その後の二人
いちゃつきモード、再発
数日経ってユフィリアの熱が引き、やっとリス妖精からお許しの出たヨルハ。
一時も離したくないと言わんばかりにべったりで、挙句の果てに執務室まで連れ込もうとしたが――それはユフィリアに辞退された。
「どうして、ユフィ……俺と一緒にいたくないの?」
「予定がありますから。今日はリスさんたちにお料理を教えていただくんです」
「ユフィは料理も掃除もしなくてもいいんだよ? そのためのリス妖精なんだから」
すりすりとユフィリアに頬擦りして、優しく抱きしめつつも動くのを許そうとしないヨルハ。互いの気持ちを確認し合ってから、かなり遠慮が無くなっている。
そんなヨルハに対し、少しだけ不貞腐れたユフィリアがそっぽを向いた。
「……今日のおやつ、おやきなんです。ヨルハ様はいらないんですね。リスさんたちと食べます」
デートの時にヨルハはおやきを注文していた。メニューから選んだのだから、好きなんだろう。最低でも嫌いではないはずだ。
しかし調合はしたことがあっても、料理の経験は皆無のユフィリア。
料理はや錬金術の祖と言われている。切る、煮るなどはしたことがあるが、味付けは別のセンス。料理初心者なので、その道のプロに教わるのが上達の近道だ。
仕事を頑張っているヨルハに、ハーブティー以外にも何か労う方法はないかとユフィリアなりに考えたのだが――番に夢中でサボる人にあげるおやきはない。
「ま、待って! 離すよ! 仕事も頑張る! 頑張るから残して!」
腕を組んでぷーいとそっぽを向いたままの番に、巣から落ちた雛鳥のように悲し気な声を上げるヨルハ。
必死に謝罪を繰り返し、縋りついて土下座せんばかりの勢いだ。彼の必死な姿に、やっとユフィリアがちらりと視線を寄越す。
黄金の瞳が潤んでいて泣きそうだ。幼子のようなヨルハの姿に、思わず可愛らしいと思って笑ってしまう。
「じゃあ、いい子で仕事しながら待っててくださいね」
「うん」
どっちが年上か分からない。
ころんころんとユフィリアの手の平で転がるヨルハ。
大人しそうなユフィリアであったが、最近は自由気ままなヨルハ相手に怯まない。従順かと思いきや、変わりつつある。
この通りヨルハの扱い方を学んだのか、しっかり操縦している。
操縦されているヨルハが嫌がるどころか嬉しそうなのが、この状況を加速させている気がする。
(……こりゃ尻に敷かれるな)
(番に勝てるはずがなかろう。惚れた弱みじゃ)
実は傍で待っていたコクランとシンラが無言のアイコンタクト。
自身の夫婦関係を思い返し、己も番に甘い・弱い・溺愛の三拍子なので人のことを言えない。
「ねえ、ユフィ。やっぱりお色直しの回数……」
「変えません。ただでさえスケジュールが厳しいんですから、増やすなら延期と規模の縮小化が条件です」
番を着飾らせたいヨルハの主張は、ユフィリアの現実的な言葉に落とされる。
何とかならないだろうか。ヨルハは無言になりしばらく熟考して黙り込んでいたが、やっと絞り出したのは「……延期は嫌だ」ときたものだ。
とにかく名実ともに夫婦になりたい。それが彼の一番の望みである。
素直なヨルハに、ユフィリアは笑うしかない。
見上げた空は晴れていて、鳥の番が軽やかに飛んでいる。
常に鬱屈さを抱えていたミストルティンでは感じなかった、清々しい気持ち。
(ゼイングロウに来れて、ヨルハ様に会えてよかった)
婚儀の時もこんな風に晴れればいい。そう自然と思えるくらいに。
ゼイングロウの空は、どこまでも蒼穹で晴れ渡っていた。日差しも明るく、風も温かい。珍しいことに、ゼイン山脈の空まで雲一つ浮いていない。
高く聳え立つ山々の山頂に残る白い雪が
少し南に下がったミストルティンはまだ晴れているが、少し雲が増え始めている。
もっと南のメーダイルには暗い曇天が広がっている。雨により仄かの白くけぶった風景は、見るからに鬱々とさせる。
南から吹く湿った風が雨を運び、人々の気持ちを鬱々とさせて肌を冷やしていく。
ゼイングロウに届くにはまだ遠い――だが、その暗雲は着実に北へ移動していた。
とりあえず、ひと段落です。
読んでいただきありがとうございました。




