釣りガール、外海での釣りを始める
王様の登場で群衆は更に盛り上がる。どうやらかなり国民に愛されている王様のようだ。
「この世界の貴族って王様までなんか警戒心も少ないし緩い事無いですか?」
「その昔の話になるけど、この世界の国王は本当に神様に命じられて国王になっていた時代が有ってね」
マンサ様の説明によると元々この世界を管理していた太陽の女神様が国王を選定して加護を与えていたらしい。今でも善王とされる人は星の女神様に加護をもらえるそうで、逆に言えば女神様の寵愛を受けている私たちは本来は国王に匹敵する存在。その割に扱いが悪いのは普通の貴族たちの面子の問題もあるが、そもそも私たちがあんまり縛られたり特別扱いされるのを望まない為らしい。
確かに私も明日から女王様ですって言われたら嫌だな。釣りが出来ない。
でも、するとマンサ様は権力闘争とか軍略とかが好きだから貴族に生まれたのだろうか?
「まあそんな所ね。ちなみに女神様は前世で私の親友だった人でびっくりしたわ」
「女神様って地球人にも転生しまくってたりするのかな……」
「今もこの世界に転生していたりしてね」
「えっ、この前会いましたよね?」
女神様は同時に多重の存在になれるらしい。何と言うか、神だから当然なのかも知れないが恐ろしい存在だ。
ちなみにマンサ様の前世の死亡時期は私の五年後だったりする。時間軸が滅茶苦茶だが、そもそもこの世界と元の世界、神の世界は時間の流れ方がそれぞれ違うのだそうな。じっくり考えると混乱しそうなので思考を放棄して国王様に照り焼きにしたムラマサを差し出す。
「おお、待っていた!」
「お待たせしました~」
王様は器用にお箸を使ってハムッとムラマサにかぶりつく。ずっとニコニコしていたのに急にクワッと目を見開いたのでビックリしたが、すぐに隣にいた騎士に何事かを命じて皿を横に置いた。
……気に入らなかったのかな?
「お酒を待ってるんじゃない?」
「ああ、なるほど」
お爺ちゃんもそうだが私の料理を食べる人はお酒を飲みたがる。私の味付けが居酒屋仕込みだからかも知れない。
「この後すぐに釣りに行っても良いですか?」
「おお、是非城にも納品してくれるかな?」
「はい、喜んで!」
この世界にもアイテムボックスみたいな物は有るし、魚が貴族の料理になる日も近いな。
「ニヤニヤしてるシズちゃんも可愛いわね」
「お姉さまはいつもラブリーですわあっ」
なんかニヤニヤしていたらしい私は二人に愛でられている。十一歳で身長が百六十を超えた女はあまり可愛くは無いな。格好良いと言われたら泣くが。ちなみにカイル君は客引きしていて女の子に囲まれている。やっぱり勇者様だね~。
「お姉さまの視線に甘い物が全く無いですわ」
「それは可哀想ねえ」
そんなこんなでなんとか解体ショーを終えた私たちは外海、東エサイル湾ニウルーク南沖に向かった。
◇
カソレ半島から東には南エサイル湾が広がり、そこから東にはサラワ半島と言う小さい半島がある。そのサラワ半島と南ニウルークの大きな半島ミラサ半島に囲まれているのが東エサイル湾だ。ここは昔から海戦が絶えず、海賊も非常に多いらしい。
そんな海に私は漁船で出航した。
「海賊もいるのかあ」
「船もターゲッティングで釣れるかなあ」
「お姉さまは既に規格外ですわね」
「まあレベル五十でしょ? 中級ドラゴンをバタバタ倒すレベルの冒険者と同じくらいだからねえ」
「凄いね……僕も討伐依頼とか頑張ろう」
私はそんなに強くなってるのか……。まあ一トン超える魚を引きずり回しているんだから当然かも……。木を殴り倒せたりするのかな……。どんな十一歳だ……。
「お姉さま、エクトプラズムが出てますわ?! タモさんタモさん!」
「お、おうふ……」
「釣りしよっか、シズちゃん」
「僕も釣るよ! レベル上げないと!」
カイル君は魔物魚に攻撃すると経験値になるらしい。私が釣って私が攻撃したら経験値二倍になるのかな? 三倍?
とにかく釣りを始めるのだがターゲットは何にしようか。水を操作し接触、接水千里眼発動、接水走査で三メートルから十メートルの魔物魚を探すと……いた。サメ?
普通にサメがいるのか。その容姿は短い角が背鰭のようにたくさん生えていて若干魔物寄りだ。サメはアンモニア臭いと言われているが新鮮な段階ならそんな臭いはしないと聞いた事がある。アミン臭やアンモニア臭は腐敗臭だし有り得る。
サメは蒲鉾の材料にもなるしフカヒレも取れる、意外と良い食材だからひょっとしたら加工品としてなら知らない間にサメを食べた事があると言う人は多いかも知れない。
私は普通に中華でフカヒレを食べたけど特に味はしなかった。フカヒレはその柔らかなゼラチン質の食感を楽しむ物だそうな。
とりあえず一匹目はこのサメにしよう。
今日はマンサ様にマジックポーションを用意してもらっているので三匹大型魔物魚を釣るつもりだ。
「いざ、釣らん!」
「おおお、お姉さま気合いが入ってますわ~!」
「私たちも釣ろっか。餌は魚?」
「この辺りなら魚餌ですかね。少し深いから難しいかも知れませんね」
糸延長で三人のラインを伸ばしていく。召喚した船の上なら直接触れなくてもスキルを使えるらしい。
私は大型の魚餌を召喚して魔力を食わせて泳がせる事にした。
さあ、勝負だ!
ブックマークとか凄く伸びてます。皆さん有り難う御座います。
鮫は釣ったこと無いし調理もしたこと無いですね。蒲鉾かなんかの原材料に入ってたことは有ったような……。
皆さんが釣ってみたい魚や食べてみたい魚は有りますか?




