第108話 準と死神と破壊愛好家
【準&死神 in メインストリート中間】
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―――
「おわぁぁぁぁ!」
「みぎゃぁぁぁ!」
〈ガァン!ガァン!ガァン!〉
危ねぇ。危ねぇよ……。
オレと死神はメインストリートの真ん中あたりから先に進めない状態だ。
敵の姿は見えないのだが、三番塔の方から黒いエネルギー弾が何発も飛んでくる。
狙撃手ってやつだな。
ボーッとしてるアホ神は放っておくと滅多撃ちされてしまうので、もっぱら奴はオレに抱えられている。
「何!? 何なの!?」
「スナイパーだ」
「《砂いっぱい》?」
馬鹿言ってる余裕はまだあるらしい。
そりゃ自分は動いてないからな。
………ほら来たもう一発!
〈ガァァン!〉
ビルの影に飛び込んで避ける。
ちなみにオレ達は狼男達に追い掛けられていたのだが、信じられない事にそいつらも全員黒いエネルギー弾に吹き飛ばされちまった。
敵味方問わず攻撃するってぇのは妙な話だ。
勿論、メインストリートではなく裏通りを抜けて行こうとも考えたが、全部バリケードやら瓦礫やらで塞がれていた。
つまりメインストリートを抜けなけりゃあ三番塔まで辿り着けないようにされているわけで、しかもメインストリートなんて広い場所は狙撃手にとっちゃあ絶好の位置取りだ。
まぁ守備戦法としては当然の策だな。
「どうすんの準くん?」
どうするのかと訊かれてもなぁ。
ハッキリ言って分が悪すぎる。地形も相手に有利。狙撃手が三番塔に居ることくらいしかわからないオレ達に対して、敵からはオレ達の姿がバッチリ見えてる。
「困ったなぁ」
「困ったねっ、アハハ」
呑気な奴。
〈ガァン!ガァン!ガァァン!〉
?
オレ達はビルに隠れているから、その間は絶対に当たらない。それは相手もわかっているはずなのだが、無駄にビルにエネルギー弾を撃ち込んでくる。
「うひょーっ。準くん、敵は〈早く出て来い〉って言ってるよ」
………。
………。
早く出て来い……ね。
………ふぅん。
〈ガァン!ガァァン!〉
「ところで死神」
「なぁに?」
「お前、魔列車に乗ってる間ずっと作業してたみたいだけど。何やってたんだ?」
「えへへ、コレ!」
死神は満面の笑みでローブの袖を片方上げ、自分の手首をオレに見せた。
細い手首にはブレスレット。
オレがクリスマスにあげた腕輪だ。
「《アップ・デ・スポップスポップ》の調整をしてたんだよっ!」
変な名前だけど、魔力を増加させる効果があるらしいです。
「それより準くん、そんな話をしてる場合じゃなくない?」
〈ガァン!ガァァン!ガガァァン!〉
「いや、いいんだよ」
〈ガァァン!ガガァァン!ガガァァン!ガガァァン!ガガァァン!〉
「な、なんか攻撃が激しくなってるよ」
死神の言う通り、無駄に撃ち込まれるエネルギー弾はその激しさを増している。
ふん、やっぱりな。
「敵は狙撃手なんかじゃねぇって事だ」
「どーゆーこと?」
「見てりゃわかる」
首を傾げる死神を横に、オレはビルの影から少しだけ顔を出した。
狙撃は止んでいた。
大体、狙撃手ってのは同じ姿勢のままで何日も待ち続けるような集中力が要るもんだ。
それがあの敵の場合はちょっと目標が隠れただけでガンガン撃ち込んできやがる。短気もイイトコだな。
んでオレは死神とビルの影で会話してる間にもバンバン撃って来てた奴が、今はもう撃って来ない。
痺れを切らしたんだろうなぁ。
〈ヴォン、ヴォン!〉
向こうからきやがった。
オレと死神はビルの影から出る。
「なんか来るよ!」
「来る……なぁ」
ビルの壁を走りながら、その漆黒のバイクはけたたましいエンジン音と共にこちらへ向かって来ていた。
バイクが壁を走るな!
