82話
しばらくお茶とおしゃべりを楽しんでいると、コックさんが来てくれた。
そして現在地は屋敷の厨房。
土足厳禁で1番デカい厨房用の長靴を借りた……これが1番だと?ちょっとキツイよ?この世界の人族の人って現代の日本人よりちょっとサイズコンパクトだと思う。
「『パン切り包丁、ピーラー、スライサー、トング、泡立て器、すり鉢、麺棒、鍋は片手鍋』の他に欲しい物は?」
「中華鍋みたいなのがあればいいんですけど…ここには無さそうです」
とりあえず欲しい物を手に取って選んで見てくれとコックさんに言われたので、調理台の上にズラーっと並んだ調理器具らしき物の中から選んで行く。
ギザギザのパン切り包丁、トング、泡立て器、麺棒、両手鍋大、中と片手鍋中、小。
ピーラーとスライサーとすり鉢は求めていた形のものが無かった。
ここの厨房では見習いに包丁捌きを教える為に、ピーラーと野菜用のスライサーは使用してないらしい。
スライサーはミートスライサーと言う、肉を切るための歯が回転する魔道具しかなかった。生ハムとか薄ーく切れそうね。
すり鉢もハーブなどを潰したり砕いたりする小さめの乳鉢はあるが、私が求めていたゴマ擦りする大きなすり鉢は無かった。あ、すりこぎも必要か。
「お前さんは品を自分で見て決めたいタイプか?それとも似た様なのなら他人が買ってきても大丈夫か?」
「どちらかと言えば調理器具は色々見比べてから決めたいタイプですね」
今家にある調理器具は揃えてもらったものだが、選べるなら自分で決めたいな。
「こちらの調理器具はどちらで購入されましたか?」
「ほとんど高級品だな……お前さんは安い物でいいらしいからここの物は合わんと思う。」
そっかー…残念だな。このパン切り包丁とか背が反っててカッコいいから同じ物欲しかったよ。
「まぁ、そう落ち込むな。贔屓にしてる金物屋と陶器の工房があるから、親方は無理でも弟子の作品なら手が出せると思うぞ。だからその撫でてるパン切り包丁は返せ。それだけはやらん」
カイザス国ではいい調理器具を買うなら基本オーダーメイドらしい。
安い物を買って使えなくなったら買い替えるよりも、長く使ってメンテナンスは工房に頼むのがいいだろうと言われた。
コックさんの言葉を信じて、来週水曜日の午後に工房を一緒に見に行く約束をした。
カッコいいパン切り包丁は「オークションにかけたら最低値500万ぺリンするからな」とコックさんに言われたので、そっと元の場所に戻して置いた。
ー
厨房にて
ロジャー「厨房の中に入るの初めてです。わー…不思議な物がいっぱいですね」
鈴木(そうか…厨房にも入ったことが無かったのか………私も箱入りにし過ぎたな。これから色々やらせてみるか。まずはロジャーのやりたい事でも聞いてみるか。)
ー後日 鈴木家 庭ー
ロジャー「本当にいいんですか?」
鈴木「私は構わんよ」
ロジャー「どうぞお祖父様」
鈴木「うむ…大丈夫か?」
ロジャー「大丈夫そうです。立ちますよ?」
鈴木「うむ。」
テケテケ…
ロジャー「お祖父様って意外と軽いんですね。私もっと重いかと思ってました」
鈴木「うむ。」
ロジャーのやりたい事「お祖父様を抱っこしたい」。物心ついてから抱っこもおんぶもされた事が無くて、この屋敷に来てすぐの頃に鈴木に抱っこされたのが嬉しかったから、逆にお祖父様を抱っこしたらどんな感じか知りたかったらしい。ちなみにプリンセスホールド(お姫様抱っこ)だった。
鈴木(何も無いとこでロジャーがコケて鼻血を出した時か…昔の私よ、せめて縦抱きにして欲しかった………まぁ、ロジャーが楽しそうだから良いいか。)
その後、度々祖父は孫のささやかな願い事を一つ一つ叶えていったとさ。めでたしめでたし。
本日昼12時に閑話を1つ投稿予定。




