釣りガール、釣り友達が増える
私が釣り上げた魔王鯛にニヤニヤしているとオッカさんの船でも声が上がる。見ると明らかに五メートルを超える魔物魚を釣り上げていた。ラインやロッドも原始的なもので、更にスキルも無しで良く釣り上げたものだ。
「武器強化とかは一般的に使われている身体強化魔法の一部にあるからね」
「普通の人は鍬とか強化するのかな?」
とにかく勝負になる事は分かったのでこちらも本気を出して大物を探す。九メートルから十二メートル級を探していると反応があった。
「あれはアジかな?」
「何か見つけたの?」
巨大なアジらしき魚の群れを見つけた事を振り返って伝えようとすると鼻がぶつかるほど近くにカイル君がいてひっくり返りそうになった。
「わわっ、ごめん!」
「抜け駆けは禁止ですわ~!」
うう……驚きすぎてドキドキする。近くで見ると破壊力のある美形である。そう言えばそろそろカイル君は十五歳で成人なのか。
身長は今は十数センチくらいカイル君の方が高いが三年あれば私も十センチは伸びそうだ。
……前世で良く遊んでた男友達に「自分より背が高い女とか嫌すぎる」とか言われて滅茶苦茶ショックを受けて、それ以来女を捨てて釣りに走った過去がある私には身長は凄いコンプレックスだ。
そ、そうだ、釣りしよう。またナミエがヤンデレオーラをまとっているから見ない事にする為にも釣りだ。
「お姉さまも十一歳……お年頃ですわね」
「……」
「青春ねえ」
カイル君は真っ赤だしマンサ様はのんびりした事を言っている。マンサ様は早く結婚すれば良いのに。今十七歳だっけ?
「私は良いのよ、忙しいんだから」
「私も釣りができたら良いんですけどね」
そんなやりとりをしながら魚餌を泳がせているとラインが急激な横走りを始める。
「うわっ、と!」
「来たわね!」
「おさ~かな~ららら~」
ナミエがまた回転を始めた。もうあれは突っ込まない事にしよう。
ギャリギャリとドラグを鳴らして突っ走る強靭な青物特有の引きだ。楽しい!
「頑張って!」
「うん!」
カイル君に応援されたので頑張ってみよう。やっぱり釣り仲間がいるとファイト時に気持ちが盛り上がるね。
ライバルと釣り勝負しながら釣り仲間にも応援されて、尚且つモンスター級の魚と戦えて……なんか最強に楽しい!
そしてやっとこの世界で一番大きいアジの仲間が釣れてきた。
「デカい……」
「超大物ですわ~!!」
「これはリッツちゃんとこ持って行くか。もう一匹釣ってうちで食べようよ」
「良いですよ」
十メートル前後のモンスターが何匹も釣れてくる状態だし一匹で終わるのはもったいない。
魔力を持ち帰るのが目的なんだし五本くらいは釣っていこう。
南洋の魚にはシガテラと言う毒を持つ物がいるがこれは体外から食物連鎖により取り入れる毒だ。つまりその魚が毒を持っているかどうかは食べるまで分からなかったりする。しかし今回の人生で手に入れた鑑定スキルなら一目見ただけで毒持ちかどうか判定できる。有り難いスキルだ。
ちなみにフグの毒として有名なテトロドトキシンも実は後天的に獲得される毒素であり、地上で単独で養殖すると毒の無いフグが作れる。
ただその際、何故かフグの気性が荒くなり仲間を攻撃するようになったりするので、地上での養殖には専門知識が必要になる。
まあ要するに南洋で釣れた魚は迂闊に口に運んでは駄目だと言う事だ。なかなかそう言う機会も無いだろうが。近年北上してきているので中る可能性は無くはないが普通に日本近海で釣りをして食べるだけならまず問題は無い。
さて、そうこう考えているうちに二匹目、三匹目と釣れてくる。なかなかのファイトをするので実に楽しい釣りだ。日が暮れるまで釣ろうか。
と、オッカさんの漁船が近付いてきた。これで終わりだろうか?
「滅茶苦茶たくさん釣るなぁ、お嬢ちゃん!」
「女神様に認められた釣り人だからね」
「いや、話には聞いていたが大したもんだ。これからはこの海でいくらでも釣って良いぞ!」
「ほんと? 有り難う~!」
どうやらこちらが次々十メートル級を釣り上げるのを見て、オッカさんは負けを認めてくれたようだ。オッカさんはこの海の漁業をまとめ上げている海洋ギルドの長らしい。前世で言うなら漁協の組合長みたいなものか。
「また一緒に釣りしましょう!」
「ああ、いつでも来い!」
また釣り仲間が増えて嬉しい限りだ。敵国とは言え釣り好きに垣根は無いと言う事か。
何匹もの大物を携えて私たちは意気揚々とカソレ村に帰った。
◇
さて、カソレ村に帰ってみるとお爺ちゃんとニッケル様の間で釣り大会と何故か料理大会が同時開催される事が決まっていた。マンサ様も気軽に承認して、更に私が両方にエントリーされる事まで決まってしまった。
まあ釣りに関しては面倒な事は無いんだが料理はね。専門家では無いので難しい所だ。
食材の新鮮さを活かしてシンプルな料理ですませてしまおうかな。
とりあえず今日釣った魔王鯵をクーラーのスキルで捌いてから村人に振る舞った。私は疲れたので温泉に入ってから速攻で眠ったが、また宴会は一晩中続いたらしい。
最近はすっかり祭り好きになってしまった村人たちである。
記念すべき五十話、ブックマークも千件間近です。
お付き合いいただき、有り難う御座います!




