを向ク。口が開かレ、水砲がぶっ放されル。But! 私には当たりませン!



「『アクセル(加速)』」



 加速すル。からノ――



「『空力』」



 地面ニ、斜めに透明な足場を作ル。そこに足をかケ、スピードを上げながら横にずれル。ギリギリ、一寸横を水砲が通り過ぎル。



「『脚力強化』」



 さらに加速! もっと速ク! And more! 数十メートルあった距離が縮まってきタ、あと……半分ぐらいですカ。



 音を置き去りにするほど速く駆ける。景色はもう目で追えませン。あるのは前! 彼女のミ!



「『水竜の咆哮』ッッ!」

「……」



 集中――! 前から三本の水砲が放たれル。私の速度と合わせて信じられない速度でス。コンマ一秒も到達までなイ。だガ、関係なイ。



「『テレポート』」

「ぁ」



 視界の中、近距離限定で転移できる魔法。影踏み童子さんの劣化版ですガ、汎用性は抜群でス。僅かな隙間に転移、クールタイムが玉にキズですネ。加えテ――



「『止まレ』」



 怠惰な王さんの劣化版言霊。ほんの一瞬、水砲が停止すル。その瞬間、空中に躍り出ル。



「止まって!」

「『空力』」



 空中でも止まらなイ。最高速に乗りながら空中を足場を作り疾駆すル。



「『渦潮』ッッ!」



 ごうっと音を立テ、彼女と私の間に渦潮が出現すル。さっきは飲まれましたガ……今度はそうはいきませン。邪魔でス。



「『エクスプロージョン』」



 私の持つ限り最大威力の魔法が渦潮に炸裂すル。完全に消滅ハ……しませんでしたカ。まあいいでス、この程度だったら突き進みまス。



 微かに肌を撫でる程度の威力だったのデ、スピードは落ちませン。あと少し――



「とっタ」



 そう小さく呟くト、聞こえたのかヒッと悲鳴を上げル。もう戦意は大分弱いですネ。しかシ、ヒステリックな詠唱が発されタ。



「『水龍喰らい』ッッッ!」



 その言葉と共に三匹の竜が融合すル。これガ……水龍。水竜の咆哮の上位互換ですかネ。水龍ガ、圧倒的な迫力を持って私に食らいついてきタ。なるほド、これが水龍喰らイ……。



 避けられますかネ、キング。



『……厳しいな。速度は確実に落ちるぞ』



 でハ、Cut the (肉を切らせて) meat and cut the(骨を断つ) bones.ってやつですネ。



『意味が分からぬ』



 自分から水龍の中に飛び込ム。体をできるだけ丸めテ――



「『金剛』『氷結』!」



 瞬間、視界が青に染まっタ。強烈な勢いの水が体を叩キ、食いちぎられそうでス。貼り付けた氷が氷解していク、左腕に牙が食い込む感触がしタ。でモ――!



「私が勝ツ!」



 絶対ニ! 何としてモ! 限界超えロ!



 黒狼の爪を水龍の腹に突き立てル。



「Fight、私」



 続く痛みに奥歯を砕きながら力を入れル。



「ここから出セ。私を勝たせロ」



 水龍の腹を引きちぎル。流石に彼女も全力だったみたいでス、荒い息をしテ、信じられないような目をして私を見てル。



 一瞬、目が合いましたガ、容赦はしませン。情? 持つわけないでしょウ。



 鋭利な黒狼の爪ガ、彼女の胸を貫いタ。



 ★ ★ ★



 反撃の時間は僅か一分程度、しかし凄まじい疲労度でス。



『魔法をかなり重ね掛けしたからな』

「えエ、特に足がもう動きませン」



 自分でも信じられないほどの速度が出ましたガ、代償が大きいですネ……。



『しかしあの動きはまさに必殺、隠し技としても十分に使えたな』

「スピード型への転向もありですネ」



 後ろを振り向くト、ラルフと目があいましタ。よかったでス。



 闘技場の上の方から声が響いタ。



「聞こえますかー? ここに第一戦の結果を発表します! 第一戦は……ラルフ君とアリスちゃんの勝利です!」



 わっと観客席の一部が沸く。シン君とアーロンですネ。嬉しいというよリ……ほっとしましタ。



 寄ってくれた女神の片割れさんに肩を借りながら観客席に戻りましタ。

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