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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
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99話:紫苑VS紫苑

 深蘭が紫苑に技をかけ出したが、王司は、それを呆然と見ていた。初動が全く見えなかったのだ。技をかけるまでの動作も、技をかけようとする挙動も、全く見えなかった。ぶれても見えなかった。気づけば、深蘭は紫苑の眼前に居たのだ。【力場】を使ったワープでも、秋世の様な《古具》などの力でもない。


 純然たる身体能力で、瞬間移動を再現して見せたのだ。それは、王司にとって、驚かざるを得ないものだった。王司のような【力場】でショートワープする者や秋世の様な力を持っている者を王司は知っていたが、さすがに身体能力だけでこの様なことをできるものがいるとは知らなかった。


「けほっ」


 地面に叩きつけられた衝撃で一瞬息が出来ず、咳き込んだ。そして、ふらりと立ち上がる。


「あ、青葉君たちは、先に上がってください。ここはわたしが相手します」


 そう言う紫苑。本心では、彼女の相手をするのはかなりきつい、と言う事がわかっているが、紫苑は、そう言った。王司は、紫苑の心が分かるからこそ、あえて言う。


「ああ、任せたぞ」


 王司の言葉に、その重みをはっきりと紫苑は感じ取った。厚い信頼感とそれとは別の感情に、紫苑の心から緊張と怖気が消え去った。


「《神双の蒼剣(アロンダイト)》!」


 紫苑は、上の階へと登っていく王司たちを尻目に、双剣を呼び出した。クリスタルの刀身を持つ、二本の剣。


「へぇ~。じゃあ、雪美流忍術免許皆伝、希先深蘭、行くわよ~」


 深蘭が、一歩踏み込んだ、……様に見えた瞬間、深蘭は、紫苑の後ろにいた。紫苑は驚いたが、咄嗟に【蒼き力場】を展開させ防御する。


 紫苑の中の【蒼刻】が唸りをあげる。紫苑の髪と目を蒼色に染め上げる。クリスタルの刀身が青みを帯びキラキラと輝く。


「三鷹丘学園生徒会長、七峰紫苑、行きますっ!」


 【蒼き力場】が溢れ出す。紫苑が身体の周りに展開させた【力場】すら蒼に染めていく。全てが蒼色に染められた。


 しかし、そんなものを無視して、深蘭は、初動なしの蹴りを放つ。【力場】を貫いて紫苑の腹に、つま先が突き刺さる。


「ぐはっ……」


 思わず取り落としそうになる《神双の蒼剣(アロンダイト)》を逆手に握り締め、【力場】を滾らせる。そのまま逆手で振り上げる。【力場】で大きくなった斬撃が深蘭に向かう。


 それを回し蹴りで叩き潰す深蘭。鋭い斬撃すら素足で潰すその様は、まさに武人たるもの。【武神】と称しても差し支えない。


「雪美流忍術・秘伝《蹴闘華(しゅうとうか)》」


 それが回し蹴りの名前である。もはや忍術ではなく体術の部類であるのだが、これも雪美流忍術の一つである。


 雪美流忍術。それは、【氷の女王】である希咲雪美が創り上げた独自の忍術流派であり、体術と忍術をベースに魔術要素すら入っている。それは体術、忍術、魔術、その他諸々が最強レベルだった雪美だから創り上げる事ができたものだと言えよう。


「セァア!」


 しかし紫苑は挫けず斬撃を乱舞のように繰り出す。それは踊っているようで美しい動きだった。ターンすると、大きな斬撃が円を描いて飛び、手を振り上げれば斬撃が撃ち出され、それはもう凄い斬撃の総攻撃だった。乱れ飛ぶ斬撃。それを深蘭は、【力場】で形成した実体を持つ短剣を投げて破壊する。


「雪美流忍術・秘伝《四方苦無(しほうくない)》よ。……くないじゃないけど」


 深蘭の技は、紫苑を軽く圧倒していた。流石は【氷の女王】の伯母である。紫苑の攻撃は全くと言っていいほど通っていない。だが、深蘭もまた攻撃を直接入れている数は少ない。


「さて、とそろそろこっちから行くわよ。雪美流忍術・秘伝《天蘭紅(てんらんく)》!」


 深蘭の髪が、ボワッと撒き上がる。そして、深蘭の脚が薄く赤色に発光する。それは、赤と言うより紅色(べにいろ)だった。薄紅色の、まるで桜が脚に咲いたかの様な色が包む。そのまま、薄紅の軌跡が、宙を舞う。それは、深蘭の動いた跡。まるで、フロアの上の方には、桜が咲いたかのように鮮やかな軌跡が残る。


「《満開》!」


 ――ズドォオオオオン!


 破砕音とともに、床が木っ端微塵に吹き飛んだ。その勢いは、下の階まで通りそうなほどだった。しかし、魔法による障壁で超多重に物理的に保護されているため、貫ききれなかった。そして、紫苑には当たっていない、と言うより、わざと外したように思えた。


「と、まあ、こんなもんかしらね」


 そう呟く深蘭。その言葉は、戦いの終わりを告げるものだった。深蘭は、紫苑のほうを向いて、笑う。


「私は、これでも全く本気じゃないわ。得意の氷も、ましてや【破壊者(ラシオン)】も全て封じて戦ってたから。七峰紫苑。私と同じ《紫苑》。貴女は、【破壊者】である、と言ったわね。でも、それは忘れて。貴女は、戦うべきじゃないってことよ。そうね……貴女は、彼を支えて上げなさいな」


 その「彼」が誰なのかは、言うまでもないだろう。


「言われなくても」


 そう言って返す紫苑に対して、深蘭の身体は光の粒子に包まれ始める。


「さすがに馬鹿力出しすぎたみたいだし。もう帰るわ。はぁー。黎希の奴、ちゃんとビール買ってるといいんだけど……」


 そして、深蘭は消えた。紫苑は、緊張から解き放たれて、【蒼刻】を解く。それと同時に、意識を失った。

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