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020 『始まりの箱庭:249.6.0』




 北の森のセーフティエリアで行われたボクの生産光景披露は見事なくらいにその効果を発揮した。

 あれからすぐにLiveで撮影されていた動画が掲示板にすぐさまUPされ、多くのスレに誘導URLが貼り付けられものすごい数の視聴数をたたき出していた。

 その結果、掲示板でもボクの話題一色というほどに盛り上がりを見せていた。


 もちろんいいことばかりでもない。

 素直な称賛もあれば、あの生産光景自体が不正の結果なのでは、という発言もあったりもした。

 だがこれだけ大々的に行われ、大きな騒ぎとなっていてもし本当に不正をしているのなら運営が黙っているわけがない。

 そしてそんな状況でこれほどの騒ぎを起こすようなことをするメリットも少ない。まぁ愉快犯という線も考えられるが。

 そういった推測や現状でもボクがあの時作成したアイテムが『破砕の鐘』のメンバーが展示モードで露店に飾っている結果からして不正はなかったという結論に達している。

 不正の結果として作られたアイテムであった場合、不正をしたプレイヤーだけではなくアイテムも削除されるというのはわかりきっている結果だからだ。

 特に今回のようなどうみても序盤ではあるまじきレベルの性能を持っているアイテムだとね。


 ちなみにあの時ボクが作成したアイテムはこちら――


 ====


 アイアンハンマー

 基本攻撃力:502

 耐久:S+


 総合品質:A+


 追加効果:

 基本値増加/S+ 耐久増加/A- 衝撃増加/A+ 光魔法増加/A 命中増加/A+

 アーツ補正増加/B 加速補正増加/B


 ====


 『破砕の鐘』への今回の報酬でもあるので、リーダーのネネネさんの使用武器で作ってみた。

 攻撃力だけで見るなら双子コンビの武器よりも頭1つ抜けている数値だ。

 だがこの『アイアンハンマー』は他の武器より重く扱いづらく、一撃に念頭を置かれている武器なので他の武器より頭1つ抜けていてもバランスは取れている。

 それでも基本攻撃力が500を超えているのは掲示板でも大きな話題になっているほどだけど。


 ちなみにネネネさんが使用していたトッププレイヤーでも上位といえる武器がこちら――


 ====


 アイアンハンマー+2

 基本攻撃力:89+8

 耐久:G+


 総合品質:G


 追加効果:

 基本値増加/H+


 ====


 基本攻撃力の値だけみても5倍以上違うし、追加効果なんて見る影もない。

 これで現状のトッププレイヤーの上位武器というのだから、ボクの作るアイテムがどれだけおかしな性能を持っているのかがわかるというものだ。


 掲示板でもこれだけの性能を持った武器が齎すだろう戦果や、一体いつになったらボク以外の生産プレイヤーがこの域にまで届くのだろうかといった推察が話されている。

 その他にも現時点での予想取引価格というのも話されている。

 相場スレや鑑定スレなどでも新規アイテムの価格の目安としてよく使われているのだが、ボクも『破砕の鐘』と今後付き合うにあたって販売価格というのは知っておきたい。

 もちろんボクの言い値でも問題はないだろう。現状ではボクしか作れないものなんだから。

 だがこういったものは今までも価格の目安を作ってきたスレを利用した方が問題も少ない。

 スレで予想取引価格の話題がでなければボクが話題を投下するつもりでいたが、それは杞憂で済んでいる。

 そして結果としてはじき出された価格がこれから『破砕の鐘』にアイテムを降ろす際の基準となるのだ。


 まぁ当然ながら目玉が飛び出るような価格ではあったが、『破砕の鐘』のメンバーも流せない涙を流しそうな勢いで頷いてくれた。

 フル装備をボクの装備で整えるにはまだまだかかりそうだが、あと1つくらいなら頑張れば払えるだろう。何せ彼女達はトッププレイヤーなのだからね。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 ボクとの契約で『ピタ』の中央噴水の前に展示モードで『アイアンハンマー』を披露している期間はゲーム内時間で3日間。