〈ヴォン!ヴォォォン!〉
バイクに乗った奴。
漆黒のフルフェイスメットを被り、黒皮のパンツ、襟元がフサフサしてる黒いボアジャケットを羽織っている。奴も全身真っ黒だ。
それよりもオレが目についたのは、背中に背負ったデカいライフル(多分今使っていたやつ)、両側の腰から下げた二丁の銃だ。
あっという間にオレ達の頭上までやってきたそいつはいきなり爆笑していた。
『ギャハハハハハ!』
笑いながら、ハンドルを片手で握ったままもう片方の手を腰に持っていく。
その手がホルスターから銃を引き抜くのを見た瞬間、オレは死神の手を握った。
『ヒャハハハハハ! デストロイ!!』
銃口をこちらへ向ける。
オレは死神を掴んだ腕に力を入れた。
「なになに!? どうしたの準く……」
「んんっ!!」
死神をビルとビルの間に向かって放り投げた。
ちょっと乱暴で悪いが、非常時だから許せ。
「うひゃあ!」
死神を投げ飛ばした勢いを利用してオレも別方向へ跳躍。
直後、エネルギー弾の雨が降ってきた。
〈ドドドドドドドドドドド!〉
『ギャハッ! ヘビーな弾だから当たっても骨が持ってかれる程度だ! 安心して破壊されやがれ! ギャハハハハハ!!』
〈ドドドドドドドドドド!〉
地面が穴だらけになる。
……どこが安心だコラァ!
『この破壊愛好家、ベルゼルガに出会っちまった不運を呪うんだなぁぁぁ! ヒャハーッハハハ!!』
バイクに乗ったベルゼルガという男(真っ黒ヘルメットで顔はわからんが、体格からして間違いなく男だ)は、路上を駆けるオレを追うようにビルの壁を走り、高い位置から銃撃してくる。
『大体てめぇよぉ! 隠れちまったらつまんねぇだろうが!』
口調とは異なり、精密な射撃をしてくる。
仲間であるはずの狼男達を簡単に吹き飛ばし、狙撃よりも突攻を好む。
根っからの戦闘狂……か。
死神は大丈夫みたいだな。ちゃんとビルの間に隠れてる。
『しっかし隠れる!? 隠れるだと!? てめぇ男のクセにどこまで腰抜けなんだよコラァ!!』
……。
………。
…………。
……………………………。
腰抜け……だと?
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――全ての時間が俺にはゆっくりと感じられる。
――全ての物が俺には脆く感じられる。
――全ての現象が俺には些細に感じられる。
たん、と俺は地面を軽く蹴る。
軽く蹴れば、俺は敵の間合いを打ちぬく事だってできるから。
跳び上がった身体はビルの壁へ。
もう一度、今度は強めにビルの壁をドン、と蹴る。
強めに蹴れば、俺は敵に目視される事なく間合いを打ちぬく事だってできるから。
跳び上がった身体は……アイツに向かう。
そう、アイツだ。
この俺に、よりによってこの《俺》に向かって腰抜けと言い放った奴。
バイクで壁を走る、黒い奴。
『……なっ!?』
クハハ、ビビッてんじゃねぇよ。
この俺に喧嘩売っておいてよぉ。
下から跳び上がった身体は、黒い奴、ベルゼルガの横へ着地。
ビルの壁だから着壁かもな。
向かって来るバイクと擦れ違う形に位置取る。
その擦れ違いざまに、野郎の頭、つまりヘルメットに片手を添えて――
『!』
叩き潰す!!
「オラァ!!!!」
〈ボォォォォォン!!〉
『ぐあァ!』
一瞬で破壊される黒いバイク。
一瞬でビルの中へ吹っ飛ぶ乗り手。
ヘルメット付けてて良かったなぁオイ。
キヒヒ、愉快爽快。
誰に喧嘩売ったのかこれからよーく考えるんだな。
――全ての時間が俺にはゆっくりと感じられる。
――全ての物が俺には脆く感じられる。
――全ての現象が俺には些細に感じられる。
――俺は……裏。
――里原準が
――コイツが封じ込めた衝動。
――俺を知る奴は
――俺を
――《裏の惨劇》と呼ぶ。
クハハ、クハハハハハ!!
つっても最近は御無沙汰だけどなぁ!
最近の準は俺をあんまし外へ出したがらねぇ!
今回だってホラ、もう引っ込まなきゃいけねぇ。
忘れんな。
忘れちゃいけねぇぜ?
準、てめぇは俺を忘れちゃいけねぇんだよ。
クハハハハハ!
