森へ
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「――えっ、テミスさん?」
「なんで、お前が……」
現われたのは、孤狼のテミスだった。
テミスは剣士だった。優斗と対峙したとき、彼女は剣士スタイルで戦っていた。
だから優斗は、テミスが部屋を間違えたのではないかと考えた。
その考えは、しかしギルド職員によって否定された。
「大変お待たせ致しました。ユートさんのパーティにギルドが推薦いたします、盾士のテミスさんです」
「…………」
「…………えっと」
優斗とテミスの間に、気まずい空気が流れる。
その雰囲気に気がついたか、職員が慌てたように早口でまくし立てた。
「テミスさんはまだDランクですが非常に貢献度の高い冒険者です。もうすぐCランクと目されておりましてその実力はギルドでも折り紙付きでございます!」
「だったら、なんでオレはいつまでもCランクにならねぇんだ?」
「えっとぉ、それわぁ……」
テミスの切り返しに、ギルド職員が言葉に詰まった。
部屋を沈黙が支配する中、一番先に動いたのが、優斗だった。
「テミスさんが手伝ってくれるんですね! とても心強いです!」
「別に、まだ手伝うって決めたわけじゃ――」
「いやあ、ギルドの助っ人がテミスさんで良かった! すごく嬉しいです!」
「っておい、人の話を聞け!」
「テミスさん、宜しくお願いします!」
「痛て、痛てて!!」
優斗がテミスの手を取り、ブンブンと腕を振る。
腕を無理矢理振られたテミスが尻尾をぴんと逆立てた。
「まぁた始まったな……」
「です……」
そんな二人を眺めながら、ダナンとエリスの二人がため息を吐いたのだった。
○
ギルドとの契約を済ませたあと、優斗らは大通りをまっすぐ南下して、クロノスの南門を通過した。
巨大な外壁を出ると、広大な平野が広がっている。
その先には、鬱蒼としたクロノスの森がある。
優斗を先頭にして、一同はクロノスの森を目指す。
「…………聞かねえのかよ?」
森を目指して歩いていると、テミスがそう呟いた。
その言葉に、優斗は首を傾げる。
「……なにを、ですか?」
「オレが盾士として紹介されたことについてだよ」
テミスがぶっきらぼうに言った。
現在テミスは、これまでと同様にハーフメイルと長剣を装備している。
しかし、これまでと違い彼女は左手に盾を携えていた。
「じゃあ聞きますけど――」
「お、おう……」
「テミスさんは50ガルドパンで良いですよね?」
「…………はっ?」
「50ガルドパンですよ。すごくボリュームがあって安いんです!」
「おーいテミス。無理しなくて良いぜ。こっちは肉を用意してっから」
「ですです」
「くっ……」
50ガルドパン仲間を増やせると思い優斗は話を持ちかけたが、そのせいで別勢力がテミスの囲い込みに動き出してしまった。
(ここは早く、テミスさんを取り込まなければ!)
「なんの話だよ……」
「昼食の話です」
「そんな話はしてねぇよ!」
テミスが牙を剥いた。
先ほどまでは借りてきた猫のようだったが、優斗は元気のないテミスが〝らしくない〟と感じていた。
少し元気が出るように、わざと巫山戯た会話を振ってみたが、予想通りの反応が返り、優斗は思わず笑みを浮かべる。
「……なんだよ、気持ち悪ぃな」
「すみません。盾士についてですが、僕はなにも聞きません。役割が変わったことで色々大変でしょうけど、力を合わせて頑張っていきましょう!」
「…………それで、いいんだな?」
「はい」
テミスの言葉に、優斗は間髪入れず頷いた。
テミスが盾士になったことは、意外だった。
きっかけは間違いなく、職業項目の出現だ。
ステータスに職業が出現した日、優斗らより僅かに早くテミスもステータスの鑑定を行っていた。
ステータスの紙を見て奥歯を噛みしめるテミスの姿を、優斗はいまでもハッキリ覚えている。
もし優斗がテミスと同じ立場だったら……。
本来の役割とは、まったく違う職業に就いてしまっていたら、優斗もテミスのように落胆していたに違いない。
同時に、神に役割変更を強制されたことで、途方に暮れていたはずだ。
そんな相手に、尋ねる言葉を優斗は持ち合わせていない。
いまはきっと慰めだって、胸に刺さるから……。
「今後の動きを確認します。まずダナンさんが索敵を行い、魔物がいる場所に向かいます。魔物を発見し次第、テミスさんが挑発スキルで魔物を釣ってください。魔物がうまく釣れたら、一斉に殲滅します。もし魔物が釣れなくても、僕がきっちりフォローします」
「お、おう……」
優斗の説明に、テミスが顔を強ばらせた。
それはこれまでの強気なテミスとは真逆の表情だった。
しばらく歩くと、優斗の袖口がくいくいと弱く引かれた。
「ユートさん、ユートさん」
「ん?」
振り返ると、エリスが口の横に手を当てて、優斗の耳に近づくように軽く背伸びをした。
しかし身長が全然足りない。
エリスの頭に鎮座するピノが、優斗の耳をくすぐった。
「テミスさんは、大丈夫です?」
「……というと?」
「テミスさん、前にユートさんに決闘を仕掛けた、です。負けた腹いせに、なにか起こすかもしれないです」
「それは大丈夫だよ」
エリスの言葉に、優斗は苦笑した。
エリスは以前、冒険者仲間に裏切られた。
インスタンスダンジョンに置き去りにされて、殺されそうになった。
そのため、印象の悪い冒険者に不信感があるのだ。
しかし、態度が粗忽で喧嘩っ早い冒険者が、必ずしも問題を起こすわけではない。
もしそのような冒険者が問題を起こすのなら、クロノスは今頃犯罪者都市と呼ばれている。
冒険者の大半は、粗忽で喧嘩っ早いものなのだ。
優斗は先日テミスと街中で会話を行った。
その雰囲気からいって、優斗はテミスが決して悪い人物ではないと感じている。
エリスの不安はただの思い過ごしだと、優斗は自信を持って言えた。
「ふむぅ……」
だが、優斗の言葉でもエリスは納得してくれなかった。
それだけ、エリスがかつての仲間から受けた心の傷は深いのだ。
しばらく進むと、やっと森の入り口に到達した。
そこから優斗らは獣道を選び、森の中に足を踏み入れる。
クロノスの森は、動植物に恵まれた豊かな森だ。
クロノスの街からは狩人が、度々この森を訪れ、その恵みに預かっている。
店で販売されている回復薬の原料は、大抵がこの森の植物を使っている。
また数は少ないが、森に生息する動物の肉が、食肉店に卸されている。
森の奥には美しい水源があり、この水がクロノスの一区画に引かれているという。
この森はクロノスにとって、無くてはならない存在なのだ。
獣道をしばらく歩いていると、ふと前を先行するダナンが足を止めた。
それを合図に、一同は足を止める。
「……おかしいな」
今週はマガポケで連載している「劣等人の魔剣使い」の更新をお休みさせて頂きました。
来週は更新がありますので、少々お待ちください。
また拙作『生き返った冒険者』が書籍化されます。
レーベルはドラゴンノベルスさん。
発売日は2月5日となっております。
こちらもどうぞ、宜しくお願いいたしますm(_ _)m




