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冤罪で追放された悪役令嬢ですが、え? 配信? 何それ美味しいの?

冤罪で追放された悪役令嬢ですが、廃ダンジョンをドールハウス感覚でリフォームして引きこもります。え? 配信? 何それ美味しいの? (5)

作者: 伊部 なら丁 with Gemini3
掲載日:2026/02/16

【冤罪で追放された悪役令嬢ですが、え? 配信? 何それ美味しいの?】シリーズ No.5

「外の空気が吸いたい」


完璧な寝室で惰眠を貪ること数日。人間とは贅沢な生き物で、今度は「野生の息吹」が恋しくなってきた。しかし、重い鉄の扉を開ければ、そこには血走った目の騎士団や、私の税金をむしり取ろうとする公務員たちが待ち構えている。面倒くさい。実に面倒くさい。そこで私は閃いた。「外に出るのが嫌なら、中に『外』を作ればいいじゃない」。マリー・アントワネットもびっくりの発想だ。場所はダンジョン第5層、私の「裏庭農園」に隣接する未開拓エリアに決めた。


インドア・ソロキャン、開催。


スキル『ドールハウス』発動。まずは殺風景な石床を「ふかふかの天然芝(虫除け加工済み)」に張り替える。天井は「プラネタリウム機能付き・満点の星空」へ。そして極めつけは、ホールの中央に「清流(循環式)」を引くことだ。瞬く間に、マイナスイオン溢れる高原のキャンプ場が完成した。川のせせらぎ、草の匂い。全てが偽物だが、快適さは本物を凌駕する。


環境、捏造。


さて、キャンプ飯の調達だ。私は隣接する農園エリアへと足を踏み入れる。目の前に広がるのは、背丈ほどに育ったトウモロコシの迷宮。品種は糖度抜群の「ゴールドラッシュ・改」。私は緑の茎を掻き分け、一番太く、ヒゲが茶色くなった実を選定する。バキッ、バキッ。茎を折る感触と、ずっしりとした重みが手に伝わる。皮を少し剥くと、真珠のように輝く黄色い粒が顔を覗かせた。


収穫、豊作。


「ふぅ……働いたわ」。たった数本の収穫で額に汗を滲ませた私は、クーラーボックスから「燃料」を取り出した。キンキンに冷えたダンジョン産クラフトビール。——プシュッ。小気味良い音と共に、プルタブを開ける。夕暮れ(照明設定)の風に吹かれながら、缶を煽る。ゴク、ゴク、ゴク……プハァッ! 労働の後の麦酒が、五臓六腑に染み渡る。これぞキャンプの醍醐味、いや、人生の真理だ。


労働、対価。


「わん!(草だー!)」アルコールで気分が良くなった私の横で、バツイチになって戻ってきたフェンリルが、嬉しそうに芝生の上を転げ回っている。その様子を、遥か50メートル後方の岩陰から、じっと見守る影があった。バーサーカーの田中さんだ。フェンリルが「俺のナワバリにまた男を連れ込んだな」と唸るので、彼には「安全確保のための遠距離警備」をお願いしている。最強の魔獣と最強の狂戦士。このピリついた関係、まるで別れた夫と新しい彼氏が鉢合わせたような気まずさがある。


距離感、微妙。


気を取り直して、キャンプのメインイベント「焚き火」を始めよう。薪を組み、着火。パチパチという音が心地いい。先ほど収穫したトウモロコシの皮を剥き、網の上で転がしながら、ハケで醤油を塗る。ジュワッ。醤油の焦げる香ばしい匂いが、偽物の星空に立ち昇る。採れたての甘い香りと、焦げた醤油のハーモニー。これは暴力だ。飯テロだ。


嗅覚、刺激。


「いただきま……」ガブッ! 私が口に運ぼうとした瞬間、横から白い影が掠め取っていった。フェンリルだ。彼は熱々のトウモロコシをハフハフしながら、器用に芯だけ残して平らげると、「次は肉な」と言わんばかりに尻尾を振って催促してくる。焼く、奪われる。焼く、奪われる。これでは私はキャンパーではなく、ただの餌やり係だ。優雅さが足りない。それに、火加減の管理と食材の供給で手が腱鞘炎になりそうだ。