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―――
とっとっと。
オレはパンパンと砂埃を払う。
「おーい、準くん」
向こうから黒ローブがトテトテ走ってくる。
ふと上を見上げればビルの壁には大穴が空き、パラパラと瓦礫の破片が地面に降っている。
ベルゼルガとかいう奴はあの中か。
まぁ、オレの仕業……なんだろうな。
「すっごいねー! ドカーンでバキバキィって!」
「ん、あぁ」
二人で再び穴を見上げる。
すると中から瓦礫を蹴飛ばして出てくる影があった。
『ぬあぁぁぁぁぁ!』
黒ヘルメット男だ。
『オレのバイクがデストロイぐちゃぐちゃだーー!』
木っ端微塵に破壊されたバイクを見て頭を抱えている。どうやら相当大事なものだったようだ。
『エクスペリメントタイプだぞ! 怒られるのはオレなんだぞーー! デストロイやべぇってー!』
悲鳴のような叫び声をあげながらパニック状態。
ビルに突っ込んだダメージは殆ど無いらしい。
『そ・れ・か・らぁぁぁぁ!』
今度は茫然と見上げていたオレ達を見下ろし、ビルから飛び降りた。
着地したベルゼルガの格好を改めて見るが、やっぱりおかしい。
ガンマンのように両腰に下げられたホルスター。
背中に背負った巨大なライフル。
そのライフルを背負っても違和感が無い程に高く、そして細めな体格。
タイトな黒レザーパンツ。
襟にボアのついた黒ジャケット。
極め付けが頭に被ったフルフェイスの黒ヘルメットだ。
すげぇ風貌だな。
隣の死神もその姿に見入っていた。
ベルゼルガはオレを指差す。
『てめぇだよてめぇ! 一瞬別人みたいな目つきになっただろ!』
………。
「知らんな」
『だが今はもう居ねぇな!? サッパリわかんねぇ! デストロイ理解不能だぞコラ!』
うるせぇ奴だなー。
デストロイってなんだよ。
横から服を引っ張られる。
「ねぇ、あの人って変人?」
こいつに言われたらおしまいだな。
『あん? 二対一か。デストロイ余裕だな』
肩をすくめて鼻で笑うベルゼルガ。
死神はその態度が気に入らなかったらしい。
「ナメんなよー! この《真っ黒ハゲ》!」
『ぶはぁ!』
いや、頭部はヘルメットだからな。
そしてベルゼルガも死神の態度が気に入らなかったらしい。
『見てわかんねぇの!? ヘルメットだよバァカ!!』
「どうせヘルメットと見せかけて、本当はハゲ隠しなんでしょー!」
『この歳でハゲはありえねーだろ!』
「三笠くん見てから言いやがれ!」
オイ。
三笠はスキンヘッドだ。
つーか死神とベルゼルガの口喧嘩すげぇ。
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ベル:『クソガキの分際でデストロイな生意気こいてんじゃねぇぞ!』
死神:『このグラマラスなバディを前にクソガキですってー!?』
(グラマラス……ではないな)
ベル:『あ? グラマラスって誰が?』
死神:『私、わたしー!』
ベル:『………』
死神:『ふふん♪』
ベル:『うん、どう見ても……』
死神:『?』
ベル:『デストロイ《ぺちゃパイ》じゃん』
(言っちゃったーー!)
死神:『テメーマジで殺してやるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
(最大のタブー単語キター!!)
ベル:『ギャハハハハハ! デストロイ面白ぇ!』
死神:『にゃぁぁあああ!』
(お、おい落ち着け死神! 落ち着けって!)
ベル:『いやー、デストロイ変なガキだなぁ。デストロイ大爆笑だぜ』
死神:『……その口癖は《デストロイうざい》よ』
ベル:『テメーぶっ殺すぞオラァァァァァァァ!!』
(うわぁ、死神も負けてねぇ……)
(つーか《デストロイぺちゃパイ》はすげぇな。言ったのはお前が初だよベルゼルガ)
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「ぬぬぬ」
『ぐぐぐ』
肩で呼吸しながら激しく睨み合う死神とベルゼルガ。
互いに急所を突かれまくって、見てるこっちが冷や汗もんだ。
死神の手には大鎌、ブラッドデスサイズが握られ、ベルゼルガも両手に銃を握っている。
『ど、どうやらてめぇは此処でデストロイしとかねぇといけねぇ奴らしいな』
「それはこっちの台詞だぜー!」
その会話を皮切りに二人は疾走を開始した。
ベルゼルガの実力はかなり高い。それだけは確実にわかる。
『呪詛収束銃、《ドゥーエ・シリンダー》の威力はデストロイ半端ねぇぞ!』
ベルゼルガは二丁の銃から黒いエネルギー弾を連射する。
それを死神は大鎌を鮮やかに振り回して全てぶった斬った。
「ふふん、《新鮮卵黄使用斬》!」
『こいつのネーミングセンスすげぇぇ!』
ベルゼルガは意外とツッコミ派だった。
「準くん! アレやるよアレ!」
アレ?