 その間は『破砕の鐘』は数人交代で露店を開き続ける。

 3日間も拘束してしまうけれど、その結果として破格の装備が手に入り、購入権を得られるのだ。『破砕の鐘』も全員が諸手を挙げて了承してくれている。


 試し切りならぬ試し叩きを行った時に、旧武器では倒すまでに十数発かかったのが一撃で倒せたことも彼女達の首を縦に勢いよく振らせた一因だろう。

 数値上では5倍でも実際のダメージではそれ以上の差になるのはよくあることだ。

 特に『ラビリンス・シード』では追加効果や『スキル』による計算式への影響が大きい。

 まぁそれでも武器の基本攻撃力は重要だけどね。


 ちなみに展示モードで開かれている露店の前には最近作られだしたプレイヤーメイドの『黒板』が看板として置かれている。

 この『黒板』は『グラフィックシード』の『ギミックシステム』を活用して作られたアイテムで、戦闘には一切役立たないが様々な活用方法がある日用品アイテムだ。


 『グラフィックシード』の『ギミックシステム』はアイテムに様々な仕掛けを施すことが出来る。

 『黒板』を例に取れば、『描画』の『ギミックシステム』を使って対応する『描画方式』の『描画領域』を定めることにより、自由に絵を描けるようになる。


 だが残念ながら総合品質の低い『グラフィックシード』は使える容量が低い。

 『ギミックシステム』は容量を大きく使うため、複数の複雑な『ギミックシステム』を搭載したアイテムを作ろうとすると総合品質の高い『グラフィックシード』を使わなければ不可能となる。

 『グラフィックシード』も総合品質の高いものを使おうとすると『エディット・グラフィックシード』のLvを上げなければいけないのでしっかりと『スキル』上げをしなければいけない。


 だが日用品アイテムだけではなく、装備などにも『ギミックシステム』は搭載できる。

 刃の縦回転する――チェーンソーや、穂先が回転する――ドリルなども作成できてしまうのだ。

 もちろんずっと回転するのか任意なのかも細かく設定できるし、空中分解して変形合体する装備なども作れてしまったりする。

 自由度は半端じゃなく高いのだ。

 まぁ現状では装備に『ギミックシステム』を使用するのは容量の関係上不可能なんだそうだけど。

 この辺はアリシーにとても期待している部分だ。

 総合品質の高い『グラフィックシード(空)』はボクがいくらでも用意できるしね。


 ボク作の『アイアンハンマー』が展示されている露店にはたくさんのプレイヤーが群がっているからわかりやすいけれど、近くまでいかないと『鑑定証』は確認できない。

 だが『黒板』には『鑑定証』のデータが全て書き出されているのでそっちを見てもわかるようになっている。

 看板代わりにもなっていたりもするし、この『黒板』の利用範囲はとても広い。

 そのうち『黒板』以外にも色々な『ギミックシステム』を使ったアイテムが出てくるだろうからとても楽しみだ。

 総合品質の高いアイテムを作り出せるボクだけど、こういった発明というか、楽しいアイテムを作れる能力はもってないからね。

 まぁやって出来ないことはないだろうけれど、他のプレイヤー達が頑張るだろうからボクは手を出す気はない。


 『うさたんキグルミパジャマ』の『認識阻害/C+』の効果でボク達をボク達と認識できないのを利用して、たくさんのプレイヤー達が群がっている『破砕の鐘』の露店を遠目に眺めてからボク達は『ピタ』を後にし、狩りへと向かう。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 『ラビリンス・シード』の現実時間でのプレイ時間制限である7時間まで実はあとちょっとしかない。