搾取、理不尽。


私はトングを置き、フェンリルの鼻先に指を突きつけた。「いい? フェン。これ以上美味しいお肉が食べたいなら、条件があるわ」。私は遠くの岩陰を指差す。「あそこにいる田中さんを呼ぶ。彼はプロよ。でも、絶対に吠えたり噛みついたりしないこと。約束できる?」。フェンリルは高級肉の匂いを想像したのか、少し葛藤した後、渋々「ワン(飯のためなら我慢する)」と頷いた。


交渉、成立。


言質は取った。私は天井に向かって、高らかに指を鳴らす。「田中さーん、出番よ!」。パチン。乾いた音が響いた瞬間、土煙が上がった。瞬きする間に、私の目の前に田中さんが正座していた。その手には、どこから取り出したのか、「極厚鉄板」と「秘伝のタレ」が握られている。彼は焚き火の前の特等席に陣取ると、無言でトングを構え、火加減を確認した。その目は、戦場に立つ時よりも鋭く輝いている。


奉行、降臨。


ジューッ。鉄板の上で、最高級の霜降り肉が極上の音を立て始めた。完璧な焼き加減。しかし、鉄板奉行の田中さんが、なぜかトングを持ったままモジモジしている。身長3メートルの巨体が、恥じらう乙女のように縮こまっているのだ。「どうしたの? トイレならあっちよ?」。私が尋ねると、彼はフルフルと首を横に振り、懐からゴツいスマホを取り出した。画面を指差し、私と、このキャンプサイトを交互に見る。


「……え? 田中チャンネルで撮りたい?」


彼はコクコクと高速で頷いた。まさかの配信者ライバーだった。まあ、確かにこの偽物の星空と、焚き火、そして伝説の魔獣。これ以上ないほど「映え(バエ)」る。「いいわよ、好きにして。どうせ私もドローン回してるし」。


副業、発覚。


許可が出た瞬間、田中さんの目がプロのそれに変わった。手際よく三脚を立て、照明(焚き火)の角度を微調整する。そして配信開始ボタンをタップ。彼は私の方をチラリと見て、遠慮がちに手招きした。「ん? 何? コラボ? 一緒に『やってみた』的な挨拶をしろって?」私は焼きあがった肉を口に放り込みながら、片手でしっしっと追い払う。「パス。私は今、完全にオフなの。愛想笑いとか1ミリも無理だから。勝手にやって」。


共演、NG。


田中さんは一瞬、シュンと耳(兜の装飾)を垂れたが、すぐに気持ちを切り替えた。彼は私を背景モブとして扱い、鉄板の上で踊る肉と、それを貪り食うフェンリルにカメラをズームインさせた。余計な喋りは一切なし。ただひたすらに肉が焼ける音と、魔獣の咀嚼音だけを届ける硬派なスタイル。コメント欄が『なんだこの飯テロ!』『無言なのが渋い』『後ろの美女は誰だ!?』と盛り上がり始めるのが見えたが、私は知らんぷりでビールを煽った。


職人、気質。


「それじゃあ、自分は持ち場に戻りますんで」言葉に出したわけではない。しかし、田中さんは焼きおにぎりを完食すると、スッと立ち上がり、一礼して闇の中へ消えていった。背中で語る男だ。フェンリルも満足げに腹をさすり(後ろ足でカイカイし)、「あいつ、なかなかやるな」という顔で見送っている。嵐のようなBBQが終わり、残ったのは私とフェンリル、そして静寂な焚き火だけ。ここからは大人の時間だ。私は串に刺したマシュマロを火にかざす。表面がキツネ色に焦げ、中がトロトロに溶けるのを待つ。


別腹、始動。


甘い匂いに包まれて幸せな気分に浸っていると、ふと現実的な問題に直面した。「……あれ? テント、張ってなくない?」そうだ、食べるのに夢中で寝床の確保を忘れていた。酔いが回った頭で、あの複雑怪奇なポールの組み立てを行う? 無理だ。絶対にイライラしてポールをへし折る自信がある。どうしよう、今日は野宿か。そう覚悟して振り返った時、私は我が目を疑った。


