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釣りガールの異世界スローライフ ~釣りスキルで村を大きくします~  作者: いかや☆きいろ
最終章 釣りガール、異世界を釣る。

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釣りガール、こんにゃくの製法に思い悩む

 こんにゃくの作り方はどうだったか。

 たしかこんにゃく芋を茹でて練るんだったか?

 お湯とミキサーにかけて凝固剤を入れて型に入れて茹でるんだったか?


 いや、こんにゃくのことは考えてる場合じゃない。婚約だった。

 えーと、婚約って何だったかな。結婚するとどうなるんだっけ?

 家族になるのか。あれ? もうカイル君やナミエは家族みたいなものか?


 えーと……でもなあ……。


「カイル君」

「は、はい!」

「え~と……」


 大事なことを忘れるところだった。好きか嫌いかじゃなくて、家族同然のカイル君を悲しませたら駄目だよね。

 ちゃんと言っておかないと。


「私、十七歳前後で、また死ぬかも知れないんだって」

「えっ!」

「なんかそう言う運命があるらしい」


 女神様が言ってたし、前世も確かに十七歳で死んだしね。何故か良く転ぶこととか、あれも呪いとか運命とか、何かそんなものだったのかも知れない。

 カイル君を好きになって、カイル君と夫婦になっても、ひょっとしたら悲しませるかも知れないんだ。


「それは……それなら僕がなんとかする! なんとかなる方法を探すよ!」

「うえっ?!」


 手に小箱を構えたまま、更に一歩前に近寄ってきたカイル君。

 顔が近付くと拙い。イケメンなんだこれが。


「もしそれが上手く行かなくても構わない。それなら一緒に、たとえ二年だけでも幸せにする!」

「ふええ……」


 婚約は私たちの国、グラルでも十二歳から出来るけれど、結婚は十五歳にならないと出来ない。十五歳から十七歳だとわずか二年だけど、二年は結構長いかもね。

 ……前世も私の人生は十七年だったけど、今回もたった十七年の人生だとしたら、……二年は凄く長いよね…………。


 イケメンが更に近寄ってくる。迫力がヤバい。

 しかもこれが優しそうな顔なんだ。色白だし可愛いし。


 もう、ついね、頷いちゃったよ。

 だってさ、幸せに生きたかったんだ。前世だって。

 幸せに、生きたいんだよ、私だって。


「し、幸せにしてね?」

「うん!」


 顔が、更に、近付いて。

 私と彼の距離は、ゼロになった…………。


 ……こんにゃくぜりーの感触。いや、こんにゃくはもういいな。


 私の左の薬指に契約の指輪がはめられて、カイル君と私は、……婚約者になったようだ。


 うひーっ!





 磯で意識を失うと危ないとは思いつつ、意識を失ってしまった。

 私はカイル君に家まで運ばれて、お母さんはその時に私の指輪に気付いたようで、目が覚めるとおめでとう、と、言われた。

 そう言えばお母さんも結婚早かったんだっけ。お爺ちゃんは胸をかきむしりながら七転八倒していた。

 お爺ちゃんの寿命縮まってないかな?


 それから三日は釣りもせず、部屋の窓から海を眺めていた。その間ずっとドキドキして、ふわあ、とかうああ、とか言っていた。


 カイル君はもうエサイルに帰ってしまった。

 最後に、私が十五歳になったら迎えに来る、と約束して。


 ……私が迎えに行くかもね。


 そうだ、引きこもってるのは私らしくないな。釣りに行こう。

 あらゆる雑念を打ち払ってきたさすがの釣りリセットも三日間は無効になる威力のイベントだった。だって結婚したらどうなるのか全然分からないし。


 よし、釣りに行こう!


