薬であり毒であり
ユフィリアとヨルハは隙あらばイチャらせねばと思います。
ゼイングロウでは、ミストルティンの不穏さなど露知らず。ユフィリアは原因究明に力を入れていた。
結婚式は大事だが、卯の一族で蔓延する謎の病を放置はできない。
あれから、いくつかの脱毛症患者の体毛を入手した。どれもこれも、薬型がまともに使えずに、気味の悪い何かになる。
健康体の獣人には種族関係なく問題なく使えることから、脱毛症患者に何か原因があると考えられる。
脱毛症に関してゼイングロウの文献を探したが、過去にもそう言った事例はあった。
その脱毛患者は感染するため、隔離されて終息する――患者が克服するか、死ぬかを待つことになったらしい。対策や治療法についてはほとんどなかった。原因も明らかになっていない。
つまり、収穫はゼロに等しい。
ゼイングロウは気合で治せ的な風潮が強いのは理解した。
この国では珍しい錬金術師は関わった事例もない。薬型の資料があれば嬉しかったのだが、そう上手くはいかないものだ。
(体毛に血液や皮膚が混入したからって、こうはならない。同じ兎の獣人のゲット様はちゃんと薬型を使えたわ)
となると、問題はやはり採取した体毛などに問題がある。
埃っぽいのはかさぶた交じりの皮膚が粉末っぽくなっているのが原因だが、それ以外にもあるのだろうか。
ルーペを使って観察したが良く分からなかった。ふと、メーダイル製の顕微鏡が目に入る。
極小サイズも肉眼で確認できる、高性能な道具だ。正直、錬金術にはあまり使わない。そこまで小さなものを見る機会がないのだ。
(ルーペより、良く見えるだろうな)
何気なくゲットの孫の体毛サンプルの入った瓶を手に取る。一番重症なのは、この子なのだ。
シャーレに載せて、レンズの調整をする。明暗の調整やらをしつつ、徐々にピントを合わせていった。
なんか小さな何かが動いている。細長い白っぽい芋虫もどきが、忙しなく毛や皮膚の破片の中を蠢いている。
「……なにこれ」
極小の生き物がいる。それも一つや二つではない。死骸もあるが生きているのも多くいる。
健常者の毛のサンプルを見ると、いない。だが、脱毛症の患者のサンプルには必ずいる。
(……これが薬型の働きを阻害していた原因か!)
別の生き物が混入していたから、正しく機能しなかった。
二つの生き物がまじりあい、どちらでもない何かができてしまったとしたら?
(これは……虫? こんな小さな動物は見たことない。蛇の動きじゃないし、ナメクジやミミズのほうが近いかしら?」
改めて見ると本当に気持ち悪い動きをしている。にょろにょろとぬるぬるの間の動きをしている。
小さくてもこんなのが肌を這いまわっていたら気持ち悪そうだ。
(もしかして、これが脱毛症の原因? 蚊や蛭のように、吸血するとか?)
まるで、蚤やダニのようだ。別の生き物に寄生し、養分を吸い取り害する。
一番は患者の肌をじかに見ること。これはあくまで採取した――時間の経ったものだ。
しかし、どこからも許可が下りない。特にヨルハは頑として頷かない。
(……人体に影響のない殺虫剤を使えば、なんとかなるかもしれない。そもそも虫? とりあえず、忌避しそうなものを片っ端から試してみよう)
正直、あまり見たくはないが薬型を取るのは安全問題上必須項目だ。もしかしたら、痒みや痛みを取り除けるきっかけになるかもしれない。
その後、色々試した結果、覿面に効果がある植物を見つけた。
その中でも人間や獣人には滋養や薬効があるが、謎の虫が嫌がるという優れもの。
ソリハリ除虫菊。
ゼイン山脈のソリハリ雪原に群生する高山植物。半日蔭に生息する植物だ。独特の芳香で、その名の通り除虫菊の一種。薬草茶にもなる。
ソリハリ除虫菊は過酷な環境でも生きられる丈夫さに加え、昆虫や動物から身を守るため、強烈な臭気で身を守っている。
もともと蚊よけなどに使用されるので、夏では馴染み深い香りでもある。虫型の魔物にも効果がある。
幸い、この工房にはヨルハが豊富な道具を揃えてくれたし、欲しいと願った素材を取ってきてくれた。
皇帝たる彼を使い走りにするのは気が引けたが、何故かリス妖精や獣人たちは良い笑顔だ。
「そりゃ、番が頑張っているのに自分だけぼーっとしているのは辛いからな」
同じく番持ちのコクラン曰く、何もできず暇を持て余しているのは拷問に等しいらしい。
時間の合間を縫ってユフィリアは試行錯誤を重ね、いくつかの薬を調合した
そんなある日のティータイムに、ヨルハが心配そうにユフィリアを窺う。
「ユフィ、無理しないね? 素材はいくらでも変わりはあるけど、ユフィは一人しかいないんだから」
「ええ、もちろんです。私は卯の一族のことも気になりますが、私たちの結婚式を憂いなく皆に祝ってもらいたい。
これで卯の一族が恩を売れたら……なんて意地悪な考えですけど、私はお飾りではなくヨルハ様の隣に相応しいと認められたいのです」
番だから、ではなくこの人が番で、ヨルハの伴侶で良かったといえるような人物になりたい。
自分を蔑ろにするつもりもない。ユフィリアを心の底から大事に思ってくれる存在が、近くにいるのだから。
「ねえ、ユフィ。例の脱毛症の件なんだけれど、他の一族にも確認を取っていい? 報告次第では、ユフィの負担が増えてしまうかもしれないけれど」
「ええ、もちろんです」
今のところ、この薬を作れるのはユフィリアだけだ。
他の一族でも症例が出た場合、ユフィリア一人では手に余るかもしれない。そうしたら、ミストルティンの薬師や錬金術師にも製薬依頼を視野に入れているという。
「周囲に感染するなら、早期の解決が望ましいからね。今のお祝いムードに水を差したくないし、こんなので結婚にケチつけたくない」
本当はユフィリアに仕事を増やしたくないが、ユフィリアの意思を尊重しての妥協案なのだろう。
ヨルハに頼られて嬉しそうに笑みをこぼすユフィリア。その表情が、どんなにヨルハを満足させたかなんて彼女は知らないだろう。
「あぁ~……ユフィ可愛い。ずるい……」
思わず本音を駄々漏らせるヨルハに、顔を赤らめさせるユフィリア。
本当は大事にして何一つ苦労させずに、どこかへしまっておきたいくらいだ。ヨルハがやろうと思えば容易にできるが、ヨルハを想い努力するユフィリアに喜びを感じずにはいられない。
見事なアンビバレンスである。
「一段落したら、デートしよう?」
「はい。あの、以前に行った甘味屋さんに行きたいです」
「いいね」
ユフィリアが、自分から行きたいところを言ってくれるようになった。良い傾向である。
以前なら、曖昧に微笑みながらヨルハに任せていた。
しかも、ヨルハが紹介した店がお気に入りだというのもポイントが高い。
そんな仲睦まじい二人を微笑ましそうに見ているリス妖精。これはデートに相応しい装いを見繕わねば。今一度、衣裳部屋を確認しに行く必要がありそうだ。
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