なんだっけ?
「愛の連携攻撃だよ!」
知らん!
「魔列車に乗る前に打ち合せしたでしょ!」
したかも!
死神に言われ、ボーッとつっ立っていたオレも走りだす。
死神を追い越し、ベルゼルガに向かって接近する。
『ギャハハ! 接近戦型か! 撃ち落としてやるよ!』
ベルゼルガの銃がエネルギーをチャージする。
奴に向かって走り続けるオレは、腕に違和感を覚えた。
片腕が紫色の空間に包まれているのだ。
これは死神の重力魔法で、アイツが言うには打撃がメチャメチャ重くなるらしい。
『ヒャハ、くらえ! 《カーズブリッド》!』
ベルゼルガの銃から大きめなエネルギー弾が放たれた。
ヤバいだろ。
「準くん、そんなもんぶん殴れー!」
無茶振りキター!
もうやるっきゃないよね!
ぐっ、と拳を握り締め、腕を引く。打撃に捻りを加える空手の癖でつい脇が締まる。
「私の強化魔力をナメんなよー!」
アイツ後ろで安全だから言いたい放題だ。
エネルギー弾が目の前に迫る。
あぁ……。
なんかイケそうな気がしてきた。(?)
『ギャハハ、ギャハハハハハ! デストロイ終了ーー!』
ちょっとお前は馬鹿笑いしすぎだ。
「んっ」
エネルギー弾を、ぶん殴る。
えーと、技の名前はたしか……。
「オラァァァァ!! 《G・O・インパクト》!!」
「にゃはははは!!《G・O(お姉さん)・インパクト》だぜー!!」
G・O・インパクトの拳がエネルギー弾に直撃。
エネルギー弾は……。
物凄い勢いで砕け散った。
重力魔法スゲー!
『なんだとぉぉぉぉ!?』
〈バガァァァン!!〉
そのまま爆圧で吹き飛ぶベルゼルガ。
こ、こりゃあすげぇ。
冬音さんの〈掛矢軍壊〉以上の衝撃力かもしれねぇ。
オレに重力魔法の補助をした死神は……。
「うわ、すご」
本人もビビッてました。
吹き飛ばされたベルゼルガが起き上がる。
頑丈な奴だよ。爆圧じゃあ傷もつかねぇってか。
『うおー! デストロイすげー!』
ますます戦闘狂の本能に火が点いたらしい。
『ぐぐ……。しかし……《G・O・インパクト》だと? G・Oか……。まさかタイプ《ジオ》じゃねぇだろうな』
よくわからん事を呟きながらベルゼルガは首間接を鳴らす。
『ギャハッ。タイプジオだとしたら面白くなるぞ。いいぞいいぞ、三番塔の守備を選んで正解……ん?』
〈ゴゴゴゴゴ……〉
んぁ?
地響きだ。
オレもベルゼルガも、そして死神も同じ方に顔を向けた。
………。
い、一番塔が傾いてる!?
「じゅ、準くん一番塔って……!」
「冬音さんとメアちゃんが向かった塔だ!」
『ギャハハハハハ! イダも派手にやるなぁオイ』
た、助けに行かないと。さすがに冬音さんでもあんな塔の崩壊に巻き込まれたら無事じゃいられねぇ。
「準くん助けに行かないと!」
「無論だ!」
だが。
目の前に立ちはだかるそいつが、そうはさせてくれなかった。
『おーっと、行かせねえよ』
チャキ、と銃口をこちらに向けてくる。
「ぬー!」
「お、お前の仲間だって危ない状況かもしれねぇだろ!」
オレの言葉に黒ヘルメットはゲラゲラと笑った。
『ギャハハ、多分な。だがアイツのセメタリーキーパーはそんなにヤワじゃねぇ代物だ』
ん、セメタリー……キーパー?
『アイツは大丈夫だ。てめぇも仲間なら信じやがれバァカ』
………。
「準くん」
くいっ、と腕を引っ張られる。
「冬音姉さん達なら大丈夫だぜー!」
………。
そう、だな。
「じゃあコイツをさっさと瞬殺して……」
「さっさと先へ進むぜー!」
『そうはさせねぇって言ってんだろ』
オレは指の間接をほぐし、死神は大鎌を肩に乗せる。
さてさて。
ここからが……。
『ここからが本番だ! オレが相手だという事をデストロイに後悔するんだなぁ!』
――――――――
【《準&死神》 VS 《ベルゼルガ》 デストロイ戦闘開始♪】