設営、完了。


そこには、設営難易度S級の「グランピング用大型コットンテント」が、ピンと張り詰めた美しいフォルムで鎮座していた。いつの間に? 肉を焼いている隙にか? 田中さん……あなた、気配りスキルが高すぎて怖いくらいよ。私は感謝を込めて、虚空に向かって合掌した。中にはふかふかのコットまで用意されている。


有能、極まれり。


「おやすみ、フェン」私はテントに潜り込み、フェンリルを抱き枕にする。彼は「狭いぞ」と文句を言いたげだが、尻尾はパタパタと動いている。最高級の毛皮、適度な弾力、そして体温。生きた湯たんぽに顔を埋めると、一瞬で意識が泥のように沈んでいった。


暖房、完備。


「ギャー! ギャー! ギャギャッ!」翌朝。爽やかな小鳥のさえずり……ではなく、耳をつんざくような怪鳥音で叩き起こされた。——うるさい。頭に響く。私は不機嫌全開でシュラフから這い出し、テントのジッパーを開ける。「ちょっと、朝から何なのよ……」。目をこすりながら外に出ると、そこには翼の生えた女性の姿をした魔物、ハーピーの群れがいた。彼女たちはBBQコンロの周りに群がり、狂ったように何かを啄んでいる。


騒音、公害。


「あ……」止めようとした手が止まる。彼女たちが食べているのは、私たちが放置して寝てしまった「食べ残し」だった。鉄板にこびりついた脂、散らばったトウモロコシの芯、さらには炭の灰まで。彼女たちが通り過ぎた後は、まるで新品のようにピカピカになっている。本来なら襲ってくるはずの魔物が、私のキャンプサイトを完璧に掃除しているのだ。「……へぇ、やるじゃない」。


廃品、回収。


彼女たちは最後の一粒まで食べ尽くすと、私に一瞥もくれず、「ごちそうさん!」と言わんばかりに飛び去っていった。洗い物はゼロ。ゴミもゼロ。生ゴミの処理に困るキャンプにおいて、これは革命的ではないだろうか。「ルンバ(魔物製)、採用ね」。私は綺麗になった鉄板を眺めながら、次のキャンプ計画に彼女たちを組み込むことを決めた。


清掃、委託。


「うぅ……頭が痛い」。昨日のクラフトビールの残響が、ガンガンと頭を叩く。それだけじゃない。髪も服も、全身が焚き火の煙臭い。肌はベタつくし、口の中は砂を噛んだようにイガイガする。顔を洗いたい、歯を磨きたい。でも、ここはダンジョンの中庭。シャワートイレもなければ、洗面台もない。「不快指数、マックス……」。文明の利器がない朝が、これほど過酷だとは。


衛生、崩壊。


見渡せば、宴の跡が散乱している。テント、椅子、焚き火台。これらを畳んで、洗って、収納する? 二日酔いの頭で? 無理だ。絶対に無理。想像しただけで吐き気がする。私は虚空を見つめ、最後の力を振り絞って指を鳴らした。「田中さーん、ヘルプ」。


撤収、拒否。


パチン。土煙と共に、頼れる背中が現れた。私は彼に向かって、とびきりの「聖女スマイル(営業用)」を炸裂させる。「あとはお願いできる? 今度、いいお肉あげるから」。田中さんは一瞬動きを止めたが、すぐにビシッと敬礼し、ものすごい速さで片付けを開始した。チョロい。いや、有能すぎる。私はフェンリルの背中に飛び乗った。「フェン、家までダッシュ! お風呂が私を呼んでいるわ!」


愛想、乱用。


「はぁ〜……生き返るぅ……」。自宅(ダンジョン最深部)に帰還し、即座にヒノキ風呂へダイブ。熱いお湯が、二日酔いの気だるさと煙の臭いを洗い流していく。シャンプーの香りに包まれ、ツルツルの肌を取り戻した私は、湯船の中で深く息を吐いた。キャンプも悪くないけれど、やっぱりふかふかのタオルと、清潔なバスルームしか勝たん。


自宅、最高。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


【冤罪で追放された悪役令嬢ですが、え? 配信? 何それ美味しいの?】シリーズ 展開中です。続きあります。


宜しくお願い致します。


伊部 拝(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)ペコリ

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