五十三話 『剣聖の弟子たち』
「来たる第一戦は……ライト君たちとラルフ君たちのパーティー! 双方、出場者を二人選んで五分後にここ集合!」
戦いの興奮に高揚する。体から溢れ出る衝動だ。
「しゃ! すぐに作戦会議や!」
全パーティーが観客席に戻り、ラルフが宣言する。
五分、短いな、急がなきゃ。
「まずはメンバーだよね」
「せやな。二人までや。希望ある? ちな俺は出来ればあいつとやりたいなぁ」
だろうね。殺気が漲ってる。今すぐにでも暴れだしそう。
「私は誰とでもいいですネ」
「僕も」
「アーロンはどうや?」
「俺……?」
ここでやるなら勇者と。組み合わせ的に次はソロ剣士か……シーロンだよな……。俺はシーロンと戦いたいのか? それとも……まだ、足りなくて負けるのが怖いか?
「あの弟さんのことか?」
「……ああ」
勇者とは、戦えるなら喜んでやる。ただシーロンとは……? 昂っていた衝動が霧散していく。やりたい? それとも……嫌か?
「迷うならやっときなよ」
シンが呟く。ギリギリ聞こえるような大きさで。
「どうせ勝つのは俺たちだ」
シンが自信気に笑う。その瞬間、脳がクリアになる。意識が塗り替わる。
そうだな……これはタイマンじゃない。チーム戦だ。
覚悟? そんなもんは決まってない。トラウマを掘り起こされるようで心臓が握りつぶされる。
だが、これを潰さなきゃ俺は先へと進めない。俺が負けても、仲間がいる。なら、やれ。
この話し合いで初めて前を向く。
「俺は……第二試合で、やりたい」
「そうか」
「了解」
「ナイスな決断ですネ」
「なら、どっちがやる?」
「シーロンは多分剣を使う」
「「あぁ?」」
あいつのタイプは多分身体強化を使った正面突破。
「俺は剣を止められない。だから、個人的な意見としてはシンのナイフが使いたい」
「せやったら俺とアリスが勇者とでええ?」
「「了解」」
「頼む」
★ ★ ★
アーロンとシンを観客席に残して、競技場に降りる。あっちは……魔法使う嬢ちゃんか。
「白黒つけられそうで楽しみだよ」
「ライバル心持ってんのお前だけや、お子ちゃまやな」
やれやれと大袈裟に身振りをする。煽りスキルは我ながら際立ってんな。
「まあ俺も? お前を合法的にぶっ飛ばせそうで楽しみやわ」
「僕もだよ」
その言葉を皮切りに背を向け、アリスの方に戻る。
「悪いなぁ」
「大丈夫ですヨ。それよりも……始まりまス」
「双方、準備はいいかな! 降参、もしくは完全なる戦闘不能にすることで勝利! 準備は!?」
軽く頷く。わくわくしてきたで。
「では――決勝戦第一試合」
殺試合、我ながらしょーもないダジャレやな。
「スターッッット!」
合図と同時に駆ける。
★ ★ ★
『聖剣』、勇者だけが持つことのできる十二魔剣の一つ。その効果は、軽い傷と体力を継続的に回復し、身体能力を上げる。非常にシンプル、故に強い。
勇者の方が若干足速いなぁ。身体能力はあいつの方が上やな。
「やけど、剣技では負けへん」
あと数メートルやな。
腰に下げられている剣の柄に手をかけ、片足を思い切り踏み込む。一撃で葬るイメージで右手に力を入れ、刃を引き抜く。刃が鞘に沿って超加速し、小気味よい音と共に抜刀される。何千回と繰り返した動き、自信はあるで。
耳をつんざく金属音。通りすがりに抜刀した刃同士がぶつかり合う。
すれ違って数歩の所で双方足を止め、後ろを振り向く。
「一合目は俺の勝ち、やな」
「……くそったれ」
勇者の頸筋には、一筋の赤い線が刻まれていた。
どちらともなく走り出す。横目で嬢ちゃんにアリスが向かってくれるのが見えた。サンキュやな。
振りかぶった剣同士がぶつかる。最初は準備運動やな。簡単な剣閃を描く、もちろん殺す気やけど。
数合いが終わり、勇者が下がる。
「ラルフは魔剣使わないでいいの?」
「なんで持ってること知ってんねん。きもいな」
「有名だし。あと僕……そろそろ本気で殺るよ」
「わざわざ魔剣持ったらーちゅうアドバイスかいな。優しいこった。やけど残念、俺は……魔剣使わんでもお前やったら余裕や、っつってんねん」
「それはどうも」
瞬間、勇者の体が揺らぐ。あかん、思ったより速い……!
「死んで」
「危ないわ!」
下からの剣閃を咄嗟に柄で受け止める。
あっぶな、一瞬遅れたらゲームオーバーや。しかも……重い!
「まだまだまだ!」
「つうッ!」
流れるような十字切り。ぎりっぎりで剣を合わせんねんけど……あかん、重いって!
体が軽く宙に浮く。着地するより早く、剣技最速の突きが放たれる。しかも連続。俺死ぬんとちゃう?
「って! アホか俺!」
剣の腹で無理やり止める! 反動で後ろに行って距離を取れ!
すかさず距離を詰められ、斬撃が視界を埋め尽くす。全てワンテンポ遅れながらも必死に守る。しかし、少しずつ切り傷が増えていく。
「やっぱり僕の方が格上だね」
「何やて?」
「防戦一方の君に、勝ち目はない!」
「一刀流やったら、そうやな」
たまらずインビジブルを抜く。ただの剣としてやけどな。やっぱりインビジブルソードは、奇襲用やろ。俺の本領は、二刀流や!
「確かにお前の方が速いし、重い。でもな……剣技は、俺や」
「は?」
「双流剣術『縦横円斬』」
凄まじい速さの前回転、距離を詰めてから至近距離での横薙ぎ!
思い切り前方に跳ぶ、せやから切ると同時に後ろにいる。反撃は不可能。
「ツッ!」
信じられないような目つきで俺を見る。そらそやろ。今までずっと防戦やった奴がいきなり自分の頸を切り裂いていくんやで。
思わず首筋を押さえている、指の隙間から血が垂れる。
「今の殺す気やったんやけどなぁ。見た? これがホンモンの剣、ってやつや」
「この野郎……!」




