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お迎え、襲来

実はアリスが来る前に来ており、屋敷の使用人や見張りとかをのしたのはヨルハ。

丁寧な援軍潰し。


 こそこそとアリスが歩いていると、向かいから背の高い人影がやってきた。見張りの兵士かと思ったが、その人物は制服や鎧と言った堅苦しい服装ではない。

 療養先からエリオスが逃げないためとは言うが、殺伐としてやたら厳しくてアリスは彼らが嫌いだった。アリスのお願いも聞いてくれない。

 とりあえず、すぐには捕まらないだろうとアリスは安堵した。その人物が近づくにつれて別のことに意識が持っていかれた。


(……なんてきれい)


 艶やかな色の混じり合う不思議な髪が揺れる。薄暗い中でも輝く黄金の双眸、通った鼻筋に、薄い笑みを浮かべた唇――それが絶妙な配置で収まる、鋭い迫力のある美貌。

 歩みもゆったりとした大股なのに、全然音がしない。姿勢は綺麗で、歩き方もしなやかだ。

 見たことのないけれど、一目で貴人だと分かる上等な装いだ。

 アリスを見ると、ゆるりと目を細めた。アリスの鼓動がときめいて高鳴る。


「こんばんは」


「こ、こんばんわぁ~! エリオスのお客様ですか? 私は婚約者のアリス!」


 声もしっとりとした色気があった。来訪者を見つめるアリスの目は熱を帯びていた。

 最近はエリオスの癇癪じみた命令ばかり聞いていたので、穏やかな美声に酩酊するような感覚に陥る。


「エリオス様は取り込み中なんです! 明日にしたほうがいいですよ! 良かったら今から一緒にご飯でも食べに行きませんか? ここからちょっと離れているけどすっごく美味しいレストラン知ってるんです!」


 美しい貴人の腕にしなだれかかろうとすると、見事に空ぶって床に転がるアリス。

 それを冷たく見下ろす姿すら麗しい。


「婚約者がいるって言っておきながら、他の男を誘うのか。近くで見てもドブメスはドブメスだな。本当に性格が悪い」


 ぽかんと見上げていたアリスだが、侮辱されているとようやく理解した。

 彼の笑顔はあまりに完璧で柔らかく、それいてどこまでも冷酷だった。


「これが俺のユフィの妹なんて信じられない。それなら師匠が姉妹のほうが納得いく。性格がブスすぎる」


 容赦ない内面のディスが止まらない。

 こそこそと陰口を叩かれたのは多かったけれど、ここまで面と向かってアリスを貶すのは珍しい。

 最初は何を言われているか分からなかったが、じわじわと頭に浸透していく。

 そしてやっと、ヨルハがユフィリアの婚約者だと気付いた。

 婚約者を探していた時、目ぼしいイケメンはすべて名前を調べたはずだ。こんな美男子は見たこと無かった。見間違えるはずがない。一度見たら絶対忘れない。

 ゼイングロウの獣人と聞いたが、一見すると普通の――否、超絶美形だ。全然鳥っぽくない。

嘴もなければ毛深くもない。馬鹿そうでも野蛮そうでもない。

 神話に出てきそうな、聡明さと力強さを両立した男神。そう思わせる、浮世離れした美丈夫だ。

 ヨルハのことを勝手な妄想で二足歩行する動物くらいに考えていたアリス。彼女にとって晴天の霹靂だ。

 残念な婚約をしたと思ったユフィリアが、こんな美形を捕まえていたことにアリスは屈辱を覚えた。かなり金持ちだと聞くし、明らかにユフィリアを溺愛している。


「……グレンが妹を見たいって言ってたけど、これはさすがのアイツもナイだろうな」


 そこまで言われて、さすがのアリスも真っ赤になって憤慨した。

 初対面でここまで言われる覚えがないと怒り狂う。実は王宮で会っていたが、気配を消していたヨルハに彼女は気づいていなかった。


「性格ブスはお姉様よ! みんな騙されているのよ!」


「ユフィは世界一可愛くて優しくて賢い女の子だよ」


「あんなの、どこがいいのよ!」


「全部」


 アリスが激しくユフィリアを否定するが、ヨルハはこともなげに言い返す。

 好きなところを一つ言えと言うほうが難しい。甲乙つけがたい優先順位に、ヨルハは途方に暮れただろう。

 如何にユフィリアが女性として至らないか力説するアリスも、ヨルハの鉄壁の番愛に轟沈だ。


「ありえない。お姉様を愛する人なんかいるわけない!」


 大声で泣き叫ぶアリス。

 激しい癇癪に、ヨルハは鬱陶しそうな視線を送る。いくら叫んでも屋敷内の使用人や兵をすべて昏倒させているから人は来ない。でも、こんな煩いのは嫌だ。

 これ以上の会話は無駄だと判断したヨルハは首を掴んで昏倒させた。人は脆い。すこし強めに気道を圧迫するとあっという間に気を失うし、死んでしまう。

 ユフィリアが気にするといけないから、気絶させるだけでとどめた。

 あの目障りなエリオスもそうだ。ユフィリアの目の届かない、気にも留めないところで死んでほしかった――ヨルハが手を回すのは簡単だが、ユフィリアの心に少しでも残るのが許せない。死と言う形で記憶の染みになるのすら不快。

 ふと、何かに気づき顔を上げる。


「ユフィが嫌がっているのに、しつこい男だな」


 先ほどまでユフィリアも元気に言い返していたけれど、流れが変わった。

 少しだけ眉根を寄せ、嫌悪を見せた。





読んでいただきありがとうございます。

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