黒豹の護衛たち
今回は少し短め
その日、珍しくユフィリアを前にしてもやや不機嫌そうなヨルハが言った。
「ユフィに専属の護衛と侍女をつけるから」
「ありがとうございます」
本来なら全部自分が世話をしたいのに、と顔に書いてある気がする。
しかしヨルハは多忙の身だ。大きな催しを控えているし、その主役の一人でもある。ずっとユフィリアの傍にはいられない。
「とりあえずコレ。気に入らないのがいたら外すから、いつでも言って」
ぶっきらぼうに示したのは、数人の男女。
護衛は先日も護衛をしてくれていた黒豹獣人のミオンと、彼女によく似た二人の青年だった。涼やかな目元がミオンと良く似ているが、彼らは髪が短く、左右に色違いの髪留めをしている。
来ている胴衣は同じ色だが、ミオンと帯や留め具が違うから階級は違うのだろう。
「この方は先日の……」
「覚えていただいて光栄です、番様。私はミオン。こちらは双子の弟で右がクオンと左がレオンです」
フウカを追い払ってくれたミオン。ユフィリアの反応に覚えていたことを察したミオンは、少しだけ表情を緩めて嬉しそうにする。
ミオンに紹介されたクオンとレオンは、どこか芝居がかった仕草で一礼する。
「「以後お見知りおきを」」
「はい、よろしくお願いしますね」
ユフィリアが穏やかに挨拶を返すと、黒髪の隙間からぴょこんと丸い耳が飛び出た。今まで伏せていたのが、つい動いてしまったのだ。
それに気づいた二人がいそいそと直す。
(見られたくないのかしら……?)
「……お前たち、いい加減耳を隠すはやめなさい。無駄だから」
ごそごそと隠そうとする弟たちに、ミオンが冷めた声で言う。
二人の耳はヨルハのように自在にコントロールできないのかもしれない。
「姉さんはいいじゃん角耳でカッコいいんだから!」
「俺らは丸耳だから嫌なんだよ」
黒豹の耳にも、色々と事情があるようだ。そんなに変わるものだろうかとミオンを見ると黒髪の間から見える耳は、先ほど二人の耳より鋭い形をしている。
「どちらも素敵だと思いますが……」
人間にはない部分だし、それぞれに良さがあると思う。
ユフィリアの言葉に裏はないと感じたのか、三対の黒い耳はぴくぴくと動く。
「いえ、いえ! ユフィリア様! 全然違うんです! 丸耳は可愛い系、角耳はカッコいい系!」
「ネコ系男子のトレンドは、クールな立耳&角耳! そして長い尻尾! 毛並みの艶やかさは老若男女問わずに常にマスト!」
クオンとレオンが力説する表情は生き生きしていた。そわそわと揺れる尻尾からしても、感情の動きを隠しきれていない。
(そういえば、獣人の方は髪や瞳の色や状態が容姿の良し悪しを見るポイントとして重要視するみたい)
髪はその獣人の被毛の美しさにも比例する。鳥系の獣人だと羽根、爬虫類系の獣人だと鱗が該当する。その美しさの基準として、色や艶も重視される。
ユフィリアは銀髪だ。その中でもくすみがなく明るい白銀の髪は、稀少性もあってかなりポイントが高い。
(ヨルハ様は満遍なく褒めてくださるから、あまり気にしていなかったけれど)
そういえば、グレンもユフィリアの髪に称賛を口にしていた。
(……スキンケアやお化粧も大事だけれど、ヘアケアにも力を入れましょう)
ヨルハの姿を思い出す。ついついその迫力の美貌に目が行くが、長い髪はとても綺麗である。絡まっているのを見たことないし、枝毛も見たことがない。
もともと結婚式に向けて美容に力を入れていたが、ヨルハの隣に並んで霞むようなことにはなりたくない。
結婚式と言えば、気がかりになっているのは引き出物だ。目の肥えた来賓が来るのだから、なおのこと悩みは尽きない。
(ゼイングロウの特産には薬草類も多くある。ミストルティンなんかは錬金術に注力しているし、メーダイルにだって需要があるわ)
ゼイン山脈でしか入手できない素材は多い。
だが、強い効果があれば副作用も考えねばならない。使い方によっては、良薬にも劇薬にもなるのだ。
だが、ゼイン山脈の素材は引き出物としてはド定番。安牌だが、芸がないともいえる。
(悩ましいわ……)
ずっと角耳のすばらしさを熱弁する黒豹の護衛たちを眺めながら、頭の中ではずっと迷走中なユフィリアだった。
読んでいただきありがとうございました。




