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 サンドイッチを食べ終え、今度こそセラエノ城へ帰還する。

 試着乱舞による精神的疲労が大きかったのか、馬車の中で爆睡するリフィーをマリアライトは穏やかに微笑みながら眺めていた。

 今日一日で彼女と大分打ち解けた気がする。壮絶な過去を語ってくれたのは、自分への信頼の表れ……と思っていいだろうか。また一緒に街に出て、美味しいものを食べて、話がしたい。そう願いながら馬車の外に視線を向ける。


「あら……」


 すると正門の前に一人の人物が佇んでいるのが見えた。マリアライトは『彼』の姿に目を輝かせ、くうくうと寝息を立てる少女を揺り起こす。


「リフィー様、リフィー様。起きてください」

「うぅ~ん? セレスタインってば、朝ごはんは五分前に食べたじゃん……」

「そのセレスタイン様がお待ちになっていますよ」

「ふぁ~?」


 リフィーは寝ぼけた状態で、窓から顔を出した。涼しげな風に頬を撫でられているうちに目が冴えていき、その視界に白衣の男を捉えると「へっ?」と間の抜けた声を漏らす。


「何であのおじいちゃんが外に出てんの? ボケが始まって徘徊してる!?」


 怪訝そうな表情のリフィーとにこやかなマリアライトを乗せた馬車が正門に到着する。

 魔族一の魔導具師である男は呆れたような、面倒臭そうな面差しで馬車に近づいていった。


「まったくお前は……聖女を連れてどこをほっつき回っておったんじゃ」 

「あっ、私たちが遊んでたと思ってるでしょ? そんなわけじゃないじゃん、ドレス選び大変だったんだよ。あとお腹空いたからサンドイッチ食べてた!」

「後半のくだり、胸を張って言えることかのぅ」


 リフィーの報告を聞いて溜め息をつくセレスタインだったが、マリアライトにはその吐息に呆れだけではなく、安堵も含まれているように思えた。

 きっとリフィーのことが心配で、研究所を抜け出して来たのだろう。


「申し訳ありません、セレスタイン様。長い間、リフィー様をお連れしてしまいました」

「お前が謝ることでもないじゃろ。どうせこの娘のこと、妙な駄々を捏ねてドレス選びが難航したとかじゃろ?」

「確かにお時間はかかってしまいますが、実は……」

「あぁぁぁ~、マリアライト様ストップ!」


 ティアラのことを言いかけたマリアライトの口をリフィーが慌てて塞いだ。

 絶対に本人には知られたくない。そんな必死の表情をする助手を見詰めた後、セレスタインはくるりと背を向けて城へと歩き出した。


「たまには外の空気を吸いたいと思うて外に出ていただけじゃ。もう寒いから儂は中に戻るぞ」

「あ、こら私を置いていくな~! え、ええと……!」


 一緒に帰りたい。けれどマリアライトを残しては帰れない。

 どうしようと葛藤するリフィーの様子に、マリアライトは転移装置を使わず、ゆっくりと歩いている男の後ろ姿を眺めつつ言った。


「私は一人でも大丈夫ですから、セレスタイン様とご一緒にどうぞ」

「でも……」

「ぴにゃ~~ん!」


 リフィーの言葉を遮ったのは、可愛らしい鳴き声。

 空から降ってきた白い毛玉が聖女に突撃する。マリアライトが動じることなく抱き止めると、毛玉もといスノウは嬉しそうに喉を鳴らした。

 それに続くように、銀髪の青年が城の窓から飛び降りてマリアライトへ駆け寄った。


「マリアライト様!」

「シリウス様! ただいま帰りました!」

「はい。そろそろ馬車が城に到着すると、使い魔から報告をもらっていたのでお待ちしておりました!」


 満面の笑みで話すシリウスに、ぎょっと目を見開いたのはリフィーだ。


「ひえぇ、この人こっそり使い魔に監視させてたの怖すぎ」

「か、監視と言うな!」


 犯罪的な意味で危ない男扱いされることを不服としたシリウスが抗議する。


「ただマリアライト様を見守っていただけだ!」

「まあ。ありがとうございます、シリウス様!」

「ウワー! マリアライト様もうちょっと考えてから感謝したほうがいいよぉ!」


 見守りという名の監視をされていて困惑するマリアライトではなかった。



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