ミッション・インポッシブル
『緊急クエスト:二時間以内に三千体の魔物を討伐せよ(0/3000)』
状況からいって、この魔物の群れを相手にしてクリアするクエストで間違いない。
しかし、二時間で三千体だ。
「これ、クリアは無理じゃない?」
優斗の顔が引きつった。
これまで優斗は、一日に千体の魔物を討伐した経験がある。
あれだって、体には相当負担がかかっていた。
それの三倍である。
しかも時間は二時間と恐ろしく短い。
1分あたりに25匹も討伐しなければいけない計算である。
刀では到底クリア不可能だ。
優斗は即座に、刀を用いたクエスト攻略を諦めた。
しかし、クリアそのものは諦めない。
辛うじてクリア可能な方法は、魔術だ。
とはいえライトニングで一度に倒せる魔物などたかが知れている。
「…………いや、可能性はないこともない……かも?」
魔物が外壁を攻撃する。
断続的に揺れる外壁の上で、優斗はスキルボードを手早く操作する。
いつ外壁が崩れるかはわからないが、悩んでいる時間は一秒もない。
優斗はまずインベントリに入っていたアイテムを二つ取り出した。
一つは宝箱から手に入れたネーレイデスの杖。
もう一つは、『就職書<魔道士>』だ。
優斗は杖を脇に抱えて、就職書を開く。
「就職希望――魔道士」
この就職書を使えば、剣士でなくなるかもしれない。
あるいは使ってもなんの効果もないかもしれない。
そんな可能性は一切考慮せず、優斗はなんのためらいもなく就職書を使用した。
この状況を打開するために、出来る限りを尽くす。
優斗の頭にあるのは、それだけだった。
就職書が消えると、優斗は素早くステータスを表示する。
自分の職業欄を見た優斗は、目を丸くした。
「えっ? あ、あれ? なんで魔道士じゃないの?」
>>職業:剣士→魔剣士
優斗の職業が、剣士から魔剣士に変化していた。
この職業は噂でも流れていない。初めて耳にする職業だった。
「剣士と魔道士が重なって、魔剣士になった? ということは、他の職業も重なると新しい職業が……って、いまはそれどころじゃない」
分析を始めた思考を、優斗は頭を振って切り替える。
魔剣士になったことで、マイナス補正が付いていたスキルが、プラス補正に変化した。
プラス補正はそのままだ。
剣士のデメリットが、すべて打ち消された形になった。
続いて優斗は、スキルポイントを魔術につぎ込む。
>>スキルポイント:15→5
>><雷撃Lv2>→<雷撃Lv3>―< >
すると、ライトニングの横に空白が出現した。
「ん、なんだろうこの空白? ツリーが伸びてるってことは、覚醒スキルの出現? いや、でも前は『???』だったな……」
覚醒スキルで魔術が大幅に強化されるならば、願ってもないことだ。
だが、本当に覚醒しているのかが優斗にはわからない。
空白の出現に困惑しつつも、優斗は何気なくその空白に触れた。
すると、画面上に新しいウインドウが出現した。
『取得する中級魔術を選択してください』
『雷帝乃弓 驟雨雷霆』
「なにこの魔術!? 全然、聞いたことがない……」
優斗は頭を抱えた。
魔術は発動時に、魔術名を口にする。そのため、クロノスでは覚醒スキルも含めた魔術の名称がある程度広まっている。
ライトニングを覚醒させると、優斗はライトニングボルトが現われると考えていた。
だが実際に選択肢に表示されたのは、ジグショットとサンダーボルトだった。
いずれもクロノスでは情報が出回っていない魔術である。
「両方は……取れないか。こうなったら、直感で選ぶしかないか……」
いずれも中級魔術だ。いずれもライトニングよりも威力が高い可能性がある。
それでも、より良い魔術を選びたい。
優斗は名前のイメージだけで取得する魔術を決めることにした。
「…………よしっ。サンダーボルトに決めた!」
名前が雷帝乃弓より範囲攻撃っぽいという理由で、優斗は驟雨雷霆をタップした。
これだけ魔物が密集しているのだ。
単体攻撃魔術よりも、範囲攻撃魔術の方が効率が良い。
覚醒スキル取得のための5ポイントを消費して、優斗は新たな魔術を入手した。
>>スキルポイント:5→0
>>< >→<驟雨雷霆Lv1>(+)NEW
魔術を入手すると同時に、優斗は杖を前に構えた。
周りでは既に、外壁に登った冒険者たちが魔物の群れ目がけて魔術を放っていた。
攻撃魔術が次々と魔物に着弾しているが、魔物が減っている様子はちっとも確認出来ない。
というのも、魔術士たちが開けた穴が、魔物によってすぐに埋まっていくためだ。
ここに優斗が加わっても、焼け石に水ではないか。
そのような疑念は、優斗の集中によって瞬く間にかき消された。
「すっ……ふぅ~~……」
テミスから教わった呼吸法を用いて、優斗は集中力を高めていく。
市民の悲鳴。冒険者の怒号。魔物の雄叫び。外壁の揺れ。
すべてが優斗から遠ざかる。
特技・集中――全身全霊。
特技【集中】により絞られた魔力が、ネーレイデスの杖めがけて一斉に流れ込む。
杖の先端に付いた紫色の宝石が、直視出来ないほど発光する。
体にあるすべての魔力を杖に注いだ優斗は、ぱっと瞼を開き眼下を見下ろした。
「――サンダーボルト!!」
マガポケにて「劣等人の魔剣使い」が更新されました。
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