 ちょくちょくログアウトしての休憩も挟んでいるので、ゲーム内時間ではすでに3日目の深夜であり、このままいけば4日目の朝を迎える前にタイムアウトだろう。


 なのでボク達は本日の『ラビリンス・シード』のハイライトを飾るためにちょっと急いである場所に向かっている。

 そこは北の森からさらに奥に進み、森を抜けると見えてくるところだ。


「兄様、あれですわ!」

「おーこれが、『壁』かぁ」

「サイトの情報通り、そのまま進んでいけそうな感じですね」

「うん、でもほら」

「通れませんわ。ちゃんと壁ですのね」


 ボク達が辿り着いた場所は『壁』。

 しかしこの『壁』はその先もずっと続いているような景色が描かれており、そのまま進んでいけそうな気さえするほどだ。

 だが実際にはこれ以上は進めず、システム的にもぶつからないようになっている。

 上空も同じような感じで『壁』があり、実はある程度の高度以上からも進めない『壁』が存在している。

 これはシステム的な限界位置、では決してないのだ。


 実はプレイヤーが最初に降り立つ『ピタ』を含むこの領域――エリアは四方八方全てを『壁』に囲まれた形状をしている。


 正式な名称は『始まりの箱庭:249.6.0』。


 そしてこの『ラビリンス・シード』の世界は『始まりの箱庭:249.6.0』のような、無数のエリアが連結された世界でもあるのだ。

 無数のエリアが連結した世界はよくある通路と部屋で構成された迷宮のよう。


 ボク達が目指す場所もエリアとエリアを連結するための通路。

 そしてその通路を通るには立ちはだかるボスを倒さなければいけない。


「最後に『ピタ』の中央石碑を確認したときはまだ討伐名簿が空欄だったし、ボク達が1番乗りだね」

「はい、兄上。俺たちならば倒せるでしょう!」

「当然ですわ! 私たちには兄様がついていてくださるもの!」


 『ピタ』のような大き目の街の中央部にある石碑には、エリアとエリアを連結する通路を守るボスを討伐した証を示す討伐名簿が存在する。

 エリアとエリアを連結する通路を守るボスは一度倒されるまではかなり強く――高難易度モードに設定されており、普通に倒すには適正レベル以上のパーティを複数――レイドパーティが必要なエリアボスだ。


 ボク達が向かっているエリアボスもまだ倒されていないため、相当な戦力が必要ではあるがそこはボク製の装備に身を固め、『スキル』Lvをガンガン上げてきた双子コンビがいる。

 ボクだって総合品質の高い消耗品アイテムをふんだんに使って彼らの補助を行える。


 ボク達の見立てではたった3人でも、高難易度モードのエリアボスを倒すことは出来るだろうという結論に達しているのだ。

 まぁ倒せなくても別に死に戻りするだけなので、再挑戦は何度でも出来る。

 ギリギリの戦いだったらそのまま再挑戦って感じだけど、無理そうなら素直に『破砕の鐘』に協力を申し出るつもりだ。

 どうせなら最初は3人で挑戦してみよう、という記念的な挑戦でもあるので、結構気楽なものである。


「絶対倒しますわよ、ナツ!」

「もちろんだ! 初の討伐名簿を飾るのは兄上の名前なのは決定事項だ!」

「やりますわよ!」

「応!」


 ……お気楽モードなのはボクだけだったのかもしれないけれどね。



らびしーまめちしき


・基本値

武器、防具にはそれぞれ基本となる値が存在する。

この値の大きさにより、基礎性能が決まる。

手数の少ない武器や、防御面積の広い防具は数値が大きく設定されている。

逆に手数の多い武器や、防御面積の少ない防具は数値が小さく設定されている。

だが、基礎となる値でしかないため数値そのままのダメージが出るわけではない。


・ギミックシステム

外見だけでなく、様々な仕掛けを施せるシステム。

種類もかなりの数に及び、詳細部分の設定まで本当に細かく出来る。

だがその分必要となる容量が多いため、総合品質の低いグラフィックシードでは大したギミックは搭載できない。


・エリア名称

ラビリンス・シードはエリアとエリアが連結された世界である。

それぞれのエリアには個別の名称とワールドグリッドが割り振られている。

プレイヤー達の初期位置である『始まりの箱庭:249.6.0』のように、個別名称、ワールドグリッドと表記される。


・エリアボス

ラビリンス・シードはエリアとエリアが連結された世界である。

エリアとエリアを連結する通路を守るボスをエリアボスと呼び、一度倒されるまでは高難易度モードという全てのステータスが高く設定されたモードになっている。

高難易度モードのエリアボスを倒すと、そのエリアの街などの中央に設置されている石碑の討伐名簿にパーティ名が載る。

この名簿は初討伐限定であり、サービス終了まで残り続ける英雄の記録である。


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