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四十四話 『火蓋は切られた』

 たったの金貨四枚で借りられた飛竜は速かった。が、時間は……。



「今何時や!?」

「十七時五十三分」

「着くか!?」



 飛竜が可哀そうになるレベルで全力で飛ばしている。



「着陸してる暇はないね」

「そのまま突っ込むん?」

「それは処刑されても文句言えませんヨ……?」

「重力魔法で飛び降りよう」

「「「それだ!」」」



 今の時間は……五十六分三十秒。ベルサイユ宮殿は……。



「見えたで! あと数分や!」

「間に合う!?」



 もし俺が魔法の調整をミスったら全員死亡!

 ヤバすぎる賭けだな!



「飛び降りろっ!」

「「「了解!」」」



 俺の合図で飛竜の背から躊躇なく飛びだす。

 ちょっと俺に信頼預けすぎじゃない?



「近づくまでは直滑降で!」

「了解!」

「あと建物の中にも重力で入り込むよ!」

「地面に浮かないでアーロンが持ってくってこと?」

「ああ!」



 体に物凄い風圧がかかる。

 重力を体感している。

 今俺を加速させろ。



 猛スピードで落ちてる(重力を体感してる)今なら……、意味が分かる。

 重力がかかってる今の俺を、更に加速させるイメージで!

 使え! 練習しただろっ!



「『グラビオル』ッッッ!」



 魔法を発動させる。

 その瞬間、『プレッシャー』とは比較にならない程の重力がかかる。



「「「うあぁぁーーっ!」」」

「アーロン!?」

「加速してんで!?」



 方向を……変えろ! 上方向!



「ぐぎゃっ」

「つぅう!」



 痛ってぇ! 扱える重力の量が多すぎて制御が効かん!

 流れるように……宮殿の入口へ!



「アーロン!?」

「このスピードで突っ切んの!?」

「仕方ねぇだろ!」



 鍛えてもギリギリの動体視力で障害物をよけ、猛スピードで突き進む。

 騎士たちが愕然としてたな。



「あの部屋でス!」

「もう少し!」



 やべぇ! 扉が閉まる!



「突っ込めアーロン!」

「もちろんだ!」



 閉まる扉の隙間を潜り抜け……強引に着地! 地面に叩きつけられる。



「がぁっ!」

「痛って!」

「きゃァ!」

「つーっ!」



 めっちゃ痛いけど……何とか間に合ったか。



「皆無事?」

「アーロン……」

「荒すぎるやろ……」



 改めてゆっくりと辺りを見回す。流石宮殿なだけあって別世界のようだ。

 と、そこで見知った顔を見つけた。

 ラルフとあっちも見つけたようだ。



「げ」

「うわっ」



 双方顔をしかめる。

 相手は後ろに女の子を何人も連れながらこっちに向かってくる。



「随分野蛮で美しくない登場だね。目立とうとするのは早くない?」

「黙れハーレム野郎」



 王国で別れたと思った、クソ勇者だった。





「えー、時間になりましたのでここで締め切らせていただきます」



 会場内に魔法で拡声されたアナウンスが響く。



「ああ。間に合っちゃったんだね」

「うちの()()()魔法使いのおかげでな」

「まるでこの子たち(ハーレムメンバー)が優秀じゃないみたいだね」

「どうせ顔で選んでんだろ。残念、うちの魔法使いの方が可愛いな」



「あのー、そこのお二方、所定の位置にお戻り下さい」



 注意されちゃったんだが。



 ★ ★ ★



 会場の照明が落とされ、中央にはカリスマを纏ったような老婆が現れる。



「私はエリザベス2世。現英国女王でございます」



 会場から大きな拍手が鳴り響く。



「女王ってこんなフットワーク軽いのか?」

「政治に関係ありませんよネ……」



「今宵は沢山お集まりいただき、光栄です。どうぞ、長い話は抜きにして、素敵なディナーをお楽しみ下さい!」

「「「おおおーっ!!」」」



 いや話短っ! もうちょっとなんか無いの!?



 女王の指パッチンと共に何もなかったテーブルに沢山の料理が並べられる。

 魔法か!? すげー!



「もう食べていいのか?」

「よっしゃ! 食うで!」



「ライト様、あーん」



 後ろで忌々しい声が聞こえてくるが無視だ無視。



「ラルフ! 料理取りに行こうぜ!」

「せや! まずは肉からやろ!」

「シン君。私もあーんしましょうカ?」

「いや、普通でいいよ……」



 アリスがシンをからかっているのを遠巻きに見ながら、目の前の料理を食すとしよう。



「このステーキうめー! 厚くてうまい!」

「アーロン! こっちのソーセージとやらも絶品や!」



 どれどれ~?

 んー! プチっと弾けて肉汁が! 最高かよ!



「こっちにはピザとか!」

「こっちはパスタや!」



「「美味しー!」」





「あー食ったな、アーロン」

「全部絶品だったねぇ」



 あれは……ワインか。

 本当はニ十歳からだけど……まあいいか。



 なんか頭に靄がかかったようでいい気分っと。薄ら笑いが収まんねー。

 あ、目の前を妖精が……。あっちには師匠もいるじゃんか。

 丁度いい機会だ~。お祝いしよう~。



「ラルフ~、あれも飲んでみない?」

「ええなぁ~。甘そうや」



 あれ? 栓が開かない……。

 二人がかりで力いっぱい栓抜きを使うと、シュポンっといい音を立て、栓が抜けた。

 ブドウの豊潤な香りがする。

 グラスに注ぎ、乾杯、とやろうとすると――



「『ヒール』!」

「あ?」

「ほえ?」



 アリスが回復魔法を唱えた。



「二人とモ! 何あっさりとかかってるんですカ!」



 その声に、段々と意識がはっきりとしてくる。

 あれ? 俺今……。



「っ!」



 勢いよくグラスを手放す。あれ!? なにさらっと法律破ろうとしてるんだ!?

 ラルフも覚醒したようだ。驚愕の表情をしている。

 さっきは明らかに精神状態がおかしかった。なんだ?



「なんか薬が入っていまス! この特訓会は危険――」

「レディース&ジェントルマーン!」



 会場の照明が落ち、女王の椅子へとスポットが当たる。

 しかし、そのことに反応しているのは半数ほどだ。

 他は……明らかにまともじゃない。



「今宵の祝宴は楽しんでいただけただろうか。ぜひ私の前座になってくれることを切に願う――」



 この狂人に誰一人として動かない。いや、動けない。



「さて、今宵、皆様には華麗なるショーをお見せいたします」



 シルクハットを被った異質な者が女王の肩に手を乗せる。



「何してる?」



 一気に会場内に緊張が走る。

 女王に手を掛けるだと? 遊びじゃすまないぞ?

 そして女王は……寝てしまっているのか目を覚まさない。



「私の名は怪盗アルセーヌ……。ぶふっ。……今宵、女王は頂いた」



 今自分で吹いたよな? 

 しかも怪盗のところめっちゃ棒読みだし。



 そしてその人物はマントを翻して壇上から飛び去った。



「……………………」



 本当にただの怪盗か? だが……とりあえずツッコミを。



「いや追えぇぇ!」

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