 今日のターゲットは……小物釣りで落ち着こう。川を上ろうか。


 しばらく町を歩いているといろんな人が私の左手を見ておめでとうと言ってくる。ハズい。少し駆け足で町を抜ける。

 カイリちゃんとノット君は料理屋の仕込みをしていた。二人はこの町に住むことを決めたらしい。

 お魚と温泉が大きかったようだ。オシモさんとナミエの新製品も魅力的だしね。

 二人も私の左手を見て、カイリちゃんは顔を赤くしてきゃいきゃい喜びながら誰と誰と、と聞いてくる。

 ノット君は顔を真っ青に変えて膝から崩れた。そう言えばノット君って日本名じゃないね、とカイリちゃんに聞いたら野斗と書いてノットと読むキラキラネームだと教えてくれた。

 何の気はなくノット君を見下ろすと更にうぐっ、うぐっ、と泣き出した。コンプレックスなのか。


 川に釣りに行くと告げるとカイリちゃんは私に付いて来ることにしたらしく、仕事をノット君に押し付けていた。


 二人で川沿いを上っていくと、森では小鳥や虫の声。外国人はこの虫の声が騒音にしか聞こえないらしいね。

 私たちは涼しい木陰と川沿いの風と虫の声にご機嫌で、ゆっくりと散歩する。

 その間カイリちゃんにはいろいろ聞かれた。答えていくうちに、不思議とカイル君が愛おしく感じてくる。

 変だな、そんなにラブラブでは無かったと思うのに、なんだか本当にずっと好きだった気がしてくる。

 カイル君と会って、何年だっけ。

 確か九歳だったから、三年か。……好きになるには十分な時間かもね。


「でもまだ子供だしね」

「そうね、まだこれからよね」

「カイリちゃんは誰か気になる人いるの?」


 私ともあろう者が釣りバナではなく恋バナである。ちょっとのぼせ上がってないか。


「釣り大会で優勝した子は格好良かったわね。彼ってあれからずいぶんモテてるみたいよ?」

「アタルかあ」


 アタルは幼馴染みであまりにも近くにいるからほとんど兄弟なんだよね。だから客観的に見て格好良いとは思わなかった。

 身長は私より高いくらいだから十分イケメンなんだろうけど。


「アプローチしないの?」

「まあお菓子作るくらいはするわよ?」

「へえ~」


 アプローチしないと魚も釣れないからね。撒き餌を撒いてるならそのうち寄ってくるかもね。


「釣りじゃないわよ」

「恋は釣りに似ている」

「釣られた魚に餌はもらえないかも?」

「食いちぎる」

「どこを!?」


 いや、なんとなく。このまま放置されたらさすがに嫌かな。

 まあ、もちろんすぐには会えないんだろうけど。


「はあ、なんか会いたい」

「うふふ、まあ付き合い始めたばっかりならそうよね」

「良いなあカイリちゃんはすぐに会えるから」

「そうは言うけどまだ付き合ってないし、ライバルもめちゃくちゃ多いのよ?」


 ああ、なんだろう。恋バナを楽しいと思ってる自分がいる。

 浮かれてるなあ……。


「まあカイリちゃんなら胃袋はガッチリ掴めるだろうし、楽勝じゃないの?」

「そう上手くも行かないよ~」


 そう言えばナミエがいない。こんなこと今まで無かったな。

 カイル君とのことをナミエが知ってたら……まさか。


「ちょっと、帰ろうか?」

「え、どうしたの?」

「そうだ、ナミエ見てない?」

「ナミエ? 図書館で真面目に仕事してたわよ?」

「異常事態発生だ!」


 いや、ナミエは怠け者って訳じゃないけど、最近サボってたみたいだしね。でも図書館にいるのが分かったら安心か。

 私ももう三日はぼーっとしてたしなあ……。


「まあいいや、釣りしよう」

「いいの?」


 小魚が溜まる小さな淵を見つけて私はカイリちゃんと竿を出した。

 淡水小物釣りは練り餌釣りとか赤虫、毛針釣りがメジャーだ。

 今回は使い易い練り餌を使う。カイリちゃんの仕掛けにも餌を魔力でつけて、投げさせる。

 ウキに驚いて一度さっと四方に散る小魚。ビュンビュンと泳ぐ小魚がそのスピードのまま餌にアタックしていく。

 数センチの小魚が勇猛に餌に食らいつく様は微笑ましい。


 すぐにカイリちゃんが魚を釣り上げた。






 小魚をチマチマ釣るのも楽しいですよね。

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